【インタビュー】Sound Horizon、「この世の中のものってすべてにロマンがある」

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■ 現代日本を舞台にした「ビターな物語」

──「この人は助かったけど、その結果、あの人には悲劇が訪れた」みたいな、皮肉な、ちょっとビターな部分がある物語は、今回の『絵馬に願ひを!(Full Edition)』だと二択であることによって強調されている気がします。しかしそういう展開はSound Horizonの他作品でも、まれにありますよね。もともとRevoさんに、そういう作品の面白さを提供したいというお気持ちがあるんでしょうか。

Revo:興味深いと感じる気持ちはあると思います。好き勝手に自分の願いを叶えようとするなら、どんなに美しいこと言ったとしても自分本位なエゴみたいなものがあるはずなので。まして、人智を超えた力でそれを叶えようとするなら、人の都合とは異なる摂理によるひずみが起こる可能性もありうる。「世界はそんなに都合がいいものだとあなたは思っていたのか?」という問いかけがそこにあるのかもしれないですね。

──あとは、どれだけ誠実に選択しようと思っても、どうしても別ルートを見たいという欲望も生まれてしまいますしね。

Revo:僕もゲーマーなんで、全ルート攻略したいし全アイテムコンプリートしたい。ですけど、そうすることで人の人生をもてあそんでるんだぞっていう客観的事実からは逃げられない。それをどう捉えるかは僕たち自身の問題です。ただエンタメとして消費し、自分自身の現実とは切り離すか。登場人物の哀しみに寄り添い、現実のその先へと思いを馳せるか。正解はありません。ただ、僕たちはリモコンを持たされています。先ほどおっしゃったビターな部分があるというのが、いい表現だと思います。さすが、おつむさやわか(笑)。甘さのなかにビターさがあるから、より複雑な味になったりするわけじゃないですか。作品の中に、それを隠し味として入れておきたい気持ちはあります。「隠れてねぇじゃん!」って思うかもしれませんが(笑)。最終的にどんな印象が残るかは、人それぞれだとは思うんですけど、作り手としては、ひとつの味だけにしたいとは思っていないです。

──その気持ちが、単にいいことだけが起こる訳でない、人間の人生とか、世界というものをRevoさんに描かせるのでしょうか。

Revo:それこそ「○○くんと付き合いたいです」みたいな願いをしたとして、別の誰かも同じ願いを持っていたらどうする?という問題だって当然ありえますよね。自分の願いを叶えようとすると、誰かの望みは叶わない。スポーツなんかもそうで、自分が1位になりたいなら、誰かが1位になることはできないし。誰かの物語に寄り添うなら、出来れば報われてほしいとは思うけれど。報われる人生しか認めないなら、幸せな人生以外生きる価値がないと思うなら、複雑な味わいというものは届かないのかもしれないですね。選択を意識することで、何かを選ぶ一方、選ばなかった方への眼差しも持ち続けられるのは豊さだと思います。

──二択でいうと、これもSound Horizonの作品でたびたび描かれてきたテーマではあるんですが、母と子の関係についても今回の『絵馬に願ひを!(Full Edition)』では二択として描かれています。すなわち「産む」「産まない」という二択ですよね。今回、母と子というテーマを意識的にクローズアップした部分はあるのでしょうか。

Revo:そうですね。完全に意識していました。Prologue Editionに登場した那美さんは特に「産むか」「産まないか」という二択に最大の焦点があてられていて、不育症などの話題も登場します。ただFull Editionでは「産むか産まないか」だけでなく、その先の育児のほうが全然長いよ、という視点も入っています。大変な思いをして産んだはいいけど、その子供がどう育つかは、また別の話ですよ、ということですよね。何か障碍があるかもしれないし、将来的に犯罪者になる可能性だってある。子供を持つというのが、それだけ責任の重い選択であることは事実なんですよね。

──選択に対する結果とは、その場で出るだけでなく、本当はずっと続くもので、そこまで責任を持てるのかということですね。

Revo:それを突き付けるのは、ちょっと意地悪ですけどね。その責任を自覚したうえで子を持つと決断した人を僕は尊敬しますし、皆さん様々な事情があると思うので、子を持たないと決断した人も尊敬します。選択することは、それ自体勇気がいることだと思います。しかしまあ、神様にしてみれば「とにかく子供が授かりますように」程度でなく、「子供を授かり、その子が健康に育って、○○大学に受かって、○○企業に勤めて、こういう人と結婚して、こういう人生を送って、病気にもならず、安らかに眠るように死んでもらいたい」みたいなところまで絵馬に書いてもらわないと困りますよ、と思っているのかもしれませんが。ただ、親がそこまで書いてくれたとして、生まれる子供にとっては、それでいいのか? という問題もありますよね。自分が産まれる前から、そこまで全てが決まっているなんて。人生に不慮のマイナスはないかもしれないけれど、絵馬に書かれた内容を超えた素晴らしい何かも起こらないかもしれないじゃないですか。



