【ライブレポート】椎名林檎、5年ぶりソロツアー<椎名林檎と彼奴等と知る諸行無常>完遂

ツイート
no_ad_aritcle

デビュー25周年の年であり、生誕45周年でもある2023年、ソロ名義としては5年ぶりに行われたツアー<椎名林檎と彼奴等と知る諸行無常>。2月24日の川口総合文化センター・リリアから始まり、全国11ヵ所全22公演を催したこのツアーは、5月9日および10日、東京国際フォーラム ホールA 2DAYSでファイナルを迎えた。その1日目となる5月9日の公演を観た。

◆椎名林檎 画像

今回のツアーのバンドは、林正樹(Pf, Key)、鳥越啓介(B)、石若駿(Dr)、名越由貴夫(G)、佐藤芳明(Accordion)というメンバー。この日演奏されたのは、本編26曲、アンコール2曲の、全28曲だった。1999年の1stアルバム『無罪モラトリアム』の曲(14曲目に披露)から、5月24日にシングルリリースが控えている新曲(17曲目に披露)まで、キャリアのあちこちからピックアップされた椎名林檎名義の曲が18曲。東京事変名義の曲が6曲。カバーが1曲(バングルス1曲)。他のアーティストに提供した曲のセルフカバーが3曲(林原めぐみ2曲、高畑充希の「青春の続き」)、という内訳。







そして、椎名林檎のライブなので、その常として、披露されるその1曲1曲ずつに、異なる演出が施されていく。たとえば、歌に合わせて、映画の字幕のように歌詞が表示されるとか。ダンサー=SISのふたり(SAKRA&CHINATSU)が登場するとか。かと思えば、バックのLEDの効果映像の中で、別のダンサーたち(ELEVENPLAY)が、踊りまくるとか。なので、そのあとまたSISが出てくると、ダンスする彼女たちの姿がLEDに溶け込んでいるように見えて、“ええっと、このふたりは生身なのか? それとも、もしかして、これも、さっきのも、映像なのか?”と、観ていて混乱するとか。

その効果映像が、真ん中から左右に開いて、巨大なDaokoが現れる曲もあり(「意識」)。「このたび初めて、江戸弁の猫という口調で詞曲を書きました、聴いてください」という紹介から披露された新曲「私は猫の目」では、ダンサーBambiが、LEDいっぱいにウネウネと動き回った。後半では、ホロスペックメガネをかけるようにオーディエンスをうながし、LED上で次々と打ち上げられる花火を見せる。本編ラストの「緑酒」「NIPPO N」では、画面いっぱいに桜吹雪が舞い、巨大な国旗が現れ、銀テープが飛んだ。




当然ながら、椎名林檎本人のボーカリストとしての……いや、それ以外も含めてのパフォーマンスも、1曲ごとに変わっていく。というか、必ず何かしらがある。時に、ピアノとボーカルだけになったり。と思えば、自らピアノを弾いて、ひとりきりで歌ったり。本編ラストでは、ギター(Gibson RD)を提げ、かき鳴らしたり。

バックトラックに打ち込まれた自身の歌とのデュエットになる曲もある。向井秀徳のボイスサンプルがループされる曲もあれば、延々とお経が響く曲もある……のは、別にこのライブのためではなく、もともとがそういう曲だからなのだが、とにかくそんなふうに、1曲1曲が、“次の瞬間、何が起きるかわからなさ”に満ちている。だから、耳が離せない。




なお、椎名林檎の衣裳替えは、今回は7回。登場時はモッズコートで、モヘアセーター&ランジェリーになり、襦袢を着たり、羽織姿になり、ボクサーになり(ちゃんとグローブもはめていた)。ドアを開けて出てきたらパジャマ姿になっていたりする。熊手のヘッドドレスが頭に装着されたスタイルで、後半の数曲を歌いきったりもする。しかも──これも、いつもといえばいつもなのだが──“はい、この曲から着替えました!”みたいな、よく言えばわかりやすい、悪く言えば仰々しい瞬間、ゼロ。照明が消えて次にスポットが当たったら、別の場所にいて別のルックになっている。ステージの別の場所で何かが起こっていて、そっちに気を取られていて、次に椎名林檎に目をやったら、違う人になっている。と、常にそういう感じで、観る側の視線や気持ちの動きまで計算に入れた上で──これも衣裳に限ったことではなく、ステージング全体がそうだが──進んでいく。だから、目が離せない。

