【ライブレポート】とにかく、最高だった──Kroiの武道館。集大成と革新が混在する圧倒的2時間

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1月20日、日本武道館にてKroiのワンマンライブが行われた。結成から6年弱でこのステージに辿り着けるバンドが、果たしてどれぐらいいるのだろう。彼らはこれまでにワンマンとしてZepp Haneda、LINE CUBE SHIBUYA、NHKホール、さらには日本各地のフェスで着実に場数を踏んできた。2019年8月のサマーソニック、彼らは(ほぼ)朝方のビーチステージに立っていたが、当時から考えると随分遠くまで来たように感じられる。そのライブでは、同年12月に加入するDaiki Chiba(Key)の姿はまだなかった。

◆ライブ写真(33枚)

その頃から定番の「Fire Brain」は今回の武道館公演でも披露されたが、明らかに「含み」があった。これは筆者の実体験がもとになっているので、調べると例外があるのかもしれないけれど、2019年のサマーソニックから今日に至るまで、Kroiのライブではこの「Fire Brain」はラスト、もしくはアンコールを飾る楽曲だった。少なくとも、上で挙げた3つのワンマン公演では必ずこの曲が最終盤のKroiをブーストしていた。それは<GREENROOM FESTIVAL'23>や、スケールを2回り以上大きくして凱旋した<SUMMER SONIC 2023>(東京会場)でも同様である。


そんな「Fire Brain」が今回のライブでは1発目に持ってこられたとあって、大いに会場はざわついていた。開幕直後の黄色い歓声の中に、わずかに驚きのニュアンスもあったような気がする。恐らく、彼らはこの機会を探していたのだと思う。いつもなら“Burn such a brain”というフレーズがバンドの超絶インプロビゼーションを牽引し、その技巧な演奏でもって終幕に繋がるのだが、今回は始まりに過ぎなかった。その重大な変化を武道館に持ってきたことから、やはり彼らがこのライブをどの程度重要視していたかが窺い知れるだろう。

そこから2曲目の「Drippin'Desert」へシームレスに繋がり、この時点でほぼバンドメンバー全員に見せ場があった。特に4曲目の「夜明け」は圧巻で、フロントマンのLeo Uchida(Vo)がアンニュイな歌詞を高らかに歌い上げると、Masanori Seki(B)やDaiki Chibaが代わる代わる巧みな演奏をみせる。それさえもシームレス。もはや彼らは各楽器のソロパートをもったいぶる必要もなく、全員が高いクオリティをさらりと表現するのだった。



個人的に、Kroiの凄さはこの「カジュアルさ」にあると思っている。「夜明け」の歌詞、“もうじき朝が来る 正直一睡もしてない”というフレーズは、まるで武道館に臨む彼らの心境を表しているようではないか。さらに後ろのスクリーンに映されたビジュアルでは、朝日が昇ってゆく様子が表現されており、個人的にはこれを彼らなりのギャグとして解釈した。実際、その後のMCでUchidaは武道館公演を前にした「浮足立ちエピソード」として「(普段は買わない)タピオカ購入」を挙げ、Yuki Hasebe(G)はライブ前に「MONGOL800の過去のライブの模様をPCで確認しながらシミュレーションしていた」と語った。百戦錬磨のテクニックを鼻にかけるでもなく、彼らからすればその技巧は喫茶店の雑談のようなものなのかもしれない。


ライブ会場のサイズがグレードアップしてもそういった気楽さは変わらず、それはKroiの大きな魅力のひとつだと思う。「Monster Play」(2019年)が演奏された後のMCで「この曲もお客さんが数人だった頃からやってるけど、そろそろサイズ感とか考えないといけないよね」と語られると、さすがに感慨深くなる。この場面に限らず、この日はこれまでのKroiを振り返る発言が多かった。



9曲目の「Page」ではHidetomo Masuda(Dr)がスリリングなドラムソロを見せ、セットリストの半分も行かないうちに文字通り「全員」がソロパートを披露した。“喫茶店の雑談”が強大な迫力を伴って我々の体を揺らす。そして特筆しておきたいのが、Uchidaのボーカリストとしての圧倒的な成長だ。「Hyper」ではカート・コバーンばりに声を張り上げ、歌唱の幅が広がっているように感じられる。2022年から2023年にかけて行われたKroiの全国ツアー<BROADCAST>の頃から彼のボーカルに進化を見ていたが、今回の武道館公演で確信に変わった。

ハプニングとして会場を沸かせたのが、Hasebeによるセットリストのミスだ。これによって、本来は15曲目として演奏されるはずだった「Astral Sonar」が11曲目に来てしまった。この規模になると裏方に徹する人間(たとえばPAや照明)の数も甚大なので、たとえオーディエンスが気付かなくとも曲順が変わったことを全員に知らせねばならない。Kroiの面々はユーモアを交えながらこの場を切り抜けると、演目は“チルな”セクションへと移行する。

