【鼎談】祖堅正慶、石川大樹、今村貴文が語る『FF16』サウンドメイクの秘密「ゲームコンポーザーに何が必要なのか」

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■クラシックもいいんだけど、もうひとつ殻を破るともう一個上のゲーム体験を得られる

──先ほど少しお話に出ましたが、『FF16』はシリーズ初の本格アクションRPGになっていますけども、それゆえに楽曲数が増えたところもあるんですか?

祖堅:そこはありますよ。たとえば、召喚獣バトルはアクション性が高いので、人によってプレイ時間が大幅に変わってくるんです。全然倒せない人もいれば、あっさり倒せる人もいる。そうなると、1曲をずっとループさせる実装をすると、ゲームプレイのスキルによって、曲がシンクロしなくなったりすることもあるんですよね。それを今回やめようということで、謎のシステムを実装しまして。

──謎のシステム……?

祖堅:プレイしていて盛り上がってきた!ってなったら、曲も盛り上がる展開を始めるとか、バトルの展開が次のフェーズに移行しそうだというときに、そういう曲調に変わったりとか。そうやって音楽がリアルタイムで変わっていく仕組みを実装したんですけど、これを説明し始めるとマジで日が暮れるので(笑)。ざっくり言うと、ミニ祖堅が皆さんのPS5にインストールされて、皆さんのプレイに合わせて一生懸命リアルタイムで音楽をエディットしてる感じです。

──祖堅さんがDJになって……みたいな感じですかね。

今村:ああ。フロアの盛り上がりに合わせて、みたいな(笑)。

祖堅:なんかそんな感じです。その実装も2人にかなりやってもらったんですけど、その仕組みをやるためには、その分、曲のパターンを用意しなきゃいけないので、それで曲数が増えたところもありますね。だから、ゲームプレイに合わせて曲を改造していった感じが強いかな。「Away」もそうやってできた曲なんですけど、繋げたときに音楽として成り立つようにしなきゃいけないので、結構複雑なことをしていますね。

──そういう形で流れる楽曲は、今回のサントラにはどう収録されているんですか?

祖堅:我々が「こうやったら音楽としてベストな流れだよね」と思ったものを収録しています。

──たとえば、サントラに収録されている「Away」は、何個か楽曲のパーツがあるものを合体させた状態という認識でいいんでしょうか。

祖堅:なんとなくはそうなんですけど、そのパーツが一個欠けたバージョンがプレイしているときに存在しているかというと、そういうことではないんですよ。絶対に存在しているんです。でも、ゲーム中では、人によって流れるタイミングが違っていて、だけど最後は帳尻が合う。どうやって帳尻を合わせているのかを説明し始めると日が暮れるっていう(笑)。



──(笑)。これを味わうためには一度プレイしてみるのが一番いいですね。

3人:それです!

祖堅:体験版をプレイされた皆さんから「これどうなってるんだろう」っていう声も結構挙がっているんですよ。「バトルの盛り上がりに曲が追従していくんだけど」って。昨今のインタラクティヴミュージックって、データを見るとミルフィーユみたいな多層構造になっていて。アレンジ違いとか、楽器がそれぞれパラレルで入っていて、盛り上がってきたら楽器を足すとか、激しいアレンジにクロスフェードしていくという仕組みは結構多いんですけど、今回はそれとはまた違うんですよね。だから、俺らもなんて言っていいのかよくわからなくて(笑)。

今村:特殊すぎるので、その分、チェックもすごく大変でしたね。曲が違和感なくつながるようにするために、もう何十回もプレイを重ねて、チェックして、調整してという。

石川:テストプレイも、すごくうまくやったり、時間をかけてやったり、コンテンツのプレイ時間を何パターンも試したりしていて。

祖堅:やっぱりプレイヤーが敵を倒して、決めポーズをバシ!っとしたときに、曲もバシ!っと終わったら、ウォー!ってなるじゃないですか。それをやりたかったんです。で、やったんです。



──興奮するゲーム体験を追求した結果が、この形だったと。

祖堅:そうです。そしたらめんどくさくなっちゃった(笑)。

──この「謎のシステム」って、今まではなかったものでもあるんですか?