1曲1曲で、自分の表現したいことが、受け手にちゃんと伝わるようにしたい。だから、映像も照明も衣裳も自分のパフォーマンスも含めて、その曲をどうプレゼンすればいいかを考え、それを実際に形にする。という目的意識はわかるし、アーティストとしてそうしたい気持ちもわかる。が、それを全部で28曲積み上げて、導入とアウトロも考えて作って、11ヵ所22公演という規模で、全国を回りながら実演していく。というのは、ちょっとなんかもう、気が遠くなってしまう。今回のツアー、椎名林檎ソロとしては5年ぶりだが、そりゃあそうよ、年イチとか2年に一回とかやれないよ、こんなの、と、素直に思う。やっていることは、映画監督とか、ミュージカルの演出家とかに近い。なのに、東京で20公演やってそのあと大阪10公演とか、常設のハコで1ヵ月間とか、ではなく、全国ツアーという形で、コンサートというフォーマットで、実行していく。

こんなことをやろうと思うのも、やれるのも、少なくとも日本には、椎名林檎しかいないと思う。昔からそう思っているが、今回また改めて、そう痛感させられた。待てよ。今、自分は“少なくとも日本には”と書いたが、じゃあ海外にはいるのか?……マドンナ。違う。ビヨンセも違う。でも、近いところがある気もする。あと誰だろう。あ、そうだ、ビヨークが、いちばん近いっちゃ近いかもしれない。音楽性やパフォーマンスのスタイルなどは全然違うが、演者としての自分よりも、演出家としての自分のほうが強く存在していて、演者の自分は演出家の自分のコマのひとつ、みたいな扱いであるところなど、共通するのではないか。



「丸の内にお集まりのみなさん、今日はありがとうございました。やはりこちらでお目にかかれるのは格別ですね。遠くからもお越しなんじゃないかと想像しながら、今日ここで過ごしました。きっといろんな憂き目にお遭いだったんじゃないかなと思っております。多かれ少なかれこの数年は皆さんストレスフルだったと思うんですけれども、だからこそ、そんな日々を経て、どんな曲で逢瀬を楽しめるか、非常に悩みました。空回りしている点もあったと思います。次回はぜひ、平常運転の90分の尺でさくっとお目にかかりたいです。今日は長い時間ありがとうございました」──椎名林檎

という、(新曲の紹介を除き)唯一のMCをして、「母国情緒」と「ありあまる富」を披露し、アンコールが終わる。椎名林檎を含めメンバー一同がステージを去ると、画面が映り、SISのふたりがテレビの前に座り、ファミコン(任天堂の最初期のやつ)にカセットを押し込んで、スタートを押す。と、RPG風の書体・文体のメッセージが画面に現れ、続いてその文字が、コンサート自体のエンドロール、スタッフロールになっていく──。という終わり方も、観ていて“まいりました”以外の言葉が出なかった、もう。誰も椎名林檎にはかなわない。



取材・文◎兵庫慎司
撮影◎太田好治

■<椎名林檎2023全国ツアー『椎名林檎と彼奴等と知る諸行無常』>5月9日(火)@東京国際フォーラム ホールA セットリスト

01. あの世の門
02. 我れは梔子
03. どん底まで
04. カリソメ乙女
05. 走れゎナンバー
06. JL005便で
07. 青春の続き
08. 酒と下戸
09. 意識
10. 神様、仏様
11. TOKYO
12. 天国へようこそ
13. 鶏と蛇と豚
14. 同じ夜
15. 人生は夢だらけ
16. 仏だけ徒歩
17. 私は猫の目
18. 公然の秘密
19. 女の子は誰でも
20. 胸いっぱいの愛
21. いろはにほへと
22. 命の息吹き
23. いとをかし
24. 長く短い祭
25. 緑酒
26. NIPPO N
encore
en1. 母国情緒
en2. ありあまる富

