【イベントレポ】Fami。&アヤコノ、「私がベーシストになったわけ」

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左:アヤコノ、右:Fami。

11月11日は“ベースの日”。東京の科学技術館で開催された<東京楽器博2023>では、ベースにまつわるトークイベント『BARKS × ベースの日スペシャルトーク「私がベーシストになったわけ」』が行われた。

“弾いてみた動画”で話題を集め、テレビ番組へのレギュラー出演や東京2020パラリンピック開会式出演など、さまざまな場で活躍。現在は3ピースバンド、WOLVEs GROOVYを率いるアヤコノ。そしてYouTubeチャンネル登録者数68万人超を誇り、2022年からはヘヴィメタル・バンドLOVEBITESに加入し、さらなる注目を集めているFami。。

ともに次代のベースシーンを担う話題のベーシストふたりが、ベースへの思いを大いに語り合うという趣向である。会場となった<東京楽器博2023>のイベントステージはラッシュアワーの満員電車状態。ふたりの注目度の高さがうかがえた。そんな中、ふたりが登場すると大きな拍手が巻き起こった。

実はふたりはこれが初対面。イベントの前に挨拶をしたそうだが、いきなりアヤコノが「初めまして。ライバル視してます」と宣戦布告(?)したことを、司会のBARKSの烏丸哲也氏から暴露され、場内は大爆笑に。「めっちゃびっくりしました」とFami。が笑顔で感想を述べ、場内が和やかな雰囲気に包まれた中、イベントがスタートした。

まずはベーシストとしての共通点を探っていく。最初に挙がったのが“音の太さ”だった。ふたりとも華奢な体格からは想像もつかないような音を出すのが特徴で、「音量を下げてって言われます(笑)」(Fami。)、「私もコンプをかけてって言われる(笑)」(アヤコノ)と、ふたりとも、自分の音の太さには自覚がある様子だった。


Fami。の愛機はFreedom Custom Guitar Researchによる特注の1本。この日アヤコノが持ってきたのはYAMAHA BBP35。5弦ベースがお披露目されたのはこの日が初めて。

その太い音を導くのが指弾き。これもふたりの共通点だ。「ピック弾きができないんですよ(笑)。練習してみたことはあるんですけど、まったく弾けなくて。これは無理だなって諦めました」(Fami。)、「私もできた方がいいのかなって挑戦したみたんですけど、3曲くらいで指から血が出ました(笑)」(アヤコノ)。ピック弾きも試したものの自身には合わなかったという経緯が共通していたことも、偶然ながら興味深いところだろう。

さて、話題はイベントのテーマでもある「私がベーシストになったわけ」へ。

「中学で部活動を始めるときに、最初はイラスト部に入ろうと思ったんです。入部届けも出したんですけど、友達からベースがいないからやってくれないかと誘われて。ピアノとバイオリンは弾いたことがあったんですけど、ベースは弾いたことなかったんですけどね(笑)。友達は、仲の良い人に端から声をかけていたみたいです(笑)。そんな“やっつけ”っぽい感じで始めました」(Fami。)

「小さいときにエレクトーンやピアノをやっていて、バンドをというものを知らなくて。中学生になってちょっとグレまして(笑)、バンドを知って、“これ、やりたい!”って思ったんです。だから、バンドができれば楽器は何でもよかったんですよ。楽器店に行って、無料の体験レッスンを全部受けたんです。ベースってボディは薄いけどめっちゃ重いじゃないですか。そのままだとへっぼい音しか出ないのに、アンプにつなぐと超太い音が出る。その感覚が楽しすぎて、ベースを続けることにしました。自分には新しい感覚だったので、それを自分のものにしたかったんです」(アヤコノ)

Fami。は友達から誘われたことから気軽にベースを始め、アヤコノは何でもいいと思いつつ、ベースに面白さを感じてやってみることにした。ふたりともベースに思い入れを持って始めたわけではなかったが、今ではなくてはならないものになっているわけで、何が自分の人生を変えるかわからないということを再認識させるエピソードであった。

ひょんなことからベースと出会ったふたりの話は、どんどん発展していった。歌いながらベースを弾くことの難しさ、ベーシストとして意識していること、サウンド・メイクのこだわり、5弦ベースについて、仕事への取組み方など、その話題は多岐にわたった。

中でも興味深かったのは挫折したときの話。ともに若くして注目ベーシストとなり、傍から見ればその活動を順風満帆のように映るが、そこには人知れない苦悩があったようだ。

「実は私、活動休止していた時期があるんです。周囲の期待を受け止められなくなってしまったのと、YouTubeのコメントで“下手”って言われがちで、自分は下手なんだって思い詰めて抱え込んでしまって。同時に、音楽を仕事にする重圧も感じるようになってしまって、ベースを持つだけで涙が出るようになってしまったんです。それで休むことにしました。でもLOVEBITESがベーシストを探していることを知って、オーディションを受けてみようかと。そのときは、落ちてしまったらFami。としての活動は辞めてしまおうと思っていました。オーディションでメンバーと一緒に演奏したらすっごく楽しくて。私にもまだベースを楽しいと思える気持ちがあったんだと思って、また続けることにしました」(Fami。)

