【ライヴレポート】hide with Spread Beaver、25年ぶりワンマン実現「また春が来ました」

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hide with Spread Beaverによるワンマンライヴ<hide 30th solo-debut anniversary hide Memorial Day 2023 “hide with Spread Beaver appear!!”>が、4月29日に大阪・Zepp Osaka Bayside、5月2日に神奈川・神奈川県民ホールで開催された。

◆hide with Spread Beaver 画像

2023年はhideソロデビュー30周年であり、旅立ってから25回目の春という節目の年でもある。そして25年ぶりに行われたワンマンは、2022年に公開された映画『TELL ME 〜hideと見た景色〜』を観たファンからの“hide with Spread Beaverのライヴを観たい”という多くの声に応える形で実施されたものであり、その実現のためにhideの実弟であるヘッドワックスオーガナイゼーションの松本裕士代表取締役が、I.N.A.をはじめとする全メンバーに「ぜひ、ワンマンライヴを実現させたい」という熱い想いを投げかけ、満場一致で今回のライヴイベントの開催が決まったという。

なお、<hide 30th solo-debut anniversary hide Memorial Day 2023 “hide with Spread Beaver appear!!”>にはスペシャルゲストとしてPATA (X JAPAN)の参加が事前アナウンスされており、7月27日の東京・豊洲PIT追加公演決定が発表された際には、ZEPPET STOREより木村世治が全公演のオープニングアクトとして出演することも明かされていた。



そして開催された25年ぶりとなるhide with Spread Beaverのワンマンライヴには、3つの注目ポイントがあった。そのひとつは、“雲の上のhideとの「二元中継」”だ。25年前の1998年に開催された全国ツアー<hide with Spread Beaver appear!! “1998 TRIBAL Ja,Zoo”>では、hideヴォーカル映像4曲に加え、他楽曲は各メンバーがヴォーカルを務めた。今回は新たなhideリップシンク映像をはじめ、全曲hideヴォーカル映像によるワンマンライヴの実現となった。

2つめは、“「PINK CLOUD ASSEMBLY」hideヴォーカルVer.初披露”だ。hideは3rdアルバム制作中に永眠。1998年、I.N.A.を中心としたhide with Spread Beaverによって制作/リリースされた3rdアルバム『Ja,Zoo』には、実弟である松本裕士パーソナルマネージャーのナレーションで「PINK CLOUD ASSEMBLY」が収録された。今回の公演では、過去の膨大なhideの音声データを組み合わせるというI.N.A.の緻密なプロデュースワークによって、「PINK CLOUD ASSEMBLY」のhideヴォーカルVer.が完成、初披露となった。

3つめは、“「子 ギャル」hideヴォーカルの実現と新作リップシンク映像による初演奏”だ。「子 ギャル」は3rdアルバム『Ja,Zoo』に収録される予定だったが、制作途中のデモ音源とラフヴォーカルしか存在しなかったため、音源化不可能と思われていた。しかし、2014年にヤマハが開発した音声合成技術(VOCALOID)をもとに、I.N.A.が過去のhide音声データをパズルのように組み合わせるという途方もない作業から音源化リリースが実現。そして、<hide with Spread Beaver appear!! “1998 TRIBAL Ja,Zoo”>ではCHIROLYNのヴォーカルによって披露された同曲だが、今回の公演ではhideヴォーカルVer.による初演奏が現実のものとなった。さらには最新AI技術を駆使して、今回のためにhideリップシンク映像を制作。“過去の世界と現在の世界が出会う”というテーマで、現代にタイムスリップしてきた“子 ギャル”が、過去を遡ってhideのいる1990年代に戻るような、時空が交差していくイメージで映像制作されていた。

前述したように、7月27日には豊洲PIT追加公演が控えているので公演内容の詳細をひとつひとつ明かすことはしないが、「また春が来ました。 雲の上のhideとの二元中継ライヴ。 hideちゃんとの再会を楽しんでほしいと思います」というI.N.A.のMCがこの夜を象徴した、hideの命日にあたる5月2日の神奈川県民ホール公演のレポートをお届けしたい。

   ◆   ◆   ◆


hideはアーティストの未来形。1998年5月2日が遠ざかっていくに従って、その感はどんどん強まっていった。

たとえば2000年にリリースされて世界的大ヒットとなったリンキン・パークのデビュー作。『ハイブリット・セオリー』というそのタイトルと人力+コンピュータというアプローチには、時に“サイボーグロック”と称して1990年代から同種のことをやっていたhideの先見性を思わずにはいられなかった。以降、リンキンのフォロワーは世界中で生まれたが暗く重い曲調を持つものがほとんど。斬新な製作法でかつ陽気な曲からシリアスな作品まで多彩な音楽性を持つロック、というhideの表現は更新されないままだった。

