【ライブレポート】苣木寛之のソロプロジェクトDUDE TONE、至高のギタープレイで観客を魅了

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THE MODSのギタリスト、苣木寛之のソロプロジェクトDUDE TONE(デュードトーン)の2023年夏のツアー1<Walkin' Blues> Vol.8の最終公演が、9月10日に代官山UNITで行われた。

椅子ありのフロアを埋め尽くしたファンを眼前に、定刻の17時、はにかんだ笑顔で苣木が登場する。観客のリアクションも、ロックンロールの衝動を剥き出しにしたTHE MODSの時とは大きく異なる。それは、苣木の人間性が醸し出すあたたかなオーラが会場全体を包み込んでいるようにも感じるし、ファンもTHE MODSとは異なるDUDE TONEの世界観を熟知しているようにも感じる。

DUDE TONEは、アコースティックギターと歌だけというスタイルだ。しかしそれを弾き語りと称するなら、少し違う。最もシンプルな編成で、無限に広がる世界観が最大の魅力だ。40年以上というキャリアが凝縮された、無音の空間を効果的に活かしたギタープレイは唯一無二のもので、これにブルースフィーリングを兼ね備えたヴォーカルが存分に堪能できる。

オープニングナンバーは、2021年にリリースされたマキシシングル『VOICE』の1曲目に収録された「可愛いジニー」だった。アコースティクギターの乾いた音色がフロアを包み込むと、観客は息をのむように、その音色に耳を傾ける。


そして2014年にバンド編成でリリースしたセカンドアルバム『十字路のギター』に収録されていた「STAGGER」へと続く。2曲を歌い終わりMCに入ると、苣木は終始笑顔で、「いい感じだなぁ」を連発。自分のギターが、自分の声がしっかりと観客の心に染み渡っていったことをこの2曲で確信したのだろう。そしてこんな言葉を発した。「モッズのようには盛り上がらないから。だけど、帰る頃には来てよかったなぁと、思えるようになるから」と。



その言葉通り、苣木のギターが、歌声が、曲を重ねるごとに聴く者の心に染み込み、歌詞に描かれている心象風景が脳裏に描かれてゆく。なんとも贅沢な時間だろうと思う。中盤の7曲目にTHE MODSが1986年にリリースした『CORNER』に収録され、苣木自らがヴォーカルをとった「TROUBULE JUNGLE」のイントロが流れると観客からはため息が漏れる。オリジナルのビートの効いたアレンジとは異なるが、ギターの残響が心に沁み込み、まさに静と動のマリアージュといった感じで、楽曲が新たな生命体として動き出していた。

曲が終わると客席からは「青春だよ、青春」という声も。そう。ここにいる観客には、活動歴40年を超えるTHE MODSと青春を共に過ごし、人生を歩んできたファンも多い。彼らにとって、確かにたまらないワンシーンであったと思う。しかしそれは、懐かしさだけではなく、あの頃の衝動を熟成させた2023年現在の苣木寛之の姿に、自分を重ね合わせていたからだとも思う。ここにたどり着いた自分の人生を祝福しているかのようにステージを真っ直ぐに見つめるファンのあたたかい視線が印象的だった。



未発表曲の「酷いあだ名」「月夜」、そして新曲「TRAIN RIDE HOME」と苣木の日常風景が短編映画のように描かれたナンバーをはさみながら贅沢な時間は続く。終盤が近づいたMCでは、現在療養中のTHE MODSのリーダー・森山達也についての報告も。

「今は待っている段階。何かあれば必ず報告する」という言葉を添えて、苣木がTHE MODSに加入した時期の心の情景を描き「俺たちの出逢いの歌」と言う「親不孝通りを抜け」が奏でられると、涙が浮かべるファンも多かった。

そしてここから、エディ・コクランのカヴァー「C'MON EVERY BODY」へ。今から40年前、苣木がTHE MODSのステージでよく歌っていた楽曲だ。会場からの手拍子で歌に躍動感がみなぎる。しかし、こちらも40年前にタイムスリップしたような懐かしさではなく、力強い歌い方もギターのギミックは、まさに苣木のオリジナルソングと言っても過言ではないくらいに昇華されていた。



本編が終了し、アンコールは2回。THE MODSの楽曲である「GIMME HOLIDAY」では、リリックに輪郭を持たせるような表情豊かな歌い方が特徴的だった。そしてラストナンバー「明日への切符」で苣木が繰り返す「聞こえないように 気付かれないように 想いよ、届け」という一節が現在の苣木の心情をすべて物語っているようにも感じ、胸が熱くなる。

決して派手ではないが、ギター1本で壮大な世界を見せてくれるのがDUDE TONEだ。そして、ここには、聴くものひとりひとりの想いを明日へと運んでくれるような歌が持つ力が潜んでいる。



すべての曲が終わり、苣木は言った「帰ったらスルメのようにいいライブだったと思えるよ」と。それはまさにその通りで、この日の贅沢な時間は家へ戻っても心の中で熟成され続けている。だからこそ、「また、会えるよ」と最後に残した言葉が今の耳元に響く。ツアー最終日、苣木本人にとっても、会場に足を運んだファンにとっても最高の締めくくりになったと思う。

文◎本田隆
写真◎朋-tomo-

<DUDE TONE LIVE 2023 "Walkin' Blues" Vol.8>

1.可愛いジニー
2.STAGGER
3.コロナのせいで
4.SLUMBER
5.VERY VERY SLOW
6.嘘発見器
7.TROUBLE JUNGLE
8.酷いあだ名
9.月夜
10.BACK ROOM
11.LITTLE BLUE
12.TRAIN RIDE HOME
13.LONG SHADOW WAY
14.親不孝通りを抜け
15.C'MON EVERYBODY
ENCORE 1
1.KISS KISS
2.GIMME HOLIDAY
ENCORE 2
1.CRYIN' BLUES
2.明日への切符

◆DUDE TONEオフィシャルサイト
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