「私はカバー動画を投稿するところから始まって、NHK Eテレの『ムジカピッコリーノ』への出演が決まって上京したんですけど、自分が何者なのか、ずっとわからくて。他人のベースを弾かせてもらった動画から始まって、仕事がくるようになったけど、自分自身の音楽はまだなくて。セッションも全然上手にできないし、楽しさもわからないし、自分がどうなりたいのかもわからない。実家に帰ったときに、親にこの話をしたら“あんたはまだまだ若手なんだから”って言われたんです。私、それで号泣したんですよ。若手なんだからまだまだできないことがあって当然ということを言ってもらって、その言葉に救われました。それで、バンドを始めてだんだん自分が何者なのかわかってきた気がします」(アヤコノ)

さて、サウンド・メイクの話では、ふたりが意気投合する場面も。

「私がベースを弾く局面というと、メタルというジャンルとYouTubeの2つなんですね。そうなったときにどういう音が良いのかを考えた結果、“暴力”という結論になりまして(笑)。バンドではギターが2本いるので、ベースはゴリゴリで歪が入ったような低音が必要になってくるんです。この音ってスマホで聴いていてもベースが抜けて聴こえるんで、YouTubeにも向いているんですよ。もちろん、ベースらしい音も素敵ですけど、私がやりたいのはベースだけでもかっこよくて存在感のある音なんです」とFami。が語ると、

「動画の話はめちゃめちゃわかります。生々しいベースの音もめっちゃ好きなんだけど、動画だと“うっ!”ってなるんですよ」(アヤコノ)。

「そうですよね!」(Fami。)

「(Fami。の動画が)そうならないのは、その音作りがあったんだって納得です」(アヤコノ)

「その音の方が動画で映えるんですよ!」(Fami。)

アヤコノの独特の表現は、見ている側にはわかりづらくもあったが、Fami。も同調しており、動画配信も行うベーシスト同士のふたりは大いに通じ合っていた。

最後は急遽、お互いのベースを弾いてみることに。


お互いのベースを持ち替えてみると、驚きとともに思わぬ発見や感動が押し寄せるふたり。屈託のないベーシスト談義に花が咲く。

「他の人のベースを弾いたことない」というアヤコノは、Fami。のベースを持って「めっちゃ重い!」と第一声。しかし、しばらく試奏してみると「これほしい!音が好きって思うことって私はあんまりないんですけど、初めて好きって思える音がします。ほんとにいい。低音も出るし、アタックもあるけど、音が“太線”で出ているような気がします」と大絶賛。Fami。は「そんなこと言われたら、アヤコノさんのことを好きになっちゃうよ」と、愛器を褒められ、我がことのように喜んでいた。

一方、初お披露目だというアヤコノの5弦ベースを手にしたFami。は「え~~~~!」と驚いた表情に。「運指がしやすくてスイスイ弾ける。音の立ち上がりの思い切りがいい!“ヘイ!”じゃなくて“ヘイッ!”って感じです(笑)。めっちゃ好きです」とこちらもべたほめだった。するとアヤコノが、

「私はピッキングのとき、弦をはじくのと同時に後ろにちょっと押すような感覚で弾いているんですけど、(Fami。は)そういうピッキングではないから、よりアタック感が出て、演奏にドライヴ感が出ている気がします」

と自身のベースでも弾き手によって音が変わることを実感した様子。「アヤコノさんのグルーヴがすごくて、正直、音どころじゃない(笑)」とFami。はどんな楽器でも自分のグルーヴを出すアヤコノに感心した様子だった。

「(Fami。のような)太線の音を出したことがないんで、自分でもやってみたいと思いました。教えてほしい」(アヤコノ)

「ベースの音のキャラクターはお互い真逆だと思うんですけど、その違いを直接体感できて、すごく勉強になりました」(Fami。)

最後にそれぞれに対談の感想を述べると、イベントもお開きの時間に。ともにまだやりたいと言いながら、大きな拍手に送られ、笑顔でステージを下りていった。



初対面ながらベースにまつわる会話を通して、お互い相手を理解し、そして自分を見つめ直す。そんなふたりのやりとりは興味深いものだった。さらに、楽器や演奏について語り合うふたりの表情は、生き生きとしており実に楽しそう。その表情からは、ベースという楽器がいかに魅力のあるものなのかが伝わってきたようだった。この日のふたりの話を聞いたことが「私がベーシストになったわけ」というベーシストが生まれるかもしれない……そんな期待も抱かせるトークイベントだった。

文◎竹内伸一

◆Fami。オフィシャルX(旧Twitter)
◆アヤコノ・オフィシャルX(旧Twitter)
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