サザンオールスターズ、どこへ行ってもいつかここへ帰って来る、砂まじりの茅ヶ崎へ

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10年振り3度目の開催となった、サザンオールスターズ<茅ヶ崎ライブ2023>を観た。初めて観た。サザンオールスターズを愛する者にとって「茅ヶ崎」というワードが持つ魔力には特別なものがあり、行ったこともないのによく知っているような、心の風景として居付いているところがある。おそらく、ビートルズファンにとってのアビイロードやペニーレインがそうであるように。茅ヶ崎は本当に砂まじりなのか、ただの歌詩じゃねぇかこんなもんと思いながら、たぶん同じようなことを考えているだろう人たちでぎっしり埋まったグラウンドの椅子に座る。暮れなずむ空と潮風が心地いい、素敵なライブ日和。

1曲目は「C調言葉に御用心」。これは嬉しい。なにせ45年の歴史があり、どの時期にも多くのファンが存在するサザンだから、年代の偏ったセットリストになることはありえないが、中学1年でサザンのデビューを目撃した筆者などは、78~82年ごろの曲を聴くとやはり特別な感情が動く。次が「女呼んでブギ」なのも良かった。序盤には「My Foreplay Music」「夏をあきらめて」も聴けた。同じように、90年代や2000年代の楽曲で思わず立ち上がった人もいるだろう。そんな18,000人の思いと、45年の歴史を乗せたライブ。盛り上がらないはずがない。


それにしても、桑田佳祐を筆頭にバンドの演奏は実に伸びやかでパワフル。それぞれ見かけこそ少々変化したが、松田弘はドラムもコーラスも相変わらずエネルギッシュで、野沢秀行のパーカッションはスムーズ&タイト、関口和之のベースは太く堅実で、原由子の可憐なピアノと繊細な歌声は永遠。桑田佳祐はハイテンションすぎる初期楽曲のエネルギーをうまくコントロールしながら、軽やかに丁寧に歌っている。斎藤誠と片山敦夫を筆頭に、ホーン隊、コーラスを含むお馴染みのメンバーのサポートも実に手堅い。「円熟」とも「枯れ」とも違う、独特の軽みを感じる爽やかなサウンド。


序盤から中盤にかけてのハイライトは、「そんなヒロシに騙されて」を原由子が歌うひとときと、「いとしのエリー」を全員が(人に迷惑をかけるから)心の中で合唱したシーン(たぶん)。グループサウンズへゲットバックした「そんなヒロシに騙されて」は特に絶品で、今はもう消え失せた(ように見える)古き良き青春歌謡的な何事かを思い起こさせて胸騒ぎがする。「いとしのエリー」も、「ヘイ・ジュード」並みに超有名曲になりすぎた時期もあった気もするが、今は手の届く名曲としてあるべきところにある気がする。

ここで少し時間を巻き戻して、6月に“サザン 2023 新曲三部作”のリリースが発表された時、制作の動機に「長い間やらせていただくと」「ふるさとに対しての感謝や愛郷の念」が深まっていると言った、桑田佳祐のコメントがすっと胸に落ちたのを思い出す。自分とは何か?という自意識ではなく、自分は何に育てられたのか?という、視線の範囲を広げた共通意識。様々な年代のサザンファンにとって、「ふるさととは何か」は、「サザンオールスターズの歌が2023年の今どう聴こえるのか」とリンクするかもしれない。そんなことを思っているうちにライブは後半に差し掛かる。


ふるさと・茅ヶ崎へおかえりなさい。「この街で生まれ育って良かったなという歌です」と前置きして歌った三部作2曲目「歌えニッポンの空」の、なんとみずみずしく若々しいことか。ハワイなのかラテンなのか、軽くトロピカルなフレイバーがとても美味。「浜降り」という茅ヶ崎のご当地ワードはあるが、場所はニッポンであればどこでもよさそうな気がする、永遠にノスタルジックなふるさとソング。

ライブ後半は、すっかり暗くなった夜空を背景に野外ライブの本領発揮。天まで届くようなレーザービームと、全員に配られたリストバンド型ライト(通称・烏帽子ライト)が、地上の星のように無数にまたたく。「東京VICTORY」でぐっと上げて「栞(しおり)のテーマ」ではしっとりと、「太陽は罪な奴」で笑顔にさせて「真夏の果実」で泣かせる、アップダウンの激しい展開も心憎い。「LOVE AFFIR~秘密のデート~」は、テーマはアレだがある意味横浜のふるさとソング。かもしれない。手拍子がひときわ大きくなる、90年代後半の人気曲。


