【インタビュー】soLi、ただのインストゥルメンタルに終わらない。新しい要素が加わったアルバム『Rebellion』完成

◾️物語から楽曲を作る究極の形が、この「Karen」
──次の「Re;Try」もISAOくんの曲ですが、シンセが前奏となって始まり、ディストーション・ギターが入ってくる。ロックバンドとしてのsoLiの姿がわかりますね。
ISAO:これぞsoLiじゃないですかね。
星野:霧がかかった森の中で、暗くて……。
ISAO:オープニングはガンビット的なノリがあると思います。この曲は『ワイズマンワールド リトライ』というゲームのメイン・テーマですね。ゲームの制作側であるシティコネクションからの依頼があって書いたものなんですが、今回、このアルバムに入れさせていただけることになり、晴れてここに持ってきたんですけど。これはアルバムの1曲目って……さっきからこれが1曲目って話ばっかりだけど(笑)。
──それだけ自信がある曲が次々と生まれていたということですね(笑)。
ISAO:ライブにいつも来てくださったり、soLiをよく聴いてくださってるような方々が、一番安心できる曲かもしれませんね。ゲームの内容に沿った作り方をしてるんで、ちゃんとストーリー性もあるんですが、そのゲーム内では魔法が重要なキーワードなんですよ。
星野:魔法使いが主人公みたいなところがあるんですね。
ISAO:そう。だから、Bメロとかは、スペリング、つまり、魔法を唱えている音階を自分でイメージして作ったりしてるんです。
星野:世界の崩壊を魔法使いが防ぐというような大まかなストーリーになっているんですが、その崩壊が半音階で表されているようなところはありますね。
ISAO:特にエンディングとかは、崩壊がクライマックスできてるんじゃないですかね。本当にいい曲だなと思うんですよ、自分で聴いていても。
星野:『ワイズマンワールド リトライ』の制作が決定したと発表したときにトレーラーの音楽としてこれを使っていただいたんですけど、そのタイミングで解禁になってからは、ライブでも何回か演奏させていただいていて。『ワイズマンワールド リトライ』では、soLiとして5〜6曲提供しているんですね。戦闘の場面の曲だったりするので、本当に1分とかの長さのものだったりするんですけど、併せてそちらも聴いていただけると嬉しいですね。実は「Re;Try」と互換性のある楽曲もありますので。
──ヴァイオリンとしては、どういうアプローチを考えていたんですか?
星野:2枚目に(アクションRPGの)『イースIII』の曲のカヴァーを入れてましたけど、やっぱギターとヴァイオリンのツイン・リード、バチバチかっこいいゲームのテーマみたいな気持ちで弾きましたね。ストレスなく弾ける、すごく気持ちよく音を伸ばすことができる曲なので、聴いた方から「これだよね、ギターとヴァイオリンのツイン・リードの曲は!」とか「イースっぽい」って言ってもらえるような音色で弾こうと思ってました。これは先方さんからも一発でOKをいただいてね。
──そして「Hidden Formula」はヘヴィなギターが入った、イントロなどはブレイクを挟みつつ進んでいく曲ですが、ギターのメロディがすごく印象的ですね。どんな曲想だったんですか?
ISAO:これは完全にサスペンス映画ですね。曲名は秘密の暗号的な意味なんですけど、隠された暗号みたいなものを主人公の探偵なのか刑事なのかが探していくといったお話のように作られてる楽曲です。途中の拍子チェンジなんかもまさにそれで、解明できたかと思いきや、最後にストレート・ロックのリズムに変わってくるところは、上でやってることは一緒なんですけど、ちょっとしたリズム・トリックになってるんですね。暗号の複雑さみたいなものをイメージして作った感じですね。ヴァイオリンの最初のずっと続けてるフレーズにしても、危機じゃないけど、謎が深まる……何だろう、『一休さん』的な?
──『一休さん』? 何か思案しているような?
