【ライブレポート】邁進する緑黄色社会の期待値を押し広げた<リョクシャ化計画>

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2023年、緑黄色社会は自身初となるフジテレビ系月9主題歌「サマータイムシンデレラ」のほか、10月期のアニメ「薬屋のひとりごと」オープニングテーマ「花になって」、ZIP-FM 30th Anniversary Song「夢と悪魔とファンタジー」といった大型タイアップを数々手がけるなど、八面六臂の活躍を見せた。よって2023年は彼女たち自身としては、ライブとテレビ歌唱などのパフォーマンスに明け暮れた1年という感想だったかもしれない。<MTV Unplugged>のパフォーマンスをはじめ、アルバム『pink blue』を携えた全国ツアーを巡りながら、1年を通して数多くのフェスや音楽番組への出演も果たした。そして12月からは1年の締めくくりであり、また、リョクシャカの新たな幕開けを告げるツアー<リョクシャ化計画2023-2024>を開催。本稿では、バンド史上初となったアリーナツアーから、横浜アリーナ公演二日目のレポートをお届けする。

スタイリッシュなピアノジャズが流れるなか、観客はこの日の主役たちを待ちわびていた。期待で大きく膨らんだ空気を一変させたのは、ステージ上に設営された巨大ビジョンにオープニング映像が映し出されたときだ。モノトーンでどこか殺風景だった街は次第に緑が溢れ、みずみずしく色鮮やかに変化してゆく…という物語を帯びた映像は、その後繰り広げられるライブパフォーマンスのメタファーと言ってもいいだろう。

歓喜の声に迎えられた4人が、1曲目に選んだのはインディーズ期の1stミニアルバム『Nice To Meet You??』に収録された楽曲「またね」だった。このツアーでは彼女たちの過去と現在地を示すように、新旧の楽曲を巧みに交差させながらセットリストが組まれており、新旧のファンがともに楽しめる内容となっていた。長屋晴子(以下、長屋)の、周囲の空気が一瞬真空になってしまうような印象的なブレスから静かに始まった「またね」は、躍動するバンドサウンドへと見事な展開を見せた。続いて、間髪入れずに「ずっとずっとずっと」の狼煙となる穴見真吾(以下、穴見)のアタッキングなスラップベースが轟くと、観客も手を挙げて熱を帯びた演奏に応じていた。その後の「始まりの歌」では、長屋が「みんな、楽しむ準備できてる⁉」と呼びかけ、オーディエンスのテンションは急上昇。「さあ歌え、横浜アリーナ!」とさらに呼びかけると、会場からは雄たけびにも似た大きな歓声が沸き上がった。



冒頭の3曲で、いきなり沸点へ達したと思ったのもつかの間。場内はにわかに青く幻想的な光に包まれた。その光に溶け込むような麗しいストリングスに導かれるように、しっとりとしたミドルバラード「マジックアワー」へと誘われていく…。大切に思う人を花火、自分を水面に例えたロマンチックで切ないナンバーを、情感豊かに歌い、心に余韻を残すような繊細な色で織りあげる。そうした多様で豊かな表現力も彼女たちのライブの魅力と言えよう。

最初のMCでは、「やっと会えたね。みんな、元気してた?」と、まるで親しい友人に話しかけるかのようにファンへ言葉を投げた長屋。「私たちとみんなだけの時間です。心と体を楽にして、付いてきてください」と温かなメッセージを贈った。作曲者のpeppeによる、ピュアで繊細なピアノとストリングから始まった「Starry Drama」は、性急なバンドサウンドが鮮やかにピアノにとって代わる大胆さが美しいナンバーだ。長屋は、この楽曲では強い星の光にも似たまっすぐで力強い歌声を会場に響かせていたが、他の曲では触れたら崩れ落ちそうな儚さまでを縦横無尽に歌い分けることができる。聴き手の心を波立たせるエモーションも兼ね備えているばかりか、リョクシャカの楽曲にしばしば見られる、自由な発想から端を発するダイナミックな展開を違和感なくリスナーに届けるためにも長屋の歌唱は不可欠な要素なのだと改めて痛感した。

そして演奏力にも優れ、再現性も高いとなると、まるで隙がないバンドのように思えるが、パフォーマンス以外ではなんともチャーミングな横顔を見せてくれる。たとえば「今回は親子席を作りました。いっぱい声を出していいよ」とちびっ子たちにニコニコの笑顔で呼びかけた小林壱誓(以下、小林)も然り。MCでは、メンバーに「一番好きな歌詞は?」と無茶ぶりをして、にんまり得意顔を見せた。そんな問いかけに対して穴見は、「花になって」の一節「君の毒は私の薬って/包んであげるから 笑って」を挙げた。peppeは「想い人」の一節を取り上げながら、「これが分かると少し大人になったような気持ちがする」と感想を述べた。長屋はといえば、「夏を生きる」の「逞しくあれ」という端的なワードをチョイス。ステージ上で悩みながらも真剣に答える姿に、彼女たちの人の良さがにじみ出ていてほほえましくもあり、メンバーそれぞれの個性が垣間見えてなんとも興味深い。ちなみに、出題した当の本人は、なにも浮かばないというオチをつけて会場から笑いを誘っていた。濃密なパフォーマンスとは対照的なMCもクセになってくるから、ライブとは不思議なものだ。







