【インタビュー】聴き手の生活もたちまち鮮やかに染め上げる、おとなりにぎんが計画の音世界

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おとなりにぎんが計画

2023年に結成され、2024年2月に1周年を迎えた名古屋の4人組バンド・おとなりにぎんが計画が、初のミニアルバム『やさしい地図を描くんでしょ』を2024年3月27日(水)にリリースする。

2023年は<出れんの!?サマソニ!?2023>を勝ち上がり<SUMMER SONIC 2023>に出演を果たし、各所大型サーキットイベントで入場規制がかかるなど、注目を集める彼女たち。初の全国流通盤となる今作『やさしい地図を描くんでしょ』には、2023年にリリースしたEPのリード曲「300えん」と「金魚の餌」の再録ヴァージョン、「ごはんできたよ」のバンドヴァージョン、新曲3曲の計6曲を収録した、まさに名刺代わりの1枚となった。

初音(Vo, G)による独自の視点と発想で日常を捉えた楽曲と、個性豊かなフレーズが織りなす音楽は、聴き手の生活もたちまち鮮やかに染め上げる。バンドの生態を解明すべく、今作を通して4人の音楽観に迫った。


左から清水紀花(Dr)、実優(Key)、初音(Vo, G)、嘉壱(B)

──初音さんはもともと弾き語りでも活動していましたが、なぜバンドを組みたいと思われたのでしょうか。

初音(Vo, G):仲間が欲しかったからです(笑)。ひとりは寂しいし、自分の曲がバンドサウンドになるのは憧れだったので。

──そして前のバンドの解散後、初音さんが“最強”と思う3人に声をかけて結成したのが、おとなりにぎんが計画ということですね。


初音(Vo, G)

清水紀花(Dr):もともとこの4人は同じ音楽系の専門学校に通っていて。在学中の初音ちゃんは存在感もカリスマ性もあったので、初音ちゃんとバンドを一緒にやったら楽しそうだなと思って、ぜひと返事をしました。

実優(Key):初音ちゃんの作る曲が好きだったから、誘われてすぐにOKしました。歌い方もギターの弾き方も心打たれるし、独自の空気感があって前々からすごいなと思っていました。

──嘉壱さんはお三方の『専門学校の先輩』とのことで。

嘉壱(B):在学中はまさか一緒にバンドやるなんて思ってなかったですね。卒業してからしばらく経って、組んでいたバンドが止まることになって、ちょうどそのくらいの頃に初音ちゃんから連絡が来て。それで初音ちゃんの弾き語りライヴを観に行ったら、“なんだこの子、くそ面白いぞ!”とヴォーカルスタイルに圧倒されたんです。それで一緒にやろうと思いましたね。


清水紀花(Dr)


実優(Key)


嘉壱(B)

初音:嘉壱さんが在学中に、嘉壱さんのバンドが出ているイベントに行ったんです。その日いちばん輝いていたのが、主催バンドでもほかのバンドでもなく、嘉壱さんだったんですよね。ベースがうまいだけでなく人を引きつける力を持っていたので、ぜひ入ってほしいと思ったんです。

嘉壱:……こんなふうに言ってもらえるなんて気分がいいね(笑)。

初音:のりピー(清水紀花)は学校でひとりで練習室を使いまくってるタイプの子で、あとSIMI HOUSEというレコードを紹介するYouTubeチャンネルをやっていたんです。そのおしゃべりも魅力的だったし、センスも顔もめっちゃ好きで。音楽だけでなく、アートワーク周りでもこの子と一緒にやれたらいろいろ楽しそうだなと思いました。実優ちゃんは先生よりキーボードがうまいんじゃないか!?と思うくらい上手で。

実優:(笑)。3歳からエレクトーンをやっていて。キーボードをやったことがないから、そのために学校に入ったんです。

初音:あと実優ちゃんはすごい変わり者…というか人に媚びないんですよ。それはのりピーも同じかな。あと可愛いのものりピーと同じです(笑)。前のバンドをやっていた時から実優ちゃんはわたしの曲を好きと言ってくれていたし、一緒にやりたいなと思っていたので声を掛けました。

──お話を伺っていると、初音さんは芯と個性のある人がお好きなんですね。

初音:かもしれない。わたしの理想のバンド像は、『ONE PIECE』の麦わらの一味みたいに全員のキャラクターが立ったバンドなんです。前のバンドのメンバーは控えめで、わたしの後ろに下がるタイプで。でもわたしとしては、個性のある人たちが一緒にいてくれると安心できるんですよね。



──そんなばらばらのキャラクターの4人は、短期間でどうやってバンドとしての結束を強くしたのでしょう?

