【インタビュー】須田景凪、2ndフルアルバムを語る「今までの作品の中で一番良いバランス」

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■いろんな人に届いている実感もあるんですけど
■ある種の孤独感がより強まる時もあって

──「ダーリン」や「ラブシック」では、ボーカリストとしての須田さんの成長がより現れていると思います。声の表現力がより幅広くなってきたと思うんですが、そのあたりの意識の変化はありましたか?

須田:「ラブシック」のポエトリーの部分もそうですけど、一番大きいのは自分の声をより客観的に、自分だけの楽器として捉えるようになったことだと思います。たとえばこのキーだったら少し苦しそうな声になるけれども、その方がより感情的に聴こえるんじゃないかとか、「ダーリン」のAメロは優しめに歌った方がより寂しさや胸がキュッとなる感覚が伝わるんじゃないかとか、全体を通して客観的に見て歌えたんじゃないかなと思います。

──たとえば「バグアウト」には、エッジボイスやがなりのような歌い方もありますよね。それが単なるテクニックというより、表現としての必然性とちゃんと結びついているという感じがします。

須田:それも意図的かもしれないですね。「バグアウト」ではサビ前でわざとがなっている部分があったりするんですけれど、この曲はヘイトをテーマにしている曲で、だからこそがなりの表現がこの曲に似合うんじゃないかと思います。

──「バグアウト」はワンループでありつつ表情豊かな曲ですが、これはどういう風に作っていたんですか?

須田:この曲はもともとフィンランドの民謡のポルカというものを作りたかったんです。そこまで思って、一回それを自分の中で眠らせて。数ヶ月後に曖昧になったものをアウトプットしたら、この結果になったという。だからオケはすごいノリノリだし楽しそうなんですけど、そこにヘイトの言葉を乗せているというアンバランスの部分が自分は気に入っている曲です。人って、感情的になるとついつい早口になったりするじゃないですか。そういう部分が歌に反映できたら面白いかなと思ったりもしました。

──「Howdy」に関してはどうでしょう。これは『Ghost Pop』の中では、最もゴースト感がある曲という感じもしますが。

須田:一番暗い曲かもしれないですね。この曲に関しては実は前回の『Billow』というアルバムにも入れようかと思っていたくらい前に出来た曲なんですけど。この曲がホラー映画を題材にして作ったこともあって。世に出すならアルバムのタイトル的にも、今回のタイミングしかないんじゃないかなと思って入れました。


▲『Ghost Pop』通常盤

──「ノマド」と「パメラ」についても、改めて聞かせてください。これはバルーン名義のセルフカバーですが、前のアルバムからの変化として、須田景凪名義の活動とバルーン名義の活動が並行して進むようになってきていることが挙げられると思います。

須田:そうですね、言われてみれば。

──須田さんの中で、シンガーソングライター・須田景凪とボカロP・バルーンのアウトプットって、どういうバランスで両立しているんでしょうか?

須田:バランスみたいなものはそんな重要視はしていないんです。ただ、前回のメジャー1stフルアルバム『Billow』を出すタイミングまでは、今よりもより一層、いろんなことを同時にできなくて。でも、前回のアルバムが終わったあたりから、多少自分のマインドの余裕も出てきて、たまにバルーン名義のものも出せるようになってきたという感じです。自分はボカロカルチャーのことを、言ってしまえば実家みたいなものだと思っているんですけど、年によってたくさん帰れる年もあれば、全然帰れない年もあるみたいな感覚で。バランスというよりもその時々でやりたい事をやりたいなと思っています。

──バルーンとしてのアウトプットがあること、そちら側での反応や届く先としてのリスナーがいるということは、須田景凪としての表現に何らかの影響はありますか?

須田:ありますね。まず須田景凪名義で沢山曲を作った後にバルーン名義で作る時にすごく影響があったし。バルーン名義で作った後に自分の曲を作った後ももちろん影響があるし。もちろん一人の人間で同じクリエイターではあるんですけど、その相互作用みたいなものをすごく感じています。

──それぞれの住み分けはありますか?

