【レポート】キャンプ・イン・フェスの魁であることを証明した20回目の<朝霧JAM>

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Ⓒ 宇宙大使☆スター


2023年10月21日(土)22日(日)に富士山麓 朝霧アリーナ・ふもとっぱらにて、<朝霧JAM>が開催された。大自然がもたらした感動と共に、主催者、出演者、そして参加者が築き上げた最高の瞬間に満ちた2日間を振り返りたい。

2001年よりスタートした<朝霧JAM>は、富士山を臨む大自然の中で寝食と共に世界の音楽を味わえる日本屈指のキャンプ・イン・フェス。2019年は台風の接近に伴う悪天候により開催中止、2020年および2021年は新型コロナウイルスの影響により開催は見送りになり、昨年2022年に4年ぶりに復活した。そして今年。例年より2週間遅い開催日程であったため、秋を先取りしたようなとても清々しい気候で、なおかつ雨も全く降らない晴天にも恵まれた。お天気までもが20回目の<朝霧JAM>をお祝いしているようで、音楽ファンやキャンプファンにとって最早なくてはならないキャンプ・イン・フェスの魁であることを証明しているようだった。

Ⓒ 宇宙大使☆スター


筆者は、今年もバスプランで会場入り。首都圏・関西・中部発、加えて最寄駅であるJR新幹線「新富士駅」・JR東海道線「富士駅」発、会場着というバスプランは便利で、加えて身軽に過ごせるレンタルテントプラン(テントは事前に設置され、返却も撤収もなし)も利用した。キャンプにハードルの高さを感じて参加を躊躇っている方がいたら、とてもおすすめなプランだ。12時半頃、会場に到着。バスから一歩降りると、とにかく気候が気持ちいい。本当に空気が澄んでいて爽やかで、たまにしっかり太陽が照るとじんわり体が温まってくるので常に日光浴のように癒されるという天国のような環境だ。まだ何も観てないし食べたり飲んだりもしてないのに、既に最高の気分。



Ⓒ 宇宙大使☆スター


そして、そんな至極の環境で味わえるのは、<朝霧JAM>らしい多彩な音楽である。楽しみにしていたCHO CO PA CO CHO CO QUIN QUINを観に急いでMOONSHINE STAGEに向かうと、たくさんの人が音に揺られている。“コミックバンド”を自称している3人組だが、ヘッドホンも装着しながら演奏するメンバーはすでに職人のような佇まい。ベースにとりわけ耳を奪われながら、エキゾチックで甘美な楽曲は“センスがいい”では片付けられない底知れなさがあると感じた。一方で、RAINBOW STAGEのトップバッターを務めたのは、青葉市子。先日の渋谷・さくらホールでは親密な雰囲気のなかで演奏に没入したが、富士山を目前にした神秘的で雄大な自然の中において彼女の歌声は彼方まで広がっていくようで、永遠を思わせた。







▲CHO CO PA CO CHO CO QUIN QUIN Ⓒ Daiki Miura


そうこうしているうちに、MOONSHINE STAGEから聞こえるMAIKA LOUBTÉのビートに引き寄せられる、というジャンルレスなラインナップが<朝霧JAM>の楽しさ。幅広く音楽を愛する来場者のわがままも叶えてくれる。それに2ステージ制の<朝霧JAM>はステージ間の移動がラクで、時間と心に余裕が生じるのも特徴。同じくSMASHが主催する兄弟フェス、フジロックとは好対照だ。ちなみに今年は、キャンプサイトBの奥に、2019年から中止されたエリア・CARNIVAL STARが復活。DJとパフォーマーが出演し、キャンパーをさらに楽しませた。





▲MAIKA LOUBTÉ Ⓒ Daiki Miura


こんなふうに、いつもよりスマホやPCから距離を置いて自然に浸っていると、みるみるうちに日常の疲れが消えてゆくのがわかるし、少し大袈裟かもしれないが、人の本来の在り方のようなものを取り戻している気にすらなる。<朝霧JAM>は、やはり年に1回訪れるべき必要な場所だと実感する。ライブを観る以外にも、愛犬と戯れたり、子供達は駆け回ったり、団体はビールで乾杯するなど、人々が思い思いに過ごす風景もいい。今年初めて登場したサウナで整った人も最高だったと思う。自由で秩序ある空間は兄弟フェスのフジロックと通じるところだろう。この空気感が、またすぐに始まる月曜日から社会に少しでも伝染されたらいい。

