【インタビュー】ライブハウスmito LIGHT HOUSEで繰り広げられた「35周年対バンイベント」の奇跡

長きにわたり茨城県水戸市で音楽シーンを支えて続けてきているライブハウス「mito LIGHT HOUSE」が1989年創業から35周年を迎え、話題沸騰となった<35th Anniversary-SPECIAL DAYS->イベントを開催した。
2024年9月2日から2025年1月30日にかけて開催されたこのアニバーサリー・ライブは全て対バン形式となっていたが、全24公演は、日本のロックシーンを牽引し今もなお第一線でシーンのトップを突っ走る錚々たるバンドマンたちで埋め尽くされていた。
今では主催フェスをも開催し、ホールからスタジアムクラスのステージに立つ日本を代表するバンド連中が、キャパ350人というライブハウスで対バンをはるという、ある種の異常事態が連日当たり前のように繰り広げられた。彼らは皆、mito LIGHT HOUSEをホームと謳い、35周年を祝い、毎夜熱演を繰り広げた。
日本のロックシーンを支え、育み、新たな時代を生み続けてきたライブハウスとは、どのようなところなのか。地域と寄り添いながら、音楽文化を支える水戸のmito LIGHT HOUSEに向かい、店長の稲葉茂氏に話を聞いた。

──元々、mito LIGHT HOUSEを始めたきっかけというのは何だったんですか?
稲葉茂(mito LIGHT HOUSE):1989年に初代の店長が始めたんですけど、当時僕はまだ中学生だったんです。「なんか駅の近くに新しくライブハウスができたみたいだぞ」っていうのを聞いてですね、それを横目に見ながら街を歩いていたんですけど、いざ自分も高校生になってバンドを始めてそこで初めてお世話になりました。個人的にはそれが最初の出会いですね。
──ライブを見に来たんですか?
稲葉茂(mito LIGHT HOUSE):いえ、バンドで出たんです。高校生の時に。
──そういう学生バンドの出演も多かったんですか?
稲葉茂(mito LIGHT HOUSE):すごく多かったですよ。まだバンドブームの余韻がありましたから。全盛期は私よりも2~3歳上の世代だったと思うんですが、その第一線がブームになっているところに憧れを持った世代なので、コピーバンドから始めて、このmito LIGHT HOUSEを自分たちで4~5時間レンタルしてライブをやるんです。チケット代500円くらいでやっていた記憶がありますね。
──その後、どういう縁でmito LIGHT HOUSEの店長に?
稲葉茂(mito LIGHT HOUSE):高校卒業後、東京に出ていた時期がありまして、その時に当時の店長から「ブッキングを手伝ってもらえないか」と言われたんです。いや、そう言われても東京にいるし、でも元々の付き合いもあるし地元だから「手伝える時だけ手伝うよ」みたいな感じだったんですよね。
──やっぱり縁があるんですね。
稲葉茂(mito LIGHT HOUSE):ただ正直なところ、「ライブハウスで働きたい」みたいな意識は全くなかったですけどね(笑)。「手伝うくらいだったらいいよ」っていう軽い気持ち。でも結局、ライブを見てバンドと触れ合うじゃないですか。ライブ後にバンドのことや音楽の話をして、「また次も観てくださいよ」って言われたら、いなくちゃいけないよねっていう。結局それが積み重なって今に至るってだけなんですよ。それで27~28年になるのかな。

稲葉茂氏
──ライブハウスの運営で、もっとも魅力に感じるものは何ですか?
稲葉茂(mito LIGHT HOUSE):それはシンプルに、音楽と人です。もうそこしかないですよね。バンドには面白い人、気持ちを持った人…ほんとにいろんな人間がたくさんいて、で、そこに魅力を持ったファンの方々も、やっぱり同じくそういう方々だったりするんです。そういう人たちと出会えたことが1番の財産というか、そういう人たちが重なって重なりあって今がある。それに尽きると思うんですよね。
──大変なこともたくさんあるでしょうけど。
稲葉茂(mito LIGHT HOUSE):そりゃ大変なことはもちろんありますよ。もうどうしようもない話ですけど、例えば東日本大震災だったりコロナ禍だったりとかは、ライブハウスに限った話でもなく本当にどうにもならないこともあります。でも、そういう時も、結局支えてくれたのはバンドだったりファンの方々だったりするんですよ。いつもそういう人たちに支えてもらって、それでなんとか続けてこれている。大変なことってのは、細かいこと言ったらありますけど、それはどんな仕事でも同じですから、日々の大変なこととかはあまり気にはしていないです。
──音楽との出会いから刺激・感動・衝撃…たくさんのドラマが生まれ、バンド文化が育まれていくライブハウスですから、こういう現場に憧れを抱く若い方もたくさんいるのではないですか?
稲葉茂(mito LIGHT HOUSE):いやー、これは難しいですね。僕の場合は自分の性格と合ったんだと思うんです。だから続けてこれたってのがあるんですけど、性格だったり体力だったり、いろんな条件が揃わないとなかなか難しいかもしれないですよね。ただ、イベントをやりたいとか何か本気で思うのであれば、それはやった方がいいですよ。あとはね、令和の時代にふさわしくない話かもしれないですけども、どんだけ根性を持ってやり続けられるか…みたいなところじゃないですかね。
──好きであればこそ続けていける、かな。
稲葉茂(mito LIGHT HOUSE):そうだと思います。自分で知ることも大事だと思いますしね。
──一番の喜びは何ですか?
稲葉茂(mito LIGHT HOUSE):ライブハウスで言えば、1番はライブが終わった時にすごく楽しそうに帰るお客さんの姿ですね。あとは、バンドと打ち上げに行って「今日は最高だったね」っていう乾杯ができた時だったり。そういう時が「良かったな」って思える瞬間ですかね。