──そういう形でも、運命を操作されることに対して、許せない気持ちを持つ人もいるかもしれませんね。

Revo:そうやって、読み取ろうと思えばいろんなことが伝わるような作品になっているんじゃないかなと思います。悲しみや辛さも多く含まれていますけれども、そこから最終的に「幸せってなんだろう」と考える作品になっていると思います。楽しい部分だけでは、絶対に幸せは語れないと思うので。「何をどうすれば幸せになるのか」を考えることは、裏を返せば「何をどうしたら不幸だと思うのか」ってことだったりするから。作品で、最終的に光を浮かび上がらせたいと思うなら、結構とんでもない闇を入れなきゃいけない。特に現代日本に近い世界観で作ったことによって、この作品はフィクションといえばフィクションだけど、でも、完全な絵空事とも思えないぞ、君の隣に存在してる問題かもしれないぞ、と言えるものになったと思います。

──たしかに、現代日本が描かれていることで、もともとSound Horizonの作品にあるシリアスさが、強くストレートに出ていますね。先ほどの「産む・産まない」でいえば反出生主義とか、あるいはLGBTQとか、障碍者スポーツであるとか、ルッキズムとか、本当に今の社会で語られていることがそのまま登場する、きわめて社会的なモチーフを扱った作品だと思いました。世界観が現代日本だからこそ、こういうことについてどんどん語っていこうという考えだったのでしょうか?

Revo:せっかくこの時代を舞台にしてるので、今の人にリンクするものをしっかり入れておきたいなと思いました。ただ、これまでに作った作品、たとえば『Moira』とか『Märchen』(2010年)だって同じ構造があるんです。あれらの作品で語られていることは、今の僕たちから見たら、全部ファンタジーというか、フィクションのように見えるんですが、しかし、その時代の人からしたら、ノンフィクションな部分も含まれている。

──アメリカの移民の話とか、魔女狩りの話とか、過去にあったシリアスな話を聞くと、何となくファンタジーみたいな感じがするけど、当時の人にとっては現実ですもんね。

Revo:だから『絵馬に願ひを!(Full Edition)』に描かれていることも、後の時代の人から見たら、ファンタジーのように思えるはずなんです。例えば、新型コロナウイルスの問題はセンシティブだから、作品に盛り込むべきかどうか、という考え方があるとしますよね。それならば、じゃあペストはセンシティブじゃなかったのかという視点の存在も認めなければならない。当時は今の新型コロナウイルス以上にセンシティブなものだったはずですが、今の人からしたら現実感がないし、大多数にはセンシティブにも思えない。だからと言って、重大なことではないとは思っていません。今の人たちが、それらの時代を内包する過去作にロマンを感じてくれてるように、後の人たちにこの作品が内包する時代のロマンを届けたいと思っています。

──なるほど。そういう点で、今回の作品も、これまでの作品と同じような構造を備えている。

Revo:ただ、同じと言えば同じですけれど、Blu-rayなのでCDとは明らかに使える尺が違って、情報がものすごくいっぱい入ってるんです。作る側が情報量を盛り込めるだけでなく、受け取る側にとっても解像度が高い素地がある世界観なので、過去最高濃度で作品を鑑賞できると思います。

──Blu-rayであることのメリットは、もちろん画面が表示されるとか、選択ができるということもありますが、基本的なこととして容量が多いということもあるんですね。情報量を多くできることは、作り手であるRevoさんからすると、創作においてカギのひとつだったのでしょうか?

Revo:自由すぎてもしんどいっていうのもあるんですけど、今までより明らかに自由度が高いので、表現できることの幅が広がったと思います。また、どこからどこまでを1曲だと捉えるかみたいな構造じたいがCDと違います。鑑賞する際に、途中で必ず選択肢が入るので、物語が絶対に寸断される形になっていますよね。だから今回は1曲としての範囲が、これまでに比べるとわりと短めに作られています。この作品と同じことをCDで作るなら、一体どういうインデックスになってるんだろうなと思います。CDだと最大99トラックなのかな? そういう制限があると思いますが、この作品は余裕でそれを超えちゃってるでしょうね。一瞬同じに思える曲でも別バージョンが存在しているので。

──CDなどの音楽ソフトのような、しかしゲームのようでもあり、アプリのようでもあり、物語そのものでもある、とにかく誰も見たことのない作品ですよね。クリエイターとして、そういう未知のものを作ってみたいというお気持ちが強いんでしょうか?