須田:自分の中で一番大きなものとして、作るときの根源の部分で、ボーカロイド曲のときは、いろんな人に歌ってもらって、それぞれの表現になるっていうものをまず考えます。須田名義だったら、もう一歩自分のパーソナルな部分に踏み込んだものというか。そういう住み分けをしています。そこから両名義でいろんな曲を出すことによって、この方がもっと伝わりやすいとか、その二つの名義同士で共通しているものとか、共有できるものとか、そういうものは増えていく感じはありますね。

──このアルバムって、歌詞に一人称と二人称の言葉が多いと思うんです。

須田:そうかもしれないですね

──例えば「ラブシック」だったら“私”と“あんた”、「メロウ」だったら“僕”と“君”、「ダーリン」だったら“私”と“あなた”。「雲を恋う」では“貴女”だったり、「美談」でも“あなた”と“二人”という言葉があったり。自分と目の前にいる他者との関係性が曲の中に表れている曲が多い気がします。これについてはどうでしょうか?

須田:これも結果論なんですけど、特に最近思うのは、半分綺麗事に聞こえるかもしれないですけど、やっぱり人間は一人で生きていけないよなという考えが強くあって。音楽を作ったらその向こうには音楽を聴いてくれる方がいるし、いろんな人間といろんな話をして、その時は何も感じないかもしれないけど、その会話を数年先に、ふと思い出したりすることもある。いろんな人間との関わりが結局自分を構築しているというのは間違いなくある。そういうことを最近特に意識的に考えることが多くなって。その結果自然にその形になったのかもしれないですね。

──で、このアルバムの中で一人称しか出てこない、“私”しかいない曲って「ノマド」なんですよ。

須田:あ、そうかもしれないですね。気付かなかった。

──このあたりについてはどうでしょうか?

須田:「ノマド」は完全に自分の中の心象描写を歌っている曲なので。外に向かうのではなく、すごく内側に向いている曲です。他の曲は、結果として“君”だったり“あなた”だったり“あんた”だったりはするんですけれど、たしかに全部ありますね。そう言われてみると、より外に向けた作品になったんだなと思います。



──ラストの「美談」に関しても聞かせてください。前半が早いテンポで畳み掛ける曲が多いので、こういうゆったりとしたアコースティックな曲の存在感も大きいように思います。これはどういう風に作っていったんでしょうか。

須田:この曲はアルバム制作の最後に作った曲です。最初から一番最後の曲にしようと思って書き始めていて、『Ghost Pop』という名前の通り、ゴーストから始まったのだったら、最後はいわゆるポップスで終わりたい。そこに相応しい曲調だったり、たぶん数年前の自分だったら言えなかったような言葉だったり、そういうものを詰め込みたいなと思った。今自分が思ういわゆるポップスっていうものを描けたんじゃないかなと思います。

──アルバムにはいろんなラブソングがありますが、「美談」が一番ラブソングとしての濃度が高い感じはあります。

須田:そうですね。曲調としても説得力としても、飾りのないラブソングなんじゃないかと思います。

──こうして14曲が揃って、アルバム全体が仕上がっての実感はどういうものでしたか。

須田:ちょっと時間が経って聞き直してみて、初めましての人でも今まで聴いてくれた方でも、より多くの人に伝わるアルバムが、今までの作品の中で一番良いバランスで世に提示できるんじゃないかなと今思います。

──最後に聞かせてください。“ゴースト”という言葉って、須田さんの中でどういうイメージ、どういう象徴なんでしょうか。“ゴースト”という言葉から思い浮かぶものを、思い浮かぶままに挙げてもらうとどんな感じでしょうか?

須田:今作で言う“ゴースト”という部分では、さっき言ったような、胸に穴が空いていて、虚ろな場所にいるという感覚がやっぱりまずはあります。須田景凪名義の最初のアルバムの『Quote』の時に作った「Cambell」という曲に、当時はあまり深く考えずに書いていった歌詞だったんですけど、“未だ この幽霊の様な毎日だ”という歌詞があって。それを自分で聴き直した時に、ここまで自分を正しく書けた文章ってこれ以上にないんじゃないかと感じた記憶があった。音楽を始める前から、仄暗い、どこかに穴が空いている感覚があったこともそうだし、ボーカロイドカルチャーを経て、今よくインターネットミュージックみたいに言われるものも、常に実体性がないというか肉体性がないというか、すごくおぼろな存在だということをすごく感じていて。そこは自分の思う“ゴースト”という部分でもあるし、この作品におけるテーマにもなっていますね。