祖堅:いや、基本的な技術は過去にも存在しているんですけど、オーディオデータでバカ正直にそれをやろうとすると、めんどくさすぎて誰も手を出さないんですよ。

──なのにやってしまった。

祖堅:いや、これはね、やったらやったで、それはやっぱりいいものになるんです。プロトタイプを作ったときに「これすげぇぞ!」ってなっちゃって。

石川:味を占めちゃったんです。

今村:それと同時に自分達の首も絞めるっていう(笑)。

祖堅:そう(笑)。これをあと何体作らなきゃいけないんだろうなんて何も考えてなかったんですよ。


──冷静になったときに初めて気づいたと。

今村:だいぶ遅かったですけどね、気付くのが(笑)。

祖堅:だんだんね、「なんでやっちゃったんだろう……」みたいになっていって(笑)。

──はははは(笑)。でも、すごく素敵です。とにかくいいものにするんだという気持ちだけで動いていたという。

祖堅:まぁ、後には引けなくなっちゃっただけですよ(笑)。

今村:もう戻れなかったです、時間的にも。

──前に進むしかなかったと(笑)。コンセプトの「王道」「ダークファンタジー」「できればクラシック」に関してですが、お話の通り、サントラを聴くと重厚なオーケストラサウンドが印象に残るものになっていて。その中でも、いわゆるクラシックで使われる楽器の中に打ち込みを混ぜていたり、突然ロックな曲も出てきたりしますよね。それはあくまでも「できればクラシック」であって、こういう曲があるとユーザーはおもしろいと思ってくれるんじゃないだろうかという中から生まれてきたんでしょうか。

祖堅:そうですね。「ゲーム体験ファースト」で考えたときに、クラシックもいいんだけど、もうひとつ殻を破るともう一個上のゲーム体験を得られるのではなかろうかという、サウンドからの提案というか。これを出してみて、「世界観ぶっ壊れるからやめてくれ!」って言われたら引っ込めるかぐらいの感じではありましたね(笑)。実装されているものは、チームも「これめちゃくちゃいいじゃん!」となったもので、実装されなかったものもいくつかあるんですけど。

──そういったトライもあったんですね。『FF16』が発売される前に先行配信された「Find the Flame」については、どんなところから作り出したんですか?

祖堅:あれは元々、「DOMINANCE」という2ndPV用に作った曲だったんですよ。ゲームではなく、PVのために作ったものだからそのままにしておいたんですけど、あるとき今村から「祖堅さん、話があるんです」と。ちょうど「Find the Flame」がかかる辺りのコンテンツをみんなで作っている最中だったのかな。「あの曲、ここに絶対にハマると思うから、一回やってみてもらえませんか?」って言われて。寝耳に水だったんですよ。そんなことまったく考えていなかったから。

──今村さん発案だったんですね。

今村:いや、なんかちょっと記憶が定かではないんですけど(苦笑)、曲を聴いた瞬間に、もうあきらかに熱いし、メロディ含めて主人公感がすごいんですよね。だからもう、ここにはこれですよね?って。

祖堅:ただ、音楽的には幼稚な曲なんですよ。

石川:いや、幼稚ではないです。

今村:毎回「全然そんなことない」って言うんですけど、(祖堅さんは)絶対に認めないんですよ(笑)。

祖堅:ははははは(笑)。この曲は先行配信されているんですが、先行配信するのは、結構抵抗があったんですよね。こんな起伏が全然無い曲を出すんじゃなくて、もうちょっと音楽的な曲にしたほうがいいんじゃない?って聞いたら、「そういうことじゃない」と。

今村:全然違います。

石川:「Find the Flame」を先行配信の曲としてプッシュしたのも今村だったんですよ。

祖堅:「再生して5秒でウォー!ってなる曲のほうが絶対にいい」と言われて。確かに、昨今の音楽的なトレンドとしてはやっぱりそっちじゃないですか。

今村:あと、この曲のメロディって、すごく大事なメロディなんですよ。だから先に耳に入れておいてもらった状態でゲームをすると、よりおもしろいゲーム体験になる可能性があると思ったので、推させてもらいました。

──トレンドや風潮を加味しただけでなく、そこにも「ゲーム体験ファースト」があったと。本当に徹底されてますね。

祖堅:あと、ゲーム体験的にこの曲がかかるところは、音楽的にはもうずっと行きっぱなしになるので、確かに合ってるなと思って、採用!って。でも、曲作るの俺か……って(笑)。

