【ライヴレポート】キズ、NHKホール単独公演に秘められた大いなる愛「残党ども!」

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キズが3月26日、自身最大キャパシティとなるNHKホールにて<キズ単独公演「残党」>を開催した。先ごろ公開した同公演のオフィシャルレポートに続いて、詳細レポートをお届けしたい。

◆キズ 画像

NHKホールという、彼らにとって最大キャパシティとなる会場での単独公演からあふれ出していたもの──筆者の主観で言わせてもらえば、それはキズという物騒な名を持つバンドからファンへと向けられた、確かな“愛”だった。



十字架や墓地が映し出され、否応なく“死”を想起させるオープニング映像に続き、暗闇からせり上がった4人がぶつけた1曲目は「リトルガールは病んでいる。」。特効の火花が散ってスモークが噴き上がり、背後のモニターにはメンバー4人の荒ぶる“今”が映し出されるという華々しいシチュエーションで、まず彼らが示したのは始動からの6年で育ったバンド力そのものだ。CD音源をはるかに上回るド迫力の爆音とタイトな演奏を受け、黒地に白字でライヴタイトルが染め抜かれた大旗を掲げる来夢のボーカルは相変わらず“伸びやか”という形容も生ぬるいくらいに冴えわたり、「残党ども!」と開幕を告げる声も勇ましい。

続く「傷痕」でも張り裂けそうな声で一言一言を刻みつけるように歌い叫び、前へとせり出すreiki(G)とユエ(B)、頭をガンガン振るきょうのすけ(Dr)の激情まみれなパフォーマンスにオーディエンスは容赦なく飛び跳ね、揺れる3階席に座っていると恐怖を覚えるほどだ。しかし「ストロベリー・ブルー」になると弦楽器隊はグッと後ろに下がり、スモークの中、お立ち台に立つ来夢の歌が導く幻想的な世界観をフィーチャーするという、押し引きをわきまえたステージングは見事。アグレッシヴでダークなパブリックイメージの奥に、実は多彩な引出しと懐の深さを秘めている──それがキズというバンドの魅力であり、この日もNHKホールを満杯にせしめた大きな要因なのだろう。





さらに特筆すべきが、一筋縄ではいかぬ難解で、けれど確かな愛に基づくメッセージ性だ。「ストロベリー・ブルー」を締めくくる“さぁ、こっちへ”という来夢の囁きが「さぁ、やろうか、NHKホール!」という咆哮に転換するや、ステージ上までシャウトとヘドバンが吹き荒れるカオスと化した「ヒューマンエラー」を挟み、戦慄させられたのが「0」。

“生まれなくて良かった”という衝撃的な歌い出しからヘヴィなバンドサウンドが轟き、オーディエンスは大きく波打ちながらも、来夢にクラップを煽られれば楽しげに飛び跳ねる。重さと軽やかさを併せ持ち、何も持たない“0(ゼロ)”の絶望を歌い綴る楽曲の最中、しかし、来夢が口にしたのは「お前らは今日、何を求めに来た!? 俺がすべてを満たしてやる!」という言葉。0だから求め、0だから空っぽのお前らを満たしてやる──絶望を大いなる喜びに変える彼らの誠実かつ斬新な手腕、それを可能にする研ぎ澄まされたパフォーマンス力には、まったく感嘆せざるをえない。


他者への呼びかけから一転、突き刺さるハイトーンが“会いたくて”という一途な感情を届け、それをきょうのすけのスケール感あるドラミングが支える「夢」、アコースティックギターを抱えた来夢の弾き語りから別れを唄う「十九」と、いわば私小説的なナンバーでメロディックに物語を堪能させた後はキズの真骨頂。

真っ赤な照明を浴びた来夢がお立ち台でギターをかき鳴らし、舞台上にズラリ並んだ篝火と首吊り縄の映像が観る者の魂を生死の境へと追いやる「平成」では、「死ぬ気で来いよ!」という彼の挑発から拳とヘッドバンギングの嵐が客席に出現。歌詞では“一緒に死のうよ”と繰り返しながら、「俺と一緒に命燃やせるか!?」「お前らの存在を今、この目に見せてくれ!」と来夢が訴えかける構図は完全なるパラドックスのようで、実は究極の真実でもある。“必死”という日本語が存在することからもわかるように、人が“死”を覚悟して挑むのは“生”きたいからに他ならない。事実、声を上げ、腕を振り上げるオーディエンスの様は、確かな“生”の輝きに満ちていた。だから「俺らと一緒に今日も生きてくれるか!?」と、文字通り地獄絵図を映し出すモニターと噴き上がる炎をバックに「地獄」が叩きつけられようが、湧き上がるのは絶望ではなく血沸き肉躍る高揚感でしかない。reikiはドラム台へと駆け上り、不動を貫きがちなユエもスモークの中で荒れ狂って熱気高まるステージ上、「救われたい奴だけついてこい!」と誘う来夢に向けて腕を伸ばすオーディエンスの様は、まさに地獄の釜から地上へ逃れようとする死者のごとく。けれど、その光景はとてつもなく美しい。


凍てついていた魂たちは地獄の炎に溶かされ、蠢き、重低音がバチバチに弾ける「蛙-Kawazu-」に「おしまい」と、始動時にリリースされた2シングルの初期衝動に呑み込まれ、狂乱の度合いを高めていく。

