【インタビュー】yama、時代の1曲「春を告げる」で動き始めた本当の人生

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音楽デジタルディストリビューション・サービス“TuneCore Japan”10周年を記念したアワード<Independent Artist Awards by TuneCore Japan>が2023年6月9日に開催された。TuneCore Japanが保有する世界185ヶ国、55以上の音楽ストアのデータをもとに11部門にわたってアーティストと作品が選出され、授賞式にはTani Yuuki、舐達麻、たかやん、Repezen Foxx、など多彩なノミネートアーティストが出席する中、各部門のグランプリが発表。Tani Yuukiがグランプリ4冠を獲得し、yama、HoneyWorks、Ichika Nito、Repezen Foxx、Kotoha、cinnamons & evening cinema、高瀬統也も各部門グランプリに輝いた(https://www.tunecore.co.jp/news/432)。

今回BARKSは、全ての音楽配信ストアでこの10年間最も再生された楽曲を表彰する部門「Top Streaming Music of the Decade」で「春を告げる」がグランプリを受賞し、また自身も「Hero of the Decade」(全ての音楽配信ストアでこの10年間最も再生されたアーティストを表彰する部門)にノミネートされたyamaに会場で話を聞くことができた。「Top Streaming Music of the Decade」でグランプリを受賞した際のスピーチでは、「TuneCore Japanさんを通してリリースした『春を告げる』をきっかけに、人生の歯車が動き出しました」と述べたyama。実際に、2020年4月に発表したソロ名義で初のオリジナル曲「春を告げる」のおよそ半年後にはメジャー移籍1st Digital Single「真っ白」をリリースし、以降これまでに『the meaning of life』(2021年9月発売)『Versus the night』(2022年8月発売)と2枚のアルバムをリリースするなど活躍ぶりは周知の通りだ。こんなふうに、1つの曲を機にアーティストが一気に飛躍できるこの時代の代表曲が「春を告げる」と言えるかもしれない。この曲がyamaにもたらしたものとは。さらに、音楽を始めようとしている人々に向けてメッセージも寄せてくれた。

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── 多彩なジャンルのアーティストや楽曲がラインナップされた今回のアワードに参加した感想から聞かせてください。

yama:本当にジャンルレスというか、いろんなアーティストの方がいらっしゃるなかでこういう賞がいただけて本当に光栄です。たくさんの人に届いてるんだなって実感できて嬉しかったですね。(「春を告げる」を)リリースしてもう3年くらい経つので、時間の流れが早くもあり、もうそんなに経つのかとちょっとしみじみとした気持ちでした。当時はまだメジャーレーベルと契約していない状態だったので、TuneCoreさんがなかったらこの曲をリリースできていなかったと思うと感慨深いですね。


── そうですよね。改めて、「春を告げる」という曲がyamaさんにもたらしたものはなんだと思いますか?

yama:それまではずっと一般企業で普通に会社員として働きながら音楽をやっていたので、その片手間で作った音源をTuneCoreからリリースしたんですが、「春を告げる」をリリースする前に仕事を辞めたんですよ。この曲がうまくいく確証はないし、世の中で自分のことを知ってる人はほとんどゼロに近い状態からのスタートだったんです。

──この曲でイケるという確信があったんでしょうか。

yama:っていうわけでもないんですけど、この曲をソロ名義のオリジナル1曲目としてリリースすることは作ってる過程で決めていました。なんかすごく勘が働いて、やっぱりこのタイミングで仕事を辞めたいって思って思い切って辞めてリリースしたら、SNSとかで徐々に広まっていって、突然環境が変わって人生が動き出したんです。音楽を仕事にしたいとずっと願っていたので、この曲が願いを叶えてくれたと思います。





── この曲がそれほどリスナーに聴かれた理由を、ご自身ではどう分析されますか?

yama:この曲自体は、何かを狙って作ってもらったわけではなく、自分自身の精神的な部分やこれまでの人生と純粋にフィットしていたんですけど、たまたまコロナ禍でみんなも落ち込んでいるような時期で。自分は元々そういう性質なんです(苦笑)。落ち込みやすくて暗いというか、ちょっと内気。ずっと部屋の隅で天井を見ているような。

── まさにアートワークのイラストのような。

yama:そうです(笑)。ああいう人生を送ってきたんですが、ちょうどコロナ禍で自粛期間だったのでいろんなことが制限されて、みんなの孤独感がたまたま共感を産んだんじゃないかなと思います。