ラストスパートを告げる合図代わりの「ミス・ブランニュー・デイ(MISS BRAND-NEW DAY)」でぐっとボルテージを上げ、三部作1曲目「盆ギリ恋歌」で得意の大エンタテインメントショーへとなだれこむ。コンプラ時代に背を向けて、猥雑な生命力溢れる盆踊り、ちょいエロダンサーズ、魑魅魍魎舞い踊る映像で熱狂を巻き起こし、「みんなのうた」では、もう10月だというのに恒例のホース散水をぶちかまし、観客を慌てさせたり喜ばせたり。やりたい放題のカオスの中でのラストチューン「マンピーのG★SPOT」も、懐かしいドリフターズみを感じるお下劣コントで一件落着。昭和の芸能で育った世代にはそれもまたふるさと。そういえば桑田佳祐はこの日の開口一番、「目立ちたがり屋の芸人、サザンオールスターズでございます」と言ってのけた。知っている人は知っている、これもまたサザンのふるさと、原点に繋がる回帰的発言と言っていい。かもしれない。

アンコールで歌われた「Ya Ya(あの時代(とき)を忘れない)」もまた、バンドが産声を上げた音楽サークル・Better Daysの思い出を元にした青春的ふるさとソング。そして<茅ヶ崎ライブ2023>の最後を飾った「勝手にシンドバッド」も、デビュー曲という音楽的ふるさとソング。一聴して「なんじゃこりゃあ」と度肝を抜かれたあの日を思うと、つまり筆者にとっても邦楽ロックに目覚めた一つのふるさとソング。結局全部がふるさとに思えてくる。原色のサンバダンサーが舞い踊る。「フレー、フレー、茅ヶ崎!」と全員のエールが贈られる。締めの花火が上がる。サザンにふるさとを感じる人は、どこへ行ってもいつかここへ帰って来るのかもしれない。砂まじりの茅ヶ崎へ。


ライブで一体どんな雰囲気になるのだろう?と思って注目していた「Relay~杜の詩」は、出演者・スタッフクレジットのエンドロールのBGMとして流れた。この曲もまた、バンドの音楽作りのふるさと・青山ビクタースタジオと、「自然」や「森」という日本の風景に根差すふるさとの光景を、強いメッセージに託した1曲。強く歌われるよりむしろ、こうして静かに聴かれるのが良かったのかもしれない。「次なる計画を練って、みなさんにご報告することをお約束致します」と、桑田佳祐は力強く言った。茅ケ崎駅へ戻る高砂通りでは、屋上から手を振ったり、庭で手作りのボードを掲げて観客を見送る人も見かけた。<茅ヶ崎ライブ2023>をここで観られて良かったと心から思う。

取材・文:宮本英夫
撮影:西槇太一

セットリスト

<茅ヶ崎ライブ2023>@茅ヶ崎公園野球場10月1日(日)

1.C調言葉に御用心
2.女呼んでブギ
3.YOU
4.My Foreplay Music
5.涙のキッス
6.夏をあきらめて
7.Moon Light Lover
8.栄光の男
9.OH!! SUMMER QUEEN~夏の女王様~
10.そんなヒロシに騙されて
11.いとしのエリー
12.歌えニッポンの空
13.君だけに夢をもう一度
14.東京VICTORY
15.栞(しおり)のテーマ
16.太陽は罪な奴
17.真夏の果実
18.LOVE AFFAIR~秘密のデート~
19.ミス・ブランニュー・デイ (MISS BRAND-NEW DAY)
20.盆ギリ恋歌
21.みんなのうた
22.マンピーのG★SPOT
ENCORE
1.Ya Ya(あの時代(とき)を忘れない)
2.ロックンロール・スーパーマン~Rock'n Roll Superman~
3.希望の轍
4.勝手にシンドバッド

ライブ・イベント情報

<茅ヶ崎サザン芸術花火2023>
サザンビーチちがさき(神奈川県茅ヶ崎市)
10月21日(土)15:00開場/17:00開演
※雨天決行・荒天中止
イベント特設サイト https://southern-hanabi.com/2023
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