今村:(笑)ゲーム用に作り直さなきゃいけないっていう作業が発生しますからね。


──個人的に気になったのは、Disc1の「On the Wind Borne – The Rosarian Ducal Anthem」でした。

石川:これはロザリア公国の国歌なんですよ。この曲を開発初期に祖堅が作られて、ロザリア関係の曲は全部このメロディを基にして作っています。なので、これがロザリアのお父さんというか。ここからすべてが始まった感じでしたね。

祖堅:この曲の発注が来たときに「酔っ払ったおじさん達が、自分達の国の歌を楽しそうに歌うシチュエーションなんだよ」と発注元から力説されて。そのときはまだゲームの背景をそこまで理解してなくて、パパっと作って渡したんですけど。で、後々、これはロザリア公国の国歌で、それをみんなで歌っている。つまり、ロザリア関連は全部このメロディじゃないとマズいの?ってチームに聞いたら、「当たり前だろ!」って。で、そのときに石川がたまたま、ロザリア公国のテーマを別軸で作ってたんですよ。その出来が結構よくて、いいね! 実装しよう!ってやってたら、チーム側から「ロザリアのメロディと違うじゃん」って言われて。

石川:懐かしいですねぇ……。

祖堅:「すまん! このメロディで作り直してくれ!」って(苦笑)。

石川:それで作り直したのが、Disc1の「A Rose Is a Rose」です。

祖堅:あと、サントラには(「On the Wind Borne – The Rosarian Ducal Anthem」の)英語版を収録しているんですけど、それはゲームのボイス音声を英語に設定した人が聴けるトラックなんですよ。『FF16』は、イタリア語、フランス語、ドイツ語、英語、日本語、スペイン語の6言語を収録しているので、各言語のボイスアクターさんに歌ってもらって、ゲームでは各言語のバージョンが入っているんですけど。ただ、日本語だけボイスの収録期間中にこの歌が録れなかったんです。だから声優さんの代わりと言ってはなんですが、サウンドスタッフ達に「お前ら歌ってこい!」って。

今村・石川:僕らが歌ってます。

石川:あとはサウンド部の有志の方々にも協力いただいています。それぞれ家で録ってもらって。

今村:全員で10人ぐらいが参加してますね。

祖堅:ほぼ『FF14』のサウンドスタッフ達が、これが何なのかよくわからないまま(笑)。でも、酔っ払いが歌っているシチュエーションだから、ちょうどいいんですよ。

──その酔っ払い加減が絶妙ですよね。音を外していたり、ちょっとモタっていたり。

今村:目立つ人がいるんですよね(笑)。

祖堅:全部酔っ払いが集団で歌っているようにエディットしてるんですよ。バラバラに来たボイスデータをまとめたんですけど、特に海外の方は誇張されることが多いから、「これはさすがにやりすぎ!」というのが結構いっぱいあって。で、俺は一体何の作業をやってるんだろう……と思いながらピッチを音痴なようにチマチマとエディットしていくっていう。


──おもしろいですね(笑)。あと「Control」という曲にはお三方のお名前がクレジットされていて(作曲:祖堅正慶・植松伸夫/編曲:今村貴文・石川大樹)。

今村:結構珍しい曲かもしれないですね。

石川:たしか、これが初めて作った召喚獣戦の曲なんですよ。最初ということもあって方向性を綿密に打ち合わせしながら制作する必要があったので、3人で作りました。この曲が流れる召喚獣戦で物語がひとつの山場を迎えるので、そこに向けてどう調整していくのかという。

今村:僕達は『FF14』もやっていて、この曲にはFF14で聴き慣れたメロディが入っていたりするんですけど、『FF16』はPS5向けで、そのクオリティに寄り添った形でちゃんと成り立つのかという初めての試みをした曲でもあったので、温度感や音質はすごく練りました。だからもう、3人の力を集合させた元気玉みたいな感じというか(笑)。でも、作ったのはだいぶ昔にはなるんですよ。サウンドチームとして開発に加わった時期に作ったので。

──開発初期っていつ頃だったんですか?

