【ライブレポート】OAUの<New Spring Harvest>で過ごす豊かな時「幸せなんだよね。これがうちらなんですよ」

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4月9日(日)大阪城音楽堂で、OAUの春の野外音楽堂公演<New Spring Harvest>が開催された。昨年4月に初めて日比谷野外音楽堂と大阪城音楽堂で行われた本イベント。初回の日比谷で「春の恒例イベントになればいい」とメンバーが語ったことから今年も開催が実現した。昨年は東京と大阪での開催だったが、今年は大阪のみ。メンバーの気合いも感じられる、野外ならではの素晴らしい時間となった。そんなスペシャルな夜の模様をレポートしよう。

この日はあたたかな日差しが降り注ぐ晴天で、過ごしやすい春の日だった。桜は散り始めていたが、休日の大阪城公園は散歩やピクニック、ダンスなどを楽しむ家族連れや観光客で賑わっていた。

続々と入場するオーディエンスを見ていると、昨年の<New Spring Harvest>のロンTを着用する人、子ども連れの人、芝生席で仲間と記念撮影をする人などがいて、めいめい自由に過ごしていた。全体的に大らかで、のんびりとした良い空気が漂う。その光景はOAUの懐の大きさを体現しているようだった。ステージには、昨年も登場した立派なイベントロゴの木製のオブジェが飾られていた。心地良いBGMと春の風が流れる中、ゆったり開演の時を待つ。

17時を少し過ぎ、メンバーがステージに登場すると客席は総立ちに。大きな拍手が贈られる。スタンバイ後、まずはTOSHI-LOW(Vocal, Bouzouki ,Acoustic Guitar)が口を開く。「“人生を生きている限りは大いに楽しみたい”と思っている人が、“今は我慢して、長生きして……”。何言ってんだよ。今日1日楽しめねえ奴が、長生きしたって楽しめるわけねえだろう。俺たちの今日1日という人生を、一緒に歌ってください」と語ると、RONZI(Dr)の柔らかいリズムが響き渡る。1曲目は「こころの花」。TOSHI-LOWが《夏の海の横で》を《大阪の城の横で》と替えて、伸びやかに歌う。MARTIN(Vocal,Violin,Acoustic Guitar)、KOHKI(Acoustic Guitar)、MAKOTO(Contrabass)、KAKUEI(Percussions)のアンサンブルが美しく、耳と心に潤いを与える。オーガニックな心地良いサウンドに客席は手を挙げ、体を揺らす。最高の幕開けだ。











続く「Thank You」ではのっけからクラップが起こり、MARTINが「最初からいい感じだねえ!」と笑顔を見せる。傾いた太陽が少しステージを照らす様子もエモーショナル。椅子に座って淡々と、しかし確実に感情を揺さぶるKOHKIの超絶ギターテク。グルーヴィにサウンドのボトムを支えるMAKOTOとKAKUEI、そしてRONZIのリズム隊。ボーカル2人が奏でるギターはもちろん、どこをとっても最高だ。後半、MARTINのフェイクから加速したアンサンブルでテンションアップ。最後の一打はRONZIの巨大スティックで締められた。

MCでは「気持ちいいな〜。天気もいいし、来てくれてありがとうね」(MARTIN)「ありがとうね、MARTINとKAKU(KAKUEI)さんね。俺たち4人(BRAHMAN)だと天気悪いから。雨どころか雪降るからね」(TOSHI-LOW)「晴れ男ですからね、俺は」(MARTIN)「自分で言うか(笑)」(TOSHI-LOW)と、<ARABAKI ROCK FEST.22>でBRAHMANの出番の際に雪が降ったことをネタに、楽しくトークを展開する。

