【コラム】梅田サイファーが行く場所にラップが生まれ、熱狂が生まれる

梅田サイファーがSMEレコーズと契約し、3月29日にメジャーデビューアルバム『RAPNAVIO』をリリースした。音楽リスニング環境がストリーミング主体となった今、インディーズとメジャーの区別は以前より薄れたとはいえやはりメジャーレーベルのパワーは絶大だ。サッカーでいえばJ1リーグのようなものだ。より高いレベルのフィールドで彼らがどんな活躍を見せてくれるのか。このラップ船（NAVIO＝ポルトガル語で「船」）の行く先には楽しみしか見えない。

梅田サイファーのヒストリーは、インターネットをちょっと覗けばすぐに見つかるのでここでは詳述しない。が、元は大阪のとある歩道橋でのサイファー（ラップセッション）から自然発生したクルーであること、リーダー格を持たない平等の関係であること、YouTubeなどSNSを積極的に活用してきたこと、過去10年以上にわたって各自がラップバトルなどで活躍してきた実力者揃いであることは押さえておきたい。それと、ストリートライフや不良性とは一線を画す音楽集団であることも。だからこそ、梅田サイファーはラップ好きにとどまらず、J-POPリスナーに届くキャッチーな魅力がある。



アルバム『RAPNAVIO』は、クレジットされた10人のMC、3人のクリエイター（トラックメイカー、バックDJ、デザイナー）が均等にフィーチャーされた、オーセンティックなラップアルバムだ。厳密にいうと、MC陣の中にもトラックメーカーもいれば、デザイナーもいる。またトラックメイカー、エンジニアでありながらラップもしたり、映像作家もいたりと、多岐に渡る活動をする面々。ブチ上がり必至のパーティーチューンをメインに、耳当たりの良いポップな質感のトラックが並ぶ中、ラッパーらしいボースティング、生きる意味を問うメッセージなど骨太なリリックを散りばめ、全体の印象はすんなりと聴きやすいが中身はタイトでコンシャス。トリックよりもリリックの中身で勝負、聴き流しても聴き逃すなという気迫を感じる全10曲だ。

▲アルバム『RAPNAVIO』ジャケット

ここではアルバムのトレイラー代わりに2曲に触れておこう。「KING (RAPNAVIO VER.)」は、『キングオブコント2022』（TBSテレビ）のオープニング・ソングをリアレンジした先行配信楽曲「KING」のアルバムバージョン。どこか懐かしい香りのするエレクトロなトラックと、4小節でマイクを回す10人のMCのマイクリレーが圧巻で、梅田サイファーを初めて聴くリスナーにはMCのショーケースとしてもうってつけのチューンだ。

もう1曲はアルバムに先駆けて3月2日に配信された「かまへん」。こちらは、主にトラックメイカーのCosaquもマイクを握り、R-指定、KOPERU、KennyDoes、KZ、peko、KBD a.k.a 古武道、ILL SWAG GAGA、コーラ、テークエム、teppeiと、これまでで最多となる11MCが参加したビッグチューンである。ファンキーなギターのカッティングをフィーチャーしたトラックは、アッパーでファンクでダンスで強力なビートでもってリスナーを熱狂の渦に巻き込む。「かまへん」とは「構わへん」、つまり「ノープロブレム」を意味するポジティブワードで、11人の力強い「かまへん」を聴いていると、日常の小さな悩みや辛さとかそんなんどうでもええわという気分になる。元気が出る。ミュージックビデオも相当な力作で、全員全力でカメラアピールしてくるパフォーマンスに見とれていると、なぜか途中でとんでもない事態に…おっと、この先は映像をチェックしてのお楽しみ。ヒントとして、これってマイケル・ジャクソンのオマージュだよな、いいセンスしてるな、とだけ書いておこう。



そう、梅田サイファーは個性派＆実力派MC揃いの上、ビジュアルや映像での実験＆冒険も積極的にやってくれるから面白い。一発録りパフォーマンスで人気のYouTubeコンテンツ「THE FIRST TAKE」の「THE FIRST TAKE FES」で2021年に披露した「梅田ナイトフィーバー’19（prod. peko）」と「トラボルタカスタム ft. 鋼田テフロン（prod. BACHLOGIC）」も、前代未聞の型破りの一発だった（見ればわかる）。今年1月には予告なしにTBSの朝番組「ラヴィット!」にサプライズ生出演して、朝っぱらからお茶の間の度肝を抜いた。3月30日の「CDTV ライブ! ライブ!」や日テレ「バズリズム02」にも堂々出演した。隣にいるのがラッパーでもアイドルでも芸人でもバンドでも何でもかまへん。梅田サイファーが行く場所にラップが生まれて熱狂が生まれる。今の彼らには誰にも止められない勢いがある。



そして4月1日（土）、2日（日）には地元の大阪・服部緑地野外音楽堂で大イベントを開催。4月1日（土）「THE CYPHER 2023 REVENGE」は、KICK THE CAN CREW、韻踏合組合、IKE & rice water Groove Production、喉電波、DJ FUMMYを迎えたフェス形式で。4月2日（日）「NEW ALBUM “RAPNAVIO” RELEASE ONE MAN LIVE」は、梅田サイファーだけのワンマンで。

さらに、6月には、アルバムリリースを記念したツアー「NEW ALBUM “RAPNAVIO” RELEASE ONE MAN TOUR」を4都市で開催する。6月2日（金）は愛知 THE BOTTOM LINE、6月8日（木）には福岡 DRUM Be-1、6月10日（土）は大阪 なんばHatch、6月11日（日）には東京 Zepp Shinjuku(TOKYO)にて。

メジャーデビューと同時に猛烈なスタートダッシュを決めた梅田サイファーが、一体どこまで駆け上がるか。ラップ界だけじゃない、ミュージックシーン全体が注目している。

文：宮本英夫

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