【ライブレポート】超学生への入学式。歪で刺激的な愛を──

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超学生は、ひとつひとつの物事に対して深く考える力を持っている。これはインタビューをしていて強く感じる彼の特性のひとつだ。さらに彼は自らミキシングを行うことからも、自分の理想に近づけるための労力を厭わない側面もあると推測される。そういった面から、彼は納得いくまでじっくりと考えて自分自身の正解を導き出し、表現に落とし込むことを美学としているアーティストである気がしてならない。

◆ライブ写真

<超学生 2nd ONE-MAN LIVE『入学式』>の神奈川・パシフィコ横浜国立大ホール公演も、そんな彼の性質がよく表れたライブだった。どこか不穏でダークなムードをまとった楽曲や、情念がにじみ出たラブソングでセットリストが組まれ、要所要所でナレーションとドラマ仕立てのブリッジムービーが挟み込まれるという進行プログラム。そのシナリオの顛末とは、これは超学生の入学式ではなく、超学生の“保護者”であるファンが超学生を寵愛するという意味での入学式だった──というもの。今年4月に開催された<超学生 1st ONE-MAN LIVE 『入学説明会』>の空気感を引き継ぎつつ、前回以上に現実と創作が入り混じる内容からも、彼がライブにおいて表現したい世界観がより明確に、かつ濃密になっていることがうかがえた。


5人のバックバンドのメンバーがステージに登場してほどなくすると、会場に流れていたクラシック音楽が急遽止まる。そして礼拝堂を思わせるBGMに乗せて入学式当日の空の学校の様子を収めたスライドが流れるものの、音と映像にノイズが走り始めるなど、この時点から不穏な空気が立ち込めていた。

“祝辞”と題されたナレーションの最中に超学生がステージへ登場すると、1曲目は「ヒト」。暗雲が立ち込めるような緊迫感を醸しつつも、どこか甘く妖しげなムードも立ち込める。この時点でもう既に我々は彼の毒牙にかかっていたのかもしれない。「バットオンリーユー」ではハンドマイクでステージを端から端まで歩きながら歌唱する。学ランと着物をブレンドさせたようなデザインの衣装は、動きが加わると、より見目麗しいシルエットになる。超学生が“みんなの声を聞かせてください”と観客に呼び掛けた「ゾンビ(Giga Waha Remix)」では、おどろおどろしい空気と観客のシンガロングによるキュートな要素が入り乱れる。序盤3曲で会場はたちまち異様な空気に包まれていった。


ブリッジムービーでは、過剰なまでに観客からの愛情を求める超学生の姿がドキュメンタリー風のドラマで描かれる。その言葉は最初不気味に感じるのだが、見方を変えるとどこか可笑しく感じられ、そのうちある意味純粋にすら思えてくる。ホラーとファニーとピュアの絶妙なラインを漂う脚本。今回のライブの構成、脚本、演出などを手掛けた作家、梨氏の手腕が光る。

無音のなかおもむろに超学生が腕を上げてぬるりとクラップを始めると、それに観客たちも追随するのだが、超学生が観客をマインドコントロールするようなシーンに客席からはふと笑いが零れる。そしてここからさらに、強い情念がにじみ出たダークナンバーのカバーが続けざまに披露された。「Shadow Shadow」では淡々とした演奏に彼の細やかなボーカルテクニックが光り、オリエンタルなムードが漂う「シャンティ」ではさらにその凄みを増していく。ダークな空気が色濃くなればなるほど超学生の本領が発揮されていく様は、緊張感がありながら痛快だ。彼が現在進行しているボカロPとの楽曲制作プロジェクトでテーマに掲げている“ヴィラン”を、彼自身が体現しているのかもしれない。愛されたいという欲求にじわじわと、迷いなく突き進む様子に息を呑む。

ワルツのリズムに乗せて迫力あるロングトーンを響かせた「愛して愛して愛して」、歌詞にしたためられた感情を丁寧にたどった「ド屑」、センチメンタルな歌声が胸をくすぐる「きゅうくらりん」などカラフルな楽曲群を畳み掛けた後、シンフォニックなハードロックテイストのバンドインストとブリッジムービーを経て「Untouchable」「Innocent Tyrat」になだれ込むと、客席からは一挙に歓声が沸いた。よく彼はオリジナル曲の歌唱について“正解がないから難しい”といった旨を話すが、彼が時間を掛けて自力で自分なりの正解を導き出したボーカルは、カバー曲では得られない彼ならではの躍動感がある。爽快感に富んだグルーヴが会場を大きく揺らした。


ブリッジムービーのストーリーが佳境を迎え、「ボッカデラベリタ」でさらに会場を盛り上げると、小学生の時にニコニコ動画に歌ってみた動画をアップしたという「人生リセットボタン」で会場を圧倒。「ルームNo.4」で心地よくスウィングさせた後、シリアスなテーマを扱った「うみなおし」で本編ラストを締めくくる。すると“追試”としてアンコールで再びステージに登場した彼は、今年8月にリリースされたDECO*27書き下ろし楽曲「ファントム」を歌い出した。本編のシナリオが、「ファントム」の“何でも欲しがり、飽きたら捨てる主人公”の物語へと鮮やかにつながった瞬間だった。

その清々しさから、会場はさらに高揚する。彼のボーカルの旨味が存分に味わえるだけでなく、客席から上がった《しっしっし》のシンガロングも華やかで、本編のシナリオどおり会場一帯が超学生に心を奪われる光景が広がった。そして彼が「もう1曲歌います」と告げ、この日の締めくくりに選んだのはメジャーデビュー曲「Did you see the sunrise?」。咆哮のような熱い歌声で、この日の記憶を観客一人ひとりの心にじっくりと焼き付けた。


<入学説明会>以上に実験的な内容に挑戦した<入学式>は、ライブという固定観念をぶち壊す、非常に刺激的な内容だった。以前より彼が語っている「ほかの人がやっていることを、超学生でやる必要はないと思っている」という言葉のとおり、この日のワンマンも未曽有の地に足を踏み入れたような感覚に陥った。

前例のない道を切り開いていくことは困難も多いだろう。だがだからこそ超学生に惹かれる人々が多いのも事実だ。丁寧に愛を受け取りながら努力を重ね、信頼できる人の手を借りながら自身のポリシーを貫く姿はとても誠実で勇敢である。表現に対して真摯な彼だからこそ作れた、どこかいびつで、とても澄み渡った1日だった。

取材・文◎沖さやこ
写真◎堀 卓朗(ELENORE)

セットリスト

01. ヒト
02. バットオンリーユー
03. ゾンビ(Giga Waha Remix)(原曲:DECO*27)
04. Shadow Shadow(原曲:Azari)
05. キュートなカノジョ(原曲:Syudou)
06. シャンティ(原曲:wotaku)
07. 愛して愛して愛して(原曲:きくお)
08. ド屑(原曲:なきそ)
09. きゅうくらりん(原曲:いよわ)
10. バグ(原曲:かいりきベア)
11. BAND inst
12. Untouchable
13. Innocent Tyrant
14. ボッカデラベリタ(原曲:柊キライ)
15. 人生リセットボタン(原曲:kemu)
16. ルーム No.4
17. うみなおし(原曲:MARETU)

アンコール
18. ファントム
19. Did you see the sunrise?



リリース情報

14th Digital Single「ヒス」
リリース日:2023年10月25日(水)
配信URL:https://lnk.to/chogakusei_his

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