【インタビュー】セレブリティパワーが炸裂する第66回グラミー賞、その行方は?

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第66回グラミー賞が、2024年2月4日(日)(日本時間2月5日)にロサンゼルスのクリプトドットコム・アリーナ(旧ステープルズ・センター)で開催となる。日本では2月5日朝9時よりその様子がWOWOWプライムにて同時通訳の生中継で放送・配信となる予定だ。グラミー賞の見どころを解説し、さらなる深みに触れてくれる番組の案内役は、おなじみジョン・カビラとホラン千秋のふたりが務める。

これまで様々なトピックとともに世界の音楽産業に多大な影響を与えてきたグラミー賞だが、2024年の第66回グラミー賞では、主要4部門が6部門に拡張されるという進化を遂げ、さらに見どころが増えることとなった。圧倒的な女性アーティストの強さを見せるノミニーのラインアップから、現在の欧米音楽シーンはどのように読み取れるのか。

長年にわたり表から裏からグラミー賞を見てきたジョン・カビラは、第66回グラミー賞のノミネートをどう見たか。話を聞いた。


シザ

──第66回グラミー賞のノミニーを見て、どんな印象を持ちましたか?

ジョン・カビラ:女性アーティストがすごいことになってますよね(編集部註:新人賞を除く既存主要3部門で男性アーティストはジョン・バティステのみ。各部門で他7組は全て女性アーティスト)。これはこれまでにない展開です。実際の2023年のチャートアクションを見る限りだと、女性アーティストがNo.1になっているのはシングルで半分、アルバムだと3分の1ぐらいですから、特段チャートアクションが反映されているということでもないんです。米各メディアの報道や分析を見ていると、とにかくセレブリティパワーがすごい年だったっていうことですね。テイラー・スウィフトの<ジ・エラズ・ツアー>が10億ドルを超える総売り上げを達成し、これまでエルトン・ジョンが持っていた記録を軽く更新し、ビヨンセも社会現象的にセレブリティパワーを発揮していました。それに加え、バービー現象もありますね。

──なるほど。

ジョン・カビラ:映画『バービー』のサウンドトラック『Barbie The Album』関連からは、なんと主要2部門を含む8部門12ノミネートもされているんですよ。

──2023年の米エンタメ事情が大きく反映されているんですね。


ジョン・バティステ


テイラー・スウィフト

ジョン・カビラ:バービーも、実在の人物ではないですけれどもセレブリティですから、そのセレブリティパワーの炸裂が女性讃歌へ繋がっているような気はしますよね。ちなみに、シザが最多9部門9ノミネート、ヴィクトリア・モネとボーイジーニアスが7部門7ノミネートですけど、バービーは8部門12ノミネートですから(笑)。ビジュアルメディア関連で1部門に4作品ノミネートされているという偏りはありますが、12ノミネートというのはとてつもない現象ですよね。

──バービーのトップセレブ・パワー、凄まじい(笑)。


ヴィクトリア・モネ


ボーイジーニアス

ジョン・カビラ:ただ、新しいカテゴリーとして「最優秀アフリカン・ミュージック・パフォーマンス」が設立されたことで、アフリカンポップスの隆盛ぶりが見られるということもありますし、「最優秀オルタナティブ・ジャズ・アルバム」「最優秀ポップ・ダンス・レコーディング」なども加わり、全94カテゴリーになっている点と、やはり注目すべきは、主要4部門に「年間最優秀プロデューサー(ノン・クラシック)」「年間最優秀ソングライター(ノン・クラシック)」が加わって、主要6部門になった点ですね。

──この2部門が主要部門に移行された背景を、カビラさんはどう分析されますか?

ジョン・カビラ:プロデューサー/ソングライターの手腕をきっちりクレジットするということですから、やっぱり音楽に携わる皆さん全員で、部門をまたがって彼らを称えようというところですよね。みんなでサポートし、逆にその力量を測り合うみたいなところが出てきたんじゃないでしょうか。

──スポットが当たるのはいつもアーティストで、レコーディングエンジニアも作家もアレンジャーもプロデューサーも皆裏方でしたけど、時代とともにその認識も変貌しているわけですね。

ジョン・カビラ:やはり、正当に貢献を称えよう、そういう人たちの貢献をみんなで考えようという正常進化、正しい形の進化だと思います。プロデューサーなどは、ちゃんとクレジットを見るとひとつの作品にとどまらず、どのぐらい多岐にわたるジャンルで貢献しているのか分かりますよね。ジャック・アントノフみたいなポップ・プロデューサーのいわば神様に近いような人は、今回受賞すると3年連続でベイビーフェイスに並ぶ偉業になります。そういう方もいれば、ラテン系に強いとかヒップホップに強い人というのもありますから、そういうところにも目配せされてるなと感じます。