──そういうおぼろさって、ひょっとしたら、心地よさでもあったりしますか? 苦しさと痛みのような感覚と居心地の良さで言うと、どちらでしょうか。

須田:たぶん両方ありますね。もちろん胸に穴が空いている虚無感みたいなものはすごくあるんですけど、同時にそこに飲まれている時間が心地いいんだろうなという自覚もある。その感覚に関しては、こればかりはもう変わっていかないんだろうという感じもあって。なかば自分の人生観みたいなところにもなってくると思うんですけど、それを今回タイトルとして提示できたんじゃないかなと思います。

──フェスに出たりたくさんの人に届いていくことによって、よりその虚無の部分が色濃くなるみたいな感覚もある。

須田:色濃くなりましたね。やればやるほど、音楽を続ければ続けるほど、どんどんいろんな人に届いている実感もあるんですけど、それでも自分が満たされる感覚っていうのは全くなくて。ある種の孤独感がより強まる時もあって。自分は結構その正体を知りたいがために音楽をやっているみたいなところもあるので。多分、何十年もその感覚を見つめながら生きていくんだろうなと思います。

取材・文◎柴 那典

アルバム『Ghost Pop』

2023年5月24日(水)発売
■初回生産限定盤[CD+Blu-ray] WPZL-32055〜6 ¥5,940(税込)
『Ghost Pop』オリジナルキーホルダー付き

■通常盤[CD only] WPCL-13478 ¥3,300(税込)

1.ラブシック
2.メロウ
3.ダーリン
4.バグアウト
5.ノマド (self cover)
6.落花流水
7.幼藍
8.Howdy
9.パメラ (self cover)
10.終夜
11.雲を恋う
12.いびつな心
13.綺麗事
14.美談

初回生産限定盤Blu-ray:
「須田景凪 LIVE 2022 "昼想夜夢" at 中野サンプラザホール」
1. Alba
2. MOIL
3. 鳥曇り
4. 雨とペトラ
5. アマドール
6. Vanilla
7. 終夜
8. ノマド
9. 無垢
10. ポリアンナ
11. レド
12. シャルル
13. パレイドリア
14. 猫被り
15. パメラ
[Encore]
1. メーベル
2. veil
3. 密

Ghost Pop Documentary
・Interview
・「ラブシック」Music Video Making Movie
・「メロウ」Music Video Making Movie
・「終夜」 Music Video (VJ Mix)

Pre-add、Pre-save:https://sudakeina.lnk.to/GhostPop
予約:https://sudakeina.lnk.to/GhostPop_CD

【特典】対象店舗にて「Ghost Pop」(初回生産限定盤/通常盤)いずれか1枚ご予約・ご購入いただいたお客様に先着で下記特典をプレゼントいたします。
・Amazon.co.jp:「ダーリン」 -Rearranged ver.- CD
・楽天ブックス:「メロウ」 -Rearranged ver.- CD
・楽天ブックスファミリーマート受け取り限定:クリアファイル 楽天ブックスver.
・TOWER RECORDS:「猫被り」 -Music Video- DVD
・セブンネットショッピング:「無垢」 -MusicVideo - DVD
・HMV:クリアファイル HMV ver.
・アニメイト:クリアファイル アニメイトver.
・サポート店:クリアファイル サポート店ver.

※一部のCDショップ(およびネットショッピングサイト)では特典プレゼントを実施していない場合がございます。
※一部のネットショッピングサイトでは、「特典付き」と「特典なし」のカートがございますので注意ください。
※特典は数に限りがございます。無くなり次第終了となりますので、早目の予約をお勧めします。
※特典に関するお問い合わせは、直接各CDショップ(およびネットショッピングサイト)にて確認ください。
※サポート店対象店舗は後日お知らせいたします。

先行配信楽曲「メロウ」

2023年4月4日(火)配信リリース
https://sudakeina.lnk.to/GhostPop

TVアニメ「スキップとローファー」オープニングテーマ
作詞・作曲:須田景凪 編曲:久保田真悟(Jazzin'park)

<須田景凪 LIVE 2023 "Ghost Pop">

2023年5月27日(土)東京:昭和女子大学 人見記念講堂
OPEN 17:00 / START 18:00
前売:¥5,500(税込・全席指定)
[問]SOGO TOKYO 03-3405-9999

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