【インタビュー】井出靖、「自伝を書くことで沸き起こった、自分が文化を残さなくてはいけないという“使命感”」

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自伝『ROLLING ON THE ROAD』や、自身が企画主催する展示会<JAPANESE MUSIC POSTER FLYER EXHIBITION>などが各所で話題となっている井出靖。2023年6月5日(月)には下北沢CLUB Queにて井出率いる大所帯のドリームバンド“THE MILLION IMAGE ORCHESTRA”が2年ぶりとなるワンマンライブを行うことになっている。出版、企画制作、ライブ……と多方面で精力的に活動を続ける井出に、自伝出版のその後といよいよ迫ったライブについて聞いてみた。

◆井出靖 関連画像

■とにかく本に残すのは
■“自分が見た景色”に決めたんです

▲『Rolling On The Road』

──自伝『ROLLING ON THE ROAD』の反響はいかがでしたでしょうか?

井出 少し時間が経ちましたが……本当は昨年12月10日発売でしたが遅れまして、それが結果的に良かった。年末だとその年をリセットするじゃないですか? 結局、制作予算のうちの4分の3は発売1週間前に予約で捌けちゃって、その後、読んだ方からもすごくいい評価をいただいて。井出靖のことが書いてあるようで、この本を読むと実は自分のことを思い出すとよく言われます。年代に関係なく、その当時の自分はどうだったか、それに、あれも井出さん、これも井出さんなんですねと、表だって僕の名前は出てなくても、間接的に知ってたみたいなことが多くて。特にファンタスティカ(編注:井出が1993年、東北沢にオープンした雑貨店)に高校のときよく行ってました!とよく言われるんですよね。

──そもそも自伝を書き始めたきっかけは?

井出 知人と話していると、当時のことを絶対に文章にした方がいいと何度か言われたので、最初は暇なときにガラケーで小学生のころから自伝みたいなものを書き始めたんです。すると小学生の思い出をずーっと書いてて、これ終わらないなと(笑)。そんな話をしてたら出版しようということになって、もう一度イチから振り返ることにしたわけ。

──細かなことまで覚えてました?

井出 いきなり小学校1年生の1月は覚えてないけど、幼稚園のときから何かしらの記憶はあるから、メモっておくと意外と思い出してくる。いろいろな体験を断片的に思い出して、じゃあ大学生のときはどうだったかなと全部メモ書きしていくと、さらに思い出してきて、その日にちがいつかをネットや知人に確認して、どんどん積み上げていく。その作業を延々をやったんですよ。

──よくこれだけのトピックを覚えてるなと、びっくりです。

井出 本の出版が遅れた分すごく加筆しちゃったんです(笑)。累計で約30万ビューのアクセスがあるnoteのブログから転載するときに、どんどん加筆していくことで、例えばそこに日本の音楽について資料性もあるように自分なりの形で、と思ってやりだすと、どんどん膨らんでいって……。それに当時行ったコンサートやイベントのチケットのスクラップブックを見つけて、そういう資料もあったから書けたんです。

──もちろん忘れてることもありました?

井出 これ以上覚えてることはいっぱいあるけど、とにかく本に残すのは“自分が見た景色”に決めたんです。感想をたくさん書くだけじゃなくて、タイトル通り、“何でも全部通り過ぎていく”という内容の本。ちなみに本誌は60章ありますが、この構成は僕じゃなくて、編集の辛島いづみ(川勝プロダクション)さんとデザインの小野英作君とで決めたもの。で、やっぱり小学生から書くと、辞典みたいなことになってしまいそうで、90年代から始めようと……脈絡なく飛んでいく構成ですごく好きな形に収まりました。人によっては時系列で読みたかったという人もいますけどね。

──タイトル『ROLLING ON THE ROAD』にした理由はありますか?

井出 本当に転がっていくような人生だから。(内田)裕也さんの歌詞と自分の人生を比べると、“孤独のなんとか”とか、“道なき道を行く”とか、すごく合ってるなと思って。内田也哉子さんにキチンと許諾をとって、使わせていただきました。

──自伝は40歳までですが、それ以降のトピックもかなりありますよね?

