【ライヴレポート】DIR EN GREY、清々しき血みどろの夜。全ての過去と現在を繋ぎ熱狂を──

このバンドにして、このファンあり。そして、その逆もまた真なり。DIR EN GREYの今年最初のライヴを目撃して、何よりもそう強く感じさせられた。

◆ライヴ写真

今回は1月16日と17日、川崎・CLUB CITTA’ にて『MY BLOODY VAMPIRE』、さらに同20日、21日には大阪・GORILLA HALLにて『PSYCHONNECT』と銘打ちながらの二夜公演が組まれており、これらはすべて彼らのオフィシャルファンクラブである「a knot」会員限定公演となっている。

昨年には現時点での最新オリジナルアルバムにあたる『PHALARIS』（2022年）に伴う三巡目の全国ツアーが実施され、同作を軸とする時間の流れが一応の完結に至っている。しかも今年は彼らにとってメジャーデビュー25周年にあたり、それに合わせて1月17日には「19990120」と題された規格外の最新アイテムも登場。25年前のデビュー日をそのままタイトルに掲げたこの作品には、当時3作品同時という異例の形でリリースされた「アクロの丘」「残」「ゆらめき」の3曲の再録音源が収録されている。

これまでにも過去の楽曲の再構築にたびたび取り組んできた彼らではあるが、今回の場合は、音楽的な刷新やアップデートを目的とするものではなく、当時から四半世紀を経た現在なりの、ごく自然なスタンスでの演奏に徹している点がとても興味深い。しかもそうした前後関係の流れがある中で迎えた今回のFC会員限定公演に『MY BLOODY VAMPIRE』、『PSYCHONNECT』というタイトルが掲げられている点に、コアなファンは情報解禁時から敏感に反応していたことだろう。なにしろ前者は2002年の夏に実施されたツアー＜列島激震行脚2002 MASTER OF MONSTER＞にサブタイトルとして伴っていた言葉、後者はデビューアルバム『GAUZE』（1999年）発表当時のツアーに関せられていたタイトルだ。

彼らのFC会員限定ライヴでは、通常の公演の際にはなかなか披露されることのないレアな楽曲が飛び出すこともよく知られているが、こうした物事の流れや過去との因果関係について考えれば考えるほど、今回の公演内容には予測しきれないところがあった。しかも川崎での二夜公演については「演出の都合上、衣類等が汚れるなどの可能性」があるとの注意書きが添えられている。ファンとしては「これは、もしかして……？」と想像力と好奇心を膨らまさずにいられなかったことだろう。そしてDIR EN GREYは実際、そうした期待感を遥かに超越した刺激と興奮をもたらしてくれた。


1月16日の第一夜、場内が暗転したのは開演定刻の午後7時を5分ほど過ぎた頃のこと。オープニングSEの「G.D.S.」が聴こえてくると同時に場内の興奮度は急カーブで高まりを見せ、Shiniya、Die、Toshiya、薫の順にメンバーがステージ上に姿をみせると、歓喜の声が地響きのように沸き上がる。そして最後にフロントマンの京が登場した瞬間、オーディエンスは歓声をあげながらも彼のたたずまいに息を呑んでいたはずだ。髪型といい服装といい、簡単に言葉で描写することを拒絶するかのようなその姿は、一言で言うならばまさに異形。しかも、そこで炸裂したオープニングチューンは「残」。まるで檻から獣が解き放たれたかのような獰猛なサウンドと歌唱が、勿体を付けることなく襲い掛かってくる。

しかもそこで京は、ドラム・ライザーに並ぶ黒いバケツに入った液体をフロアめがけて次々とぶちまけていく。新年早々、なんという仕打ち。しかし、血以外のものを連想させることのない赤い粘液を浴びた観客たちは、むしろそれによって高揚感をもたらされているかのようにも見受けられた。しかも改めて見渡してみると、普段は黒い衣服で埋まっているのが常である場内に、白をまとった観客の姿が目立っている。このライヴの特殊な様相についてあらかじめ察知し、自らあの液体にまみれ、その痕跡を残すことを望んでいる証しだろう。冒頭に記したとおり、まさに「このバンドにして、このファン」である。

あまりにも残虐なオープニングから、曲は「ZOMBOID」へと移っていく。『鬼葬』（2002年）に収録されていたこの楽曲は、まさに『列島激震行脚』というキーワードを掲げながら展開されていたツアーシリーズを象徴するナンバーのひとつだといえる。しかも、そこに『PHALARIS』からのセレクトである「Eddie」が続いても、不思議なほど時代的なギャップや違和感がない。デビューから四半世紀、結成から27年を経てきたこのバンドの歴史の中で、現在と過去が不思議に絡み合いながら繋がっているのを実感させられる瞬間だった。

かつて『MY BLOODY VAMPIRE』という副題が付けられたツアーが行なわれていたのは、同年1月に発表された『鬼葬』からの流れを汲みながら、シングル「Child prey」とミニアルバム『six Ugly』の登場を控えていた当時にあたる。そして、当時から21年半を経ている現在の彼らは、あの頃を思い起こさせずにおかない楽曲たちを随所にちりばめつつも、初期から近年に至るまでのさまざまな地点からの選曲が盛り込まれた、変化に富んだステージを展開してみせた。

特徴的だったのは、彼らのライヴには欠かせない要素のひとつだと認識されているはずの映像を用いての演出が皆無だったことだ。しかしもちろん、それが物足りなさに繋がったわけではない。モダンで色鮮やかな照明は演奏のスピード感に似つかわしいものだったし、映像が伴っていないことがむしろ新鮮にも感じられた。しかも前述のように、京は幾度となくバケツに入った赤や黒の液体をぶちまける。そこで各曲に映像が伴っていたりしたならば、あまりの情報量過多とめまぐるしさに、こちらの思考回路もパンクしていたのではないだろうか。


ライヴ本編を「CHILD PREY」で締め括ると、アンコールの冒頭では25年前と現在とを繋ぐかのように「ゆらめき」が披露された。そして最後の最後、「CLEVER SLEAZOID」を演奏し終えると、京は口に含んだ水を客席に向けて噴射。各メンバーも手加減なく水をぶちまけていた。しかも5人が姿を消してからも、再アンコールを求める声と手拍子はしばらく止むことがなかった。血まみれのような姿でさらなる攻撃を求めようとするオーディエンスの姿は、異様でありながらもどこか純粋で美しいもののように見えた。

さて、通常、こうしたタイミングでの記事においては、直後に大阪公演が控えているだけに具体的な演奏曲目については触れずにおくべきところだが、今回の場合に限ってはそうした配慮は無用であるようだ。というのも、この計4公演については、川崎と大阪で公演タイトルが異なっているのみならず、セットリストも差別化されているようなのだ
川崎の二夜を血みどろに染めた彼らは、大阪ではどんな地獄絵図を作り上げようとしているのだろうか？　迂闊にも地獄などという言葉を使ってしまったが、その空間はオーディエンスにとってむしろ楽園に近いものだったに違いない。着衣の汚れや乱れを気にすることなく帰路に就く来場者たちの姿からは、逆に清々しささえ感じられたほどだった。こうして2024年のDIR EN GREYは、あくまでDIR EN GREYらしく始まったのだった。

文◎増田勇一
写真◎尾形隆夫