【ライヴレポート】キズ、絶望とおしまいの狭間で生の瞬間を重ねる1時間半

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人生最後の一瞬が続く1時間半──この日のキズのライブを端的に表すなら、そんな言葉がふさわしいだろうか。

◆ライブ写真

楽曲、ヴィジュアルともに孤高とも言えるスタイルでシーンを邁進してきた4人組バンド・キズが、<BLOG MAGAZINE限定『三大都市裏公演』>の東京公演を4月14日に新宿BLAZEにて開催した。2017年の始動以来ワンマンライブのチケットはいずれも瞬殺で、2022年にはLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)に日比谷野外音楽堂、2023年には豊洲PITと最大級のホール&ライブハウスを次々に陥落。今年6月1日には国立代々木競技場第二体育館での単独公演が決定している彼らだけに、実質的なFC限定公演とはいえ、1000に満たないキャパシティのライブハウスなどスシ詰めの満員御礼となるのも当然だろう。


客電が落ちるなりメンバーの名を呼ぶ声が場内に満ちて、登場した4人がドロップした最初の一撃は、劇場版アニメ『劇場版 Collar×Malice -deep cover-』タイアップ楽曲を収録して1月に発表した最新シングル「人間失格」のカップリング曲「十八」。“次は何をすればいい?”と静かに歌いだす来夢(Vo, G)に、ジッと聞き入るオーディエンスは、単に暴れて気持ち良くなるためだけにココに集ったわけではない。「キズです! どうぞよろしく!」という彼の掛け声から急転直下、「人間失格」で“人に産まれて人を真似て 人と呼ばれるように”と衝撃的なリリックを吐き出す来夢は、今度は「おまえら、何を持ってきた!?」と叩きつける。その言葉に応えるように拳を振りあげるフロアは、文字通り血と汗の滲むような4人の演奏と共に恐るべき一体感を創出。燃え滾るような熱狂に背筋ではなく心臓が凍えて今にも止まりそうなスリルを味わいながら、長髪を振り乱してドラムを叩くきょうのすけ(Dr)や、両サイドで上半身を振るreiki(G)と音の波に身を委ねるユエ(B)の姿を見て、いつかのインタビューでの来夢の言葉を思い出す。

「バンドメンバー集めたとき、こいつ、今日死んでくれそう!みたいな奴を選んだんです。なんか、明日も生きてそうな奴とはやりたくなくて」

彼らには明日も、次の瞬間もない。少なくとも、そう信じて今、この瞬間に全身全霊をかけていることは明らかで、当然ファンにもそれを望んでいた。「俺の声に応えてくれ! 燃やし尽くそうぜ!」というひび割れた叫びを引き継ぐようなreikiのギターに導かれ、「地獄」に雪崩れ込むとフロアは一面ヘドバンの海となり、来夢はおぼつかない足元で赤いマントを翻して「全員まとめてかかってこい!」とけしかける。これが本当に序盤戦なのだろうか?と信じられないほどの熱量が噴き出す光景に、張り詰めて突き抜ける歌声に、1ミリの隙も緩みもないステージパフォーマンスに、底知れぬ熱いものが込み上がってくるのが止められない。


半ば放心状態に陥ったところに、タイトル通りの恐怖が低音ベースから這い寄る「ストーカー」、来夢の張り裂けそうな“それでも”のリフレインが惹起するドラマに胸が締めつけられる「15.2」と、さらなる闇が流し込まれたところで登場したのが「平成」。大股でお立ち台に構えてギターをかき鳴らす来夢が飛び降りた瞬間、凄まじいヘドバンの嵐を巻き起こすオーディエンスに、彼は「声!」と求め、盛大なクラップに「いいね!」と笑む。“一緒に死のうよ”と歌うこの曲で、裏返しにある“一緒に生きよう”という切なる願いをオーディエンス自らに示させることこそが、おそらくは彼の意志であるに違いない。それを承知のオーディエンスは、生の証たる声を演奏が終わっても容赦なくステージに浴びせ続ける。

そうやって生き延びた命の使い道を問う「アナグラ」では来夢が盛大に歌詞を間違え、助けを求めるようにreikiに縋りつき、曲終わりに「やっちまったぁ!」と声をあげる珍しい場面も。だが今、この一瞬を生き抜き続ける彼らにとっては、失敗もまた貴重なリアルだ。振り切れた叫びからユエのスラップで幕開けた「へのへのもへじ」では、フロアごと型抜きされるかのごとく一斉にオーディエンスがジャンプし、同じ方向に頭を振る。来夢も「俺らともっと楽しもうぜ!」と煽動するが、そのマスゲーム的な楽しさも「メンバー全員が違うライブをやっている」と公言するキズの手にかかれば、実にシニカルかつ一筋縄ではいかないものに。誰に強制されるのでもなく、それぞれに楽しんだ結果、全員が同じ動きになるという奇跡も、彼らにとってはフラットな事象でしかない。