Revo:未知のものを作りたいとは、絶対に思ってるんですけど、そこがすべての軸ではないかもしれないですね。「いいな」と思うものを取り入れたり組み合わせていくと、おのずと未知のものになる、という感じかもしれない。


──過去に見て「いいな」と思ったあらゆるもののエッセンスをうまく複合させていったら、結果的に今までになかったジャンルのものになるということですか?

Revo:そうですね。特定のジャンルに収まるものを作ってくれと言われるほうが、窮屈で面白くないのかもしれませんね。そこからはみ出して見えるということは、僕がそれだけいろんなことをやって、かつそれが許してもらえているからだと思います。でも、本当は人間ひとりが「いいな」と思うものにしても、いろんな場所から影響されるというか、ものすごく広い、とんでもない量のものになるのが普通だと思うんです。インプットの対象は何も音楽とは限らないし、それどころかエンタメに属するものとも限らない。それをアウトプットする時には「これは音楽だから音楽のジャンルにしましょう」と、特定の範囲のものに当てはめてしまいがちだと思うんですけど、その垣根をゆるくすれば、人それぞれ生き方が違うはずだから、その人にしか作れないものになるはずなんですけどね。

──Sound Horizonはいわゆる「音楽」を作っている訳ではなく、音楽を中心にしながら、何らかの「作品」を築き上げるアートフォームなんですね。だから、「音楽」であればこういう風に作るべきだというルールからは外れている。

Revo:「こんな音楽を作りたい」という気持ちもあるにはあるけれど、音楽第一じゃなかったりするからでしょうかね。特定の音楽ジャンルを作りたいという気持を優先するなら、こうはならないですからね。物語と音楽の関係で言えば、一般的には音楽って、物語に合わせる側なんですよね。「こういう物語にしたいから、それに相応しい音楽を流してください」って、制約を受ける側の立場なんです。「この音楽を聞かせたいから、物語をこういう風にしてくださいね」とは、なかなか言われない。

──音楽の側からどんな物語にするか選ぶことができるってことでしょうか?それとも、Revoさんの作り方では音楽と物語が分離せず、融合してる感じですか?

Revo:「歌詞が先か、作曲が先か」ってよく聞かれるんですが、同時といえば同時なんですよ。ただ、ほんとにすべてのものがかみ合って、瞬間的に全部が決まるのかっていわれたら、そんな奇跡みたいなことはできない。だから考え方で言ったら、物語が先だと言えます。でも、物語っていうかプロット、世界観の設定が先にあるだけで、作詞作曲の段階でいうと同時に近いんです。プロットをどういう言葉に、どういう歌詞として落とし込むかっていうのと、どういう音楽でそれを表現するのがふさわしいのかが、同時に生まれてるというのが近いんです。

──その時の作業としては、プロットを思い浮かべながら歌詞を書いて、ピアノやギターを弾いて歌ってみるというような流れになるのでしょうか?

Revo:いえ、最近の僕の感覚では、それが頭の中で想像できるかどうかで決まるところまでは、いっているんじゃないかと思います。少なくとも「弾き語りしながらじゃないと絶対作れない」みたいなことはない。音楽を作る過程での、言葉とメロディーのマリアージュに関する選択肢って無限にあるので、その中から「これだ!」と思える組み合わせを見つけられるかですが。成立しなくもないけど、っていう無難な組み合わせも相当数あるので、罠にかからないよう潰していく作業なのかもしれません。毎回、最初に見つけたのが最高なら誰も苦労しないのですが、「これだ!」というのは、他とは違うとわかっちゃうんですよね。何十年も音楽を頭の中で作って生きてきたので。それに、人間って面白いもので、どっちかが完全に先行してできてくると、もったいなく思えてきちゃうんですよ。だから曲を先に完成させて「最高のものができた」と思えたら、それに修正は入れたくなくなる。逆に、歌詞を先に作ったら、そこから一語一句変えたくない。だから作曲家と作詞家が別々にいたらSound Horizonはもう解散してるかもしれないんですけど(笑)。僕が一人でやってて、なおかつ作曲家/作詞家・Revoより上に、プロデューサー・Revoみたいなもっと上位の存在がいるので、「まあ、お前ら仲良くやってくれよ」って感じで、頭の中でなんかうまく調整が利くんでしょうね。

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