── 結果的に時代の1曲になりましたよね。楽曲自体も、YouTubeのコメントにもたくさんあるように何回もリピートしたくなる本当に中毒性の高い曲です。

yama:ありがたいですね。今までに何百回と歌ってきましたけど、飽きるっていう感覚がなくって。3年前から自分の環境も考え方もめちゃくちゃ変化してるんですけど、変わらず大切に歌える曲だなって思ってます。

── この曲で「THE FIRST TAKE」や「Mステ」にも出演されて、yamaさんをより広い世界へ導いてくれた曲とも言えると思います。TuneCoreがローンチして10周年ということで今回のアワードが開催されたわけですが、yamaさんにとってこの10年はどういう月日だったのでしょうか。もう音楽は始められてました?


yama:はい。10年以上前から宅録は一人でやってて、でもその頃は本気で音楽を仕事にしようとは思ってなかったんです。普通に学生生活を送り、就職もして働いてたけどやっぱり諦められなかったのが3年前なので、この10年のうち6、7年くらい前までは不安定な時期。ここ数年でようやく、本当の人生が動き始めた感じなんです。それまでは「なんだろう、この人生は。つまんないな」って思いながら生きてたんですよ。特別悲しいこともないんですけど、特別嬉しいこともなくて、喜怒哀楽が極めて薄くてずっと砂漠を歩いているような感覚というか。これがあと何十年も続くって耐えられないかもって、悩んでいて。でも今は、山あり谷ありで、すごく落ち込む時もあれば、逆にすごく達成感がある時もある。「楽しいな、人生が始まった」っていうところです。だからこの3年は激動ですね。

── 3年前のyamaさんのように、音楽活動を始めたいと思ってる人に向けてメッセージがあったらぜひ伝えてください。

yama:自分も同じような状況からスタートしているので、その時の気持ちはすごくよくわかるんですけど、一歩踏み出せないで迷ってる人は、人にどんな評価をされようが、エイ!って投げるような気持ちで一回リリースしてみて欲しいと思います。それで大きくは変わらないかもしれないけれど、もしかしたら何かが変わるかもしれないから。環境なのか、自分の気持ちなのか、絶対に変化があると思うので、恐れずに踏み出してほしいですね。

──ちなみに3年前のyamaさんは、人の評価が怖いっていう感覚はなかったんですか?

yama:あ、それはなかったですね。逆に今のほうがあります。自分が本当に表現したいことがあっても、でも求められているのは違うほうかな、っていらない感情で天秤にかけるようになってしまったというか…。だから「春を告げる」の時のような、純粋に音楽がただただ好きな気持ち、この曲が素晴らしいんだ!っていう気持ちだったり、100パーセントの純度で“好き”っていう気持ちでやってた頃のことを思い出したくて、初心に戻ろうとしている時です。なので音楽をスタートしようとしている人には、とにかく好きなこと、やってて楽しいと思うことを、何にも惑わされずに表現してほしいですね。

──じゃあ今日の授賞式は、当時の気持ちに立ち返れたかもしれないですね。

yama:そうですね。当時のことをちょっと思い返していました。



── 転機となった「春を告げる」以降、かなりコンスタントに楽曲を発表されて精力的に活動されていますが、何が一番のモチベーションになっていますか?

yama:幼い頃からずっと何者かになりたくて、“他の誰でもない自分”みたいなものを探し求めていた中でようやく音楽を見つけたので、モチベーションを保つというよりは音楽がなければ生きていけないという感覚ですね。隣になければいけない。

── 人生そのものなんですね。

yama:そうです、そうです。人生そのもの。

──では最後に、これから音楽で叶えたい夢は?

yama:たくさんあるんですけど、とにかく自分は自分自身に自信がなくて、弱い部分や、蓋をしたいような嫌な部分に向き合っていくぞっていう思いを、音楽を通して表現しています。そういう感情って他の人も持ち合わせていると思うので、そういう方々に届いてほしいですね。「頑張れ」っていう言葉は嫌いで、そうじゃなくって、同じようにこんなに弱い人間がステージに立って表現してる姿から、少しでも元気になってくれたり、寄り添えたり、明日も頑張ろうって思ってくれたらいい。そういう活動を長く続けて、一人でもたくさんの人に届けるということが目標であり夢ですね。

取材・文:堺 涼子

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