──表面の音楽だけを聞いていると、作品に関わったクリエイターの存在に気付かないですよね。


ビリー・アイリッシュ

ジョン・カビラ:昔はCD…もっと遡ればレコードでちゃんとライナーノーツに名前がクレジットされているのを、音楽ファンの皆さんはチェックされていたんですけれど、今はストリーミングになってしまって、プッシュ型ではそういうクレジットは届いてこないですよね。なので、グラミー賞の主要部門となると授賞式の本編中にフィーチャリングされますから、多岐な活動で音楽を作ってくれる人たちという形で認知され、それがセレブレートされる。それは素晴らしいことだと思います。

──時代の変化に伴って必要とされた新たな主要部門というわけだ。

ジョン・カビラ:ストリーミングに関しても、またひとつの記録が打ち立てられているんですよ。2019年では 1兆回のストリーミング記録に11ヶ月ぐらいかかってるんですけど、今は3ヶ月で1兆回再生に達することになっていて、皆さんが圧倒的にストリーミングで音楽に接している。だからこそ、グラミーを通して、こういう人たちの貢献で僕らはこのように音楽を楽しめることになってるんだっていうことがわかる。嬉しいことですよね。


マイリー・サイラス

──2部門の主要部門移行と女性アーティストの席巻…今回のグラミー賞はいつになく特別なものになりそうですね。

ジョン・カビラ:「年間最優秀レコード」「年間最優秀アルバム」「年間最優秀楽曲」という主要3部門では、男性が各ひとりしかいない。「最優秀新人賞」は8分の5が女性(男性3名、女性4名、夫妻デュオ1組の計8組がノミネーション)ということで、もう歴然としてるんですけど、実は冷静に見てみると、移行された「年間最優秀プロデューサー(ノン・クラシック)」「年間最優秀ソングライター(ノン・クラシック)」部門には、ひとりも女性がいないんですよね。

──それは興味深いですね。

ジョン・カビラ:南カリフォルニア大学のアネンバーグ・インクルージョン・イニシアティブというメディアのジェンダーギャップに特化した研究機関があるんですが、そこからは厳しい指摘が出ていますよね。プロデューシングとかソングライターのクレジットに女性は圧倒的に少ないといった指摘があることは、押さえておいた方がいいかもしれません。


デュア・リパ

──今回、日本人のクリエイターTOMOKO IDA(ともこ・いだ)さんもプロデューサーとして参加したタイニー『DATA』が、最優秀ラテン・アーバン・アルバム部門でノミネートされるという嬉しいニュースもありますね。

ジョン・カビラ:この評価はめちゃくちゃ嬉しいですよね。本当に快挙です。

──SNSでアーティスト同士がすぐに繋がり、コラボやコライトが一晩で進む時代ですから、多くの日本人の活躍がグラミーで評価される時代が近いのかもしれません。

ジョン・カビラ:いや、間違いなく来ると思いますね。ソーシャルメディアで繋がって、母国語としない言語でも翻訳ソフトを使って交流できちゃいますから、AIも安全に使えることが大前提ではありますけど、そういった形で言葉の壁はもう完全に超えることができる時代ですので、これは本当に楽しみ。K-POPもJ-POPもほんと、どうなるかわからないですよ。

──日本のシティーポップの再評価の波を考えても、日本独自の音楽エンターテイメントがグラミーでも評価されて欲しいなあ。

ジョン・カビラ:Netflixなどでも日本のマンガを実写化するという動きがあって「幽☆遊☆白書」なんかもそうですけど、そういう形で世の中に出てくると、まさかのアニソンカテゴリー?みたいな、誰もが想像していなかったようなことが起こる可能性はありますよね。Z世代がマーケットを牽引している時代ですから、グラミー賞を主催しているザ・レコーディング・アカデミーの人たちは全くイメージしていないでしょうけれど、ほんと、わかんないですよ。

──ワクワクします。

ジョン・カビラ:いわゆるセールスを評価するのではなく、お互いがお互いを評価するっていう、このフィルターが面白いんですよね。単純な年間チャートを表彰するのではないというところ。音楽を作る皆さん、音楽を世に出すということに関与しているあらゆる仕事の皆さんが、お互いをセレブレートすること、ここだけはおそらく未来永劫変わらない。これがアカデミーの存在基盤のひとつでもありますからね。


オリヴィア・ロドリゴ

──今年のグラミー賞も、見どころは満載ですね。

ジョン・カビラ:それと、グラミー賞はやっぱりパフォーマンスですよね。確実にバービー・ステージはあるでしょうね(笑)。当然どこかに入ってくると思うんですけど、まさか、ライアン・ゴズリング(編集部註:映画『バービー』にてバービーのボーイフレンド、ケンの役を演じた)がグラミーのステージに立って歌ったらどうなっちゃうんだろうみたいな(笑)。だって、バービー関連のビリー・アイリッシュもドゥア・リパもパフォーマンスするから、ケンもね!みたいな感じでね。

