【コラム】“狂気的な愛情”を描いたと話題のSIX LOUNGE「リカ」に、地獄に飛び込む覚悟で未来に向かう力強さ

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大分出身の3ピースバンド・SIX LOUNGEの楽曲「リカ」が最近、大きな話題になっている。きっかけは、今年3月にテレビ番組『Love music』(フジテレビ)に出演したaikoが、「凄い!と思った恋愛ソングの歌詞」のうちの1曲として、「リカ」を挙げたこと。それを機に、「リカ」はSNSなどを通して多く人々に知られることとなった。

そもそも同曲は2016年に、My Hair is Badなどが所属することでも知られるインディーズレーベル「THE NINTH APOLLO」からリリースされた1stフルアルバム『東雲』に収録されていた1曲なのだが、今年、同曲の人気が再燃したことを受けて再録版も新たに配信リリースされ(THE NINTH APOLLO時代の音源がサブスク解禁されていないことも要因としてはあるのだろう)、その再録版のミュージックビデオも9月に公開されている。このミュージックビデオの監督・イラストは、イラストレーター・漫画家のますだみくが手掛けた。ますだみくは、Saucy Dog「シンデレラボーイ」やwacci「恋だろ」のミュージックビデオも手掛けている人物だ。



<リカ、君だけは幸せにさせないよ/一緒に地獄をみよう/2人だけ>──倦怠と恍惚が入り混じった、ざらつきながらもシャープなロックンロールサウンドにのせて、そんな言葉を歌う「リカ」が描く人間同士の姿。その歌詞の解釈は人によって様々だろう。ますだみくが手掛けたミュージックビデオも、そんな解釈のうちのひとつとして捉えることができる。色は少なく、質感もシンプルでありながら、それでいて人という生き物の複雑さや不穏さをダイレクトに伝えるイラストによって展開していく、共に暮らす男と女(リカ)の物語。マスクをつけたふたりの写真も登場することから、コロナ禍以降の営みを描き出していることも伺える。「カメラ」というアイテムは、このMVの物語のキーと言えるだろう。男がカメラのレンズ越しに見ていた世界とは、リカの姿とは、どのようなものだったのだろうか。ほとんど無気力な目で描かれる男の表情が変わるのは2度。リカと性行為に及ぶときと、物語が悲劇的なクライマックスを迎えたとき。歌が<リカ、アザだらけの顔/すごく愛しているよ>というフレーズに差し掛かったとき、画面に映るのはアザだらけの男の顔、という歌との反転も起こる。最後、アザだらけの男と、恐らく体にアザがあると思われるリカ、それぞれが見る光とは何を意味しているのだろうか。あるいはMVの序盤、「あのさ…」と、男はリカに何を言いかけたのだろうか。私はこのMVを見て、「ふたり」は完全に「ひとつ」になり切ることも、そして完全に「バラバラ」になり切ることもないのだと思った。

このますだみくによるMVのYouTubeのコメント欄にも、たくさんの解釈や意見が書き込まれている。それだけ「リカ」は聴く人に様々な感情や景色を呼び起こさせる曲だということだろう。<君だけは幸せにさせない>とか<一緒に地獄を見よう>といったインパクトのあるフレーズや、<リカ、アザだらけの顔/すごく愛しているよ/悪魔になった僕を愛してくれるかい?>という印象的な歌詞の締め括りを受けて、この曲を「狂気的な愛情」を描いた曲として捉える向きも多いようだ。

私がこの「リカ」という楽曲それ自体から受け取ったものを書かせてもらうと、この曲は少し捻くれながらも、でも真っすぐに「愛する人と共に生きること」への想いを描いているのではないか、と感じられた。<君だけは幸せにさせないよ/一緒に地獄をみよう>というフレーズは過剰な感情の発露のように見えるかもしれないが、しかし案外、この世界、この現実を「ふたり」の人間が共に生きていこうとするのなら、「一緒に地獄、見ようぜ!」くらいの覚悟がないとやっていけないものだったりするのだ。これは恋愛に限らず、仕事や友人関係でも言えることだが、「君の幸せのためを思って……」なんてことを言うやつは、自分の「正しさ」を押し付けたいか、自分を「いい人間だ」と思いたいだけのエゴイスティックなクズである可能性が非常に高い。そういうやつは相手を「愛している」のではなく、「優しくて性格のいい自分」を捏造するために「利用している」に過ぎない。あるいは本当に「痛みのない世界」に幸福を見出しているか……。その気持ちはわからなくもないが、しかしながら、そこにあるものは「幸福」というよりはむしろ、「虚無」と呼びうるものではないだろうか。

ここに書いた見方は、一切その視点を描かれることのない「リカ」という存在を「可哀想な人間」だと思いながらこの曲を聴きたくない、という私の個人的な(それはそれでエゴイスティックな)気持ちが反映されているような気もするのだが、何にせよ、この「リカ」という曲を聴きながら、私の脳内には、人と人とが揉みくちゃに絡まり合いながら地獄に飛び込む覚悟で未来に向かっていく……そんな力強い映像が浮かんできた。そこには本当に心から笑い合うふたりの人間がいるような気がした。「私は優しい人間です。君を幸せにしてあげます」と言いながら平然と暴力的な行動をとる人間なんてこの社会でたくさん見てきたが、それに比べれば<君は幸せにさせないよ>というフレーズの方が誠実に思える。「狂気的」と言われればそうなのかもしれないが、ならば、私たちは私たち自身の狂気に自覚的になるべきなのだろう。リカという存在にも、きっと狂気はある。

