【ライブレポート】fuzzy knot、キズを迎えて“異種格闘技戦”ツーマン開催

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シドのShinjiとRayflowerの田澤孝介によるユニットfuzzy knotが6月28日、東京・LIQUIDROOMでキズとのツーマンライブ<fuzzy knot × キズ LIVE 亞>を開催した。同公演のオフィシャルレポートをお届けする。

◆<fuzzy knot × キズ LIVE 亞>画像

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4月7日、fuzzy knotとキズの2マンライブが発表された。公演タイトルは<亞>。この珍しいネーミングを発案したのは、キズの来夢だった。

「fuzzy knotの田澤(孝介)さんと楽屋でミックスボイス(※地声と裏声の中間の声質で発する声)の話題になったとき、“あいうえお”を全部“あ”で表現するのがミックスボイスなんだ、という話になりまして。ふたりの共通点である“亞”をタイトルにするのがいいんじゃないかと思いました」。

提案を受けた田澤は、潔くも意味深い「亞」に思いを巡らせた。

「このタイトルは“シンプルな音でぶつかり合いたい”という意味にも受け取れたし、そもそも“亞”には十字架が入ってるでしょ? 十字架のように“僕たちの音楽が、誰かの救いや癒しになっていたらいいよね”とか、いろんな意味や想いがこもっていると思った」。

そもそも両者の音楽性は、いい意味で全然違っている。fuzzy knotのShinjiはキズに対して「どの曲にも一貫した空気感があって、本当に筋の通った音楽だと思う」と評している。一方、キズのきょうのすけは「楽曲やMVごとに、いろんな色を出せるのがfuzzy knotの個性だと思います」と、fuzzy knotのYouTubeチャンネル内でお互いの印象を語っていた。

そして6月28日、待ちに待った2マンが東京・恵比寿LIQUIDROOMで開催された。満員の場内には、それぞれのバンドTを着た観客が集結していた。


開演時間になり、フロアの明かりが消えて、薄暗く照らされたステージにreiki(G)、ユエ(B)、きょうのすけ(Dr)が姿を見せた。そして、フードを深く被った来夢(Vo, G)がステージ中央に立つと、フロアから無数の腕が上がった。来夢がジェスチャーで手拍子の合図を送る。ドン、ドン、ドン。高鳴る心臓の鼓動を表すように、大きなクラップが起きた。1曲目「蛙-Kawazu-」の演奏が始まると、一斉にヘドバンをし、高くジャンプする観客。会場の後方からその様子を眺めていると、まるで寄せては返す大きな高波に見えた。徐々にではなく瞬殺で、キズはその場の空気を掌握した。

「蛙-Kawazu-」の演奏が終わると同時に、reikiが片足を思い切り高く上げて、次曲のギターリフを弾いた瞬間、来夢が自分の頭に手を置いた。そしてフードをバッと脱いで、鋭い眼光で睨みつけ「やんぞ、てめーら!」と檄を飛ばし「地獄」へ。激情的なジェットコースターは、さらに勢いを加速していく。Cメロを歌い、フロアに明かりがつくとみんなが天に指を伸ばしていた。

息つく暇もなく冒頭2曲で圧倒すると、ハッと我に帰ったかのように、観客がメンバーの名前を叫んだ。続く3曲目「ストロベリー・ブルー」は、ドラム主体のタイトなサウンドで、音の装飾をつけず、シンプルさでも勝負できるバンドであることを証明しているようだった。来夢が腕をまっすぐ伸ばした。《さあ、行こうあの場所へ ついてきな楽園へ》。まるでこちらを手招きするように深みのある声で呼びかけている。《さあ、こっちへ さあ、こっちへ さあ》。ここから、さらに我々はキズのブラックホールへ吸い込まれていった。

一瞬、会場の明かりが消えてステージが青く染まり、場内の端々から雨音が流れた。来夢はアコースティックギターを手に持ち「銃声」の演奏を始めた。愛と哀を孕んだ音の一撃一撃が、観る者の心を深く打ち抜いていく。アウトロを演奏するとき、一灯のオレンジ色のライトがreikiを照らした。まるで雨が上がり、温かい夕焼けに包まれているような、息を呑むほど綺麗な光景だった。