井出 そうなんです。もっと落ち着いたら続きをnoteに書いていくと思います。自伝中の最大のトピックというと、『らんまん』(NHK連続テレビ小説)を観ていて、主人公が東大に入ってだんだん疎外感を感じるようになる……僕、大学のときのことを書いたんですけど、これがひとつ自分が動いたきっかけであり、印象に残っている出来事とリンクするんです。

当時、やっぱり音楽の会社で働きたいと思って、まずはどこかでバイトしようと、キャニオンレコードが雇ってくれることになった。音楽業界に入りたいとはいえ、よく自分で電話して雇ってくれませんかって言えたなと今では思いますね。で、今度は法政大学の夜間に受かる。法政とキャニオンって偶然、目と鼻の先だから、夜間に行きながら昼間に働いたわけですが翌年、大学の昼間の部門に受かった。夜から昼の転籍で1000人中6人、僕の学部は2人。そしたらバイト先の人が同じ学部でゼミを紹介してやると言って、紹介状をもらって入るわけ──まさに『らんまん』と同じ(笑)──ただそこが超人気ゼミで40人くらいしか入れない。そこに2年生になった僕が初めて行くわけ。“あいつ誰だよ?”と。夜間に行ってたわけだから昼間ひとりの友達もいないのに、ゼミに入ってもすごい疎外感、かつ服装はトンガって目立ってたし(笑)、全部が普通の道で入ってないから『らんまん』を観てるとすごく当時を思い出すんです。

でも今思うと、あれはひとつの大きな転機。その後、ライターのアシスタントになったり、そのときに市川清師(『MUSIC STEADY元編集長)さんや今井智子(音楽評論家)さんに出会うんです。二十歳のとき。当時知り合った人たちとはFacebookで繋がったりしてるけど、そこがあったかないかで全然違った気はしますね。

──自伝を読んでいると、いろいろな方と知り合いますね。

井出 いとうせいこう君と会ったのもそのころ。共通の知人がいとう君に仕事を振っていて、いとう君は井出って面白い奴がいると聞かされてて。で、その後、僕は『TRA』(1982年創刊のカセットマガジン)に入った後、伊島(薫/写真家)さんの映画『黒い月』にちょっとだけ出させてもらった時に、いとう君も出演していて、そこでお互い「君がそうなんだ!」と。その後、3回話をしてお互い会社を辞めて自分たちの会社を作ったわけ。すでに(藤原)ひろしのマネジメントすることが決まってて……そういう会社になっていくんです。

──よほど熱い話をされたんですか?

井出 おそらく、いとう君は元々会社を作りたいと思ってたんでしょう。講談社以外の仕事がすごく忙しくなってたから、そういうタイミングで、そういう縁みたいなものはありますね。縁といえば、例えばオリジナルラブ。いとう君が担当していた『ホットドッグ・プレス』の巻頭ページの編集を手伝っていたとき、僕が素晴らしいと思ったピチカートファイヴのアルバム『couples』を載せたいと思って資料が欲しい……すると偶然、小西(康陽)君と会うことになって、さらにそこには田島貴男がいて……そういう感じでいろいろな人と出会っていった。自分でいろいろなところに徘徊して一緒に何か仕事しようみたいなことはなかった。

レコードを紹介しただけで、ライブハウスでお互い合わなかったら多分そこで終わり。だけどすべてそういうつながりなんですね。五木田(智央/画家)君のときもそうで、『流行通信』の同期で、今は画家の角田純君。キュレーション能力がすごくていろいろな人を見い出してますが、彼が五木田のマネージメントやらないかと、僕は五木田君のことも知らないのに(笑)。「井出で、いいんじゃない?」、そういう感じでいろいろな人と出会うんですね。

──結果、仕事が本当に多岐に渡ってますね。

井出 音楽中心のね。自分ではやっていることはそんな変わらないんです。自分が感じた、気持ちいいものを紹介する、ということ。評論家はしたくなくて、だから紹介業と名乗ってた。メディアに紹介して渡せば、あとはメーカーが作って育てていく。そういう職種のほとんどの人は「このアーティストは俺がやった」みたいなものがある。でもそういうのは全然興味なかった。いいものを紹介したから、この仕事は俺にくださいってことは全くない。それで全然いいんです。事務所の親父になるのがすごく嫌だったから、ひとりのアーティストにこだわり続ける思いは全くなかった。

──ところで雑多な音楽を聴いてきた、井出さんならでは音楽の聴き方がありますが、そういう趣味嗜好になったのは?