念のため断っておきたいのだが、もちろん筆者はこのミス自体をあげつらいたいのではない。むしろ称賛したい気持ちさえある。なんなら、先述のZepp Hanedaでも彼らは機材トラブルを即興でカバーする場面もあったし、そもそもKroiの楽曲をノーミスで演奏するのは極めて困難だろう(と書くと本人たちは不服かもしれないが)。逆境(トラブル)からの挽回が最高にクールであることは、あらゆるアーティストのあらゆるケースが証明している。


そしてその挽回に一役も二役も買ったのが、まさしくチルセクションなのである。ジャズ・スタンダードな趣を感じるChibaのキーボードから始まった「Never Ending Story」は、Hasebeが爪弾くギターによって修飾される。長髪をたなびかせる風貌と演奏スタイルから、長谷部に対してはオールドスクールなロックスターの姿を重ねることが多かったのだが、この日の彼は情感たっぷりにメロウなサウンドスケープを作り出していた。筆者はこの楽曲について以前からディアンジェロの名曲「Untitled」をみていたが、改めてKroiからネオソウルへのリスペクトを感じた。

11曲目から15曲目に移動したのは「Pixie」だったが、結果的にこれはこれで良かったのではないだろうか。というのも「Pixie」からMCを挟んで、待望の“ダンスセクション”に突入したからだ。ミドルテンポな「Pixie」は、アップリフティングなダンスチューンの前にぴったりな一曲である。Kroiはかねてよりオーディエンスに「踊ろう」と呼びかけていることから、彼らのライブにおいていかにこのセクションが重要かが理解できる。インディーズ時代にリリースされたロウハウスなニュアンスの「Network」、Sekiの超絶ベースが火を噴く「selva」、定番のファンキーチューン「HORN」……筆者は2階席からライブを観ていたが、このときのフロアの様子は壮観だった。左右に揺れたり飛び跳ねたりしてステージへ声援を送る彼ら/彼女らの姿は胸に迫るものがあり、この瞬間を待っていたのはKroiだけでなく我々も同様だったのだと思い知らされる。


「Shincha」で本編が終わった後、時計に目をやるとこの時すでに開演から2時間が経とうとしていた。体感の短さでは、近年の音楽体験では指折りかもしれない。アンコールを求める万来の拍手に、近づいてくる終幕の足音を重ねていた。そして再びステージ上へと姿を現したKroiによって演奏されたのは「Juden」。明日の体力すら使い切ってしまうような、鬼気迫るパフォーマンスだった。彼らがセットリストの最後に持ってきたのは、初のフィジカル盤EP『Polyester』から表題曲。


正直に告白すると、先述した2019年のサマーソニックにおけるKroiとの出会いは偶発的なものだった。当時は彼らのことも知らなかったし、「Polyester」についてもリアルタイムで聴いたわけではない。リアルタイムでエリカ・バドゥに救いを求めるUchidaの歌声を聴いていた人が羨ましいし、同時に心から感謝している。嵐の中渋谷のLushに全く人が集まらなかった夜に、彼らを支えた数人の人。彼らのスピード出世の影には、きっとそういった人々の熱い思いがあるに違いない。スクリーンに映し出されるエンドロールを眺めながら、彼らに関わる人々の思いがドカドカ胸に入ってきた。

武道館公演について「自分たちとしてはようやくか、という思いがある」とUchidaが語るように、彼らにしか分からない苦難も多かったと推察する。これまでにもそれらの片鱗を感じ取ることができたが、今回のライブが最もそれを具体的に感じられた。最後にあえて修飾語を省いて書こう。とにかく、最高だった。

取材・文◎川崎ゆうき
写真◎jacK / Goku Noguchi

<Kroi Live Tour 2024>

【特設ページ】
kroi.net/tour2024

【日程】
2024.08.23(金) KT Zepp Yokohama 開場:18:00 開演:19:00
2024.08.29(木) Zepp Nagoya 開場:18:00 開演:19:00
2024.08.31(土) Zepp Fukuoka 開場:17:00 開演:18:00
2024.09.01(日) BLUE LIVE HIROSHIMA 開場:16:30 開演:17:30
2024.09.06(金) 仙台PIT 開場:18:00 開演:19:00
2024.09.08(日) Zepp Sapporo 開場:16:30 開演:17:30
2024.09.12(木) Zepp Osaka Bayside 開場:18:00 開演:19:00
2024.09.15(日) 香川festhalle 開場:17:00 開演:17:30
2024.09.21(土) 新潟LOTS 開場:17:15 開演:18:00
2024.09.26(木) Zepp Divercity Tokyo 開場:18:00 開演:19:00

【TICKET】
前売り
¥6500(新潟/香川/広島公演のみ 前売り¥5800 )税込/ドリンク代別

■公式FC”ふぁんくらぶ”最速先行
1月20日(土)21:00~2月4日(日)23:59
https://kroi-fc.net

■オフィシャル先行
2月9日(金)12:00~
https://w.pia.jp/t/kroi-t/

※未就学児童入場不可 / 小学生以上チケット必要

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