そしてTOSHI-LOWが「コロナ明けて色々変わってきましたね。あんまり急に変わっちゃうとあれだから、ちょっとディスタンス空けてるからね。優しいね。決して(席が)余ってるわけじゃないんです」と述べ、さらに「イランのことわざで好きな言葉があって。“善き人たちは逆境の中でも楽しそうにしてる。悪き人々は栄える時でもつまらなそうにしてる”。その通りだなと俺は思ってて。だからコロナの中で自分はどんな顔をしてればいいかわかってたつもりです。また必ず楽しい世の中になることを願って、逆境の中で楽しさを見つける。それが俺たちの生き方なんじゃないかなと思って皆で作った曲です。さあ、変わりますよ」と、コロナ禍が始まった時に作ったという「世界は変わる」を披露。希望の力が湧き出るような情熱を描き出すと、続いて4月12日にリリースされる最新アルバム『Tradition』から「Family Tree」をプレイ。軽快なカントリーミュージックに客席は一体感のあるクラップで応える。







「all the way」「Pilgrimage ~聖地巡礼~」とグッドメロディを連投し、会場はさらに気持ち良さを増してゆく。伸びやかなTOSHI-LOWの歌声と、落ち着いたMARTINの歌声のハーモニー、ハイクオリティな演奏、曲の展開の複雑さ。自然への畏敬をも感じさせる力強さと温かさは唯一無二だ。

最新アルバムについては、「良いもの作っちゃってね」(MARTIN)「いつもなら“自分たちでそんなこと言っちゃダメだよ”と言うけど、今回は言う。絶対損しないよね」(TOSHI-LOW)と自信を覗かせ、「サブスクリプションでも聞けるけど、ジャケットがカッコいいからね。CDあったらカラス除けとかにもなるしね」とTOSHI-LOWが発言すると、上空を飛んでいたカラスが「カー! カー!」と鳴き、会場は大爆笑。「わかってるね〜、カラスは(笑)」と野外ならではの奇跡を起こす。

中盤は「夢の跡」や「Memories」といったバラード曲を続けて披露。どこまでも天高く上がっていくようなサウンドスケープが極上の時間をもたらした。そして、花見の話題から“美しい風景”について話し始める。遠くに行って歴史や逸話がある美しいものを見るのも素晴らしいが、家の窓から見える桜と、その下の駐車場で遊ぶ子どもたちの肩で舞う花びらを見て「日常に美しい風景がたくさんあるんだ」と気づいたと話し、新曲「セラヴィ -c’est la vie-」を演奏。メロディやサウンドだけでなく、日本語詞の美しさも感じられる楽曲に、オーディエンスは全身に染み渡らせるように身を委ねていた。











実は、今回のセトリは日の入り時刻を考慮した上で組まれていた。この日の大阪の日の入りの18時25分に合わせて、本編ラストの曲が演奏されるようになっていたのだ。だが本編残り6曲となった時点のMCでは確かにまだ周囲が明るく、TOSHI-LOWは「ちょっとサクサク進みすぎてんのかなあ?」とこぼしつつ、「子どもの頃夕日が大嫌いで。毎日同じ道だから、回り道したり、勝手に竹やぶに分け入ったり。知ってる人の家に寄り道したら怒られるじゃん。最近知ったんだけど、大人になっても寄り道とかは怒られるね(笑)。でも回り道してもちゃんと無事に帰ってくりゃ、誰かがおかえりって言ってくれるから」と子どもたちに呼びかけて「帰り道」へと入った。

また「A Better Life」の演奏前には、「自然は矛盾してないんだよ。自然の生物の中で人間だけがおかしいんだよ」と環境破壊や不正などの社会問題に触れ、「もうちょっと俺たちはシンプルに生きるべきじゃないかなと思う。自分の中で大切なもの、大事なものを、誰にも邪魔されないで心の中に作ること。それが人生を楽しむための意味なのかもしれない。大いに人生を楽しんでほしい。そのためには何が大事かを歌の中で問いかけたい。そういう歌です」と優しく語りかけた。TOSHI-LOWの言葉はいつも本質的で、目を向けるべきことに気づかせてくれる。





「Follow The Dream」からはラストに向けて勢いを加速。クラップでひとつになった会場から喜びが溢れる。セッションが気持ちいいインスト曲「Peach Melba」からシームレスに「Again」へ。この流れには客席もクラップとジャンプの嵐だ。ひときわ大きなグルーヴと感動で包んだ「Making Time」では、MARTINの「おーどーれー!」を合図に客席はお祭り騒ぎ状態に。大人も子どもも自由に踊りまくる。