ISAO:そうそうそう。あとは金田一耕助が頭をかいているところのような(笑)。拍子が変わったところでパッと開けるじゃないですか。ただ、暗号は複雑化していて、ただでは終わらない。つまり、謎解きですよね。
星野:海外ドラマっぽいですよね。
ISAO:そう。本当にアメリカとかのちょっと残虐なシーンがあったりするサスペンス。
星野:向こうの作品は容赦なかったりしますからね。この曲もリフが難しくて、これもずっとやってるとゲシュタルト崩壊しそうになるんですけど、サビ前のヴァイオリンの4音のピックアップがすごく美しいので、録るときには、そこが結構プレッシャーでしたね。それまでの空気とはまったく違う、すごく澄みきった美しい音で入らないといけないなと思ったので。それから、ISAOさんのお作りになる曲で私が好きなパターンがあるんですけど、サビで3拍子になって開けていくパターンもその一つなんですね。この曲もそうで、サビを弾いてるときは、「いいなぁ、どこまでも続いていきそう」って、すごく気持ちがラクになっていくんです。ところが、最後に「なんで4拍子!?」って辛くなるという(笑)。
ISAO:ああいう展開は面白いよね。
星野:あれは鋼の心を持ってみんなで進まないと……ライブでは誰か1人がつられた瞬間があったら、もう終わりますね(笑)。でも、ホントに美しいなと思います。謎は解けぬままって感じ終わりますけどね。
──そのエンディングはアップテンポに展開していきますよね。
ISAO:その謎はもっと複雑なものだった……謎を解いたはずなのに、部屋の奥から人影がちょっと見えて、雨音が聞こえてきてシーズン2へ続くみたいな(笑)。
星野:ヤツは四天王の中でも最弱……みたいな(笑)。
──そのたとえは前作でもありましたよ(笑)。さて、3拍子と言えば、「Karen」なる楽曲がありますね。
星野:童話の『赤い靴』をテーマに作った曲で、主人公の女の子の名前がカーレンなんです。『赤い靴』といっても、異人さんに連れられていくほうじゃない、足を切られちゃう女の子のほうなんですが、小さい頃は内容が怖くて、あまりしっかり読んでなかったんですけど、大人になってから、「本当にそんな話だったかな?」と思って読み直したら、やっぱり怖い話だなと思ったんですね。ただ、子供のときとまた違う感想が自分の中で出てきて。曲の冒頭はカーレンが街のショーウィンドウで赤い靴を見つけて、「なんて綺麗な靴なのかしら、一度はいてみたいわ」って……結局、カーレンは養子としておばあさまにのところに預けられた後に靴を買ってもらうことになるんですけど、禁止されているのに教会に赤い靴を履いて行っちゃうんですね。おばあさまは目が悪いから、それを存じ上げないままだったのに、参列した他の人がそれを見とがめて、「赤い靴を履いてるなんて、お前は呪いを受けろ!」みたいに叱責するんです。その昔に読んだときには、それが普通だと思ってたんですけど、第三者が勝手に正義を振りかざして、相手を糾弾して呪う。今となっては、その行為を疑問に思うところなんですけど、とにかくその呪いのせいでカーレンは踊り続けることになってしまう。そのカーレンが踊り狂うところを表したのが、サビの部分のツーバスとかなんですね。自分の意思では止められない状態で、時折、教会の鐘がリンゴンと鳴る。2番のAメロに当たるところでは、鐘だけがリーンリンって一瞬だけ、テーマを譲ってもらってるところがあるんですけど、おばあさまがストーリー上で亡くなるんですよね。そこで教会でお葬式をあげている場面なんですが、カーレンはそのときもずっと足が止まらないので、参列することができず、おばあさまの死を悼む鐘の音を聴きながら、その近くを通り過ぎていくんです。

──沙織さんらしい情景描写ですよね。ドラムソロのパートもありますよね。
星野:ドラムソロのところは、カーレンが1人で森に突っ込んでいって、ボロボロになりながら踊りまくっているところですね。彼女が必死に「足が勝手に動いちゃうんです!」って訴えたところで、村の人はそれを信じてたのかなとか、そういった情景に対する感情の機微があって。「いや、そう言っていれば、おばあさまの葬式であるとか、いろんな辛いことから逃げていられるから幸せだよね、よかったね、赤い靴も手に入れて踊ってればいいんだもんね」って言われてる……そういう描写は実際の物語にはないんですけど、そういうふうに言われてるところが、2Bの辺りになるんですね。そんなことを言う人もいるかもしれないなって思ったんです。そして最後のほうでは、カーレンもそれを受け入れるというか、「私は幸せなんだ、幸せなんだ」って踊りまくるんですが、木こりに出会い、最終的には足を切り落としてもらう。その瞬間に曲がパンッて終わるんです。
──テンポは乗りやすいものですが、雰囲気は暗いんですよね。ただ、時折明るい要素も入ってくる。曲を聴きながら、そこに不思議な感覚を覚えたんですが、今のストーリーを伺って納得しました。
ISAO:そうですよね。ドラムソロだけで32小節ぐらいあるんだけど、デモを聴いたときに、何でこんなに長いんだろうと思ったんですよ。俺がバンドサウンド的なアレンジを担当してますけど、沙織ちゃんは「ここには何も入れずにドラムだけにして欲しい」って言ってたんです。だから、感覚的にはフリーのドラムソロが曲中にある楽曲なのかなぐらいに思ってたんですが、実は森の中に入っていったカーレンが一人で踊っているイメージの部分だったんですよね。その後に踊り疲れている様子が、ちょっといなたいベースのメロディに繋がっていって。
星野:それでだんだん他の楽器が参加していって、また踊り始めるんです。
ISAO:踊り狂い始めて、最後の最後に「もう嫌だ、私の両足を切ってください」って……さっきも話してましたけど、ちょっとカットアウトな雰囲気っていうのも、ストーリーに準じているんですよね。物語から楽曲を作る究極の形が、この「Karen」かなと思いますね。作り方が完全に舞台ですよね。
──ええ。その壮絶な光景を確実に音で描き上げていますもんね。
ISAO:よくできてますよ。インストゥルメンタルだから歌詞はないですけど、配信で歌詞が表示されるのと同じ感じで、この物語を流せたらすごくいいですよね? いや、ホントに凄い曲だよ。カーレンはその後に天に召されるんだよね?
