【ライブレポート】King Gnu、日産スタジアムで「これから先の人生で何度も思い出したくなるような日に」

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撮影:Kosuke Ito

6月4日、King Gnuにとって初となるスタジアムツアー<King Gnu Stadium Live Tour 2023 CLOSING CEREMONY>の最終公演が、横浜・日産スタジアムにて開催された。5月の大阪・ヤンマースタジアム長居、そして、6月の日産スタジアムと、2か所を回ったツアーのファイナルである。

3日の横浜公演は前日の台風の影響も心配されたが無事開催に至り、ツアー最終日となる4日は、開放感のあるスタジアムでライブを観るのに相応しい、清々しい晴天に恵まれた。ツアータイトルに掲げられた「CLOSING CEREMONY」という言葉を見た時は「閉会式? 終わり?」と一瞬ギョッとしたが、バンドが出したステートメントによれば、2020年1月にリリースされ、その後のコロナ禍の影響で昇華しきれていなかったアルバム『CEREMONY』の季節を本当の意味で締め括るためのツアー、という意味合いで付けられたタイトルのようだ。『CEREMONY』は「白日」や「飛行艇」が収録されたアルバムである。そう考えると、発売はもっと前のことのようで、時間感覚が麻痺するようだが、それはコロナ禍を経たからという以上に、その後も勢いを増し続けたKing Gnuの存在感の大きさに、こちらの視界が眩んでしまっているという面の方が大きいような気もする。

撮影:Tomoyuki Kawakami

会場に着いて座席に着くと、近くに座っていた知り合いの編集者が、OSRINが影ナレを務めていたことを教えてくれた。このスタジアムツアーの演出もやはりKing GnuのほとんどのMVを手掛けているOSRINが担当している。開演前から会場の上には空撮用のドローンが飛んでいて、それに向けて手を振る観客もいる。ステージの上には巨大な聖火台が設置されていて、開演間近になると、黒いフードを目深に被り、深紅のフラッグを掲げた人々が次々とアリーナ席付近に現れた。これから、とてつもなく巨大なスケールのステージが幕を開けるのだと、少し緊張する。そして、時間が来る。ステージ上に火柱が上がり、ストリングス隊とホーン隊による壮大な「開会式」が響きわたり、ライブは幕を開けた。新井和輝、井口理、勢喜遊、常田大希、この4人のダイナミックなアンサンブルにホーンとストリングスが重なる「飛行艇」。常田は「声出せ!」と観客を煽る。「大雨降らせ 大地震わせ/過去を祝え 明日を担え/命揺らせ 命揺らせ」──早くも巻き起こる大合唱を、常田は「続けて、続けて」と促す。想像を遥かに超える巨大なスケールの景色が広がる。

撮影:Ayumu Kosugi

続く「Tokyo Rendez-Vous」の演奏を終えると、井口理が「どうしても言いたくて」とMCを始めた。彼は数年前、下北沢や渋谷のライブハウスをメインに活動していた頃を振り返り、「当時は本当に、誰も聴いてくれていないと思ってた。……それが、今、どうよ。7万人も聴いてくれています。皆さんに提案なんですけど、今日という日を、これから先の人生で何度も思い出したくなるような日にしませんか」──その言葉に、観客の大歓声が応える。そして始まった「Teenager Forever」。「他の誰かになんて なれやしないよ そんなのわかってるんだ/明日を信じてみたいの 微かな自分を 愛せなかったとしても」この美しい孤独の歌を、7万人の観衆が同時に歌う。

