【ライブレポート】Mrs. GREEN APPLE、ドーム公演に10年の総括と未来「“今”を愛するために」

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Mrs. GREEN APPLEが8月12日および13日の2日間、埼玉・ベルーナドーム(西武ドーム)で自身初となるドーム公演<Mrs. GREEN APPLE DOME LIVE 2023 “Atlantis”>を行った。

◆Mrs. GREEN APPLE 画像

彼らは6月上旬に最新アルバム『ANTENNA』の制作を終え(リリースは7月5日)、約1ヵ月という短期間でアリーナツアー<Mrs. GREEN APPLE ARENA TOUR 2023 “NOAH no HAKOBUNE”>をスタート。7月8日から8月4日までに計6公演を完遂し、それからわずか1週間後、本公演は開催された。事前に「アリーナツアーとは別の内容」「バンド結成10周年のお祭り」といったメンバーのコメントが公にされていたが、その中身は、これだけの短期間で練り上げられたとは思えないほど、凝りに凝ったエンタテインメントであった。その伏線は、既にアリーナツアーで用意されていた。


<NOAH no HAKOBUNE>でのエンディング。そこで会場に映し出された映像には、「To Be Continued To ATLANTIS」というメッセージと共に伝説の海底都市が姿を現したが、この日、いざ<Atlantis>の世界に一歩足を踏み入れると、先の映像が具現化されたような巨大な神殿(ステージ)が観客を迎え入れる。その存在感は圧巻だ。神殿後方には曲ごとにシーンを彩る巨大LEDスクリーンが設置されており、加えてライブ中は、水の動きによってアーティスティックな表現をデザインする多数の噴水や、観客のテンションを高ぶらせるウォーターキャノンなど、“水の都アトランティス”に相応しい非日常の空間設計が3万5千人(2日間で7万人)の観客を<Atlantis>に没入させていく。

音楽ライブであり、一大エンターテインメントショー。その規模感と大がかりな演出は、ドームという場所、10周年というタイミングならではのものばかりであり、本来ならば祝われる側であるMrs. GREEN APPLEが、観る者を真夏の夜の夢へと誘い、<Atlantis>を余すところなく堪能させてくれた。



これがテーマパークであれば、「楽しかった」「スゴかった」という印象だけでまったくもって十分だろう。だがおそらく多くの観客は、時間が経つに連れて大森元貴(Vo, G)が歌っていたこと、若井滉斗(G)と藤澤涼架(Key)が奏でていたフレーズに対する記憶が、より大切なものとして心の中で膨らんでいるのではないだろうか。それこそがMrs. GREEN APPLEが作り出した<Atlantis>の世界であり、音楽ライブの醍醐味だ。そして<Atlantis>で聴かせてくれたMrs. GREEN APPLEの音楽と演奏は、これほどのスペシャルな演出も脇役にしてしまうほどの圧倒的な力を持ってドームに鳴り響いていた。巨大な神殿も100トンの水を使った噴水も、すべての起点はMrs. GREEN APPLEの音楽にあった。

オープニング曲は、最新アルバムのタイトル曲、「ANTENNA」。藤澤がシンセで鳴らすサウンドは観客たちへ向けMrs. GREEN APPLEから発信された信号のようでもあり、そこに若井のギブソン製レスポールスタンダードがエモーショナルに轟く。そして大歓声の中、“Boys and Girls”と満員の観客に語りかけるように大森が歌い始め、“どこまでも行ける そんな気がしている”と続けた。




「<Atlantis>へようこそ!」──大森の短いMCを挟んで、メジャー1stシングル「Speaking」、続いて2016年初夏にミセスの名を一気に広めた「サママ・フェスティバル!」とアッパーな初期曲をたたみかける。作曲当時、まだ十代だった大森のポジティヴなパワーがみなぎる楽曲を、過去もっとも心技体のバランスが充実している3人が演奏し、歌う。それに応える観客の大合唱。“お祭り”とは言いながらも、10年間の歳月の重みと感慨を感じさせる瞬間が、いきなり訪れた。

続いて、サポートメンバーの神田リョウ(Dr)と森夏彦(B)をフィーチャーしたファンクなセッションから、幾何学的リズムがパズルのように組み合わさっていく「アンラブレス」、大森がオーダーメイドのブラックボディのサイケデリズム製ジャズマスターを手にし、「1、2、3、4!」のかけ声と共に始まったロック感の強い「アボイドノート」、若井のギブソンES-335とホーンサウンドが織りなすジャジーなセッションが華やかに展開していった「Love me, Love you」と多彩な音楽性を続々と披露。