ビジュアルも同様。黒づくめの衣装から蛍光色のスポーツウェアへ。これほど劇的な方向転換をして、それが瞬く間に定着してしまった存在も結局彼のあとには不在だった。色んな意味でhideが示した未来は未来のまま健在で、だからこそその存在を愛する人は絶えることもなく、おりおりで開催されたイベントも常に盛況だった。そして25年、四半世紀が経ち、そのことを記念したライヴが行われることになった。


今回のオープニングアクトは木村世治。ZEPPET STOREとしてではなく、ソロだった。しかもこのシチュエーションでなんと弾き語り。しかし、歌が始まってそんなことは忘れ去った。あたかもバンドと一緒にやっているかのような力を感じることができたゆえに。中でも「声」は圧巻だった。〝君の声が いつまでも 僕の胸に響く〟と歌う詞以上に、木村自身の声が天国に届いた、と思えたから。hideは、かつて自分が見染めたシンガーがここまで大きくなったことにニヤリとしたに違いない。

そしてhide with Spread Beaverのステージ。I.N.A.、KIYOSHI、K.A.Z、CHIROLYN、JOE、D.I.E.。かつてのhideの辣腕人事部長ぶりの遺産、見事にキャラのたった顔ぶれが再集合だ。ミュージシャンは年齢を重ねると、格好より弾きやすさを重視して楽器を高い位置で持つことが多くなる。が、このバンドのフロントマンたちは変わらずストラップを長いままにしている。いや、以前よりは少し短めか? でもそのことが象徴するかのように、hideが亡くなった直後のライヴよりも少しくリラックスした空気を感じた。




そのhideはステージ中央に据えられたスクリーンの中にいた。この形でのライヴは幾度となく見てきたが、今回はとりわけ自然だった。不思議なぐらいに現実の舞台とスクリーンの境目を意識しないでいられた。なぜ? まず選ばれた映像と、それを使うタイミングがこれまで以上に洗練されていたのだ。MCからアオリまで、ここぞという所でhideの持ち味が活かされていた。そこは他のメンバーも同様。ゲストでPATAが登場すると、画面の中にもhideと共に彼がいる。KIYOSHIがソロをとると画面の中でも当時のソロシーンが映る。客席から彼の姿が見えてないと、画面の中の彼がリアルタイムの映像のように錯覚してしまう。

こうして現実の舞台とかつての映像の間を目線が行き来するうちに、どんどん両者は融合していったのだった。hideがカメラに向かって「STAY FREE MY MISERY」と書かれたボードを掲げるシーンが一瞬インサートされるなど、ハッとさせるアクセントも多々ありつつ。




一方でSpread Beaverの面々はhideと同時代のミュージシャンらしい演奏をたっぷりと聴かせてくれた。「ピンク スパイダー」の導入でピアノのソロも披露したD.I.E.のそれは明らかにhideの音楽性と同一線上のものだったし、KIYOSHIのプレイは1990年代には最先端だったものだ。それからパーカッションも叩くI.N.A.。かつては裏方だったマニピュレーターをフロントマンに仕立てたhideの意思がそこに見えていた。JOEはかつてと変わらずパワフルだったし、1990年代同様にOBLIVION DUSTをやりながらこちらにも参加したK.A.Zは当時を彷彿とさせるものがあった。

映像の中のhideのパワーと現実の舞台でのメンバーの変わらぬ実力。そこをさらに外側から接着剤のように結びつけていったのがお客さんの力だと感じた。折しも声出しが解禁されたこのタイミング。hideや各メンバーへのコールが両者を結びつけ、がぜんバンド感を高めていた。映像の中のhideのMCへの反応も場内を揺るがすほどだった。


すべてが終わってふと、以前耳にしたhideの言葉を思い出した。「いつか自分は体を使わないでライヴをやってるかもしれない」というような未来予測の言葉を。ああ、それはまさに今回も行われたことじゃないか。だとするとこのバーチャルな形のライヴはhideの意思でもあるのか。初めてそんなことを考えて会場をあとにした。

取材・文◎今津 甲
撮影◎田中和子(CAPS)
(C) HEADWAX ORGANIZATION CO.,LTD.

■<hide 30th solo-debut anniversary hide Memorial Day 2023 “hide with Spread Beaver appear!! in OSAKA”/“hide with Spread Beaver appear!! in YOKOHAMA”>

▼<“hide with Spread Beaver appear!! in OSAKA”>
4月29日(土・祝) 大阪・Zepp Osaka Bayside
open17:00 / start18:00
▼<“hide with Spread Beaver appear!! in YOKOHAMA”>
5月02日(火) 神奈川・神奈川県民ホール
open17:45 / start18:30

【追加公演】<hide 30th solo-debut anniversary hide Memorial Day 2023 “hide with Spread Beaver appear!! in TOKYO”>

7月27日(木) 東京・豊洲PIT
open17:30 / start18:30
※SOLD OUT

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