【インタビュー】名古屋の暴走トリオVanishing、無料ライヴ敢行のワケ

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名古屋の荒馬との異名をとる暴走トリオ、Vanishingの『No sleep ‘till Nagoya』が熱い。去る9月30日に発売されたこの作品は、彼らにとって2作目のフル・アルバムにあたるもの。このバンドならではのパンキッシュで疾走感あふれるロックンロールが味わえるのみならず、決して勢いまかせではない整合性と、少しばかり意外性のある緩急を伴った説得力のある1枚に仕上がっている。


Tomoki(B, Vo)、Tetsushi(G)、Ko-ji(Dr)によるこのバンドの始動は2016年に遡り、過去にはフィンランドやドイツでの大型フェスへの出演も経てきているが、彼らの特徴のひとつに、地元・名古屋にこだわった地元愛あふれる活動展開を続けていることが挙げられる。実際、アルバムのタイトルにまでそれが反映されているわけだが、2022年末には自己初となる名古屋・クラブクアトロでのワンマン公演も経験。今年も12月20日に同会場でのライヴが決まっている。実のところ、そのチケットが猛スピードで売れているというわけではないし、アルバム・セールスもやや伸び悩んでいるというのが実情ではある。ただ、彼らはそうした事実をまっすぐに受け止めながら、なんとか現状を打破し、長きにわたり憧れてきた地元の会場を埋め尽くすべく、日夜、試行錯誤を重ねている。

そんな彼らが先頃、東京にやってきた際に話を聞いた。11月24日、渋谷・CYCLONEでのライヴ当日のことである。今回は同夜のライヴ写真と共に、3人のリアルな言葉をお届けするとしよう。この夜、ステージ上では、12月3日、名古屋・RED DRAGONにてフリー・ライヴが開催されることも発表されたが、そうした試みに込められた意味や本音も含め、このバンドのまっすぐな熱意が読者に伝わることを願っている。



――早速ですが、新作『No sleep ‘till Nagoya』発表後の反響について訊かせてください。どんな手ごたえを感じていますか?

Tomoki(B, Vo):まっさきに聴いてくれたのは、以前からVanishingを好きでいてくれてる人たちということになるわけですけど、そういった人たちからは大絶賛の声がたくさん届いてます。名盤だと言ってくださる方も多いですし。ただ、そういった反応はすごく嬉しいんですけど、同時に僕らとしては「もっといろんな人に届いて欲しいんだけどな」という気持ちがあるわけです。実際、そういう意味ではまだまだ充分に届き渡ってないし、そこは僕らの落ち度というか、力不足ということになるわけですけど。

Tetsushi(G):もちろん何もかもがそう簡単に上手くいくはずがないとは思ってるし、甘い期待を抱いてたわけじゃないんですよ。ただ、もっと「ドーン!」という強烈な反響を体感したいというのが本音ではありますね。それこそVanishingの名前がトレンド入りするとか、そういうわかりやすい形で。

Ko-ji:いつもライヴに来てくれる人たちの様子をステージ上から見てても「ああ、新曲を気に入ってくれてるんだな」というのは伝わってくるんです。だから、最初に届くべき人たちにちゃんと届いてるんだという実感はあるんですけど…。

Tetsushi:うん。ただ、その枠を超えたいというのが、今の正直な気持ちです。

――難しいところですよね。いい作品を作れば、いいライヴをやれば自然に広まっていくはずだと信じたい。ただ、現実的にはなかなかそうもいかないところもあるわけで。



Tomoki:まさにそこで苦しんでます(笑)。たとえば過去にも1stアルバムが出た時とか、『METAL BATTLE JAPAN』で優勝してドイツの<WACKEN OPEN AIR>に出演した時とか、自分たちの名前を広めるうえでの好機というのがいくつかあったわけですけど、その後の反応は、自分たちが抱いてた期待には到底及ばなかったわけです。高望みをし過ぎてるとも思わないし、作品やライヴについての自信があればあるほど、そこでのギャップが大きくなってくるというか。

――バンドのYouTubeチャンネルでは、普通は表沙汰にしないようなリアルな内情まで明かしていたりしますよね?


Tomoki:ええ。泣きごとを言ってると思われても仕方の内容な発言を(笑)。ただ、それを隠しててもしょうがないし、すべて曝け出してるのは少しでもこのバンドのことを知って欲しいからこそなんです。実際、今回はアルバム制作自体も結構大変でした。これまでとは違うものにしたかったというか、ある意味、Vanishingの従来のイメージを覆すような何かを求めてたところが自分たちにはあって。たいがいは「荒々しいパンク・バンド」みたいに見られてるはずだと思うんですけど、それを超えたかった。そのためにどうすればいいのか、という部分で悩んだわけです。歌詞的にもちゃんと何かが伝わるものにしたかったし、もっと耳を傾けてもらえる音楽にするためにはどうすべきか、というのをめちゃめちゃ考えて取り組んだ結果がこのアルバムなんです。

――確かに“荒々しい”と“粗い”は違うはずだし、結局のところ、何かを具体的に変えるというよりも精度を上げていくことが大事だったりするわけですよね?