本編ラストの「Time’s a River」ではステージ上のオブジェにピカピカと光が灯った。コロナ禍の先にある時が再び巡ってくる、という想いが込められた楽曲をこのタイミングで全員で歌えることにはきっと大きな意味がある。言い知れぬ多幸感と高揚感に包まれて、本編は一旦幕を閉じた。

この日1番の歓声と拍手は、そのままアンコールを求めるクラップに変化。「OAU!」という掛け声が客席からじわじわと広がり、いつしか会場全体を満たしていた。その様子にメンバーも喜び、TOSHI-LOWは「俺たちに楽しい日曜日をありがとうございます。いいよね。春にいつも一箇所どこかに集まって、定点観測みたいなさ」と、このイベントの継続を示唆する。そして「現代に生きてるバンドとして言わなきゃいけないことがあるんじゃねえかな。戦争が終わった後に果たして何が残るのか。ちいちゃい子にもわかるように歌います」と述べて、新曲「月だけが」を披露。一言ずつ、力強くしっかり届けるように歌う姿に胸がぎゅっとなる。夜が訪れた大阪城野音の空に月は見えなかったが、いくつか瞬く星を見つけることができた。





「Midnight Sun」で祝祭感のある豊かな空間を作り出すと、「うちらアーティストはね、お客さんの声と笑顔がギャラ。3年で色々変わったけど、今日ここへ来て何も変わってないんだ(とわかった)。幸せなんだよね。これがうちらなんですよ。OAU。最後もう1回声聞かしてよ」とのMARTINの言葉で、「Change」をシンガロング。同じ場所にいて生のコミュニケーションを取ることができる。そんな喜びをお互いにぶつけ合い、一体となったエモーショナルな空間は、この日のハイライトのひとつだった。

いよいよ最後の瞬間が訪れる。TOSHI-LOWは「友達が死ぬと、思うんだよな。何回も(死を)見てるはずなのに、なかなか現実と折り合いがつかない。“あん時あんな話をしてれば、あん時こう言ってれば”とか言ったって、何一つ変わらない。そんな罪悪感持ったって、それは自分が無力だったことから逃げてるだけだ。そうじゃなくて、できれば生きててほしかったなって」と、友人の死について語り始めた。「長く生きてれば必ず死と向き合う。乗り越えることなんかできないよ。どうやって向き合って折り合いをつけていくか。それは多分、存分に悲しむことだと思う。その人がいなくなったことを。たくさん泣いて、たくさん友達と話して。だから仲間が必要なんだと思うよ。悲しみには蓋をしない。悲しみに蓋をしてしまうと心の中で腐る。それは誰かへの怒りになってしまう。そうじゃなくて、深く深く悲しむ。何回でも。そのうち少しずつ悲しみに包まれて、死を迎え入れることができるんだと思う。偉そうなこと言ってるけど、俺もまだその途中で。だから多分、折り合いをつけるために歌ってるんだと思う。そして今を生ききるために歌を歌ってるんだと思う。悲しみの歌」と言葉を紡ぎ出し、こちらも新曲の「This Song -Planxty Irwin-」を柔らかく力強く、丁寧に響かせる。悲しみに浸りきる美しい楽曲をラストソングに選んだOAU。悲しみや苦しみといったネガティヴな感情は感じないようにしがちだが、それこそが前に進むために必要なことだと教えてくれた。彼らが醸し出す包容力と説得力には感謝しかない。思わずOAUがいてくれてよかった、と思う。





「またどこかで会えたら幸せです。ありがとう、OAUでした」とTOSHI-LOWが言い、充実した表情を浮かべて笑顔でステージを去るメンバー。MARTINとTOSHI-LOWが最後に肩を組んでいたのが印象的だった。

こうして「春の収穫祭」と名付けられた2年目の<New Spring Harvest>は大団円で終了した。出会いと別れが生まれる春の季節に、自然の中で顔を合わせ、想いを通わせる。その行為自体が本当に意味のあるものだと感じさせられたライブだった。ただ「ライブに行く」だけではない大切な感情をくれるのがOAUだ。また来年もこの場所で再会し、OAUの音楽と共に豊かな時を過ごしたいと、心からそう願う。



