【ライブレポート】BUMP OF CHICKEN、アリーナツアー<be there>で「今日、君に会えて本当によかった」

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BUMP OF CHICKENが今年2月より全国11会場20公演をまわったアリーナツアー<BUMP OF CHICKEN TOUR 2023 be there>が、5月27、28日に開催されたさいたまスーパーアリーナ公演2デイズをもって幕を下ろした。ここでは、5月27日のさいたまスーパーアリーナ公演1日目のこと、そこで私が見たことや感じたことをお伝えする。

ライブは、あまりに特別な形で幕を開けた。開演時間を過ぎて、升秀夫(Dr)、増川弘明(Gt)、直井由文(Ba)、藤原基央(Vo/Gt)の4人が姿を現すと、彼らはメインステージに立つのではなく、メインステージから伸びる花道を歩いて、会場の中央に用意されたメインステージよりはだいぶ小さいサイズのセンターステージに向かった。そこで彼らは、この日の1曲目「アカシア」の演奏を始めた。さいたまスーパーアリーナに集まった大観衆に、「対峙する」というよりは「囲まれる」形で始まったライブ。それは、とても近く、そして温かい、BUMP OF CHICKENの音楽と私たち聴き手の関係を可視化したような演出だった。













センターステージで「アカシア」、「グングニル」、「天体観測」の3曲を演奏し、メインステージに移動したあと、藤原は嬉しそうに「声、出していいんだってよ!」と告げた。このアリーナツアーはBUMP OF CHICKENにとって、声出し解禁のツアーだった。「アカシア」や「天体観測」の時点で既に観客たちの歌声は盛大に響いていたが、藤原は「いっぱい欲しがっちゃいますよ、僕たちは」と、この先も共に歌うことを求めた。ただ同時に、彼はこう付け加えることも忘れなかった。「声を出さずに目を閉じてじっくり聴くことが自分のライブの楽しみ方です、という人がいれば、僕はそれを肯定的に受け止めます。君が好きなように楽しんでくれればいい。隣の人が手を挙げているからって、手を挙げなきゃいけないなんて思わんでいいから」と。とても彼らしい言葉だ、と思った。さらに、藤原はこう続けた。「僕たちの音楽を、これまでの人生のどこかで、受け止めてくれた、知ってくれた、そして、ここに来てくれた。そんな君と僕らは会えた。それがすべてです」

増川のMCも忘れがたい。藤原に「伝えたいことあるんじゃないの?」と振られた増川はこう告げた。「もう3曲やりましたよ。楽しくて、すぐ過ぎちゃうんです。後悔しないようにしないと、あっという間に終わっちゃうんです。いつも、『さっき弾いたフレーズは、今日はもう弾かないんだな』って、切なくなってくる」── 時は過ぎゆくという現実。その残酷さと切なさ。それゆえに噛みしめるべき、「今」という瞬間のこと。それはBUMP OF CHICKENが、その音楽を通じて伝えてきたメッセージとしてあり続けている。そう実感させられる瞬間だった。

ライブアレンジによって、音源とはまた違った鮮やかで肉体的なファンクネスが映える「クロノスタシス」。私がBUMP OF CHICKENの存在を知って夢中になり始めた頃……もう20年近く前のこと。彼らが載っている雑誌を買っては食い入るように写真を見ていたあの頃、失礼な言い方だが、「なんて細い兄ちゃんたちだ」と思っていた。その繊細そうな佇まいがかっこよかった。でも、今こうして彼らのライブを目の当たりにすると思う。「なんてパワフルな人たちだろう」と。そのステージ上の存在感からは、野性味すら感じる。MCで彼らは自分たちのことを「おじさん」なんて言っていたが、おじさんだろうが何だろうが、27年という歳月を経て彼らが突き詰めてきたものの重みは、その全身から、存在全体から強く発されている。









そして、雄大な演奏と共に大合唱が起こった「Flare」。「どこにいたんだよ/ここにいるんだよ」という歌詞が聴こえてきた時、今回のツアーのタイトルとして掲げられた「be there」という言葉が頭をよぎった。「ここにいるよ」「そこにいるんだろ?」――思えばBUMP OF CHICKENの音楽は、ずっと、そういうことを主張し、問いかけ続けてきたような気がする。私という個人が「ここにいる」という、複雑でシンプルなこと。別に「私は幸せだ」と引きつった笑顔で誰かに無理やり言い張りたいわけでも、自分の正しさをヒステリックに他人に言い聞かせたいわけでもない。ただ、弱くて、不安で、愚かで、滑稽で、それでもどうしようもなく愛おしく、手放すことのできない「自分」という存在が、ここにいること。そのことを真っ直ぐに受け入れてやりたいと思った時、傍にいてくれたBUMP OF CHICKENの音楽が、心の中で一緒に歌ったBUMP OF CHICKENの歌が、たくさんある。