ここでようやく「ブログマガジン限定と言うことで、今日は珍しい雰囲気でライブしようかなと思ってたんですけど、マジでやってました。マジでやります!」(来夢)と本日最初のMCが。そして「さっきは盛大に歌詞を間違えてすみませんでした」という謝罪に湧いた温かな拍手に続いて「鳩」が贈られる。reikiのギターがメロディックに奏でられるナンバーは、彼らにしては珍しいもので、綴られているのは一つの別れという非常にパーソナルなもの。にもかかわらず、それが第三者の胸にもどうしようもなく痛く刺さるのは、やはり、ここに描かれている主人公の男に明日はないからなのだろう。私的な物語に真摯に耳を傾けた客席へ「ありがとう!」の言葉が発せられると、ヘヴィなビートが床を揺らす「ストロベリー・ブルー 」で宙へと伸ばされるオーディエンスの掌は、クモの糸でなく極楽へと繋がり、ステージ上の彼らを導いているように見えた。続けざま「まだまだやってくれるか!?」と「おしまい 」をぶつけられれば、さらに場内の気温とテンションは上昇。始動当時、1stシングルのタイトルに「おしまい」の言葉を持ってくる彼らに驚きを禁じ得なかったが、今なら必然だったとわかる。彼らの活動、表現はすべて“おしまい”から始まっているのだから。

終盤は、そんなデビュー曲と共に初期からキズのライブを支えてきたナンバーが連投。来夢は「バテてねぇのか? 俺はバテバテだぞ!」と泣き言をこぼしながらも、お立ち台に寝転がって衰え知らずのボーカルを「十五」で轟かせ、「ELISE」の冒頭には「このライブハウス、無茶苦茶世話になったけどブチこわしてやろうぜ!」と檄を飛ばす。凄まじい勢いで頭を振り、拳を突き出し、モッシュするフロアに倣って、弦楽器隊も右へ左へ。きょうのすけのブラストビートもノリにノッて、今年7月の閉館が決まった新宿BLAZEに感謝の狂乱を捧げた。


そして、キズというバンドの真髄に迫ったのではないかと思われるのが、この日のアンコール。reikiがギターをかき鳴らして「東京」が始まって、ロックンロールの清々しい響きと共に“君”へと語りかけるリリックが耳に飛び込んできたとき、彼らのネガティブに見える世界観は、実は愛の深さに拠るものではないかという考えが頭を掠めた。“君”が大切だから、あの空へと連れて行けない自分に絶望する。つまり、彼らの絶望は自分のためにだけには生きていないからなのではないだろうか?と。

そんな想像をあざ笑うように「マジやべー曲やるからよ!」(来夢)と放った「僕を残して死んでいくロックンロール」では、ネット全盛のデジタル社会で死に瀕するロックに対する強烈なアイロニーを叫びながらも、「もっと!」と煽って声と拳を求めたラストソングは「日向住吉」。なんと甘酸っぱいキズ流ウエディングソングで来夢は“ありがとう かな”と歌い終え、情緒のジェットコースターで酔わせるが、意外に思える選曲もよくよく考えれば当然だろう。誰よりも強くキズを支え、愛するサポーターたちに告げる言葉など“ありがとう”以外にあり得ない。

絶望とおしまいの狭間で、死の淵へと片足を引っ掛けながらも生の瞬間を重ねるキズ。どうしてそこまで?と思うほどに自らを追い込み、苦しめ 、傷つける、その源には大いなる愛がある。だから痛みも悲しみも喜びも、後回しにすることなく、今、届ける。明日この世が終わっても後悔のないように。ならば、次回の単独公演となる6月1日、国立代々木競技場第二体育館に集まる数千人に送られるのは、果たして如何なる感情になるのだろうか? 極限に立つ者にしか生み出せないものが、きっとそこにあるはずだ。

取材・文◎清水素子
撮影◎小林弘輔( @style_k_ )


セットリスト

<キズ BLOG MAGAZINE 限定 「三大都市裏公演」>
2024年4月14日(日)@東京・新宿BLAZE SETLIST

01.十八
02.人間失格
03.地獄
04.ストーカー
05.15.2
06.平成
07.アナグラ
08.へのへのもへじ
09.鳩
10.ストロベリー・ブルー
11.おしまい
12.十五
13.ELISE
encore
14.東京
15.僕を残して死んでくロックンロール
16.日向住吉

ライブ情報

<キズ 単独公演「星を踠く天邪鬼」>
2024年6月1日(土) 国立代々木競技場第二体育館
[開場 / 開演]16:00 / 17:00

【チケット料金】
アリーナVIP席:¥12,000
[アリーナセンターブロック席+VIP限定グッズ+先行物販優先レーン]
アリーナ席:¥6,000
[アリーナ上手側か下手側ブロック席のどちらかになります]
スタンドVIP席:¥10,000
[スタンド前方席3列エリア+VIP限定グッズ+先行物販優先レーン]
スタンド席:¥2,800

【一般発売】
2024/4/18(木)
・TicketTown
・イープラス
・ローソンチケット
・チケットぴあ
info. NEXTROAD 03-5114-7444(Weekdays 14:00~18:00)

ライブ映像 プレミア公開

キズ 単独公演「傷」
-MEMBER SELECT LIVE DIGEST-
4月18日(木) 21:00
キズOFFICIAL YOUTUBEにて公開
https://youtube.com/c/kizuofficial
※アーカイブ無し

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