井出 特にジャンルはないんです。音楽は母の影響が大きくて、ジャズとかムード音楽を聴いてた。そういうとこから入ってたから柔軟なのかもしれないし、小さいころはアイドルとか全然わかんなくて、いじめられると困るから無理やり「明星」を買って下敷きに歌詞とか入れておいたけど(笑)、全然興味なかった。小学生のときの趣味は池袋東武デパートに行って、洋モクのパッケージ買ってきて、箱を2段ベッドの上に飾ることでしたからね(笑)。当時から自分の好きなものは自分で決めてたんです。音楽もそうで、チューリップとかも聴いてましたけど、キャロルを観て鳥肌が立ったから、そこにグッと入り込んだわけ。例えば、好きなんだけど、ビートルズのレコードも一枚も持ってない。曲は好きなのもあるんだけど。そこにずっとハマらなかったから、今の自分になれたみたいのがある。ひとつハマるとさ、どうしてもそこから抜け出せなくなるじゃない?

──自伝に出てくる人=付き合う人に関しても、雑多な面白い方との付き合いが多いですね。

井出 そうですね。川勝(正幸/編集者)さんとはいつもよく一緒にいましたけど。最近交流がある人で、永ちゃんとキャロル、クールスが大好きな人だけど、テクノを作ってる人がいますが、ロックンロールとダンスミュージックを全部ごった煮で聴ける人ってなかなかいないわけで、そんなふうに話し合えるのは2〜3人しかいない。僕は人とつるまないってより、あまり趣味を打ち出さないタイプなのかな。例えば同じキャロル好きの友達でも、車に乗ると紫のベルベットの敷物が敷き詰めてあったりすると……(笑)。ファッションもそうだけど、僕は好きで聴いているし、好きで着てるから人の影響は受けないんです。

──必ず自分ありき。

井出 ショーケンがかっこいいから影響を受けますけど、友達の嗜好に影響されたりとか友達と同じ格好しようみたいな発想はない。音楽の貸し借りも、コンサートでRC観たりにChar観たりした友達も、一人〜二人ぐらいですね。今でもそうで、こうやってポスターとか集めたりするのも自分で決める。同じことずっとやってるような感じですね。

──それが井出さんを形作ってる感じがしました。

井出 まさに『らんまん』でしょ(笑)? 植物学室、ツラいだろうな、と。だから僕自身も道がないとこうずっと歩いてる感じ。出会いはやっぱり『らんまん』じゃないけど、門を叩かないと無理だっていうのが自分のスタイルなんだな、みたいな。そこは相変わらず同じでなんです。

──7月2日(日)からは“自伝ツアー”も始まりますね。第一弾は高木完さんと沖野修也さんを招いて。

井出 ツアーは自伝を出す前から考えてて。新宿のとある料理屋で、僕の話が面白いからその本買いますと言われて、持っていた見本誌を2冊を売ったことがあって。ツアー=都内の飲み屋でもカフェでも、本に書かれてないことを話したい。今回、辻堂MONKでやりますが、お店のオーナーが、高校生のときにファンタスティカに通っていたそうで、当時の自分に見せたいと(笑)。

──奇遇ですね!

井出 そうなんです。そういう出会いも含めて、僕のことを知らない人もいるし、本に出ているこの人は知ってるから読んでみようというのもある。日本の<JAPANESE MUSIC POSTER FLYER EXHIBITION 井出 靖が見た東京の景色 PART.2>は、来ていただいた皆さんが、こういう展示会を開いてくれてありがとうございますと言ってくださった。じゃあ今度は僕の方から会いにいけばいいのかなと。要するにこの業界に入ったときと同じ“電話”です、自分から行くという原点。

▲UNITでのライブの様子(撮影:三浦憲治)

■主要メンバーが変わらなくてもやることが変わっていくのが
■THE MILLION IMAGE ORCHESTRAの魅力

──今度のTHE MILLION IMAGE ORCHESTRAのライブへの意気込みを教えてください。

井出 THE MILLION IMAGE ORCHESTRAでのワンマンが3年8ヶ月ぶりで神田での<Yasushi Ide 60th Celebration Special “New Beginning” THE MILLION IMAGE ORCHESTRA VS The Cosmic Suite Ensemble>から2年ぶりなんです。

今回のライブの前置きとして、2023年2月11日から2月19日までポスター展<JAPANESE MUSIC POSTER FLYER EXHIBITION 井出 靖が見た東京の景色 PART.2>をやって、結果600人ぐらい来場されて、みんなすごく感動して帰ったんです。しかもそこで自伝が100冊以上も売れた。つまり5〜6人にひとりが買ってくれた。で、3月9日にはDOMMUNEに出て、3月15日にひとりで飲んでいて、自伝のこと、ポスター展のことを鑑みて、ふとTHE MILLION IMAGE ORCHESTRAをもう一回やろうかなと思ったんです。以前から下北沢CLUB Queと話していたこともあって、あそこならステージに10人ぐらいいれば形になるし、ロック、ブルース、レゲエっぽいものをライブハウスから改めてやっていくとのもTHE MILLION IMAGE ORCHESTRAっぽいかなと。やることを決めた後すぐにメンバーにメールしたんです。コロナ禍も落ち着いて仕事が入ってきてるから6月ぐらいでどうだと。10人OKが来たらそれで一応形になる、そしたら送った人ほぼ全員OKだったわけ(笑)。