■ニューシングル「私は猫の目」

2023年5月24日(水)発売
【CD-Single】UPCH-89537 ¥1,320(税込)
※初回生産限定シングル
※ばんぶつるてん仕様ブックレット
▼収録曲
01. 私は猫の目 作詞/作編曲 椎名林檎
02. さらば純情 作詞/作編曲 椎名林檎


●「私は猫の目」ストア別購入特典●
対象商品:5月24日発売「私は猫の目」(UPCH-89537)
▼ストア別購入特典
・UNIVERSAL MUSIC STORE:ステッカー
・Amazon.co.jp:ポストカード [Amazon.co.jp ver.]
・タワーレコード新宿店:ポスター [B2サイズ]
・共通特典:ポストカード
※特典は購入先着となり、なくなり次第終了となります。
※共通特典は、オリジナル特典以外の店舗が対象となります。
※一部、特典がつかない店舗もございます。予約・購入の際にご確認ください。

■初回生産限定アナログ盤アルバム6作品+リミックスアルバム

2023年5月24日(水)発売
※全作品:ニューカッティング盤(2023年)・初回生産限定・重量盤(180g x 2枚組)/各¥4,180(税込)
【オリジナル・アルバム】
▼1st Album『無罪モラトリアム』UPJH-20033/4 ¥4,180(税込)
SIDE A:正しい街 /歌舞伎町の女王/丸ノ内サディスティック
SIDE B:幸福論(悦楽編)/茜さす 帰路照らせど…/シドと白昼夢
SIDE C:積木遊び/ここでキスして。/同じ夜
SIDE D:警告/モルヒネ
▼2nd Album 『勝訴ストリップ』UPJH-20035/6 ¥4,180(税込)
SIDE A:虚言症 /浴室/弁解ドビュッシー
SIDE B:ギブス/闇に降る雨/アイデンティティ
SIDE C:罪と罰/ストイシズム/月に負け犬/サカナ
SIDE D:病床パブリック/本能/依存症
▼3rd Album 『加爾基 精液 栗ノ花』UPJH-20037/8 ¥4,180(税込)
SIDE A:宗教 /ドツペルゲンガー/迷彩
SIDE B:おだいじに/やつつけ仕事/茎
SIDE C:とりこし苦労/おこのみで/意識
SIDE D:ポルターガイスト/葬列
▼4th Album 『三文ゴシップ』UPJH-20039/40 ¥4,180(税込)
SIDE A:流行 /労働者/密偵物語
SIDE B:○地点から/カリソメ乙女/都合のいい身体/旬
SIDE C:二人ぼっち時間/マヤカシ優男/尖った手□/色恋沙汰
SIDE D:凡才肌/余興/丸ノ内サディスティック EXPO Ver.
▼5th Album 『日出処』UPJH-20041/2 ¥4,180(税込)
SIDE A:静かなる逆襲 /自由へ道連れ/走れゎナンバー
SIDE B:赤道を越えたら/JL005便で/ちちんぷいぷい
SIDE C:今/いろはにほへと/ありきたりな女/カーネーション
SIDE D:孤独のあかつき/NIPPON/ありあまる富
▼6th Album 『三毒史』UPJH-20043/4 ¥4,180(税込)
SIDE A:鶏と蛇と豚/獣ゆく細道/マ・シェリ
SIDE B:駆け落ち者/どん底まで/神様、仏様
SIDE C:TOKYO/長く短い祭/至上の人生
SIDE D:急がば回れ/ジユーダム/目抜き通り/あの世の門