星野:そうです。カーレンは足を切られた後、義足で教会での奉仕活動をずっと行うんですね。恵まれない人々のために、心身を尽くして働くんですが、あるとき神様からお迎えが来て、ちゃんとした足をもらって、許されて天に召されていく。もちろん、時代もありますし、ある種宗教的すぎる内容だったんだなとは思うんですね。大人になって読み直したからこそ気付いたんですけど、宗教的な観点からも、改めて絵本を読んでみたいなと思うきっかけになりました。
──確かにカトリックとプロテスタントの思想の違いなどが、古の文学作品に反映されているケースは少なからずあるでしょうね。「Karen」とはまた趣が異なりますが、「Aegis」もすごく情景が浮かんできますよね。戦いの後の消失感のような。
ISAO:これは戦争映画のエンドロールに流れる楽曲をイメージしました。最後に日本の誇る戦艦大和がドーンと映るみたいな盛り上がりで。海軍同士の戦いで、壮絶なる戦いの果てに残ったのは悲しみしかなかった、そういうところから始まってる楽曲です。
星野:すごく大きいものがゆっくりと崩れていく、朽ちていく、なくなっていく、失われていく……そんな感じがありますよね。
──これはギターで作曲を進めていったんですか?
ISAO:いや、前回からもわりとそうなんですけど、どれもギターは触ってないですね。横にギターを置いて、ネックが見える状態にはしてあるんですが、それは鍵盤で打ち込みながら、プレイ的にこれは大丈夫かどうか、視覚的な確認するためのものであって。
──ギター的にはどんなところに主眼を置いて弾いたのでしょう?
ISAO:こういう楽曲はダイナミクスがすごく大事なんですよね。冒頭の部分で言えば、戦艦が沈んでしまって戦いを終える、そういった悲しみの感情を表現すべく、ちょっとかすれたクランチなトーンでメロディを弾かなきゃいけない。それにビブラートの度合いも非常にシビアになってくるんですよ。これは他の楽曲にも言えることですが、ギターとヴァイオリンのメロディの掛け合いみたいなものがsoLiには結構ありますけど、特にヴァイオリンと一緒に弾く場合はヴィブラートを極力しない方向性に持っていかないといけないんですね。どうしてもエレキギターとかのほうが振幅が強くなっちゃうからなんです。だから、「Aegis」に関しても、すごくそこは気を配ってますね。同じメロディを弾いたりするコール&レスポンスみたいなところもそうですし、最後にはユニゾンもありますから、なおさら調整しながら弾かなきゃいけない難しさがあるんですよ。
星野:2つのコードと一つのメロディというミニマムな素材で、これだけの広くて深い内容のものを作るというのは、劇伴ぽいなと思いました。クラシック的な勉強を経て、劇伴作家さんになる方が多いと思うんですが、私の周りのクラシック系の出自の方って、そういった作り方をなさる方が多いんですね。ただ、私の場合、曲作りとなると、どうしてもいろんなものを使いたくなってしまうんです。だから、あえて律するというか、自分に規制をかけて作り上げていく、自分でもいつかそんなチャレンジができるだけの勇気が持てるのかなって思いながら弾いてましたね。
