【ライヴレポート】MORRIE、恒例<肉塊生誕祭>に放浪の旅路「夢、幻を駆け抜けたいと思います」

ツイート
no_ad_aritcle

DEAD ENDのMORRIEによる、恒例の<肉塊生誕祭>が、去る3月4日に今年も東京キネマ倶楽部にて行われた。今回はサブタイトルに“Flesh Odyssey”なる言葉が冠されていたが、直訳するならば、“肉塊が辿る長き放浪の旅”といったところか。彼の形而上学的観念に鑑みれば、どことなく頷かされる文言だ。

◆MORRIE 画像

定刻通りに暗転した場内にオープニングSEがゆったりと流れる中、黒木真司(G / Z.O.A)、FIRE(B)、秦野猛行(Key)、Heather Paauwe(Vln)、城戸紘志(Dr)がステージの定位置につく。yukarie(Sax)がケガによる入院のために出演できなくなったものの、お馴染みの顔ぶれである。そしてアコースティックギターを提げたMORRIEが登場すると、観客からの拍手は一際大きなものになり、そのまま「歓喜へ」の演奏が始まった。

すべての音がゆっくりと体内に浸透してくるような心地よい音像であり、それでいて進行と共に熱も高まっていく。そこに続いたのは、ダンサブルかつエキゾチックさもある「イカロス」である。ハンドマイクで歌うMORRIEの言葉に、誰しもギリシャ神話を重ね合わせるだろう。イカロスはなぜ飛び立ったのか。物語の解釈は様々に広がっていく。骨格を支えながら、基盤を決定づけるベースライン、歌の抑揚に同調していくギターフレーズも恍惚感を導いていった。



この2曲は1992年に発表された2ndアルバム『ロマンティックな、余りにロマンティックな』に冒頭に配されており、過去のライヴでも幕開けなどに設定されたことのある流れでもある。その記憶をリフレインさせる人もいるだろう。ただ、ある種の様式美的導入ではありながら、空気感はそのつど異なってくる。

レスポールに持ち替えたMORRIEが弾くリフからスタートしたのは「Dust Devil」。起伏のある構成をより劇的に聴かせるヘヴィなグルーヴ。観客も大きく体を揺らすようになった。ギターソロの始まりと同時に前方に歩みを進め黒木も速いパッセージを織りなして惹きつける。プログレッシヴなまとめ方はMORRIEならではだろう。重心の低さもありつつ、躍動感のあるリズムが牽引する「猿の夢」では、不思議な浮遊感に誘われる。ギターとドラムが同時並行的に激しく押し出されてくる間奏も訴求力の高いアクセントになる。



しばらく間を置き、ハイハットのカウントから始まった「パニックの芽」も長らく愛されてきたマテリアルのひとつだ。テレキャスターを手にして、クリーンサウンドのストロークを奏でるMORRIE。ヴァイオリンの音色やフレーズも活きる曲だ。オーディエンスも陶酔感をもって受け止めている。

続く「視線の快楽」はまさにMORRIEらしい世界が描き出される。ファルセットを交えた歌唱、技巧的アンサンブルの圧巻さ。1991年にシングルのみで発表されたものだが、昨今の彼の音楽性にも明確に通じるモードが感じ取れるのが興味深く、今の編成でリレコーディングしたスタジオ・ヴァージョンも聴いてみたくなる。ここから現時点での最新アルバム『光る曠野』(2019年)収録の「純血の城」へとスムーズにつながれたのも当然の帰結なのだろう。



「ありがとうございます。59年経ちましたね」「二十歳ぐらいの僕が見たら、どう思ってるんでしょうね」といったMCを経て、曲は「Disquieting Muse」へ。『HARD CORE REVERIE』(2014年)のリリース以降は定番的に演奏されてきたが、ただ実演に身を任せるというよりも、この日は歌と音の中に自分自身が存在するような感覚にもなった。実はそのポジティヴな違和感は序盤からあったもので、個人的にはなぜか合点がいく瞬間がこのとき訪れたと解釈したところでもある。もちろん、感じ取り方は十人十色とはいえ、それこそがMORRIEのライフワークでもある真理の探究の一端に触れた時空間だったのかもしれない。次の「Unchained」「Riding the Night」はその抽象的なセンスを補完するうえでも十分だった。