Tetsushi:そうですね。結局は、やりたいことを素直にやった結果でもあるんです。ただ、たとえば今回のアルバムには、あんまりこれまでのVanishingっぽくない展開のスロー・テンポの曲とかも入っていて。「RED」がその曲なんですけど、実は何年も前からスタジオで揉み続けてきたものなんです。これまでは自分たちの経験や技術が足りないがために、なかなかいい形には仕上げられずにいたんですけど、それが今回ようやく自分たちの求める形で表現できて。


Tomoki(B, Vo)


Tetsushi(G)


Ko-ji(Dr)

――それはバンドの成長の表れでもあるわけですよね。同時に、「こういう曲は自分たちっぽくないんじゃないか?」という躊躇がなくなってきたというのもあるはずです。

Tomoki:確かに。基本的に、僕がやりたいと言うことについては2人とも聞き入れてくれるし、自由に作らせてもらってはいるんです。ただ、3人とも当然のようにパンクという共通項はあるけど、好きなものはそれだけではないし、それに縛られる必要はないとも思ってるんです。以前はそこで勝手に自分たちを狭めてたというか、足枷みたいなものを作ってしまってたところがあった。もちろんVanishingは基本的にはパンク・バンドだと自覚してますけど、ジャンルとしてのパンクに囚われる必要はないと思うんです。実際、今回のアルバムで言えば「RED」とか「Tonight「「Stars」のようなメロディは元々好きだし、ごく自然にそういった曲が生まれてきた。そうやって、気持ちの部分ではパンクのまま、もっと音楽的に自分たちのいろんな面を出してもいいんじゃないか、という気持ちが強くなってきましたね。

Ko-ji(Dr):正直、僕自身はこれまで2人についていくのが精いっぱいというところもあって、なかなか自分自身を表現するところまで辿り着けてなかったと思うんですけど、こうして何か新しいものを作るたびにTomokiの好きなもの、これまで表に出てなかったものが出てくるようになってきてるのを感じてます。それこそKISSみたいな要素とか。

Tomoki:それこそ自分のルーツという意味では、気志團とかB'zも含まれてたりするわけです。そこでどんな部分を出すかは自分次第だし、すべてを少しずつ出せるようになってきたというか。「自分としては、こういう音楽があったら嬉しい」というものを作ろうとした感じですね。あと、今回はやっぱり、アルバム自体をカッチリと作ることを意識してました。「パンクだからこのくらいでいいんじゃない?」という感じではありたくなかったんです。そこで雑に済ませたりせず、自分たちなりにカッチリと作り込みたかった。だからある意味、ライヴはライヴ、音源は音源と考えてる部分もあるんです。僕としては、それこそ子供が聴いてもおぼえられるような、わかりやすいものを作りたいというのもあった。ただ、作品自体はわかりやすいんだけど、ライヴではそれとは違った迫力がある、という感じでありたかったんです。

――そういった発想がこのアルバムに結び付いたのであれば、すごく納得できます。そんな作品をもっと広く届けていくためには、そしてクラブクアトロを満員にするためにはいったい何が必要なんでしょうね?

Tomoki:結局はそれがわからなくて頭を抱えちゃった、という部分があったんですね(笑)。YouTubeの動画の中でリアルな話をしてるのも、それゆえなんです。このバンドを知ってもらわないことには何も始まらないから、とにかく知ってもらいたい。あれは、そういう気持ちの表れだったんです。実際、クアトロを前にして、12月3日に名古屋・RED DRAGONで無料ライヴをやることにしたのも、自分たちの存在を広めたい、目立ちたいという気持ちからなんです。試しに観に来てみて欲しいというよりは、とにかく知って欲しい。そこでライヴを観て気に入ってもらえたなら、その場でクアトロのチケット購入を検討してもらえたら嬉しいし、気に入らなかったらそれはそれで仕方ない。フリー・ライヴをやるのは日曜日の真っ昼間なんですけど、この機会に1人でも多くの人に観に来て欲しいですね。名古屋って派手好きな街だし、自分たちとしては、それに見合うようなバンドになりたいわけです。まずはここでフリー・ライヴという切り札を使って、それを年末のクラブクアトロに繋げていく。そのうえで、2024年はさらに飛躍を目指していきたいです。そのためにも今回のクアトロでは、前回以上にたくさんの人たちを集めたい。なにしろバンド自体がより良くなってることについては、めちゃくちゃ自信があるので。


取材・文/撮影◎増田勇一



<決起集会 無料ワンマン・ライヴ>

2023年12月3日(日)
@名古屋・RED DRAGON
開場12:00 開演12:30
※ライヴ配信あり

<No sleep ‘till QUATTRO NAGOYA>

2023年12月20日(水)名古屋・クラブクアトロ
開場18:00 開演19:00
※当日券に限り18歳以下1,000円チケット販売予定(要身分証明書)

◆vanishingオフィシャルサイト
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