ライブ中盤には、メインステージを降りてアリーナ中央に設置されたサブステージへと移動した4人。手を振りながらできるだけゆっくりと歩き、観客と笑顔の交換をしている様子はとても温かなものだった。サブステージでは、彼女たちが挑戦したかったアイデアの1つ、アコースティック編成でのパフォーマンスを披露した。優しいピアノと透明感を携えた厳かなギター、コントラバスの落ち着いた音色、幻想的な光に包まれて歌われたのは「Re」だった。この歌に込められたメンバーの絆に、誰もが癒された瞬間だったに違いない。「1つのライブでアコースティックコーナーを入れるのは初めて」と長屋が言えば、「昨日よりは落ち着いているね」と小林が応える。穴見はといえば、「今日はコントラバスの先生が来ているから余計に緊張している」と本音を吐露し、会場の空気を和ませていた。



パワフルかつキャッチ―なナンバー「花になって」からは、いよいよ怒涛の後半戦へ突入である。骨太のバンドサウンドと歌唱で圧倒するような「Shout Baby」や、ピアノの1音ずつに祈りを込めるかのような「LITMUS」と、色鮮やかな楽曲で観客に多彩な景色を見せていく4人に、観客はどんどん引き込まれていった。

こうしたパワフルで熱のこもったパフォーマンスの合間に、長屋はこうつぶやいた。「憧れていたこと、もの、いっぱいありました。メンバーでたくさん話して今日まで来ました。 “リョクシャ化計画”も大きくなりました。(中略)回数を重ねるうちに、“リョクシャ化”されるのは私たちの方だなって思うようになりました。ここからがラストスパート、いろんな所に連れて行くんで、どんどん行こうね!」

その言葉が号令代わりとなり、会場に鳴り響いたのは「サマータイムシンデレラ」のイントロだった。夏の熱を孕んだ風や潮の香りが漂ってくるかのようなこのナンバーは、2023年の夏、ドラマや各地の夏フェスを彩った。おそらくこれから、いくつもの夏を染めるサマーアンセムとなっていくことだろう。その普遍性は、「第65回 日本レコード大賞」の優秀作品賞を授与されたことからも分かる。

長屋の笑顔がはじけたダンサブルな「Landscape」。ブラックミュージックの影響を強く感じさせるグルーヴが印象的な「Don!!」は、ハッピーでピースな空気で会場を満たした。小林が「横浜アリーナ、ラスト2曲!」と叫ぶと、オーディエンスの声もますます大きく熱量を増していく。「sabotage」のソロパートでは、メンバーのプレイアビリティーの高さを見せつけたかと思えば、彼女たちの人気を決定づけた「Mela!」で会場のみんながラララで大合唱し1つになった。煌めくような高揚感の中、色とりどりのテープが客席に向けて高らかに放たれ、本編は大団円を迎えたのだった。



アンコールの声が鳴りやまぬ中、突如、穴見がツアーではおなじみのキャラクター“真吾先生”に扮した映像が流れてきた。その映像の中で、ラップやムーンウォークなどを披露しながら、国立科学博物館で開催中の「和食 ~日本の自然、人々の知恵~」展の学芸員の方とトークも繰り広げていく(そして恒例のコンサートグッズの紹介も)という荒業を、軽々とやってのけた。改めて彼の芸達者ぶりに舌を巻いた。

オーディエンスが映像を楽しんでいる間、アンコールの準備を整えた4人は再びステージへ。「夢と悪魔とファンタジー」では、視覚でもタイトル通りのドリーミーな世界を創造し異世界へと誘った。「緊張しちゃうけど、久しぶりの曲です」と紹介したのはソリッドでエッジの効いた「逆転」だ。こうしたダークな感情も変に押し殺すことなく音楽へと昇華させることで、彼らは魅せる世界をどんどんと広げてきたのだろう。

「最後です。楽しんでついてきてもらえますか!」と呼びかけると、「キャラクター」へとなだれ込んだ。はじけるようにハッピーなこの楽曲は、2度目の出場を果たした「第74回 NHK紅白歌合戦」で77名の高校生のパフォーマンスとともに演奏されたことも記憶に新しい。長屋がpeppeに寄り添うようにそばに佇みながら嬉しそうに歌う一方で、小林はステージからアリーナへと降りて観客と交流を深めていた。すると、天井からはバルーンが降り注ぎ、眩しいくらいの多幸感に満ち溢れたまま、ライブは幕を下ろした。

2024年、本ツアーで幕を開けた緑黄色社会は、今年も歩みの速度を緩めるつもりは微塵もないようだ。元日から放送されている「チャレンジユーキャン2024」のCMテーマソング「Tap Tap Dance」もしかり。さらにアニメ「ダンジョン飯」のエンディング主題歌でホーンが轟くアップチューン「Party!!」など、リョクシャカの前向きなパワーがあちらこちらから既に耳に飛び込んできている。そして6月には、彼女たちが主催する対バンイベントの強力版とも言うべき<緑黄色大夜祭2024>の開催も決まっている。横浜アリーナで見たのは、加速度を上げて邁進する緑黄色社会の活躍がますます楽しみになる、そんな期待値をぐっと押し広げてくれるライブだった。

文:橘川有子
撮影:藤井 拓

  ◆  ◆  ◆

●セットリスト

2023年12月16日(土)@横浜アリーナ
01.またね
02.ずっとずっとずっと
03.始まりの歌
04.マジックアワー
05.幸せ
06.ピンクブルー
07.Starry Drama
08.あのころ見た光
09.陽はまた昇るから
10.Re(Acoustic)
11.サボテン(Acoustic)
12.花になって
13.Shout Baby
14.LITMUS
15.サマータイムシンデレラ
16.Landscape
17.Don!!
18.sabotage
19.Mela!
[BONUS STAGE]
01.夢と悪魔とファンタジー
02.逆転
03.キャラクター

<リョクシャ化計画2023-2024>

●日程・会場
2023/12/15(金)・16(土) 神奈川|横浜アリーナ
2024/1/7(日)・8(月・祝) 愛 知|日本ガイシホール
2024/1/13(土)・14(日) 大 阪|大阪城ホール

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