──すごい結束力ですね。

井出 しかもこの間、このライブのための集会をしたんです。というのはTHE MILLION IMAGE ORCHESTRAはメンバーが多くて1曲しか出てこない人もいます。そうすると本番もリハも会わないで帰っていく場合もある。そうしたらフライヤーに一緒に名前が乗る意味ないから、その集会もふたり地方ツアーに行ってる以外は全員OKで来たわけ。THE MILLION IMAGE ORCHESTRAのワンマン最後=サンセットのフェスに出てみんなで打ち上げしたんですけど、その翌月にユニットでライブをしたら、やっぱり違うんですね。みんなで旅したみたいな“まとまり”というか……ご飯食べてみんなで話して、次のリハの雰囲気やムードが全然違うんです。


▲UNITでのライブの様子(撮影:三浦憲治)

──では、今回のライブは『ROLLING ON THE ROAD』や<JAPANESE MUSIC POSTER FLYER EXHIBITION 井出 靖が見た東京の景色 PART.2>に準じた内容になるわけですね?

井出 日本の音楽のポスター集め出したのは実は自伝を書いてる途中かな……書いてる間に、これは何か残さなくちゃいけないのかなって思って調べ出したら、どんどん集め出しちゃって。歳を考えたことなかったんですけど、70歳になったらこういうふうに集められないし、今思うのは、最終的にはポスターの“館”を作りたい。日本の音楽のポスターを見たかったら日常的に見れる場所。今62歳、前回のポスター展は59歳。もう時間感覚が違うから早く残した方がいいと思って。自伝を書くと同時に、自分が文化を残さなくてはいけないという“使命感”になったのがびっくりしましたね。そういうわけで、今回は日本のロック。主要メンバーが変わらなくてもやることが変わっていくのがTHE MILLION IMAGE ORCHESTRAの魅力だと思うし、今回は藤本一馬(G)君が出れないから、ジャズ的な要素が減っていてロックとダブ、そういう要素が多いかな。そういうライブになると思います。


<Yasushi Ide Presents THE MILLION IMAGE ORCHESTRA “Rolling On The Road” >

2023年06月05日(月)
下北沢CLUB Que

【出演】 THE MILLION IMAGE ORCHESTRA
Vo/Gu : 紫垣徹・延原達治・塚本功・吾妻光良・下山淳
Vo : 高木完・坂田かよ
Gu : 石井マサユキ・AKIHIRO
Ba: RECK・Watusi・穴井仁吉
Dr : 上原"ユカリ"裕・池畑潤二・椎野恭一
Key : 外池満広
Per : 西岡ヒデロー・及川浩志
Tp : 大山渉
Sax : 石川道久
TAP : SARO
DJ : 田中知之
 井出靖
Opening DJ : 永田一直

【時間】18:30 open & DJ Time Start / 19:30 Show Start
【値段】 前売¥6,000/当日¥7,000 (+ドリンク別¥600)
【会場設定】オールスタンディング
【告知開始日時】 04月01日(土曜日) 12:00
【発売日】 Que店頭先行 04月05日(水曜日)16:00~21:00
一般発売 04月06日(木曜日)
【販売】
<観覧>
①「主催者販売」
②「CLUB Que店頭」
③「イープラス」(URL:https://bit.ly/3JT78KE)
・問い合わせ OFFICEQUE 03-5433-2500

【配信日時】
2023年6月5日(月)18:30~
URL https://www.danke-v.com/videos/270
アーカイブ視聴:2023年6月12日(月)21:30まで

【配信チケット詳細】
料金:3,000円
販売期間:2022年5月8日(月)19:00~2023年6月12日(月)18:30

【動画視聴における推奨環境】
[スマートフォン、タブレット]
iOS 11.0以降(Safari最新バージョン)
Android OS 5.0以降(Google Chrome最新バージョン)

[パソコン]
Windows 10以上/ MacOS 10.9以上(最新バージョンのGoogle Chrome、Safari、MS Edge、Firefox)のいずれかを視聴の際に必ずご用意ください。

◆Grand Gallery オフィシャルサイト
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