嘉壱:僕は実優ちゃんとのりピーと面識がなかったので、最初に4人で通話をしたときは他人行儀でした(笑)。でも練習と通話を頻繁に重ねていくうちに少しずつ信頼関係が築けてきたというか、「この人はこういう人なんだな」とだんだんわかってきて。

清水:ほんとわたしは最初嘉壱さんがすごく怖くて。

一同:あははは。

清水:声が大きいし、これまで仲良くしてきた人と全然タイプが違うので、初対面から半年ぐらいは「この人と一緒にバンドやれるのか…?」と思っていたんですけど(笑)、付き合いが長くなるにつれて、嘉壱さんの人間的な魅力やプレイヤーとして優れているところが見えてきたんですよね。今は仲良しですし、尊敬しております(笑)。

嘉壱:よかったです(笑)。



実優:わたしは特に何も思いませんでした。「あー、こういう人たちと一緒にやるんだな」って。

初音:実優ちゃんは肝が据わりまくってるんです(笑)。ライヴでもそうだよね?

実優:ライヴもそんな緊張しないです。

嘉壱:少しは緊張してほしいんですけどね(笑)。女の子3人男1人という編成で年齢差もあるので、やっぱりちょっとした不和は出てくるんです。でもそのたびにしっかり意見交換をして、音楽的な成長だけでなく少しずつみんな人として成長してきたんですよね。お互いがお互いを「人間としてちょっとずつ大きくなってるな」と実感できているから、楽しくバンド活動ができてるんじゃないかなって。



初音:確かにその通りだ。最初の頃に比べると、みんなかなり成長したよね。

──その日々で生まれた楽曲を詰め込んだのが『やさしい地図を描くんでしょ』ということですね。初音さんは以前より「日記を書くように歌を歌いたい」とおっしゃっていますが、なぜそう思うようになったのでしょうか。

初音:このバンドを組む1年くらい前に、日記みたいにそこまで気を張らなくても曲が書けること、そうやって書いたほうが自分にしっくりくることに気付いて。実際に毎日日記をつけてるんですけど、その日の出来事や感じたことがちゃんと文章になっているときもあれば、殴り書きのときもあって。こういう部分をわたしは絶対にSNSには上げられないんです。だから普段日記に書いている内面的な部分を曲にして届けられたらいいなと思っています。やっぱりSNSだと「みんながこれを読んだらどう思っちゃうんだろう?」と考えてしまうので、うわずみのうわずみしか書けなくて。でも歌にすればみんなにわかってもらえるんじゃないかなと思うんです。



──おとなりにぎんが計画の楽曲は、初音さんの内面の濃い部分が出ていますが、各メンバーのプレイのクセも耳に残ります。そのバランスがどうやって保たれているのかが気になっていて。

初音:どの曲も作り方が同じで。まずわたしの弾き語りをみんなに共有して、それを踏まえてみんなでスタジオで合わせてみて、実優ちゃんがコードを譜面に起こしてくれるんです。そのうえでそれぞれがDAWで音を入れていって。

嘉壱:みんなでスタジオで音合わせをして、それをDAWに起こしてを繰り返して、だんだん曲が完成に近づいて最終的に調整して完成します。もともとみんなパソコンを持っていたので、このやり方だとスタジオに入っている時間と家にいる時間のどちらも有効活用できるんです。音源で聴くと現場では聴こえない音が聴こえるので、他のメンバーのフレーズにも耳が行くし、自分のフレーズも客観的に捉えられるので、細かいところまでサウンドを吟味できるんですよね。

実優:キーボードは弾き語りを聴いたらパッと「こうやればいいのかな」とイメージが浮かぶので、あんまりじっくり考えたことがないです。でも今回、「ピアスを外して」という曲は、キーボードのイメージが全然浮かんでこなくて。音色もどうするべきなのかわからなかった。