【リミックスアルバム】
▼Remix Album『百薬の長』UPJH-20045/6 ¥4,180(税込)
SIDE A:
あの世の門 〜Gate of Hades〜 (Telefon Tel Aviv Version)
JL005便で ~Flight JL005~ (B747-246 Mix by Yoshinori Sunahara)
ちちんぷいぷい 〜Manipulate the time〜 (Gilles Peterson’s Dark Jazz Remix)
SIDE B:
おとなの掟 〜Adult Code〜 (object blue Pleasure Principle Remix)
長く短い祭 〜In Summer, Night〜 (Yasuyuki Okamura 一寸 Remix)
カーネーション 〜L'œillet〜 (Ovall Remix)
SIDE C:
女の子は誰でも 〜Fly Me To Heaven〜 (STUTS Remix)
丸ノ内サディスティック 〜Marunouchi Sadistic〜 (Miso Remix)
浴室 〜la salle de bain〜 (Takkyu Ishino Remix)
SIDE D:
意識 〜Consciously〜 (Shinichi Osawa Remix feat. Daoko)
鶏と蛇と豚 〜Gate of Living〜 (KID FRESINO REMIX)
いとをかし 〜toogood〜 (Ajino Namero Bon Voyage Remix)

■『3カ月連続!椎名林檎デビュー25周年WOWOW特集』ラインナップ


【7月放送・配信予定】
▼<椎名林檎 党大会 平成二十五年神山町大会>
※椎名林檎が2013年、デビュー15周年を迎え5日間にわたり東京・Bunkamuraオーチャードホールで開催したライブより、最終公演の模様をノーカットで放送・配信。
※斎藤ネコ(Vn)、グレート栄田(Vn)、山田雄司(Va)、藤森亮一(Vc)、朝川朋之(Hp)、林正樹(Pf)、佐藤芳明(Acc)、みどりん(Dr)、鳥越啓介(Ba)らによる、完全生楽器セット。長女を産んだばかりの椎名が、いつになく柔らかいアンプラグドな態度で楽しませる。
・収録日:2013年11月26日
・収録場所:東京・Bunkamuraオーチャードホール
※WOWOWオンデマンドで同時配信および放送終了後1週間アーカイブ配信あり

【8月放送・配信予定】
▼<椎名林檎と彼奴等がゆく 百鬼夜行2015>
※ソロ名義としておよそ12年ぶりの全国ツアーとなり大きな注目を集めた<椎名林檎と彼奴等がゆく 百鬼夜行2015>より、神奈川県民ホールでの模様をノーカット全曲放送・配信。
※玉田豊夢(Dr)、鳥越啓介(Ba)、ヒイズミマサユ機(Key)、浮雲(Gt, Vo)、名越由貴夫(Gt)、村田陽一(Tb)、西村 浩二(Tp)、山本拓夫(Sax, Fl)らが一同に介してしまった。臨戦体制に入った椎名と彼奴等「MANGARAMA」の繰り出す禍々しい妖術が見どころ。
・収録日:2015年12月9日
・収録場所:神奈川 神奈川県民ホール
※WOWOWオンデマンドで同時配信および放送終了後1週間アーカイブ配信あり

【9月放送・配信予定】
▼<椎名林檎と彼奴等と知る諸行無常>
※デビュー25周年/生誕45周年である2023年、催したばかりの五年ぶりソロツアー<椎名林檎と彼奴等と知る諸行無常>より、5月10日の東京国際フォーラム ホールAでの最終公演の模様を独占放送・配信。
※石若駿(Dr)、鳥越啓介(Ba)、林正樹(Pf)、佐藤芳明(Acc)、名越由貴夫(Gt)。彼奴等「MANGAPHONICS」が、椎名と共にまず描くのは肉体の死。そして尊厳の死。忌むことなく見つめ直して初めて得る生の実感。縦横無尽に轟く音による修行で悟りが開く。
・収録日:2023年5月10日
・収録場所:東京 東京国際フォーラム ホールA
※WOWOWオンデマンドで同時配信および放送終了後2週間アーカイブ配信あり

この記事をツイート

この記事の関連情報