そこから一転、ストリングスの調べと共にステージ後方のLEDスクリーンにステンドグラス模様が映し出された「umbrella」で藤澤のピアノが優しく、かつ力強く響き渡ると、照明が消され真っ暗なドームの中で大森にスポットライトが当たり、荘厳な雰囲気で歌われた「Soranji」はライブ序盤のハイライト。3万5千人の観客が作り出した静寂の中をこだまし、そして輝きを持ったまま消え去っていく歌声の余韻は、美しく、そして神秘的ですらあった。

この時点で感じたことがひとつあった。彼らは“バンドである”ということをとても大切にし、そこに重きをおいてこのライブに臨んでいるということだ。10周年を記念するスペシャルなライブゆえ、ストリングスセクションやホーンセクションをゲストに迎えた特別編成でライブを行うこともできたはず。実際にMrs. GREEN APPLEの楽曲には、それらのサウンドが欠かせない作品は多い。しかし彼らは、5人で演奏することを選んだ。

もちろん、目の前で繰り広げられているエンタテインメントは、いわゆる“バンドのライブ”の範疇を遥かに超えている。すなわち、彼らは世間一般が言う“バンド”というスタイルにこだわっているのではなく、音楽家としての大森、若井、藤澤、そして2人のサポートメンバーという、今の“Mrs. GREEN APPLE”のアンサンブルで音楽を奏でることにこだわったと言ったほうが正確だろう。そこに“自分たちはMrs. GREEN APPLEである”という揺るぎないプライドと、“バンド”という概念をアップデートさせようという強い意志が感じられた。そのプライドや意志は、メンタル的なものだけでなく、3人のプレイにも如実に表れていた。




若井はライブを重ねるごとにギターヒーロー感をパワーアップさせているが、今回のライブで印象的だったのはプレイ面の奥行きがグッと増した点。中でもファンク/ビックバンドテイストのグルーヴを実に生き生きとプレイしており、ビンテージギターES-335のキャラクターとも相まって、「Love me, Love you」「ダンスホール」などで自身のオリジナルトーンを確立しつつあった。加えて、「ANTENNA」「ケセラセラ」ではレコーディング時に猛練習を積んだというタッピング奏法を存分に披露。レーザーが飛び交いビック弾きのベースが轟くダークな「Loneliness」ではメインのレスポールで楽曲の狂暴さを加速させ、フェンダー製ストラトキャスターでプレイした「私は最強」のオブリは、大森のボーカルに負けない存在感をアピールしていた。

藤澤はアリーナツアーからメインキーボードにコルグNAUTILUSを新しく導入。「umbrella」「Soranji」を代表とするクラシカルな調べから、「青と夏」での軽やかでポップに輝く音色、「絶世生物」のような感情豊かなプレイまで、これまで以上にミセスカラーにマッチしたピアノをプレイ。さらに「Magic」では、サンプラーパッド(アカイプロフェッショナルMPX16)やヴォコーダー(ローランドJD-Xi)を新たに取り入れ、ライブにおけるミセスサウンドを大いに拡張する。ライブならではという点では、「サママ・フェスティバル!」でショルダーシンセ(ローランドAX-Edge)、アンコールの「庶幾の唄」では久々にライブでフルート演奏を披露し、メインステージからセンターステージ、さらにはサブステージへと移動しながら演奏し、観客を大いに沸かせた。

そして、フロントマン大森。「青と夏」でオーダーメイドのサイケデリズム製STANDARD-T、「私は最強」ではギブソンES-330などギターもプレイしたが、やはり圧倒的だったのは彼の歌声だ。彼は音域の広さやファルセットの綺麗さで高い評価を受けることが多いが、それもさることながら、ドームクラスの大きな会場で、一番遠く離れた観客も歌声で魅了できる声量と(いくらPAを使っても、しっかりとした声量がなければ、遠方の観客の心を掴むことはできない)、高音域でも歌がか細くならない芯の太さ、そして力強さと繊細さを音符単位で使い分けられる表現力の高さは秀逸。楽器音が一切なくとも、彼の歌声だけで音楽を成立させられる力を持っているがゆえに、今回のドームライブも“ライブを観た”と言うよりも、“歌を聴いた”という印象を持った観客は多かったはずだ。中でも「Soranji」や、センターステージで噴水に囲まれながら歌った「絶世生物」は名演。通常、ドームのように過剰に音が響く環境は非常に演奏しにくい空間だが、ピッチやタイミングも完璧で、初のドームライブとは思えないほどの高いクオリティで歌を聴かせてくれた。



そんな3人がセンターステージに集まり、ある意味で“3人だけの世界”を作り出しながら、ある時は大森が指揮をするかのように、またある時はお互いにアイコンタクトを取りながら歌われた「フロリジナル」「BFF」「僕のこと(Atlantis ver.)」の3曲は、Mrs. GREEN APPLEの10年間を自ら祝福するかのような記憶に残るシーンであった。

