【インタビュー】ACIDMAN、大木伸夫が語る映画『ゴールデンカムイ』主題歌「“輝けるもの”という言葉がピタッとはまった」

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■ここから始まるストーリーだから
■だからこそ幕開けに激しい曲で


──題材から受けたインスピレーションやひらめきがあって、それをもとに曲が形作られていったということですが、制作方法は普段の作り方と近いですか?

大木:めちゃくちゃ近いです。最初はほとんどボイスメモからですね。そこから形にするまでに時間がかかる。いいアイデアとかはパーっと生まれてくるんですけど、そこでなんとなく満足しちゃうんですよね、いつもは。時間をかけてパソコンに向かって作り上げているときは楽しんだけど、段々と飽きてきちゃって。面倒くさがりやなので(笑)。

──ははは。ところが今回は、そうではなかったわけですよね。「翌々日くらいには、大枠のメロディを作っちゃった」ということですから。

大木:映画制作側の気持ちも少しわかるので。こういうときの曲出しって、早ければ早いほど嬉しいと思うんです。曲のクオリティはもちろん大事だけど、とにかくスピード感ある作業がいちばんいいだろうなと。だから、締め切りの1ヵ月前には曲を提出しましたね。実はそこって、僕のなかで昔から大事にしているところでもあるんです。そうすれば、もしイメージと離れていたらすぐに変更できる。こっちも対応する時間があるし、向こうも焦らずに済む。なので、なるべく早くというのは、常に心がけていることで。


──映画主題歌やテーマ曲というものの立ち位置は、大木さん自身はどういうものだと考えていますか?

大木:その映画の質感にもよると思うんですけど。例えば僕は、単館系の映画も好きなんですけど、そういうものには音とか効果音はあまりいらないと思っているんです。主題歌もほしくないし、無音くらいのほうがいい。そのほうがよりリアリティもあって感情移入もできるから。でも、エンターテインメント作品となると、やはり音楽によって観ているほうの感情はめちゃくちゃ上がりますよね。しかも映画館の大音量で観るだけでも気分が高揚するし、悲しみも増幅するっていうのは、すごく大事な要素だなと思っている。だから、エンターテインメント映画と主題歌というのはすごく相性がいい気がしています。

──もともと映画好きの大木さんにとって、主題歌は念願でもあった感じですか?

大木:2018年に映画『犬猿』(吉田恵輔監督)の主題歌をやらせていただきましたが、それ以前も以降も、“いつか映画の主題歌をやりたい”と思って曲作りをしたことは一度もないです。“ただただ、いい曲を作りたい”と思っているので、そういう発想ではないんですよね。でも、いい映画を観た後に、少しでもそこに携われたらいいなと思ったことはありますけどね。“音が一個だけ入ってる”とかでもいい(笑)。主題歌をやらせていただけるなんてめっそうもないと思っていました。

──『ゴールデンカムイ』実写版映画化の情報が流れたとき、主題歌をACIDMANが担当することにロックファンが湧きましたよね、SNS上とかで。

大木:そうですね。嬉しいんですけど、それが結果ではないというか。やっぱり最高の結果は、映画がヒットすることなので。もちろんありがたいなっていう気持ちはあるけど、感情としては1ミリも動かなかったっていうんですかね。もっと浮き足立ちたかったけど…それが正直なところです(笑)。それによって世界が変わったわけではないから。身が引き締まる感じはありますけどね、本当に映画が成功してほしい。

──今のACIDMANが大型映画の主題歌を手がけることに、意味があると思うんですよね。単なる話題性や流行り廃りではなく、実直に自分たちの音楽を描いてきたACIDMANだからこそでしょうし、その信頼感があってこその起用だと思うんです。

大木:映画のプロデューサーさんもコメントのなかで、10-FEETのことを引き合いに出していたりして。10-FEETのTAKUMAは僕よりも年齢は上だけど、同世代だし同期として同じ時代を生きてきた。映画『THE FIRST SLAM DUNK』のエンディングテーマを手掛けた彼らのおかげで、僕らの音楽とかこの世代の音楽に注目してくれる人が増えたのかもしれないし。もしそういう効果のひとつであるとするならば、僕らがこれをきっかけに、またその一端になれたら嬉しいですよね。この世代だけの話じゃなくて、バンドってカッコいいなと思ってくれたらめちゃくちゃ嬉しい。


──その上で、新曲「輝けるもの」という激しくエモーショナルな曲が、いいインパクトを放ってくれるのではないかと。

大木:そうです。非常にバンドっぽいシンプルな曲なので。

──新曲「輝けるもの」は、ACIDMANがこれまで描いてきた生命や普遍性というテーマが、映画の物語ともシンクロしています。

大木:そうですね。あまりこねくり回すことはしませんでした。直情的だったと思います。こういうときってエネルギーの流れがあるから、思ったままに、インスピレーションのままに、と思いながら作りましたから。

──実は映画主題歌を手がけるということを聞いたときに最初、きっとACIDMAN独特のカタルシスのある曲がくるんだろうなと勝手に想像していたんです。

大木:そうですよね、僕もそっちのほうが作りやすいんですけどね、年も重ねているので。最初にレーベルの代表から電話をいただいたときは、「“「ある証明」がイメージだった”とプロデューサーさんから言われた」ということを聞いて。“ああ、なるほどそっちか。ああいう曲は歌うのしんどいんだよな”と思いつつ(笑)。

──ははは。

大木:映画プロデューサーや製作陣は『キングダム』シリーズを手掛けている方々で。映画『キングダム』主題歌のONE OK ROCK「Wasted Nights」とか、ああいう激しい系の感じを求められているんだなと思いましたね。映画『キングダム2 遥かなる大地へ』ではMr.Childrenの「生きろ」が主題歌だったじゃないですか。僕はそっち系も好きなんですよね。どっちの感じかな?というところで、「激しいほうで」と言われたので、そこで見えたこともあった。切り替えて楽曲制作に臨んだ感じです。


──「大人にしか出せない」ということと「激しさ」を共存させたわけですね。歌詞やメロディーなど、「輝けるもの」のポイントとなったのはどの部分ですか?

大木:“♪生きとし生けるもの達の”という最初の部分ですね。このAメロ部分は、『ゴールデンカムイ』の世界観や、アイヌの人々の持つ美しさや素晴らしさと、僕たちの儚い生き方との対比ができないかなと。あとは、打合せのとき松橋プロデューサーから、「映画の中でアシㇼパと杉元(佐一)が手を握るシーンがあるので、手と手を取り合う、というのを入れてほしい」と言われてイメージしたのが、Cメロの部分ですね。

──“♪君がくれた一つの音で 世界は色付き始めたんだ だからその手を離さないで この手は君を守るために”のところでしょうか?

大木:そこは、オーダーをいただけたから書けたシーンでもあり、もともと思っていたものとピタッとはまったところでした。プロデューサーに「Stay in my hand」と言われたときから、絶対こういうことですよねっていうイメージがあったんですよね。

── “ACIDMANの音楽で映画をこう彩ってもらいたい”というイメージがプロデューサーさんにも具体的にあったんでしょうね。

大木:そうだと思います。今回バラードじゃなかったのはきっと、ここから始まるストーリーだからだと思います。『ゴールデンカムイ』ってここから物語がどんどん壮大になっていくから、今回で大団円を飾るようなバラードがくると締まっちゃうというか。だから、今回はオープニングなんですよね。きっと始まりだからこそ、激しい曲で幕開けにしてほしいという感じだったと思うんです。

──なるほど。壮大でクライマックス感のあるバラードもACIDMANは得意ですけどね。

大木:どっちもやりたいです(笑)。

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