【ライブレポート】さくらしめじ、ツアーは“早春”から”晩春”へ「生の音楽の良さをみんなに知ってほしい」
さくらしめじが4月22日(土)に埼玉県・川越 茶陶苑にて全国ツアー<さくらしめじ 桜TOUR<早春>>を開催した。到着したレポートをお届けする。
◆ライブ写真
田中雅功(たなか・がく)と髙田彪我(たかだ・ひょうが)からなるフォークデュオ・さくらしめじは、キャリア最長となる全国21箇所25公演に及ぶツアー<さくらしめじ 桜TOUR>を開催中。“早春”というサブタイトルが付けられた3月から4月にかけての21公演は、ブックカフェやレストラン、倉庫、バーなどを巡る二人だけの弾き語りツアーとなり、ライブハウスに舞台を移し、“晩春”と銘打った5月からの5公演とファイナル公演となる結成9年目の記念日ライブ「しめたん」は、バンド編成でのライブとなっている。
この日の会場となった<茶陶苑>は、蔵の町としても知られる川越の中でも規模が大きい、亀谷山崎茶店の大蔵。江戸末期の建造物である大蔵。温かい拍手によって迎えられたさくらしめじの二人は、椅子に座って、アコギのチューニングを始めた。そして、歴史を感じさせる漆喰の壁や吹き抜けで板張りの床となっている空間の響きを確かめるかのように、雅功がストロークで、彪我がアルペジオで合奏した。そして、彪我による<ハローハロー>という呼びかけから始まるオープニングナンバー「ケセラセラララ」で、客席からは自然と手拍子が沸き上がり、<ケセラセラララ>のシンガロングも誘った。続く、あなたの胸に想いを届けたいと歌う「simple」、雅功が「川越に会いに来たぞ!」と叫んだ「会いに行こう」でも大きな手拍子と観客全員での合唱が巻き起こった。
のちのMCで雅功が「生の音楽の良さを知ってほしい」と語っていたが、今回のツアーのコンセプトは近い距離で生の楽器演奏と歌、二人のハーモニーを聴く喜びを味わってもらうこと。そして、できれば、ともに歌い、手拍子を重ね、一緒にライブを作ることであったが、みんなで歌を唄い、手拍子を重ねたいという思いは冒頭の3曲で早くも実現し、会場は温かく幸せな空気に包まれていた。
雅功による「座りながらゆったりやっていきますので、僕たちの音楽に身を委ねていただけたらと思います」というMCを経て、「天つ風」「かぜだより」「かぜいろのめろでぃー」と扉が開け放たれた、野外ライブのように風通しのいい場所にぴったりの楽曲で観客の心と体に風を運んで緩めたあと、おもむろにアコギのシールドを外し、ステージを降りて、二人で観客席へと移動。横に広く、大きな柱も多い会場で見にくいお客さんの近くに行き、「ストーリーズ」「ブルースター」「きみでした」という甘くて苦しい片想いソングをアンプを通さない、生歌と生演奏によるアコギの弾き語りで届けた。
その後、雅功は“早春”ツアーを行った理由について、「もちろん、近い距離で楽しみたいというのもあるんですけど、弾き語り、生の音をみんなに知ってほしいと思って組みました」と説明し、「さくらしめじとして大きくなりたいというのもあるけど、それと同じくらい、生の音楽の良さをもっと多くの人に知ってほしいという気持ちが大きい」と続けた。さらに、今回の春ツアーを通して、「派手ではないし、動くわけでもない。でも、だからこその良さがあって。それを体現できるのは僕らしかいないのかもしれない。生の音楽の良さを伝えるのが僕らの使命なのかなと思うようになった」と語り、二人で音を奏でながら前へと進んでいく決意を込めた「辛夷のつぼみ」を力強く、熱く歌い上げると、観客は手拍子で呼応。彪我の煽りに笑い声も起きた「しりとり」、<ほら、声出して>と誘う「1・2・3」でも会場が一体となって手を叩き、大合唱となり、まるで全員で合奏しているかのような雰囲気となった。
ライブの終盤に演奏したのは、さくらしめじ初の卒業ソングで、中学3年生だった2017年3月にリリースされた「ゆめがさめたら」と、本ツアーのテーマソングとして二人で作り、共に21歳を迎えた2023年2月に配信リリースした新たな卒業ソング「花びら、始まりを告げて」であった。雅功は、さくらしめじとしての過ごした10代の日々を振り返り、「景色、経験、歌、人の優しさ……。もらうこと、受け取ることが多い10代でした。20代に入って、これからはもらうばかりではなく、何かをあげられる大人になりたいなと思いました。僕らの何かを残していきたい。今まで何かをくれていた人たちへの恩返しができるように」という想いを語り、情緒を感じさせる優しくも切実な歌声で、様々な<さよなら>を紡ぎあげ、<ハロー>から始まったライブは<さよなら>という複層的な意味合いが込められたフレーズで締め括られた。
アンコールに応えて再び姿を表した二人は、ずっと歌い続けるという強い意志を込めた「朝が来る前に」を通して、観客と笑顔と手拍子を交感。雅功が「音楽ってすごくいいなと思います。一緒に作ってる感じがして僕は好きです。今日はたくさん一緒に演奏してくれてありがとうございました」と感想を述べると、彪我は「皆さんの温かい眼差しが心に伝わりました」と感謝の気持ちを伝え、観客一人一人を目を合わせるように手を振って会場を後にした。二人だけのアコギの弾き語りという原点に立ち返りながらも、自分たちが進むべき道を再確認し、今後の新たな指針にもなるようなライブとなった。
なお、さくらしめじは、4月30日(日)に宮城県・仙台STARDUSTでの公演をもって、「さくらしめじ 桜TOUR<早春>」のファイナルを迎える。5月12日(金)からは愛知、大阪、広島、福岡、宮城を回るバンド編成のライブハウスツアー「さくらしめじ 桜TOUR<晩春>」がスタート。また、この日の終演後には、<晩春>のテーマソングとして制作した新曲「なるため」が5月8日(月)に配信リリースすることを発表。結成9年目の記念日である6月14日(水)にはツアーのファイナル公演として、東京・EX THEATER ROPPONGIにて、<桜TOUR 2023 FINAL<しめたん>>の開催を予定している。
取材・文◎永堀アツオ
写真◎鈴木友莉
セットリスト<さくらしめじ 桜TOUR<早春>>
M1.ケセラセラララ
M2.simple
M3.会いに行こう
M4.天つ風
M5.かぜだより
M6.かぜいろのめろでぃー
M7.ストーリーズ
M8.ブルースター
M9.きみでした
M10.辛夷のつぼみ
M11.しりとり
M12.1・2・3
M13.ゆめがさめたら
M14.花びら、始まりを告げて
EN.朝が来る前に
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