嘉壱:実優ちゃんは人に合わせる能力が高いんですよ。「ピアスを外して」はバッキングというよりはリードしていくフレーズを考えないといけなかったから難しかったのかもしれない。

初音:珍しく実優ちゃんずっと「どうしよう」って言ってたよね。そうやって悩んだ末に出てきたものが素晴らしすぎて……今まででいちばん好きな実優ちゃんのフレーズですね。これからももっと悩んでいいフレーズを出してほしいです(笑)。

──皆さん初音さんのイメージを汲んで、それを自分なりに落とし込んでいくんですね。

清水:前作のEP『つよく撫でる』に入っている「おとであそぼ」という曲は歌詞やメロディからすぐに情景が浮かんでくるので、そのイメージに合ったへんてこで面白いフレーズを入れて。逆に実優ちゃんの悩んだ「ピアスを外して」は歌だけで成立するぐらいメロディがいい曲だったのでとことんシンプルなドラムにしました。曲によってアプローチは変えてます。



嘉壱:「ピアスを外して」を聴いて、のりピーはシンプルなフレーズで表情を出すのがめっちゃうまいなと思いましたね。一切の無駄がなくて、ずっと聴いてられるドラムだなと思います。楽器チームはとにかく楽曲が良くなること、より豊かになるフレーズや音色選びを大事にしているので、楽曲に尽くして無駄なことはしないようにしています。僕個人としてはそれに加えて、聴いた人がこのベースをカバーしたいなと思ってもらえるものにしたいと思ってます。

──「ピアスを外して」は、歌詞にバンド名の一部である「計画」というワードが入るなど、歌っている内容としてもバンドのニュースタンダードになるのではないかと感じました。

初音:これまで「金魚の餌」や「300えん」みたいなポップな曲をリード曲にしてきたので、「このバンドで1年活動して、ちょっと大人になったぞ」と背伸びをしたかったんですよね。わたしたちのお守りやおまじないになってくれる曲を作りたかったんです。全国流通盤は本当に憧れだったから、「ここから再スタートのつもりでもっと頑張っていくぞ。自分たちを守ってくれるのは自分たちの曲なんだ」という気持ちを込めました。

──それをピアスを“外す”と表現するのが面白いですよね。普通はこういうとき装備すると思うので。

初音:“戻る”という感覚を大事にしたかったんです。『やさしい地図を描くんでしょ』というタイトルにもつながってくるんですけど、地図には行き方も戻り方も描いてありますよね。生きることは、自分の地図を描くことだと思っていて。「ここを歩くと近道だ」とか「この道を通ったらこのルートが戻りやすい」と描いてあって…それてすごく優しいじゃないですか。自分に優しくするために、自分の地図を描いている。「ピアスを外す」というのも、前に進んでいくのもいいけれど、そればっかりだと見えなくなることもたくさんあるから、そのときは戻ってもいいんだと歌いたかったんですよね。



──「自分に優しくするために、自分の地図を描いている」。だから先ほど初音さんは、自分たちを守ってくれるのは自分たちの曲とおっしゃったんですね。

初音:結局自分を守ってくれる人は自分しかいないって、よく言うじゃないですか。初の全国流通盤で、自分の過去と未来、行き方と戻り方を描きたかったんです。過去の自分にも未来の自分にも、みんなにも優しくありたい。うまくいかなかったことも全部、曲にするとお守りになると思うんですよね。「金魚の餌」や「300えん」を再録したのもそうで、過去の曲を今の自分たちで表現できたと思います。実優ちゃんも自分の理想の音色で入れられたって喜んでたし。

清水:「300えん(2024 ver.)」は、スネアの音がすごくクリアに聴こえるようになったので、うれしいですね。

初音:イントロの「1、2、3、4!」の掛け声も、最初の音源では実優ちゃんが不在なんですよ。でも今回4人で録れたので、本当にうれしいです。

──今作に収録されている新曲には、初音さんの内面の深い部分を落とし込んだ楽曲が多いと感じました。「ごはんできたよ」と「おーきなあたし」は特に。

嘉壱:だから2曲ともアレンジには悩んだんです。というのも、どちらも弾き語りで成立してしまう曲なんですよね。実際に「ごはんできたよ」は『つよく撫でる』にワンコーラスの弾き語りが収録されていて、僕的にもかなり満足いく音源なんですよ。だから「どうやってバンドヴァージョンで新しい芸術性や魅力を生んだらいいんだろう?」と壁にぶつかりました。そのあたりはのりピーと実優ちゃんの手腕が大きいと思うんですよね。特に「おーきなあたし」は壮大に見せる必要があるので、ふたりのゴスペル風のフレージングが生きたというか。バンドと弾き語り、それぞれに違う魅力があるものになりました。