ライブ中盤、再びセンターステージに立ち「ベル」を演奏すると、MCタイム。増川がMCで会場を和ませると、直井は観客に「be there! たまアリ!」というコールを仰ぎながら、「これ以上出ないよってくらいの声でやってください。恥ずかしがっちゃダメ。恥ずかしがるなんて、人生を相当無駄にするんで」と、ソリッドなことをサラッと言ってのける。そして升は、彼のこだわりとしてマイクを一切通さずに、地声でさいたまスーパーアリーナに集まった観客たちに感謝と喜びを伝えた。「さすがにたまアリでマイクなしはキツいだろう」と思ったが、2階の席にいた私の耳にも、彼の地声は驚くほどよく聞こえてきた。そんなMCタイムを終えると、バンドは「新世界」を演奏。センターステージからメインステージに戻ってもなお、「ベイビーアイラブユーだぜ」のコール&レスポンスは続いた。















見事な色彩の照明演出と斬新なアンサンブルが見事に絡み合う「SOUVENIR」や、優しいメロディと大らかな抑揚が美しく響く「Gravity」。それらに続いて、藤原の「「窓の中から」やります!」という朴訥な曲紹介とともに始まった、最新曲「窓の中から」。「ハロー ここにいるよ」と歌い出すこの壮大な楽曲には、BUMP OF CHICKENが伝え続けてきたメッセージがギュッと詰まっている。私たちは誰しもが誇り高く孤独な、ひとりの人間であること。孤独の豊かさと淋しさの味わいを知る者同士が、共に声や時を重ねることの喜び。その喜びは永遠ではなく、きっと一瞬で、でも、その一瞬の喜びの記憶を胸に、私たちは再び勇敢なひとりぼっちとして、歩き出せるということ。

本編も終盤、「ray」を演奏しながら、藤原は「せっかく今日会えたんだ! 君の声を聴かせてくれ!」と呼びかける。その呼びかけに、観客たちの力強い声が応える。演奏を終えると、大きな拍手と歓声に包まれながら、藤原は「もっと声を聞かせてくれ」と言わんばかりに、手を耳に当てる仕草をしてみせた。そして、本編のラストを飾ったのは「fire sign」。2004年リリースのアルバム『ユグドラシル』に収録された曲だが、「ひとりぼっちのままで、共に歌うこと」の喜びを再び実感させられた、この2023年の「be there」ツアーに相応しい1曲である。ダイナミックな演奏と合唱に、会場は包まれる。



アンコールで「ホリデイ」、そして「虹を待つ人」を披露すると、最後の最後にハンドマイクで「スノースマイル」を歌い始めた藤原。その歌声に寄り添うように観客たちの手拍子が響き、そして、増川、直井、升の演奏がそこに加わった。この「スノースマイル」を聴いている時間。それは、もうすぐ梅雨だとか夏だとか、そんなことは関係ないと言い切れるくらい、夢のような、魔法のような時間だった。この日この場所にしか流れない時間。しんしんと降り積もる雪のように穏やかで美しいアンサンブルと、重なる歌声。そのあまりにも素晴らしかった「スノースマイル」の演奏が終わると、最後までステージに残った藤原は、観客に向けてこう告げた。

「今日、君に会えて本当によかった。また僕らがライブをやっても、君たちに会える保証はない。でも、また会いたいからさ。俺たち4人は君に向けてしっかり音を出すから、また見つけてほしい、掴まえてほしい。また会いたい。会おうぜ。会おうな!」

アンコールも含め全20曲、約2時間半に及ぶライブ。この先、この夜の記憶を思い出してひとりで歩き出す時が、きっと何度でもあるんだろう。







文:天野史彬
撮影:Yoshiharu Ota、Taku Tatewaki、Yokoyama Masato

  ◆  ◆  ◆

セットリスト

<BUMP OF CHICKEN TOUR 2023 be there>
5月27日@さいたまスーパーアリーナ

01. アカシア
02. グングニル
03. 天体観測
04. なないろ
05. 才悩人応援歌
06. クロノスタシス
07. Flare
08. 66号線
09. ベル
10. 新世界
11. SOUVENIR
12. Gravity
13. 窓の中から
14. サザンクロス
15. GO
16. ray
17. fire sign
<アンコール>
18. ホリデイ
19. 虹を待つ人
20. スノースマイル

『BUMP OF CHICKEN TOUR 2023 be there at SAITAMA SUPER ARENA』配信概要

配信日:2023年7月29日(土)19:00(開場18:00)より疑似生配信
https://bit.ly/43d1Mm0

<見逃し配信>
2023年7月29日(土)疑似生配信終了後~2023年8月12日(土)23:59
■配信形式:ペイパービュー
■価格:4,400円(税込)
※ご購入にはシステム手数料330円(税込)が別途必要です。
※本ペイパービューをご購入の方は、見逃し配信もご視聴いただけます。
■販売期間:2023年5月28日(日)22:00~2023年8月12日(土)21:00
※『Lemino』で視聴できる配信チケットを、『Lemino』公式サイトに加えてイープラスでも2023年6月2日(金)18:00〜販売いたします。

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