石川:たぶん2020年ぐらいだったと思います。

今村:僕らがやり始めたのはその辺りで、祖堅はもっと前からだと思うんですけど。

祖堅:『FF14』の裏でコソコソやってました(笑)。

──それを想像するだけでゾっとしちゃうんですよね(苦笑)。『FF14』であれだけのものを作りながら、同時に『FF16』もやっていたという。

祖堅:その間に幕張メッセでライブをやるだの、ガーデンシアターでオーケストラコンサートを4公演やるだの、海外行ってファンフェスやるだの、おかしなことがずっと起き続けているんですよ。そもそもその1つ1つの興行だけで準備に1年かかるじゃん!っていう。やっぱりナンバリングタイトルを2つ同時にやるというのは、ちょっと異常な感じでした。「感じでした」というか今もまだ続いているんだけど(笑)、尋常じゃないぐらいの忙しさです。でも楽しいですよ。

今村・石川:そうですね。

──そこはお二方も同じく。

今村:もちろんです。

石川:そりゃもう楽しいですよ。

今村:そう思い込まないと……(笑)。

石川:さすがにそれを言うのはやめておいたんですが(笑)。

祖堅:はっはっはっはっはっ!(笑)

──(笑)。そろそろお時間になってきてしまったんですが、お三方としては、サントラとして楽しんでもらいながらも、それこそ「謎のシステム」もありますし、実際にゲームをプレイしてもらいたいというのが根底にあると。

祖堅:間違いないですね。もちろん音楽単体で聴いて楽しんでいただきたいというのもありますけど、「いやー、あのときのあれ、すごかったよなぁ」というゲーム体験があった上で聴いたほうが、もっと楽しめると思います。まずはゲームを遊んでいただけると嬉しいですね、ゲームのために書いた音楽達なので。

今村:サントラの曲順やディスクの区切りも、すべてゲーム体験に沿うようにみんなで相談して設定しているんですよ。ゲームをやってから聴いてもらうと、ここでゲームの区切れになる区切るからCDはここで終わってるんだなとか、ここの流れはあのカットシーンで……みたいに、ゲーム映像が浮かぶような流れにしているので、是非プレイしてから聴いてもらえると嬉しいです。

石川:これは3人で話し合ったわけではないんですが、みんな共通しているのは、やっぱりそれぞれがいろいろなゲームをやってきて、心が動いた経験があるからこそ、自分もそういうゲームを作りたいと思っているはずです。なので、『FF16』に関しても、僕らだけではなくサウンドスタッフ全体として、遊んでよかったなって思ってもらいたいというのがあります。遊んでみてどういう感情を持たれるのかは人それぞれですが、最後まで遊んでよかったと思っていただけるようなゲームにする努力はしたので、まずは是非ゲームを楽しんでいただいて。それに紐づいて、音楽も後で聴いていただき、お友達と話したり、ひとりで物思いに耽ったり、いろいろと楽しんでいただけたらいいなと思っています。

取材・文◎山口哲生
写真◎釘野孝宏


© SQUARE ENIX
LOGO & IMAGE ILLUSTRATION:©2020, 2022 YOSHITAKA AMANO

配信概要

■商品名:FINAL FANTASY XVI Original Soundtrack - Prelude
配信日:2023年7月6日(木)
収録曲:
1. Land of Eikons
2. The Lion and the Hare - The Nysa Defile
3. To Sail Forbidden Sea
4. My Lady
5. Find the Flame

配信先:https://sqex.lnk.to/saWs6H

オリジナルサウンドトラック概要

■商品名:FINAL FANTASY XVI Original Soundtrack Ultimate Edition
発売日:2023年7月19日(水)
価格:¥8,580(税込)
品番:SQEX-11031-8
仕様:CD7枚組+ボーナストラックディスク1枚

■商品名:FINAL FANTASY XVI Original Soundtrack
発売日:2023年7月19日(水)
価格:¥6,600(税込)
品番:SQEX-11039-45
仕様:CD7枚組

■ダウンロード配信先: https://sqex.lnk.to/vPfoY9
※各楽曲の配信状況はリージョンやサービスごとに異なります。
※詳細は各配信サービスをご確認ください。

商品詳細:https://www.jp.square-enix.com/music/sem/page/FFXVI/ost/

ゲーム概要

■商品名:FINAL FANTASY XVI
ジャンル:アクション RPG
プレイ人数:1人
対応機種:PlayStation®5
発売日:2023年6月22日(木)
価格:
デジタルデラックスエディション(ダウンロード):12,100 円(税込)
通常版(パッケージ・ダウンロード):9,900 円(税込)
商品詳細:https://jp.finalfantasyxvi.com/
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