【インタビュー】5年振りの来日、ジェームス・ラヴェルに聞く、アブストラクト・ヒップホップというエクレクティックなサウンド

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ロンドンを拠点にワールドワイドに活躍するDJとして、また音楽プロジェクトU.N.K.L.E.としても活躍するジェームス・ラヴェルが、約5年ぶりに来日を果たし、DJ KRUSHとともに、東京・大阪・逗子<MARINA SUNSET’23>にてDJプレイを行った。今回のDJでは、ハウスやテクノなどのクラブサウンドを軸に、踊らせる選曲をプレイ。以前、ジェームスが運営していたレコード・レーベル「Mo’ Wax」時代の、異彩を放つDJからさらに進化し、ダンスミュージックの流れを汲んだ、安定感のあるDJプレイを聴かせてくれた。そのジェームスに、今回の来日の感想と最近のDJプレイについて、また「Mo’ Wax」が、90年代から2000年代にかけて築き上げたアブストラクト・ヒップホップというサウンドについて、改めて話を聞いてみた。

◆ジェームス・ラヴェル 関連画像

■日本は音楽、アート、ファッション、建築物などを観ても
■独自の文化があって、空間に落ち着きを感じる

──久しぶりの来日ですが、日本はいかがですか?

ジェームス・ラヴェル 5年前の2018年、<ソニック・マニア>以来だね。日本へ来るようになって、こんなに間を空けてきたのは初めてだよ。昔からの友達にも会えたし、新しい出会いもあって、いい時間を過ごすことができた。東京、大阪をまわって、今回は、初めて<マリーナ・サンセット>でプレイできたことも良かった。外でプレイをして、土砂降りの雨が降った時間があったりしたけど、それはそれでいい流れを作ることができたんじゃないかな。

──ハウスセットなアプローチが、海を目の前にした場所にとても合っていました。

ジェームス・ラヴェル 長いこと日本ではこの感じではプレイしていなかったしね。これまでは「Mo’ Wax」の音源をプレイするイメージが強かったと思うけど、ハウスやテクノをかけるスタイルは「FABRIC」でパーティをやっていたときからやっているんだ。ここ最近は同じジャンルだけでなく、そのときの状況やフィーリングでいろいろプレイするようにしている。U.N.K.L.E.名義でプレイするとエレクトロニックなセットになる。バンドでライヴを行うときはロックみたいにもなるしね。DJをするときは旅できるような選曲を心がけるし、踊れるようにしたいと思っている。

──今回は3日間、「Mo’ Wax」時代のレーベルメイトでもあるDJKRUSHと久しぶりに共演されましたが、両DJのプレイに違いがあったので楽しむことができました。

ジェームス・ラヴェル コントラストがあったよね。DJ KRUSHの場合は、テクニックがあってショー的に観るものでもある。僕の場合は、音楽で踊れる環境を作る感じ。通常ならもう少し「Mo’ Wax」を多めなセットにした方が良かったのかもしれないけど、KRUSHが「Mo’ Wax」の音源を新しく素晴らしい形でプレイしてくれたからね。「Mo' Wax」はエクレクティック(折衷的)なんだよ。 DJ KRUSH、DJシャドウだけでなくカール・クレイグはテクノ、ドラム&ベースもあれば、マニー・マークのようなアーティストもいたしね。僕自身は自分が今やっていることが好きだから、「Mo’ Wax」の音源をプレイしなくなっているけど、今回はKRUSHが当時の音源を新しい形で打ち出してくれた。彼のミックスのスタイルはとてもユニークで、誰しもができないことだ。僕はスクラッチもできないし、競争するつもりもないしね(笑)。ともかくここ最近のKRUSHのプレイを聴くことができたことは、すごく大きなことだった。

──ここ最近、気になっているアーティストやジャンルはありますか?

ジェームス・ラヴェル 音楽は相変わらずなんでも聴いているけど、アダム・ポートやランパなどは、ここ最近では最高な作品を作っていると思う。最近は本当にたくさんの音楽プロデューサーがいるし、女性プロデューサーも多くいる。ベルリンのソフィア・コルテシスに興味があるし、DJではロンドンの若い女性DJ、シャイ・ワン、ジェイ・カーダーなど、若いエクレクティックなDJがいい感じだね。クラブレベルでは彼らのような若い世代が僕にインパクトを与えている。それと同時にアフロハウスのエレメントがきているけど、興味深いトラックが多くてとてもクール。

──「SOHO RADIO」では月に一度、番組を持たれていますが、聴いているといろいろなジャンルがかかって勉強にもなります。毎回、どのような方向で音楽をセレクトされているのですか?

