【インタビュー】TOSHI-LOW、成熟と変わらない価値観「音楽はカウンターカルチャー。世の中の正しい動きと同じでなんかなくていい」

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■例えば5歳の子が聴いて、感覚的に戦争やだなと思って欲しい

── 今回も「Blackthorn's Jig」「Linden」の2曲のインストゥルメンタルが入ってますけど、前作でお話を伺った時にインスト曲には果物の名前をつけるんだとおっしゃってましたが、今回は樹木の名前ですね。MARTINさん作詞の「Family Tree」という曲もありますし。

TOSHI-LOW:果物というか、自然物にしようと。曲のタイトルが「No.2」「No.3」とかじゃ味気ないじゃないですか。曲ができてからの後付けなんで、その曲の雰囲気とかフレーヴァー、味とか匂いみたいなものから名前をつけるけど、曲名がつくと確かにそう聴こえたり見えたりする。二つともネーミングセンスは悪くないと思う。「Blackthorn's Jig」はMARTINで、「Linden」は俺がつけました。

── 「Blackthorn's Jig」は、「This Song」とは別な形でのトラディショナルを感じます。

TOSHI-LOW:要は、ブズーキをもっと練習するような曲が欲しいなあと言ったら、MARTINが「これ作ったんだけど、難しすぎる?」って持ってきた曲です。本当に難しすぎるんで、ライヴで演奏できるのかなあ(笑)…でもまあ、むちゃくちゃ練習にはなる。一見簡単そうに聴こえるけど、むちゃ難しい。それをやる楽しさっていうか面白さが、この曲にはあるのかなと思います。

── そのブズーキの音が際立つ「月だけが」は、戦いのシーンを描いていますね。

TOSHI-LOW:完全な反戦歌です。例えば5歳の子が聴いて、感覚的に戦争やだなと思って欲しいと思った。勝とうが負けようが何も残らないよって。大事なものを守るために戦うって言うけど、残るものは何なのか? 何も残んない。でも、ね、歴史上ずっと戦争は続いてるわけだから、人間は戦争をやめられないんだろうし、その愚かさを書けばいいと思った。誰も地球上にいなくなって、砂漠みたいになって、最後には月だけがある。でもそれも、近いうちにあり得る話だから子供たちに伝える。だから、絵本みたいな感覚ですよ。



── 音楽が想像力を喚起する、絵はないけれど絵本のように伝える歌なんですね。

TOSHI-LOW:俺、自分の子供が小さい頃に絵本が好きだったから、すごい集めたんです。あと“OAU”に名前を変えた時に、歌詞の方向性も考えようと思って、子供たちに伝わる言葉ってなんだろうって模索してて何百冊も絵本を買った。明るい話ばっかじゃないんですよね。死ということを教えてる話もあれば、戦争はダメだと教えてる話もあるし。売れてる絵本も意外と話が暗かったり、ハッピーエンドで終わる話だけじゃない。OAUでも、そういうことをしっかり書き残すべきじゃないかと思った。OAUのライブは孫を連れてくる人も多いから、子供たちが多いんですよ。<New Acoustic Camp>(2010年からOAUが主催しているキャンプイベント)も、そう。俺はこのフェスは、音楽があって楽しくて酔っ払えばいいんだよっていうだけじゃないと思ってる。じゃあこの現代において、先に生まれた俺たちが子供たちに伝えることはなんだろうと考えた時に、明確な答えを込めておきたいなと思った。この曲は曲調が戦いのマーチみたいだったから、(歌詞の意味を)反転させたかったんですよ。

── 歌詞で、名前について触れているところが刺さります。無名戦士、という言葉がありますが、本来は名前のない人はいないわけで。

TOSHI-LOW:もしも自分が戦わなきゃいけなくなった時、敵だから相手を撃ち抜くわけじゃないですか。その時に正気な奴っていないと思うんですよね。でも人間と人間の尊厳を考えたら、せめて名前ぐらい知りたいんじゃないかなと思う。「君の名前はなんだ。最後に教えろ」って言いたいけど、そんな余裕ないじゃないですか。そしてそこには、名もなき遺体が転がっていく。でもその撃った奴も大砲で狙われて、大砲撃った奴は戦車に狙われ、戦車の奴は戦闘機に…みたいなことを考えたら、みんな名前がなくなっちゃうよ?って。そういうことを感覚的にわかって欲しかった。


── 「懐かしい未来」が作品のラストにあるのも意味がありそうですね。

TOSHI-LOW:J-WAVEで1年ナビゲーターをやった番組(「HEART TO HEART」)の最終回で、大船渡市の越喜来という町に行ったんですよ。ここは津波で流されちゃった町なんですけど、子供たちの遊び場がないからって遊び場を作ったおじさんがいて、ある日、「未来の越喜来」の絵をみんなで描こうということになった。おじさんたちは、ドラえもんに出てくるような未来の街みたいな光景を描くのかと思ってたら、子供たちは「もう1回この町を作りたい」って、昔の町を描いた。世間では新しいもののほうが想像力があると思われがちだけど、子供たちが大事にしてたものは過去の中にしっかりあったというか。大人は何もない田舎だと言っても、子供たちはその町が大好きで。震災の時に小学生で、今18、9歳になった子と話をしたらやっぱりこの町が大好きで、「今は仙台で消防士になる専門学校に行ってる」って言うから「卒業したら町に戻ってくるの?」って訊いたら、「この街は大好きだけど戻ってくるのは最後でよくて、津波の時に助けてくれた他の町とかに行って恩返しがしたいんです」って。こう言う風に思える人がいるというのは、クソみたいな世界だけど、未来が明るく見える希望もあるということ。「すごいな!」と思って俺の中でウワーッとイメージが広がった。それでこの曲を、珍しく一人でパッと書いて、できたのをバンドに持ってってアレンジした。(この曲の未来は)便利で経済的で科学的じゃなかった、というオチなんだけど、でもそこにはすごい真理があるなあと思う。子供たちは自分たちが愛すべきことをわかってる。



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