楽曲の聴き方が変わる瞬間というものがあるとすれば、この経験はその一つなのだろう。一見すると不可解な物事の並びが、一定の法則に従った順列をなしていることを体感的に理解する。12弦ギターの響きも美しい「ここではないどこか」を耳にしながら、“ここ”にいることを自覚する。それは共感ではなく、共鳴に近いものなのだろう。“4月にはみなごろし”という特徴的な一節なども意外なほど内面へと浸透していることに気づくのである。そういった自己完結があったのも無関係ではないだろうが、後半はより享楽的にコンサートを堪能していくことになった。






MORRIEが一旦舞台袖に消えて場内が暗転すると、ステージではエフェクティヴなサウンドがゆっくりとしたテンポで流され、順次、各プレイヤーが自在に音を乗せていく。個々の柔軟性と技術力もよくわかる光景だが、MORRIEが中央に戻ると、そのままいつものように「Cosmos(カオス)の中に」へとつながれる。静穏たるパートを内包させながら、ハードさを増したバンドサウンドを押し出した動の場面へと移っていく様は、スタジオ音源から進化してきた姿を体現したものでもある。

一転してファンクに通じる「SEX切断」が始まると、観客側の熱も必然的に高くなる。通常であればyukarieのサックスも印象的だが、この日はHeatherのヴァイオリンが着実にフォロー。また異なる味わいで楽しませてくれる。軽快なリズムでありつつ、描写は妖艶というあり方も面白い。フリージャズ的に各人がフレーズを重ね合う間奏も凄まじく、不協和音のような体裁をとりながらもカタルシスを導く。そんな醍醐味もMORRIEのライヴの一つだ。よりアッパーな「パラドックス」では自然と手拍子が起こり、オーディエンスも体で大きく楽しさを表現。指板を自在に動くギター、アヴァンギャルドなヴァイオリンの掛け合いも盛り上がりを増幅させる。

ここで始まったのは、最近のライヴでセットリストに加えられている未音源化の新曲「Fly Me To Neptune」。ネプチューンとは海王星のことであり、ローマ神話に登場する神の名でもある。その辺りの真意は新たなアルバム等が制作されたときには明らかにされるに違いない。MORRIEが奏でるクリーンのストークは軽やかで、全体像はシンプルながらも一方でシンコペーションの面白さでも遊ぶ。脈拍を上げていくリズムを伴い、独特の響きで固有の像を立体化させる。



そしてFIREらしいシュレッディングなフレーズを軸にした巧みなベースソロへとつながれ、ヘヴィなサウンドをまとった「Danger Game」が導かれた。敏腕揃いのバンドが繰り出すロックンロールを素直に楽しむオーディエンス。ステージとフロアとの一体感もよくわかる光景だ。エンディングからは黒木のソロタイムへ。そこに同期サウンドが重なり、「破壊しよう!」が始まった。右へ左へと観客に近づきながら歌うMORRIEの身振り手振りも大きくなる。観客もアッパーなリズムに合わせて、悦楽的に手拍子をしながら応える。熱気は上昇する一方だ。1stアルバム『ignorance』(1990年)からセレクトされたスピード感のある「眺めのいいあなた」、ソウル&ファンクを基盤に感じる「眩暈を愛して夢をみよ」も、こういったライヴ後半では盛り上がりを後押しするよう特に活き活きと響く。