もうひとつ忘れられないシーンがあった。ライブ本編最後に演奏された「Magic」だ。大森が観客と一緒に歌うことをイメージして作ったという作品だが、まさしく“この日のための曲”と言っても過言でないほど、観客の大合唱が楽曲の魅力を何倍にも増幅させていた。芸術は、基本的に作り手が生み出した表現を受け手が鑑賞するという、一方通行のエンタテインメントだ。しかし音楽は、受け手も歌い、手を叩くことで、能動的に作品に参加できる唯一の芸術である。そういう意味でも「Magic」は、ドームに集った一人一人が<Atlantis>の主役となれる魔法であった。


「10年っていう数字が、すごく不思議に感じて。あっという間のようで、振り返ってみると……いろんなことがあったじゃない? だから何とも言い表せない、本当にかけがえのない10年だったなと思います」──藤澤

「(藤澤)涼ちゃんが言った通り、たくさんいろんなドラマがあったけど、ここに集まってくれたみなさん、ミセスの音楽を愛してくれてるみなさんがいなければ、僕らはここまで来れなかったし、ミセスで10年、活動を続けられなかったと思うので、本当に感謝しかないです」──若井

アンコール時、藤澤と若井がこのようにバンドの10年間を振り返ると、大森は次のように語った。

「16歳から始めて、10年もやっていると、“あの頃が良かった” “いつの何が良かった”という声は出てきます。でもそれは、僕らにとって嬉しい声なんです。僕ら(の根本)は変わらずに、多面的になろうとしました。それは必然的な変化で、その時々の僕らを切り取って、歩んできた軌跡を好きだと言ってくれる人がいることは、本当に嬉しいことです。
 バンドの活動に限らず、変化が伴うのが人生で、僕らが一番大切に、慎重に扱わないといけないのが“今”の僕らであって。それは過去を大切にし、過去を愛するために必要な決断だったりもしました。これからを生きるためにも、いつだってそうだと思います。“今”を愛するために頑張るって。
 これまでの道のりが愛らしくて、今日が愛おしくて、これから先も愛せるように、高らかに感謝の気持ちと、みなさんの祝福を乗せて、最後に歌いたいと思います。いつか、必ずたどり着く場所があると信じて」──大森

そしてMrs. GREEN APPLEは「ケセラセラ」を華やかに歌い上げ、観客を“たどり着くべき場所”へと誘い、ベルーナドームに2日間だけ現われた幻の都市<Atlantis>は、再び地上から姿を消した。


先のアリーナツアー<NOAH no HAKOBUNE>を観た時、Mrs. GREEN APPLEはこのツアーでフェーズ1とフェーズ2の狭間を埋めようとしていたのではないだろうかとレポートにしたためた。それを経てのドームライブ<Atlantis>。今回はもはや、フェーズ1とフェーズ2という括りさえ取り払い、彼らの10年間を一本の筋道として総括した、まさに現時点でのMrs. GREEN APPLE集大成と呼ぶに相応しいライブであった。

もちろん、彼らのフェーズ1とフェーズ2には、バンド編成という点で決定的な違いがあることは確かだ。しかし人は誰しも、進学や就職、結婚、あるいは大切な人との別れや出会いなど、人生が大きく変わってしまう出来事は多々ある。だが、それで自分の歩みが途切れるわけではなく、幸せな時期も苦悩の時期も、どの瞬間も自分の大切な人生の一部に変わりはないはずだ。それはMrs. GREEN APPLEというバンドにおいても同じであり、道のりが途絶えかけそうな荒波に見舞われても、それを乗り越えることで、すべてを自身の人生=バンドの10年間として総括し、Mrs. GREEN APPLEでしか作り上げられない<Atlantis>を現実のものとしたのだ。だからこそドームライブの終演は、単なる大型イベントの終わりではなく、明るい未来に歩みを進めるMrs. GREEN APPLEのファンファーレのようにも感じられた。ここからまた、始まるのだ。

その新たな歩みの第一弾としてアンコール時に発表されたのは、ファンクラブツアー<Mrs. GREEN APPLE 2023-2024 FC TOUR "The White Lounge">。今年12月20日から全12都市(20公演)を回るホールツアーとなっており、内容は2019年に行われたコンセプチュアルなツアー<Mrs. GREEN APPLE 2019 HALL TOUR “The ROOM TOUR”>と同シリーズの新ラインナップだと言う。また、ドームライブのエンディング映像では、次のプロジェクトとして<BABEL no TOH>の制作も発表、会場からは驚きと歓喜の声が上がった。詳細は明らかにされなかったが、2019年<EDEN no SONO>に始まり、2023年の<NOAH no HAKOBUNE>、そして<Atlantis>に続くシリーズ次作となることは間違いない。



