【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話005「BARKS最大の黒歴史」

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2024年4月でBARKSは25thに突入した。その間のインターネットの発展スピードはあまりに早く、その文明の進化に対して文化の進歩が追いつかなかった。私の理解も追いついていなかった。だからとんでもない過ちを犯して、BARKSにおける最大の黒歴史を作ってしまった。今では風化した話かもしれないけれども、今回はそんなお話を…恥を忍んで。

2000年代初~中期は、通信環境が劇的に向上しダイヤルアップからISDN、ADSL…と回線がどんどん太くなった。現在の光回線に比べれば亀だけど、インフラが整うに従って動画のストリーミング配信が最新トレンドとなり、多くの音楽ファンがネット上でざわざわしていた。

TwitterもインスタもYouTubeすらない時だったので、BARKS内にユーザー発信の機能を作った。好きなアーティストを登録することで、紐づいたBARKSの各記事、動画や試聴音源をMyBARKSというユーザーページに自由に配置することができ、お気に入りのアーティストの動画や試聴音源を自由に並べ、そのプレイリストをBARKSユーザー間で共有できるようにした。

そして、そこにコミュニティ機能を追加した。誰でも好きなテーマでスレッドを立ち上げることでき、自由に発言できるというものだ。編集部が管理者となって公開フラグを立てる設計が無難だったけれど、それでは都合の良いスレッドしか生まれず、本当の意味でのコミュニティにならない。アーティスト自身もBARKSをよく知っているから「自分の発言が直接アーティストの目に入るかもしれない」という期待感が抑止力になると信じ、すべての書き込みをユーザーに一任した。信頼が信頼を生み自浄作用が働いて、編集部が管理しなくても荒れることのない理想的で健全なコミュニティサービスが実現した。

ここまではいい話。当時のBARKSを取り巻く状況だ。



そんな中、世の中を牽引する最先端のトレンドはブログで、アルファブロガーと言われる今で言うインフルエンサーが話題を牽引していた。彼らが新作の試聴音源やプロモーションビデオなどを紹介してくれたら、もっと音楽が盛り上がる…そう思ってBARKSは2008年9月、ブログパーツを開発し世の中にリリースした。

参照:◆動画ページに新機能「ブログツール」リリース(当時の記事)

無邪気すぎた。この行為を音楽業界は許さなかった。

当然のことなんだけど、我々が預かっている試聴音源やビデオ映像は、すべてBARKS上で紹介するために各レーベルから受け取ったもの。その音源や映像を不特定多数のブログに拡散するのは、あってはならない違法行為だった。もちろんBARKSでサーバーを管理し再生から生じる著作権料も全てBARKSで支払っており、今でいうリンクタグのようなものだけれど、当時では許されない機能と捉えられた。

「権利者じゃないBARKSが、許諾なく著作物を流布・拡散した違法行為」とし、某レーベルは速攻でこの機能をストップさせるとともに、我々に説明を求めた。呼び出しを受け、厳しい叱責を受け、謝罪に徹した。言い訳はなし。我々には「1ヶ月取引停止」の厳格な処分が下され、そのレーベルとのやり取りは1ヶ月空白となった。

辛く厳しい制裁を受けたが、その背景にはまだまだインターネットが音楽にどう作用しビジネスに影響を与えるのか不透明だったこともあったと思う。ただで聴かれたら音楽が売れない。気に入ってもらうためには聴いてもらう機会を増やさないとダメだ。どちらも正しくて、どの意見も正解に見えた。非常に影響力があるインターネットゆえに、扱いを間違うとビジネス構造が破綻するという強い危機感があった。

実際に、新曲のたびに作られたビデオの扱いはレーベルによってまちまちで、全く同じコンテンツだけど映像作品として商品化されるとそれは「ミュージックビデオ」と呼ばれ、BARKSに提供されると「プロモーションビデオ」と呼ばれた。PVをネットにバラ撒きし過ぎるとMVが売れなくなるのではないか…そういう懸念が常について回り、その扱いには最新の注意を払っていた矢先、BARKSが勝手にPVを拡散するなんて暴挙は、許すまじき行為だったというわけだ。

今でもあまり思い出したくない黒歴史だし、こうやって吐露したところで「気持ちが軽くなった」なんてこともない。でも都合よく解釈すれば、音楽業界はいろんな立場の人間がいろんな軋轢を生みながらも、みんな同じ方向を向いて、新たな価値観を生み出そうと必死だった。前例のないことばかりだったから、何が成功で何が失敗だったのかすらわからないことだらけだったけど、業界の誰もが心焦がして自分の正義を貫いていた、そんな時代でもあった。

文◎BARKS 烏丸哲也

◆【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話まとめ
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