文:久保田瑛理
撮影:KAZUYAKOSAKA

  ◆  ◆  ◆

■セットリスト

OAU<New Spring Harvest>
4月9日(日)@大阪城音楽堂

1.こころの花
2.Thank You
3.世界は変わる
4.Family Tree
5.all the way
6.Pilgrimage 〜聖地巡礼〜
7.夢の跡
8.Memories
9.Where have you gone
10.セラヴィ -c’est la vie-
11.帰り道
12.A Better Life
13.Follow The Dream
14.Peach Melba
15.Again
16.Making Time
17.Time's a River
Encore
18.月だけが
19.Midnight Sun
20.Change
21.This Song -Planxty Irwin-

アルバム『Tradition』


2023年4月12日(水)発売

収録曲 全14曲
01. Old Road
02. セラヴィ -c'est la vie-
03. 夢の続きを
04. Time's a River (New Acoustic Camp 2022 テーマ)
05. 世界は変わる (映画「追想ジャーニー」主題歌)
06. Homeward Bound
07. Blackthorn's Jig
08. 月だけが
09. Whispers
10. Family Tree
11. Linden
12. This Song -Planxty Irwin-
13. Without You
14. 懐かしい未来 (J-WAVE「HEART TO HEART」テーマ)
 
初回生産限定盤(CD +DVD) ¥4,000(税抜)TFCC-81013~81014
初回仕様限定通常盤(CD) ¥3,000(税抜)TFCC-81015
完全限定盤(LP2 枚組 33 1/3rpm) ¥5,000(税抜)TFJC-38116~38117
 
初回生産限定盤DVD
・OAU「New Acoustic New Year 2023」Billboard LIVE TOKYO (2023/1/21)
1.Apple Pie Rag 2.Thank You 3.Hold Your Head Up High 4.Follow The Dream 5.夢の跡 6.世界は変わる 7.Peach Melba 8.Again 9.Time’ s a River 10.Making Time 11.This Song -Planxty Irwin- 12.Change 13.帰り道
全13曲

・OAU「New Acoustic Camp 2022」(2022/9/17) 
1.Old Road 2.こころの花 3.Peach Melba 4.Making Time 5.Midnight Sun
全5曲
 
■予約:https://oau.lnk.to/tradition

<OAU Tour 2023「Tradition」>

・6/3(土)北海道 札幌サンプラザホール
開場17:00/開演18:00
(問)スマッシュイースト TEL 011-261-5569 HP https://www.smash-jpn.com/

・6/7(水)大阪 サンケイホールブリーゼ
開場18:00/開演19:00
(問)グリーンズ TEL 06-6882-1224 HP https://www.greens-corp.co.jp/

・6/9(金)岡山 ルネスホール
開場18:30/開演19:00
(問)夢番地岡山 TEL 086-231-3531 HP https://www.yumebanchi.jp/

・6/14(水)愛知 名古屋市芸術創造センター
開場18:00/開演19:00
(問)ジェイルハウス TEL 052-936-6041 HP https://www.jailhouse.jp/

・6/23(金)宮城 トークネットホール仙台 小ホール
開場18:00/開演19:00
(問)ノースロードミュージック TEL 022-256-1000 HP https://www.north-road.co.jp/

・6/30(金)福岡 電気ビルみらいホール
開場18:00/開演19:00
(問)キョードー西日本 TEL 0570-09-2424 HP http://www.kyodo-west.co.jp/main.php

・7/5(水)新潟 新潟市音楽文化会館
開場18:00/開演19:00
(問)キョードー北陸 TEL 025-245-5100 HP https://www.kyodo-hokuriku.co.jp/

・7/8(土)東京 昭和女子大学人見記念講堂
開場16:30/開演17:30
(問)スマッシュ TEL 03-3444-6751 HP https://smash-jpn.com/
ホットスタッフ TEL 03-5720-9999 HP https://www.red-hot.ne.jp/

Album「Tradition」
封入シリアルナンバー・チケット先行
4/12(水)昼12:00〜4/19(水)23:59にて期間限定受付
CD盤/LP盤ともに封入あり
http://oau-tc.com/


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