【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話012「録音トラブル」

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たくさんのインタビューをして、その数だけ原稿にしてきたけれど、毎回音声記録は必ず録る。あたりまえ。それこそJ-POP/J-Rock全盛の1990年代は、音声の録音はまだカセットテープを使っていた。

カセットテープってのはA面とB面の両面に録音できるんだけど、オートリバースといってテープをひっくり返さなくても自動的にAからBへ切り替えてくれる機能がある。便利だけど、A→B切替時に10~20秒ほどの空白が生まれ、その間は録音されない。重要な発言がそこに当たったりすると立ち上がれなくなるくらいショックなので、それを避けるため120分テープを準備し片面だけで60分用意するんだけど、そうするとテープ厚が薄くてテープレコーダーに引っかかって絡んだりして、テープがぐちゃぐちゃに伸びたりする。そうなるともう絶望的な気分。そもそも音質も悪かった。

今ではレコーダーもコンパクトで高性能となり、余計な心配はいらなくなった。スマホでも十分。トラブルの原因は「電池切れ」か「容量いっぱい」くらいしかないから、メンテさえ怠らなければトラブルはない。事故は格段に減った。「なくなった」じゃなくて「減った」なんだけど。残るはヒューマンエラーで、体調を崩したり睡眠不足のまま強行したりしていると、まさかが起こる。


右が1990年代初期のウォークマン。これはテープ起こしで使っていた再生専用機。

ある日の取材のこと、1時間を超える濃密なインタビューが終わり、レコーダーを止めようとしたら…あれ?動いていなかった。え、うそでしょなんでなんで?まじか…。万が一のため2台使っているのに2台ともダメ。どうやらrecボタンではなくplayボタンを押してインタビューをスタートさせていたらしい。2台ともね(泣)。電気がついて動作し始めた…と思ったけど、ボリュームゼロで再生してた。マヌケが火を吹いた。

ほんとね、血の気が引くとはまさにこのこと。「さー」って血の引く音って聞こえるんですね、まじで。でも嘆いてもどうにもならない。頼りは記憶だけ。忘れたくない事柄を片っ端に書き出して、重要な断片を絞り出す。

さあ、でどうする。…と言ったって、逆立ちしたって記憶でQ&A形態のインタビュー原稿は作れない。「すみません、録音できていなかったので、当初予定していたQ&Aのインタビュー形式ではなく、本人からお聞きした情報をふんだんに盛り込んだ書き原稿のかたちで記事を作らせてください」と了承を取り、原稿をまとめるしかない。

そのトラウマ記事がこれ↓です。


実は、そもそもこの話には事前に伝えるべき情報が多く、ひとつの記事でまとめるのには難易度が高すぎるので、是が非でもインタビュー形式でまとめたかった。インタビューという大きな幹を一本据えておけば、寄り道するように付加情報を触れるかたちで、全体をまとめることができるからだ。

ここには登場人物がふたりいて、どちらもグレッチというギターと出会い、愛機となっていったストーリーを持っている。記事制作の前提として、それぞれをきちんと描いておく必要があるので、同時進行で進むふたつの世界線を過不足なく書き込む。そもそも似たような話だから、混乱しないように。まるでタイムパラレルとかパラレルワールドといった最近のアニメ的な設定なわけです。

で、その伏線により、ふたりがひとつの接点でつながる。奇跡的につながったこの出来事を祝おうじゃないかとカナダ大使館が動き、日本とカナダ間でイベントが開催されたわけで、そのイベントの様子を伝えるのが、この記事の本当の目的だったりもするわけです。

情報量が多いけど、どこもカットできない。ふたりのギター性癖がそもそもちょっとレアである事実も丁寧に描いておかないと、文字通りの奇跡が起きて40年以上に及ぶストーリーが収束していった事実を伝えきれない。丁寧にディテールに触れたいけど、マニアックになっても冗長になっても訴求は落ちていくから、その頃合いが難しい。

でも、結果、個人的にはとても満足できる記事が作れた。アーティストにも喜んでいただけた。ランディ・バックマンもご満悦だった。都合のいい話だけど、当初予定のQ&A形式よりも良い記事になったんじゃないかとすら思えたことが、自分への救いにもなった。もちろん、録音できていないなんてのは、二度とごめんだけど。

といった苦労の結晶なので、お時間許す時に読んでいただければ嬉しいです(…という個人的な楽屋裏感情をリコメンドの理由にするのは、恥ずべき禁じ手です。←ここメモ)。

文◎BARKS 烏丸哲也

◆「TAKESHIとランディ・バックマンが紡いだ、奇跡のグレッチ6120ストーリー」
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