続いて来夢がアコギの弦を掻きむしり、「俺と一緒に死んでくれるかー!」と声を上げて「平成」へ。「Mr. BiG MONSTER」「ELISE」と曲を重ねていき、熱気は最高潮を迎える。終盤になり、来夢がマイクを握った。「今から、とんでもない先輩を呼ぼうと思います……田澤さんです!」と紹介されて大勢の拍手に包まれる中、田澤が登場。「もちろん、あの曲をやります」と言って、自身のYouTubeチャンネル内の、ゲスト・ヴォーカリストを迎えてキズの楽曲をセッションする「一撃」で田澤とコラボした「夢」を披露。田澤の空を突き破るようなハイトーンボイスと、来夢の叙情的な歌声が、力強くも壮大な演奏の中で見事に結びつく。終演後、来夢が「実は“夢”という曲は僕が10代の頃から歌ってる曲なんですが、あんなに楽しく歌えたのははじめてだったかもしれないです」とツイートしたように、この日のハイライトの一つだった。

いよいよ、キズのターンが最後を迎えた。彼らが選んだラストソングは「鳩」。メンバーは背後に眩いライトを背負いながら《僕のことは死んでしまったと思って 最低な男だったと忘れてくれ》《僕ひとりで充分 痛みを背負うのは》と歌ったとき、別れを告げて明日へ進むための、キズなりのこれ以上ないロックアンセムだと思った。いつだってキズの音楽は、リスナーの闇も痛みも吸い込んで、ちゃんと前へ進んで行けるように光を照らしてくれる。演奏を観ているみんなが、煌煌とした目をしていた。最後は3人がきょうのすけの周りを囲み、せーので演奏を締め、4人は笑顔でステージを後にした。



続いて登場したのはfuzzy knot。青く薄暗い照明のもと、サポートメンバーの工藤嶺(B)、与野裕史(Dr)が姿を見せて、少し遅れて田澤(Vo)とShinji(G)もステージイン。ピアノの切ない旋律と綺麗な管楽器が重なった、聴きなれないサウンドが会場を包んだ。「あれ? これは何の曲だろう?」と思ったら、まさかの1発目に新曲。曲名は明かされていないが、去年リリースしたミニアルバム『BLACK SWAN』の「哀歌 -elegy-」とも「Inferno」とも違う、壮大で艶やかさを纏ったミディアムナンバーだった。

美しいムードを創出したところで、田澤が「さあ、楽しんで行こうぜ! 頭を振れー!」と叫んで「#109」を炸裂。観客が激しくヘドバンをして、拳を上げて、コール&レスポンスをしている。これまで観てきた彼らのライブは、コロナ禍で観客は声出し禁止、激しい動きも制限されていたので、それだけで不思議な光景だった。マスクの着用も自由になったため、中には笑顔でライブを観ている人もいた。「ああ、そうか。これが本当のfuzzy knotのライブだったんだ」と嬉しくなり、思わず上唇を噛み締めた。

田澤が笑みを浮かべてマイクを握る。「fuzzy knotは、なんと8ヵ月ぶりのライブです! 最後にライブをやったのは、まだガイドラインが厳しい頃で、俺らのファンの人たちは、今日初めてfuzzy knotのライブで声を出せます!」。その言葉に大きな拍手と歓声が返ってきた。「キズがキズらしいライブをやってくれたから、fuzzy knotはfuzzy knotらしいライブをやろうと。俺らの音楽はいろんな方向の、いろんな表現があります。今日初めて観る人に、fuzzy knotがどんなライブをやるのか伝わるような曲を準備してきたので、最後まで楽しんでください」と話し、80年代後半のポップスを彷彿とさせるサウンドに、高難易度の演奏力で魅了する「ペルソナ」、Shinjiのギターソロから、田澤の力強く情熱的な歌声に心を奪われる「愛と執着とシアノス」へと繋ぎ、1曲ごとにまったく違う表情を魅せていく。




