【ライブレポート】[Alexandros]の白井眞輝 × KARAS × CHAIのYUNA、<FREESTYLE JAM SESSION>第2弾に流れた解放的な時間と空間

ツイート
no_ad_aritcle

[Alexandros]の白井眞輝、KARAS、CHAIのYUNAの3人が、即興演奏(インプロヴィゼーション)を披露するライブの場が<FREESTYLE JAM SESSION>だ。その第二弾公演が8月9日、COTTON CLUBにて一日二公演で行われた。同公演のレポートをお届けしたい。

◆<FREESTYLE JAM SESSION> 画像

この新バンドが始動したのは、コロナ禍が要因だったという。パンデミックによる緊急事態宣言のため、それまで同様の音楽活動が困難になったミュージシャンは、個々やリモートによる制作を余儀なくされた。緊急事態宣言解除後も通常どおりのバンド活動は難しく、気心の知れたミュージシャン同士が集まって、プライベートなスタジオセッションを繰り返す日々も少なくなかったそうだ。白井眞輝、KARAS、YUNAによる新バンドも例にもれず、様々なミュージシャンとセッションを重ねるうちに、メンバーがこの3名に固定された。音楽性は即興を重視したインストゥルメンタル。バンド名は現在も決まっていないが、2023年6月7日には青山 月見ル君想フで、初ライブとなる<FREESTYLE JAM SESSION>を開催している。3人であらかじめ作った楽曲を聴かせるのではなく、毎回ここでしか聞けない即興音楽を構築していくというスタイルは、何が飛び出すか予測不可能なスリルや、唯一無二のグルーヴを生んでいた。


▲白井眞輝(B)


▲YUNA(Dr)


▲KARAS(G)

また、[Alexandros]のギタリスト白井眞輝が、ベーシストとして参加していることも話題だ。しかし、[Alexandros]加入前の彼はベーシストとしてバンド活動を行っており、2022年に[Alexandros]の磯部寛之が病欠せざるを得なくなった際、ライブでベースを弾いた実績も持っている。ベースに専念した白井眞輝がどんなプレイを披露するのか、という点に興味を持ったファンも少なくないだろう。

そして、COTTON CLUBで行われた<FREESTYLE JAM SESSION - Vol.2>は、初ライブから2ヵ月という短いスパンで開催されており、彼らの本気度がうかがい知れるというものだ。なお前述したように、一日二公演で行われた同ライブの1st showは18時スタート。平日の早い時間帯ながらチケットはソールドアウト。会場に入ると、COTTON CLUBならではのシックかつゴージャスな雰囲気と、場内を埋めたオーディエンスの笑顔などが相まって、華やいだ空気に包まれていた。


暗転した場内に穏やかなオープニングSEが流れ、MOND And PLANTSの空間コーディネイトによる多彩な植物を用いて飾られたステージに、メンバーが姿を現すと客席から温かい拍手が起こる。そしてKARASが繊細なアルペジオを響かせると、落ち着いた雰囲気でライブはスタート。YUNAのドラム、白井眞輝のベースも加わり、リズム隊が生んだ心地よいグルーヴの上で、メロウなロングトーンからホットなフレージングへと移行するギターソロ。メリハリのつけ方の絶妙さなども含め、彼らの表現力の高さは抜群だ。オーディエンスの心が一気に惹きつけられたことも感じられた。

「皆さん、こんばんは」という白井眞輝の挨拶と、3名による飾り気のないMCで客席を和ませた後、翳りを帯びた2曲目へ。ちなみに、彼らのライブは完全インプロビゼーションゆえ、楽曲名が存在しない。3人が織りなす上質なプレイは盤石で、それに加えてハーモニーディレイを駆使してギターでシンセサイザーのパッドのような音を出すKARAS、モジュレーション系エフェクター等を駆使し、ダークなトーンで楽曲を彩る白井眞輝のベースなど、サウンドメイクの面で世界観を深める手法も光る。彼らの立体的かつ奥行きのあるサウンドは、ギター、ベース、ドラムというシンプルな編成とは思えないほど。




その後は、アーバンな雰囲気のセッションほか、「やりたいことがあるんだ」という言葉と共にKARASが奏でたのは付点8分ディレイによるフレーズ。ここから始まった演奏はネイチャー感が香るものだった。即興主体のインストゥルメンタルと書くと、メンバーそれぞれが長尺なアドリブ合戦を繰り広げる音楽をイメージするかもしれないが、そうではない。もっと言えば、音楽に詳しい人や楽器プレイヤーが楽しむ音楽、という偏見からも解き放たれている。

彼らのライブはテクニックの応酬でみせるものではなく、3人で世界観を構築していくスタイルだ。それゆえ、頭を真っ白にしてサウンドに浸ると様々な情景が浮かんでくる心地よいもの。また、メンバーの誰かが奏でたフレーズへの反応スピードというか、表現したいものを瞬間的に嗅ぎ取る能力に長けている3人の音楽は、1曲1曲のテイストが明瞭で分かりやすい。インプロビゼーションでありがちな無意味な瞬間がないことも含めて、幅広いリスナー層が楽しめるはずだ。




その一方で、プレイヤー目線の聴きどころも多い。感情の赴くままにフレーズを紡いでいくKARASのエモーショナルなギターは聴き応えがあるし、ボトムに徹するだけではなく、かといって派手なフレージングで圧倒するでもなく、効果的なリフワークやトーンを奏でる白井眞輝のベースも魅力。YUNAのドラミングも素晴らしい。ゴーストノートを巧みに活かしたビートの心地よさはもちろん、ミニマムの音量でも安定感を失わないという難易度の高いプレイは見事。細やかなニュアンスを使い分けるダイナミクスのつけ方も秀逸だ。インストゥルメンタルに馴染みのないリスナーをも魅了する聴きやすさとテクニック面の豊かさを併せ持つ彼らは稀有な存在といえる。

夜を思わせる繊細なナンバーでさらに世界を深めた後、ライブの締め括りとしてウォームなナンバーを披露。KARASが奏でる綿密なギターと白井眞輝のカリンバの音色、YUNAのしなやかなリズムが折り重なって、場内がロマンチックな空気に包まれた。贅沢な時間が流れる演奏が終わりを告げ、心地よい余韻を残してメンバーはステージから去っていった。



独創的なアプローチと上質さを併せ持った<FREESTYLE JAM SESSION>は、実に魅力的な時間と空間だった。どんなモチーフを演奏するかということを一切事前に決めず、それぞれのプレイも散漫さや冗長さは皆無。あっという間に時が過ぎ去った。また、3人が生み出すケミストリーも絶妙で、白井眞輝がベースを弾こうという気持ちになったことも頷けた。

今後の予定が明かされることはなかったが、インストゥルメンタルの魅力に気づくリスナーが増えることを予感させた<FREESTYLE JAM SESSION>に大いに注目していきたい。


取材・文◎村上孝之
撮影◎Kana Tarumi

この記事をツイート

この記事の関連情報

*

TREND BOX

編集部おすすめ

ARTIST RANKING

アーティストランキング

FEATURE / SERVICE

特集・サービス