Ⓒ Taio Konishi


センチメンタルで上質なギターロックを奏でたハウディや、日本古来のネタを元にした超ノスタルジーとでも言うような冥丁など、それにしても今年の<朝霧JAM>は本当に多彩でジャム感たっぷりだった。初日のハイライトの一つになったのが折坂悠太で、ライブのスタートからたくさんの人を集めた。山の稜線が勇ましくて美しく、焚き火も起こり始めて香ばしい匂いが漂うRAINBOW STAGEというロケーション、そして少しずつ意識が内省へむかっていく夕方の時刻と相まって、ただでさえ土着的な彼の歌は水を得た魚のように冴え渡っていた。中でも「さびしさ」は鳥肌が立つ名シーンだった。





▲HOVVDY Ⓒ Taio Konishi






▲冥丁 Ⓒ Daiki Miura






▲折坂悠太 Ⓒ Taio Konishi


個人的なベストアクトはOOIOOで、音楽でしかなし得ない交信を4人としているような感覚だった。全ての瞬間が自由でカッコよくて、本当の意味でオルタナティブという言葉を理解した。スペシャルゲストとして長谷川白紙も登場したWWW Xの来日公演も好評だったカッサ・オーバーオールは、ラップも披露。大胆かつ繊細でソウルフルなパフォーマンスに踊ったあとは、流石の寒さに「ほ~らいや」の串焼き屋さんのカレーうどんで体を温めながらアルバムリーフの深淵なステージに身を沈めた。<朝霧JAM>が人々の記憶に残る一つの要因は、“地産地消”がキーワードのフェスごはんにもある。朝霧食堂の朝霧ミルク味噌ラーメンは、ミルキーなスープに好みで味噌を溶いていくスタイルの新しいがこの地ならではの一品だった。ぐるぐるウインナーも名物。“高原のシチュー屋さん”や、シュークリームやロールケーキなど地元の素材を活かしたお菓子を提供する“藤太郎”の行列も印象的だ。







▲OOIOO Ⓒ Daiki Miura






▲KASSA OVERALL Ⓒ Taio Konishi








▲THE ALBUM LEAF Ⓒ Daiki Miura


▲朝霧食堂の朝霧ミルク味噌ラーメン Ⓒ トゥッティーニ


夜が更けていくうちに独特のワクワク感も増していき、ライブのテンションも自ずと高まっていく。toeに原田郁子(clammbon)、皆川真人という発表時から話題のアクトにRAINBOW STAGEには人が集まり、エモーショナルなパフォーマンスに対してオーディエンスは歓声をあげた。OGRE YOU ASSHOLEは、巨大なタコのデコレーションがシンボリックでちょっと異郷めいたMOONSHINE STAGEの雰囲気とぴったり。サイケデリックなロックに会場は一体となって盛り上がった。このステージでその後たくさんの人が集まったのは、話題のHIROKO YAMAMURA。「ツナギの安定感!」「選曲が若い!」など、上気したオーディエンスは思わず喜びの声をあげながら甘美なハウスミュージックを楽しんだ。初日RAINBOW STAGEのトリはバッドバッドノットグッド。2019年に出演予定だったアーティストのひと組であり、現場の気温はかなり低かったが、ムーディーかつ技巧を散りばめたステージでたくさんのオーディエンスを楽しませてくれた。また、彼らがステージを去りこの日の全てのアクト終了後には、10月8日に亡くなった谷村新司の代表曲「昴」の音源が流れ、追悼の意を表した。





▲toe with 原田郁子(clammbon)、皆川真人 Ⓒ Taio Konishi








▲OGRE YOU ASSHOLE Ⓒ Daiki Miura








▲HIROKO YAMAMURA Ⓒ Daiki Miura








▲BADBADNOTGOOD Ⓒ Taio Konishi


Ⓒ 宇宙大使☆スター


今回の<朝霧JAM>の目玉のひとつと言えば星空。10月21日の深夜はオリオン座流星群の見頃だったため、星空観察のワークショップも実施。そして翌22日朝は今シーズン一番の冷え込みという、自然のダイナミズムを体感できる機会でもあった。機運によるのか主催者の狙いかは不明だが、日常生活では到底味わうことができないとにかくドラマチックな数時間を体験できた。テントの中では、なるべく寝袋に冷気が入らないようにし、人によっては湯たんぽも使用するほど冷え込んでいたが、朝になって太陽が昇ってくるにつれて世界が温まっていくという事象を、こんなに肌で感じられることもない。6時台には富士山を拝みやすいCAMP SITE Aに人が集まり、「キター!」と声をあげながら太陽が顔を出してくる過程をみんなで噛み締めた。