「今日、みんな最初から総立ちで疲れてませんか? 最初、座っててよかったのに(笑)」と微笑むMORRIE。それが頷けるのは、先述した前半の楽曲群がもたらした特異な感覚に通じるからだ。「肉体を肉体たらしめている、“このこれ”ですよね。これが何だかわからない」といった自身の弾き語り公演<SOLITUDE>でも語られる深遠な話題に少々触れる。長年に亘ってMORRIEの表現に敷衍している根源的な要素は、本編最後の「あとは野となれ山となれ」においても言い含まれているのだという。“夢 現実” “無限に夢幻” “何にも無くなるまで”。そう踏まえて耳に飛び込んでくる言葉を噛み締めれば、感じ取り方もまた変わってくるに違いない。彼の考える普遍性の一つの形がここにある。



「僕は年齢は気にしていないけれども…50代最後の1年を、夢、幻を駆け抜けたいと思います」──MORRIE

そう言って始まったアンコールで演奏されたのは「冥合」だった。この日、唯一のDEAD ENDの楽曲である。昨年9月にリリースされたMORRIEのセルフ・カヴァー・アルバム『Ballad D』でも取り上げられていたが、今や『METAMORPHOSIS』(2009年)発表時とは異なる意味合いも持つマテリアルになったことは、ファンには周知のことだろう。YOUこと足立祐二が急逝してから間もなく3年が経とうとする中、悲しみはこの曲を耳にするたびに反芻されるところがあるが、同時に彼のギタリスト、作曲家としての偉業にも思いを馳せることになる。ことあるごとにMORRIEが「冥合」を演奏している理由の一つもそこにあるはずだ。


「またどこかで会いましょう。ありがとうございました」。そう言って笑顔でステージを去ったMORRIE。今後もライヴ活動は様々なスタイルで行われるが、現在は『SOLITUDE』の形態を踏まえた新たなアルバムのレコーディングを進めており、バンド形態で構築した作品も追って制作に取り掛かることも明言された。また、既報の通り、6月30日にはDEAD ENDの初期4作品(『DEAD LINE』『GHOST OF ROMANCE』『shambara』『ZERO』)がLPで再発されることになっており、こちらに伴う動きも注目される。

取材・文◎土屋京輔
撮影◎森好弘/朝岡英輔

■<肉塊生誕祭 -Flesh Odyssey->2023年3月4日@東京キネマ倶楽部 SETLIST

01. 歓喜へ
02. イカロス
03. Dust Devil
04. 猿の夢
05. パニックの芽
06. 視線の快楽
07. 純潔の城
08. Disquieting Muse
09. Unchained
10. Riding the Night
11. ここではないどこか
12. Cosmos(カオス)の中に
13. SEX切断
14. パラドックス
15. Fly Me To Neptune
16. Danger Game
17. 破壊しよう!
18. 眺めのいいあなた
19. 眩暈を愛して夢をみよ
20. あとは野となれ山となれ
encore
21. 冥合

■<MORRIE the UNIVERSE “SOLITUDE”>

2023年5月20日 神奈川・横浜mint hall
▼Episode 108: 存在忘却の恋道
・一部:open13:30 / start14:00
▼Episode 109: 交接の幽区
・二部:open17:30 / start18:00
https://morrie.zaiko.io/item/355396

■<Arche 4:Logos Cutters>

2023年4月29日(土) 東京・高田馬場CLUB PHASE
open16:30 / start17:00
vocal & guitar - MORRIE
guitar - 黒木真司
bass - FIRE
drums - 城戸紘志
https://morrie.zaiko.io/item/355178

■<Arche 4:Fourth Coming>

2023年5月27日(土) 東京・高田馬場CLUB PHASE
open16:30 / start17:00
vocal & guitar - MORRIE
guitar - 黒木真司
bass - FIRE
drums - 城戸紘志
https://morrie.zaiko.io/item/355180

この記事をツイート

この記事の関連情報

*

TREND BOX

編集部おすすめ

ARTIST RANKING

アーティストランキング

FEATURE / SERVICE

特集・サービス