思えば約2年前に公開された、Mrs. GREEN APPLE活動再開を予告するティザー動画は、帆船が大海原を航海していくものであった。大森、若井、藤澤が乗り込んだ“Mrs. GREEN APPLE号”は、これからどこへ向かうのだろうか。その大航海はとどまることなく、これからもドラマチックに続いていく。

取材・文◎布施雄一郎
撮影◎田中聖太郎写真事務所

■<Mrs. GREEN APPLE DOME LIVE 2023 “Atlantis”>セットリスト

8月12日(土) 埼玉・ベルーナドーム(西武ドーム)
open16:00 / start18:30
8月13日(日) 埼玉・ベルーナドーム(西武ドーム)
open16:00 / start18:30

01. ANTENNA
02. Speaking
03. サママ・フェスティバル!
04. アンラブレス
05. アボイドノート
06. Love me,Love you
07. umbrella
08. Soranji
09. 青と夏
10. ロマンチシズム
11. フロリジナル
12. BFF
13. 僕のこと(Atlantis ver.)
14. 私は最強
15. Loneliness
16. 絶世生物
17. ダンスホール
18. Magic
encore
19. 我逢人
20. 庶幾の唄
21. ケセラセラ

▼公式プレイリスト『Mrs. GREEN APPLE DOME LIVE 2023 “Atlantis”』
Apple Music、Spotify、LINE MUSICで配信中
https://lnk.to/2023Atlantis


■<Mrs. GREEN APPLE 2023-2024 FC TOUR “The White Lounge”>


▼2023年
12月20日(水) 東京・J:COMホール八王子
12月21日(木) 東京・J:COMホール八王子
12月26日(火) 大阪・フェニーチェ堺 大ホール
12月27日(水) 大阪・フェニーチェ堺 大ホール
▼2024年
01月07日(日) 宮城・仙台サンプラザホール
01月08日(月祝) 宮城・仙台サンプラザホール
01月12日(金) 福岡・福岡サンパレスホテル&ホール
01月13日(土) 福岡・福岡サンパレスホテル&ホール
01月25日(木) 愛知・名古屋国際会議場センチュリーホール
01月26日(金)  愛知・名古屋国際会議場センチュリーホール
02月03日(土) 北海道・札幌文化芸術劇場 hitaru
02月04日(日) 北海道・札幌文化芸術劇場 hitaru
02月11日(日) 長野・キッセイ文化ホール(長野県松本文化会館)
02月12日(月祝) 新潟・新潟県民会館
02月16日(金) 広島・広島文化学園HBGホール
02月18日(日) 高知・高知県立県民文化ホール オレンジホール
02月26日(月) 大阪・フェスティバルホール
02月27日(火) 大阪・フェスティバルホール
03月02日(土) 東京・東京ガーデンシアター
03月03日(日) 東京・東京ガーデンシアター

▼チケット
全席指定 8,900円(税込)
【Ringo Jam会員限定“『ANTENNA』封入シークレットコード第二弾特典”チケット最速先行受付(抽選)】
受付期間:2023年8月13日(日) 22:00〜2023年9月10日(日)23:59
抽選結果発表:2023年9月16日(土) 18:00頃(予定)
申込枚数制限:1シークレットコード=会員お一人様1公演につき2枚まで(複数公演申込可能)
※当選・落選・座席位置は期間内にお申込みいただいた方全てを対象に、シークレットコードごとに厳選なる抽選を行います。
対象者:アルバム『ANTENNA』に封入のシークレットコードをお持ちの方かつ、受付期間にオフィシャルファンクラブ「Ringo Jam」にご入会いただいている方。同伴者の方もファンクラブ会員である必要があります。
応募方法:https://mrsgreenapple.com/contents/663275

■WOWOWプラス番組『Mrs. GREEN APPLE ARENA TOUR 2023 “NOAH no HAKOBUNE”』

2023年9月放送
収録日:2023年7月9日
収録場所:埼玉・さいたまスーパーアリーナ
※詳細は順次公式WEBサイトで公開いたします
https://www.wowowplus.jp/info/mrsgreenapple/

▼スカパー!番組配信
配信番組:『Mrs. GREEN APPLE ARENA TOUR 2023 “NOAH no HAKOBUNE”』
配信日時:2023年9月予定
視聴条件:スカパー!放送サービスで、WOWOWプラスをご契約の方
※スマホ・タブレット・PCなどお好きなデバイスで番組をお楽しみいただけます
https://streaming.skyperfectv.co.jp/channel-770561

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