撮影:Kosuke Ito

撮影:Kosuke Ito

アルバム『CEREMONY』の世界観を軸としながら、「Don’t Stop the Clocks」に「Prayer X」に「Slumberland」、「サマーレイン・ダイバー」に「Flash!!!」、そして「カメレオン」や「Stardom」や「一途」や「逆夢」などもある、 現時点までのKing Gnuの集大成といるようなセットリストだった。巨大なスケールのライブだったが、何より大事なことは、King GnuがKing Gnuとしての幸福を守りながら、この日産スタジアムの舞台に立っていることだった。演奏の迫力は圧倒的だったが、MCになると、4人はすぐに親密な友人同士の関係に戻っていくようだった。先にも書いたようにステージ演出は、共に作品を作り続けてきたOSRINである。さらにメンバー紹介では、新井がMELRAW率いるホーン隊と、常田俊太郎率いるストリングス隊の面々を、共に音楽を奏でる仲間にリスペクトを込めるように、ひとりずつフルネームで紹介した。また、「カメレオン」が終わり「三文小説」が始まる狭間、常田はピアノで坂本龍一の「戦場のメリークリスマス」を静謐に、激しく、奏でた。

撮影:Kosuke Ito

撮影:Ayumu Kosugi

撮影:Ayumu Kosugi

撮影:Ayumu Kosugi

撮影:Kosuke Ito

この日、この場所にあったのは、熱狂だけではなかった。友情も、敬意も、哀しみも、愛も、すべてがたしかに、この日の日産スタジアムのステージにはあった。この日、King Gnuが生み出した景色から溢れるもの、伝わるものはすべて、どれだけ巨大な存在になろうと、King Gnuにとっては絶対に守り抜かなければならないものだったはずだ。彼らがこの数年間で辿り着いた場所は、単なるスターの座ではない。戦いに勝つことだけでは辿り着けない場所に、何かを高値で売り捌くことだけでは辿り着けない場所に、King Gnuは辿り着いていた。

撮影:Ayumu Kosugi

撮影:Ayumu Kosugi

撮影:Ayumu Kosugi

撮影:Ayumu Kosugi

他にも、脳裏に焼き付いて離れない景色がたくさんある。「Teenager Forever」で、ステージ上のカメラに向けて、井口が常田と新井の肩を抱いてみせた、あの瞬間。勢喜はカメラに向かって何度も頬ハートを作ってみせた。常田のピアノ弾き語りで始まり、そこに3人の演奏が加わった「壇上」では、サイドスクリーンにKing Gnuというバンドが抱く記憶が、モノクロ写真によって次々と映し出された。「壇上」は音源においては歌とピアノとストリングスによって成立しているパーソナルな楽曲だが、この日、この曲は4人で演奏されなければならなかった。そして、「サマーレイン・ダイバー」で、観客たちが一斉に掲げたスマホのライトが作り出した、光の海。そんな光の海に向かって、井口がピースサインを掲げた。

撮影:Kosuke Ito

撮影:Tomoyuki Kawakami

常田のチェロ演奏による「閉会式」で幕を開けたアンコール。井口の「ここには7万人の人がいて、それぞれの生活があって。7万人の心の歌、聴きたいじゃないですか」という言葉に続いて始まった「McDonald Romance」を、常田のギターだけを伴奏に、会場全体で合唱した。7万人がお互いのぬくもりを分け与え合うような、温かな歌声が響いた。そして最後の最後、爆発的なスピードとテンションで駆け抜けた「Flash!!!」で、盛大に上がった花火の煌びやかな大胆さと、繊細な美しさ。それはまさに、King Gnuという存在を表しているようだった。

井口が最初に言っていたように、何度も思い出したくなるような光景に満ちた夜だった。

撮影:Kosuke Ito

撮影:Tomoyuki Kawakami

撮影:Kosuke Ito

撮影:Tomoyuki Kawakami

取材・文:天野史彬

  ◆  ◆  ◆

■セットリスト

<King Gnu Stadium Live Tour 2023 CLOSING CEREMONY>
2023年6月4日@日産スタジアム

00. 開会式
01. 飛行艇
02. Tokyo Rendez-Vous
03. Teenager Forever
04. BOY
05. 雨燦々
06. 小さな惑星
07. 傘
08. ユーモア
09. Don't Stop the Clocks
10. カメレオン
11. 三文小説
12. 泡
13. 幕間
14. どろん
15. Overflow
16. Prayer X
17. Slumberland
18. Stardom
19. 一途
20. 逆夢
21. 壇上
22. サマーレイン・ダイバー
<アンコール>
23. 閉会式
24. 白日
25. McDonald Romance
26. Flash!!!

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