──バービー関連でも盛り上がりそうですね。


映画『バービー』 ©2023 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

ジョン・カビラ:司会のトレバー・ノアも「最優秀コメディー・アルバム」でグラミーにノミネートを受けているので、何かやってくれないかなって思います。彼は鋭い社会批判もするし、ジェンダーのこともどこかで取り上げてくるだろうし、トランプ氏絡む米大統領選挙もありますし、練りに練ってくるでしょうから、めちゃめちゃ楽しみですね。あとは記録ですよね。テイラー・スウィフトが「年間最優秀アルバム」6回目のノミネートで、女性アーティストとしてはバーブラ・ストライサンドの記録に並びましたが、その『Midnights』が受賞すると史上初の4回受賞という快挙になります。新しい記録が生まれる可能性のあるグラミーなんです。


トレバー・ノア

──当日はサプライズもあるでしょうし。

ジョン・カビラ:ビッグサプライズが、当日誰も知らないままライブで繰り広げられることもありますからね。ほんと、楽しみですね。

──まずは2月5日(月)朝9時から同時通訳のWOWOW生中継で臨場感を楽しみますが、その後オンデマンドでじっくり見直すと、生では見逃してしまった見どころやまた違うものが見えてくるという。

ジョン・カビラ:そうなんですよ。スマホのようなデバイスで、どこにいても見られますから、是非オンラインで見ていただいて同時通訳の労をとってくださる皆さんの技術にも驚愕しながら、夜は字幕で生の声を堪能する。世界広しといえどもグラミーをこのように楽しめるのはなかなかないですよ。WOWOWのグラミー賞は1番絞りが美味しいですけど、2番絞りもめちゃくちゃ美味しいですから(笑)。

写真◎Getty Images
取材・文◎烏丸哲也(JMN統括編集長)

◆WOWOW 第66回グラミー賞授賞式®特設サイト

WOWOW番組情報

「生中継!第66回グラミー賞®授賞式」※二カ国語版(同時通訳)
2024年2月5日(月)午前9:00 放送・配信

「第66回グラミー賞®授賞式」※字幕版
2024年2月5日(月)午後10:00放送・配信

◆WOWOW 第66回グラミー賞授賞式®特設サイト

【授賞式パフォーマンス情報】
第一弾発表
・ビリー・アイリッシュ
・デュア・リパ
・オリヴィア・ロドリゴ
第二弾発表
・バーナ・ボーイ
・ルーク・コムズ
・トラヴィス・スコット
※WOWOWオンデマンドにて上記アーティストを含む「第66回グラミー賞の見どころ番組」を無料配信中。

第66回グラミー賞 主要部門ノミネーション

年間最優秀レコード
「Kill Bill」 シザ
「Worship」 ジョン・バティステ
「Not Strong Enough」 ボーイジーニアス
「Flowers」 マイリー・サイラス
「What Was I Made For?」 ビリー・アイリッシュ
「On My Mama」 ヴィクトリア・モネ
「Vampire」 オリヴィア・ロドリゴ
「Anti-Hero」 テイラー・スウィフト

年間最優秀アルバム
『SOS』 シザ
『World Music Radio』 ジョン・バティステ
『The Record』 ボーイジーニアス
『Endless Summer Vacation』 マイリー・サイラス
『Did you know that there's a tunnel under Ocean Blvd』 ラナ・デル・レイ
『The Age of Pleasure』 ジャネール・モネイ
『GUTS』 オリヴィア・ロドリゴ
『Midnights』 テイラー・スウィフト

年間最優秀楽曲(ソングライター)
「Kill Bill」 シザ
「A&W」 ラナ・デル・レイ
「Anti-Hero」 テイラー・スウィフト
「Butterfly」 ジョン・バディステ
「Dance the Night」 デュア・リパ
「Flowers」 マイリー・サイラス
「Vampire」 オリヴィア・ロドリゴ
「What Was I Made For?」 ビリー・アイリッシュ

最優秀新人賞
グレイシー・エイブラムス
フレッド・アゲイン
アイス・スパイス
ジェリー・ロール
ココ・ジョーンズ
ノア・カハン
ヴィクトリア・モネ
ザ・ウォー・アンド・トリーティ

年間最優秀プロデューサー(ノン・クラシック)
ジャック・アントノフ
ダーンスト・エミール2世
ヒット・ボーイ
メトロ・ブーミン
ダニエル・ニグロ

年間最優秀ソングライター(ノン・クラシック)
エドガー・バレーラ
ジェシー・ジョー・ディロン
シェーン・マカナリー
セロン・トーマス
ジャスティン・トランター

◆WOWOW 第66回グラミー賞授賞式特設サイト
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