Ⓒ 宇宙大使☆スター


Ⓒ Taio Konishi


富士山は平和の象徴だとし、平和や自然の大切さを説いた<朝霧JAM>実行委員長の秋鹿 博氏の挨拶に続いたのは、恒例のラジオ体操。RAINBOW STAGEのトップバッターは、今年結成47周年の富士宮市に根付く創作和太鼓団体「本門寺重須孝行太鼓保存会」。その熱演にも温かい拍手が送られた。「最高の休日にしましょう」という宣言通り午前中から踊らせてくれたのはtoconoma。解放感いっぱいの空間にぴったりのインストによるダンスミュージックで、今回を機に彼らのファンになったオーディエンスも多かったのではないだろうか。ちびっ子も楽しそうに踊っていたのも印象深い。お天気も良かったことから、今年の<朝霧JAM>は半ばファミリーフェスの装いで、子連れでにぎわっていた。KIDS LANDで子供たちを待っていたのは、和太鼓体験、大縄跳び、焚き火体験、積み木など盛りだくさんのアクティビティ。オリジナルのぬいぐるみを作る「100mermaids workshop」など、マーケットのワークショップも多くて、きっと子供たちの記憶に残り続ける体験で溢れていた。

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▲本門寺重須孝行太鼓保存会 Ⓒ Taio Konishi






▲KIDS LAND Ⓒ Daiki Miura


音楽との出会いも、人生を変えるかけがえのない経験であり、いろいろな音楽が集まるフェスの醍醐味。その意味でやはり、SMASHのブッキングの信頼度は高い。昨年のフジロックで見逃して気になっていたシンガーソングライター・さらさを今回の<朝霧JAM>で観れたこともよかった。「めっちゃうまい!」と素直に感嘆するオーディエンスもいるほどの歌唱力、R&B〜ソウルを主軸にしたオルタナティブだがポップな楽曲、そして本人は“暗い”と評していたが共感を呼ぶ内省的な歌詞が魅力。周りから聞こえてきた「宇多田ヒカルみたい」という感想にも頷ける。ベテラン勢のライブもさすがだった。メロウなサーフロックにチルしたトミー・ゲレロに、メランコリックだがエモーショナルな歌声に男惚れもしてしまうチェット・フェイカー。





▲TOMMY GUERRERO Ⓒ Taio Konishi






▲CHET FAKER Ⓒ Taio Konishi


残りのアクトも数える程度になって寂しさも覚える時間帯にRAINBOW STAGEに登場したのはキティー・デイジー&ルイス。生粋の音楽一家ならではのセンスで、オールドタイムかつ快活でスウィンギンなロックンロールショウを展開しオーディエンスをめちゃくちゃ盛り上げてくれた。対してMOONSHINE STAGEは、今年唯一と言える現行のジャパニーズヒップホップのアクトOMSB。実際は肌寒いが会場には熱気がむんむんと漂い、OMSBも自身がリスペクトするワジードと話せて夢が叶っちゃったと興奮し、実直でエモーショナルなライブを披露してくれた。17時を過ぎると、みんなの吐息も白くなってくる。17年ぶりの<朝霧JAM>となったくるりは、「奇跡」が特に心に沁みた。現地はかなり寒かったのだが、熱心に聴き入るオーディエンスの姿がよく目に入り、多くに人にとって特別な1曲があるかけがえのないバンドであることを改めて感じた。





▲KITTY, DAISY & LEWIS Ⓒ Taio Konishi






▲くるり Ⓒ Taio Konishi


さまざまな体験や感動を味わいながら、気がつけば帰りのツアーバスの出発時刻が迫った筆者は、RAINBOW STAGEのトリを務めるNight Tempo、MOONSHINE STAGEのトリを務めるDJ ネイチャーのステージに後ろ髪を引かれながらも、素晴らしい自然と素晴らしい音楽を全身で感じる<朝霧JAM>ならではの充足感いっぱいで帰路に着いた。





▲Night Tempo Ⓒ Taio Konishi






▲DJ NATURE Ⓒ Taio Konishi


文:堺 涼子

  ◆  ◆  ◆

<〜It’s a beautiful day〜Camp in ASAGIRI JAM ’23>

2023年10月21日(土)22日(日)
富士山麓 朝霧アリーナ・ふもとっぱら
開場・キャンプ開始:10月21日(土)10:00〜
開演:10月21日(土)12:30
終演:10月22日(日)20:00
キャンプ終了:ご利用いただくキャンプサイトによって異なります
場内 CAMP SITE A:10月22日(日)20:00
場内 CAMP SITE B:10月23日(月)11:00
ふもとっぱら:10月23日(月)10:00

https://asagirijam.jp

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