そこに降りやまぬ雨の音が響き、始まった本編ラストソングは「雨男」。2022年10月に行われた日比谷野外音楽堂単独公演の映像作品に添付されている最新曲のタイトルは、野音公演を土砂降りの中で敢行せしめ、また、NHKホール公演の当日にも雨を降らせた正真正銘の雨男・来夢自身を表している。当然、荘重なオーケストレーションに乗せて書かれたリリックにも、彼自身の心情が赤裸々に剥き出され、「もうこれ以上、俺に売るものは何もない! 次は俺の命を買ってくれ! 命を買え!」という絶叫には、キズというバンドのフロントマンとして身を捧げ、生きざまを晒す彼の覚悟が表れていた。どんなにエモーショナルになろうともブレることのない歌唱力と、どんな感情のふり幅もガッチリ支える仲間たちの強固な演奏力が、そこに万全の説得力を持たせていたことは言うまでもない。


サイケな映像演出から「ピアスにフード」、「首置いて帰れ!」と号令がかかった「Mr. BiG MONSTER」と続いたアンコールでは、4人の荒々しいステージングがモニターに大映しされて、場内のテンションも上昇。reikiが仰向けでひっくり返ったり、「ミルク」を歌い終えて床に転がった来夢の頭上で、わざとユエがベースを鳴らしたりと、気の置けない関係性が伝わってくるのも微笑ましい。

そして鳴りやまぬ声と拍手に、思わず「どうもありがとう」と呟いた来夢が、この日のために用意し、歌い始めた未発表の新曲タイトルは「My Bitch」。眉を顰めたくなるようなタイトルの語感とは裏腹に、壮大なサウンドの中で紡がれたのは“君”へのひたむきなラヴソングだった。“どれだけ君を悲しませたら、泣かせたら、傷つけたら、愛したらいいの”──断片的に聴き取れたフレーズから浮かんだのは、“キズ”というバンド名に秘められた大いなる愛だ。心の傷は、時に愛しているからこそ深くなり、痛みを増すことがある。その痛みの強さを実感することで、どれだけ愛していたかを確認できるにもかかわらず、人は時として痛みを避け、悲しみから顔を背けてしまう。本公演の<残党>というタイトルには“僕らもファンもVISUAL ROCKの残党”という意味合いがあるそうだが、光にしか目を向けない人々の中で、彼らは敢然と痛みや悲しみに向き合い、逃げることなく踏み止まった心強き“残党”でもあるのではないだろうか。



歌い終えて生声で「ありがとう!」と感謝を放った来夢、そしてメンバー同士ハグし合う様には歓喜があふれていた。6月のBLOG MAGAZINE 限定GIG、7月の日本青年館ホール、8月の豊洲PITと続々ライヴ予定を映像で告知した最後に映し出されたのは、“次は何をくれるの”という文言。バンドとファン、双方の心の声を映したフレーズへの答えが提示される場所は、無論“次”のステージでしかない。“傷”の意味と価値を知る人々にとって、それを見逃す理由はどこにもないのだ。

取材・文◎清水素子
撮影◎尾形隆夫/小林弘輔

■<キズ単独公演「残党」>2023年3月26日(日)@東京・NHKホール SETLIST

01. リトルガールは病んでいる。
02. 傷痕
03. ストロベリー・ブルー
04. ヒューマンエラー
05. 0
06. 夢
07. 十九
08. 平成
09. 地獄
10. 蛙-Kawazu-
11. おしまい
12. 雨男
encore
13. ピアスにフード
14. Mr. BiG MONSTER
15. ミルク
16. My Bitch

■<キズ 主催TOUR「友喰イ 2023」>

4月22日(土) 愛知・Nagoya ReNY limited
5月05日(金/祝) 大阪・BIGCAT
5月21日(日) 東京・Spotify O-EAST
▼チケット
前売 ¥5,800 (税込 / D別)
当日 ¥6,800 (税込 / D別)
※スタンディング
【一般発売】
発売開始:2023年4月8日(土)
イープラス / ローソンチケット / チケットぴあ

■<キズ BLOG MAGAZINE 限定GIG「ELISE」>

2023年6月16日(金) 東京・Spotify O-EAST
open17:00 / start18:00
▼チケット
前売 ¥6,000 (諸経費込 / D別)
※スタンディング
【ブログマガジン会員一次申込】
受付期間:2023年3月26日(日)21:00~2023年4月2日(日)23:59
入金期間:2023年4月6日(木)12:00~2023年4月9日(日)23:59
【ブログマガジン会員二次申込】
受付期間:2023年4月15日(土)12:00~2023年4月23日(日)23:59
入金期間:2023年4月27日(木)12:00~2023年4月30日(日)23:59
https://www.tickettown.site/

■<キズ単独公演「君の涙で遊んでいたい」>

2023年7月17日(月/祝) 東京・日本青年館
※詳細後日発表

■豊洲PIT公演

2023年8月26日(土) 東京・豊洲PIT
※詳細後日発表

■LIVE DVD『キズ 単独公演「そらのないひと」2022.10.9 日比谷野外大音楽堂』

2023年3月22日(水)発売
発売元:DAMAGE
【初回限定盤(DVD+CD)】DMGD-026/027 ¥12,100(tax in)
※50Pフォトブックレット封入
※動画配信視聴コード封入(全5日間の配信からいずれか1日セレクト視聴可能)
【通常盤(DVD+CD)】DMGD-028/029 ¥7,700(tax in)


▲初回限定盤


▲通常盤

▼DISC-1 DVD
<キズ 単独公演「そらのないひと」2022.10.9 日比谷野外大音楽堂>
01. 黒い雨
02. 地獄
03. ステロイド
04. 銃声
05. ヒューマンエラー
06. 蛙-Kawazu-
07. ミルク
08. 15.2
09. 平成
10. Mr. BiG MONSTER
11. 0
12. ストロベリー・ブルー
13. 傷痕
14. リトルガールは病んでいる。
15. 十七
16. 鳩
17. 日向住吉
18. おしまい
▼DISC-2 CD
SINGLE「雨男」
01. 雨男

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