この「リカ」という楽曲から浮かび上がってくる醜さも愚かさも美しさも愛おしさもすべてをひっくるめて未来に歩を進めようとするエネルギーは、SIX LOUNGEというバンドが根源的に持つものなのだろう。そう感じるのは、彼らの最新アルバム『FANFARE』を聴いたからだ。力強いアルバムだ。グルーヴィなロックンロール、ストリングスを取り入れたバラード、メロウなR&B……音楽的なバリエーションの豊かさがそのままバンドの生命力の強さを表しているようだ。<もう一人にしないぜ>──表題曲とも言える「俺たちのファンファーレ」でヤマグチユウモリ(Vo/Gt)がそう歌っているように、戦争もSNSも税金もある、そんな当たり前のように複雑で混沌としたこの世界で、「それでも共に生きよう。共に乗り越え、共に未来を見よう」という意志をSIX LOUNGEはこのアルバム1枚を通して叫んでいるようである。美しいバラード「エバーグリーン」は、まるで「リカ」の世界観を引き継いでいるようだ。「世界の終わり」を見つめながら、彼らは「今」を生きている。

▲アルバム『FANFARE』通常盤


▲アルバム『FANFARE』初回生産限定盤


「リカ」と同じように人名をタイトルに冠しているような傑作ロックチューン「モモコ」の歌い出しはこうだ。「ねぇモモコ/開発中の/高層ビルとその倍の絶望」どうやら世界はなかなかに酷い方向に進んでいるのかもしれない。でも、「それでも俺たちは俺たちのやり方で生き抜いていこうぜ」──そんな気持ちにさせる作品である、この『FANFARE』というアルバムは。きっと「リカ」のヒットはバンドにとっても思わぬ出来事だったのではないかと思うが、この2023年にSIX LOUNGEというロックバンドに注目が集まったことはとても必然的なことだったのではないかと思う。その果てにある希望を掴むために「一緒に地獄を見たい」と思えるロックバンドを、私たちは求めていたのだ。

テキスト:天野史彬

  ◆  ◆  ◆

フルアルバム『FANFARE』

2023年9月20日発売
【通常盤】ESCL-5855 CDのみ ¥3,300(税込)
01/ アナーキー・イン・ザ・人生
02/ 俺たちのファンファーレ
03/ キタカゼ (TVアニメ「僕のヒーローアカデミア」6期 第2クールEDテーマ)
04/ エバーグリーン
05/ merry bad end
06/ モモコ
07/ 宿酔
08/ エニグマ
09/ HAYABUSA
10/ 恋人よ
11/ 僕と心臓
12/ 骨
13/ アジアの王様
14/ Paper Plane

【初回生産限定盤】ESCL-5853~5854 CD+BD ¥4,950(税込み)
-CD-
01/ アナーキー・イン・ザ・人生
02/ 俺たちのファンファーレ
03/ キタカゼ(TVアニメ「僕のヒーローアカデミア」6期 第2クールEDテーマ)
04/ エバーグリーン
05/ merry bad end
06/ モモコ
07/ 宿酔
08/ エニグマ
09/ HAYABUSA
10/ 恋人よ
11/ 僕と心臓
12/ 骨
13/ アジアの王様
14/ Paper Plane
15/ リカ
16/ 夢みた君が大好きだ

-BD-
"Northwind“ Streaming Studio Session
 1/ リカ 2/相合傘 3/キタカゼ 4/骨 5/メリールー 6/New Age Blues 
 7/ナイトタイマー 8/天使のスーツケース 9/SUMMER PIXY LADY
Music Videos
 「New Age Blues」
 「メリールー」
 「キタカゼ」
 「Paper Plane」

購入はこちら:https://erj.lnk.to/F90fSC

◆購入者特典
・Amazon.co.jp:メガジャケ
・楽天ブックス:オリジナルアクリルキーホルダー
・セブンネットショッピング:オリジナルピック
・SIX LOUNGE応援店:オリジナルステッカー
応援店対象店舗:https://www.sonymusic.co.jp/Music/Info/six-lounge/shoplist/230920/

*数に限りがありますので、なくなり次第終了となります。
*上記店舗以外での配布はございません。
*Amazon.co.jp、楽天ブックス、その他一部オンラインショップでは「特典対象商品ページ」と「特典非対象商品ページ」がございます。予約の際は、希望される商品ページであることをご確認ください。

<SIX LOUNGE TOUR 2023-2024”FANFARE”>

2023年
10/22 大分T.O.P.S BittsHALL
10/24 松山Wstudio RED
10/25 岡山CRAZYMAMA 2ndROOM
10/27 京都MUSE
11/2 鹿児島SR HALL
11/3 宮崎LAZARUS
11/8 静岡UMBER
11/10 水戸LIGHT HOUSE
11/11 千葉LOOK
11/22 高松DIME
11/23 広島CLUB QUATTRO
11/30 仙台RENSA
12/1 盛岡CLUB CHANGE WAVE
12/3 函館club cocoa
12/4 札幌cube garden
12/12 金沢vanvan V4
12/13 富山SOUL POWER
12/15 新潟GOLDEN PIGS RED

2024年
1/5 福岡Zepp Fukuoka
1/12 名古屋DIAMOND HALL
1/14 大阪GORILLA HALL
1/18 東京Zepp Shinjuku



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