ジェームス・ラヴェル 月毎にそのころにリリースされた曲をチェックして、かけたいものをかけている。あの番組で常に音楽と向き合うことができているのは確かだよね。軸にしているのは、コンテンポラリーなレコードをかけるということ。古いソウルやファンクやディスコ、それに加えオルタナティヴ、ロック、ヒップホップ、カントリー、クラシックなど、それらをコンテンポラリーとして捉えプレイする。あとはその日のムードだよね。前の日と比べながら選曲を考えるけど、その日の自分のムードが悪いとそうなっていく(笑)。 天気が悪い日、ビューティフルな日、その月になにが起こるかで、その日の選曲も変わってくるのかな。イギリス人にとって天気が悪いのはいつものことで、いつも天気の話しかしていない。それが選曲に反映されることがよくあることなんだ。僕のアメリカのエージェントは「もう天気の話はやめてくれ~!」ってよく言ってるよ(笑)。

──イギリスの天気の悪さは、生み出されるサウンドにも現れていますよね(笑)。

ジェームス・ラヴェル その通り。北はさらに天気が悪いから、実はいい曲が生まれて、良い作品を手することができる。その場所の環境と音楽の関係は面白いよね。僕が初めてニューヨークへ行ったとき、ブルックリン橋を渡りながらエリックB&ラキムを聴いたんだけど、それが自分にとってニューヨークの印象になったし、初めてロサンゼルスへ行ってラジオからローライダーが流れてきたときは「これがLAだ!」と感じたしね。ニューヨークからロンドンへ帰ってきてドラム&ベースを聴けば、そのサウンドにすごくロンドンっぽさを感じるし、ベルリンへ行くとハードなテクノ、マンチェスターではジョイ・ディピジョンなどのクラウトロックを感じるし、天気を含めてその土地の環境と音楽は密接であって、実際に受けるインパクトは大きい。

そういう意味で東京は面白いところなんだよね。ここ(日本)では、伝統的なことと新しいことが融合していて、神道が魂の対象というか、すべてのものに魂がある印象。それが面白い感じに人々の周りに存在している。それと同時に大都市は人口が多くて、朝6時の渋谷のハチ公前なんかは人でごった返しているけど、決してクレイジーではないんだ。それとアメリカやイギリスの音楽に影響を受けているなと感じる。説明するのが難しいけど、日本は音楽、アート、ファッション、建築物などを観ても独自の文化があって、空間に落ち着きを感じるのかもしれない。

──イギリスはどういう印象ですか?

ジェームス・ラヴェル イギリスはなにもかもが極端なんだよ(笑)。イギリス人は「フットボールだ!」「ラグビーだ!」とすぐにアグレッシヴになる。ロンドンは少し違うかもしれないけど、それに比べると日本はとてもナチュラルに感じるんだよね。日本の文化を人々に強制しているわけでもないのに、自然にあるべきものがそこに正しく存在している感じがする。例えばファッションでも、ヨージ・ヤマモト、コム・デ・ギャルソン、イッセイ ミヤケにしろ、ストリートシーンを通過してきた高橋盾(アンダーカバー)、NIGO(R)、ヒロシ(藤原ヒロシ)にしろ、独自のデザインを、さりげなくエレガントに打ち出している。それも魅力のひとつだと感じる。


■アイデンティティのあるコミュニティを創り上げたかったから
■Mo'Waxレーベルを始めたんだ

──ジェームスのイメージは、音楽だけでなく、日本のアートやファッションの人たちと交流が深いイメージがあります。それも個人レベルで。

ジェームス・ラヴェル 一番初めに出会ったのは、K.U.D.Oや中西俊夫のメジャー・フォースだよね。彼らには僕が昔に働いていたレコードショップ「Honest Jon's Records」で出会ったんだけど、年齢を重ねるごとに、彼らがいかに大切な存在であったのかを噛み締めている。僕は17歳から「Honest Jon's Records」で働き始めたんだけど、14歳〜15歳くらいから他のレコードショップで働いていたんだ。だから最初のメジャーフォースのレコードは、1989年、15歳のときに手に入れた。間違いなく彼らは、自分の扉を開けてくれた人たちだと思う。それと僕はずっとマーシャルアーツ(武道)をやっているから、そこからアジアや日本の文化に興味を持ったのもあるんだよね。日本は僕にとって、DJをしに行くのにベストな場所なんだ。