ここで会場から「しん様〜!」と声が上がり、Shinjiが「fuzzy knotのファンの方の声をちゃんと聞くのが初めてで嬉しい。 “しん様”なんて呼ばれてたんだ!」と笑いを誘った。ちなみに、この日の朝にShinjiはキズの情報を調べてきたらしく、メンバーの血液型情報や、来夢以外の3人は1月生まれという豆知識を披露。さらにShinjiの母が1月生まれなので、母親をヴォーカルにしたらキズは全員1月生まれになるという、無茶振りをふっかけた。田澤が「お母ちゃんにキズの曲が歌えんのか」とツッコミを入れると、「舟木一夫を歌うのは得意なんだけど、さすがにキズは難しいね」「お母ちゃんなのに、舟木一夫!?」とお馴染みの夫婦漫才のような掛け合いが続いた。

中盤で演奏したのはバラード「キミに降る雨」。ミラーボールが回り出し、まるで雨粒のような青い光がゆらゆらと会場全体を照らす中、感傷的なメロディーでしっとりとした空気を生み出した。その後「こころさがし」「Joker & Joker」で再び盛り上がりを生んだところで「せっかく僕もお呼ばれしましたから、こちらも強力な助っ人というか喧嘩相手をお呼びしましょう」と言って、来夢がステージに現れた。演奏したのは激しいギターリフが火を吹く「Set The Fire !」。原曲の魅力も引き立っているし、来夢の特色も出ていて、この曲の楽しみ方をより拡張していた。何より、観客全員が楽しそうにジャンプしていて、田澤が来夢の肩を抱いて歌っているのも、今回の名場面だった。




楽しい時間もいよいよ終わりを迎えようとしていた。最後の曲は「Before Daybreak」。コロナ禍という暗い時代にユニットを結成し、ようやく万全の状態でライブをできるようになった今、《幸せよ 降り注げ》のフレーズは過去一番輝いて聴こえた。最後に田澤が観客に言葉を送った。「キズと夜を過ごすことができて、本当に刺激をもらったし、負けたくないなと思いました。勝ち負けじゃないんかもしれんけど、お互いに刺激し合って、これからも前へ進んで行けるような、そんな関係を築き続けたいと思います」。

──終演後、fuzzy knotの楽屋を訪ねて、田澤に今回の2マン開催の経緯を聞いた。

「fuzzy knotを知らない人たちにもライブを観てほしいよね、という話になって。じゃあ2マンライブをしましょうと。とはいえ問題は誰とやるのか、でした。候補に挙げる理由は色々あるけど、まずはリスペクトしていること。あとはお互いのファンにお互いのバンドを観てもらえるイベントにしたかったので、そういう関係値がある、作っていける相手とやるのが大切やと思ったんです。そう考えたら、俺の中ではキズ一択でしたね。それこそ“一撃”にも出させてもらったし、プライベートでも来夢くんとは付き合いがあるので“2マンをやってください”とオファーを出したら、実はキズ側も俺らとやりたいという話をしてくれていたらしいんです。そこからはトントン拍子で決まりましたね」。

この日、ライブを観ていて何よりも良かったのは、両バンドがお互いをリスペクトしていて、それがステージ上にも表れていたことだ。「似たような音楽性の人たちが集まるイベントももちろんいいけど、やっぱりこういう異種格闘技戦のような形もいいと思うんですよ。それを提示したかった。うん……リスペクトをしているって大事かも。ほんまに好きですからね、キズの音楽が」。

田澤が最後にステージで言った通り、音楽は勝ち負けじゃないのかもしれない。だけど、大好きな相手だからこそ本気で戦いたいし、負けたくない。認め合う者同士が音の中で拳を合わせる。そんな、誰が見ても素晴らしい2マンだった。

取材・文◎真貝 聡
撮影◎今元 秀明

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■<fuzzy knot × キズ LIVE 亞>2023年6月28日(水)@東京・LIQUIDROOM セットリスト
■キズ
01. 蛙-Kawazu-
02. 地獄
03. ストロベリー・ブルー
04. 銃声
05. 平成
06. Mr. BiG MONSTER
07. ELISE
08. 夢 w/ 田澤孝介
09. リトルガールは病んでいる。
10. 鳩

■fuzzy knot
01. 新曲
02. #109
03. ペルソナ
04. 愛と執着とシアノス
05. キミに降る雨
06. こころさがし
07. Joker & Joker
08. Set The Fire ! w/ 来夢
09. Before Daybreak

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