初音:確かに。「おーきなあたし」は、わたしが身体が小さいからこその曲で。生まれた直後は保育器に入って、背の順もいちばん前だからチビと馬鹿にされることも不便なこともすごく多くて、子どもの頃は「いつかめちゃめちゃでかくなってお前らを見下すんだ!」と思ってました。大きくなったら朝日で火傷もできるんだろうな、でも大きくなりすぎたら音楽は聴けなくなるし、わたしが何を言っているのかみんなに届かないんだろうな、でもそうなったら月と友達になったりするのかな…と考えていたことを曲にしました。間奏に入っている歪んだソロパートは、嘉壱さんがベースで弾いているんです。

──そうだったんですか。てっきりギターソロだと思っていました。

嘉壱:「ここにこういうギターソロ欲しくない?」ってスタジオで弾いたら、初音ちゃんに「それやりましょう嘉壱さん!」と言われてベースでソロをやる羽目になりました(笑)。今までトライしたことがなかったのでびっくりしたけど、いいチャンスをもらえたのでうれしかったですね。初音ちゃんはアレンジの提案に対してすごくいいと思ったら、“わあー!すごい!!”って感動を素直に出してくれるので、楽器陣もやる気が湧くんです。実優ちゃんもクールだけど、いいと思ったらいいと言葉にしてくれるし、アイデア出しはみんなすごく楽しくやれてるんですよね。

──おとなりにぎんが計画は、お互いをリスペクトしているからこそ安心して自分の色を出せるのかもしれないですね。







嘉壱:だから照れずにアイデアが出せるんですよね。「こんなアレンジ案を出したらデリカシーねえな、分かってねえなと思われそうだな」と躊躇してしまうことも、このバンドだと「こんなのもアリじゃない?」って提案できるんです。なんでもありな世界なので、みんなの個性がちゃんと爆発してるのかな。それができるのも、みんな自分なりに曲を良くしたい一心だからだと思いますね。

──全曲とも是非生演奏で味わいたいサウンドスケープです。

初音:わたしたちもライヴで披露できるのが楽しみです。実優ちゃんのキーボードが最近新しくなって、そのおかげで「仕事が終わったら」がライヴで実現可能になったんですよ。

嘉壱:この実優ちゃんの高級機材があればなんでもライヴでできちゃうね(笑)。ぜひライヴで実優ちゃんのイントロのリードのシンセの迫力を味わってほしいです。なんでも卒なくこなす実優ちゃんが初めて忙しそうにしているところを観られると思います(笑)。

初音:「仕事が終わったら」はおとなりにぎんが計画史上最も速い曲なので、早口の練習を頑張りたいと思います(笑)。



──ここでまた新スタートを切ったおとなりにぎんが計画が、今後どんな地図を描いていくのか楽しみにしています。今年のヴィジョンなどはありますか?

実優:これまでよりも成長したいですね。

清水:1年目よりもっとすごいことしたいですね。有名になりたいです。

嘉壱:今年は去年よりも短い1年に思えるような、あっという間の1年にします。忙しく、もうとにかくいろんなことをやりまくる。

初音:わたしはいろんな土地にライヴに行って、美味しいものを食べたいです。

嘉壱:みんなバラバラですけど(笑)、2年目もバンド頑張っていきます。

取材・文◎沖さやこ

1st Mini Album『やさしい地図を描くんでしょ』



2024年3月27日(水)発売
¥1,650(税込)
1.ピアスを外して
2.仕事が終わったら
3.ごはんできたよ(合奏)
4.おーきなあたし
5.金魚の餌(2024 ver.)
6.300えん(2024 ver.)

◆おとなりにぎんが計画オフィシャルサイト
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