──「Mo’ Wax」はどのように進化したと思いますか? 1992年にスタートして、30年経ったと思います。またアブストラクト・ヒップホップを創り上げたレコードレーベルだと思います。

ジェームス・ラヴェル とてもエキサイティングだったけど、10年間と寿命も短かった。だけど文化的にも音楽的にもいろいろなことができたと思う。サウンドも推し進めていたし、すごくエクレクティックなものをリリースして、とてもユニークな動きをしていたと思う。当時は「Mo’ Wax Japan」もあったんだよ。インタナーショナルにアーティストが所属していて、DJKRUSHは日本から、DJシャドウやマニー・マークはアメリカから、ビスティー・ボーイズはロスからとかね。インターネットがここまで普及する前のことだから。

──“エクレクティック”という言葉がよく合います。

ジェームス・ラヴェル レベールのオリジナルの源は、境界線を壊してエクレクティックになりたいと思っていたから。レーベルのアイデンティティを確立して、アーティストやミュージシャンたちと仕事をする上で、美学を共有するために言葉はすごく大事だと感じていたから。僕はエクレクティックなことをグローバルに展開をして、アーティストたちを取り入れコミュニティでシェアをすることを目標にしていたんだ。音楽だけでなく、アート、ファッションしかり、ストリートカルチャー……例えばスニーカーや、STAR WARSとか、そういったエクレクティックと言えるようなカルチャーを取り入れ、アイデンティティのあるコミュニティを創り上げたかったから、レコードレーベルを始めたんだ。

──「Mo’ Wax」は、90年代から2000年代にかけて派生した、アブストラクト・ヒップホップを生み出したレコードレーベルだと思います。今振り返ると、アブストラクト・ヒップホップは、言葉で置き換えるとどのようなサウンドだと思いますか。

ジェームス・ラヴェル 映画のサウンドトラックのような感じかな。ヒップホップはライムフロウがあるけど、アブストラクトヒップホップはサウンドがメイン。空気感が異なるというか、旅をさせてくれる音楽だよね。エイフェックス・ツイン、DJシャドウ、DJKRUSHが打ち出しているような、DJの歴史においてサイエンフィクション的なサウンドトラックの役割をしているサウンドだよね。歌詞がない分、イマジネーションを掻き立てるものであり、各々の想像次第で異次元へと連れていってくれるサウンド。DJ心に火をつけ、空間を作り上げることができるサウンド、それがアブストラクト・ヒップホップなのかな。言葉で説明するのは難しいんだけどね。

──アブストラクト=抽象的ってことですものね。

ジェームス・ラヴェル アブストラクト(抽象的)とは、音楽で言えばサウンドがクールであること。例えば素晴らしいインストのジャズのレコードを聴いた時、ものすごくメロディックで、聴き入ってしまうことがある。そのように抽象的でオルタナティヴにクリエイトすること。 DJKRUSHの「KEMURI」は、単にアバンギャルドにしようとしたのではなく、グルーブがあり、聴いたら記憶に残るサウンド。そしてDJがクラブでプレイをするためにも作られている。世界中でアブスト楽ヒップホップの作品がリリースされたけど、その頃に生まれてきたビートは、今また重要なものになっている。僕はDJKRUSHの1stアルバムを初めて聴いた時の衝撃が忘れられない。サンプルをエクレクティックにループして、限界を押し上げていて、僕はその場でストーン(石)してしまったからね。僕にとって音楽を聴く上で重要だと思っていることは、グルーブがあって、メロディがあって、パワーがあること。アブストラクト・ヒップホップを説明するのであれば、その3つの要素を兼ね備えたサウンドになるのかな。

text & photo:Kana Yoshioka


<MARINA SUNSET>

2023年8月5日(土)・ 6日(日)
リビエラ逗子マリーナ
主催:GREENROOM CO.

◆<MARINA SUNSET> オフィシャルサイト
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