──ライブハウスは日本の音楽シーンを支えるゆりかごのような存在ですからね。
稲葉茂(mito LIGHT HOUSE):音楽と人に支えられて続けてこられてるだけですから、そこに感謝するのみですね。バンドもいろんな種類がありますよね。アマチュアバンドがいて、インディーズバンドがいて、プロがいて…でもね、僕達にとってそこには何の区別もないんですよ。高校生のコピーバンドで演奏もおぼつかなくても、そういうバンドも俺は素敵だと思うし、当然プロはプロで素敵なライブを見せてくれる。どっちも魅力があって、やっぱりいろんな音楽と人が溢れてることが素敵だなと思うし、そういうことを続けていけたらいいなっていう感じです。それ以上でもそれ以下でもないかな。
──その積み重ねで35周年なのか。ものすごいラインナップでアニバーサリーライブが繰り広げられましたね。
稲葉茂(mito LIGHT HOUSE):ほんとに感謝ですね。こういう時じゃないとお願いできないものですから、長い付き合いの中でいい関係を作ってきたバンドたちからはお祝いとともに力をもらっているというか、ほんと感謝です。とんでもない愛情を頂いています。
──錚々たるバンドが35th記念のライブに駆けつけてきたところに、かけがえのない信頼関係と感謝の気持ちが溢れていて、ちょっと感動を覚えました。
稲葉茂(mito LIGHT HOUSE):いや、それを言ったら僕が1番そう思ってますよ。誰よりもほんとに感動してます。

──チケットの争奪戦はとんでもなかったでしょうけど。
稲葉茂(mito LIGHT HOUSE):そうですね。お客さんも争奪戦の中をくぐり抜けて来てくださって。ブッキングも結構面白い組み合わせにしてるので、そこに気付いてくれてるお客さんとかもいたりとかして。それもちょっと嬉しいですね。
──人寄せパンダのようなブッキングをしても、バンドは納得しませんからね。
稲葉茂(mito LIGHT HOUSE):もちろんです。キャリアのあるバンドであればこそ、自分たちでできちゃうことも多いので、それを超えるものを提示しないと意味がないですよね。それはブッキングの内容だったり、対バンの提示だったり。今回はその辺もみんなに受け入れてもらえて、素晴らしいツーマンが組めたと思っています。
──今回の35th記念イベントは、ワンマンのライブではダメだったんですか?
稲葉茂(mito LIGHT HOUSE):ライブハウスってやっぱり対バンかなと思ってね(笑)。もちろんワンマンツアーでもいいんですよ。ワンマンを否定してるわけではないんですけど、僕の中ではライブハウスってやっぱり対バンだなっていう思いが強くてですね、そういう意味でこういう企画をやるときはあんまりワンマンという形は取らないようにしているんです。
──そういうこだわりのもとでのブッキングなのか。対バンにはいろんなドラマやケミストリーが起こりますからね。
稲葉茂(mito LIGHT HOUSE):そうですそうです。人との出会い。ライブハウスって、そこで生まれる何かきっかけを作る場だと思うんです。それはお客さんにとってもそうですし、バンドにとってもそう。その日をきっかけに、知らなかった対バンを好きになってくれたら最高だし。
──なるほど、エモいなあ。
稲葉茂(mito LIGHT HOUSE):初の対バンだったり、面白いブッキングを組むと、ロックバンドの連中ってね、やっぱ楽屋入りしてもお互いの会話ってあまりないんです。別に仲が悪いわけじゃないんですけど、ちょっとピリッとしてるんですよね。で、本番が終わってお互いのライブを見た後にようやくお互い認め合うというか、会話があったりする。傍目で見ていることなので、それが合っているかどうかわからないですけど、でもそのように感じ取れる瞬間っていうのがあるんですよね。そういうのが見れるのも、ライブハウスにいて嬉しいところかな。
──そして今回のファイナルを飾ったのが、1月30日のTHE BACK HORNと10-FEETというとんでもない対バンで。
稲葉茂(mito LIGHT HOUSE):彼らもライブハウスではほぼ間違いなく初対バンだと思います。元々LuckyFM茨城放送で僕とTHE BACK HORNの山田将司(Vo)で番組をやらせてもらっていて、いろんな話をしていく中で「あれ、そういえば10-FEETとTHE BACK HORNって絡み、ないよな」っていう話になったんですよね。「<京都大作戦>で一緒になったことはあるけど、でも対バンしたことはないっすね」って。
──フェスではよく一緒になるでしょうけど。

稲葉茂(mito LIGHT HOUSE):そう。ただ、ライブハウスでのガチンコ対バンはなかったって。そういうのがないと、バンド同士ってのはそこまでは仲良くはならないですよね。結局ライブハウスでそういう対バンをして、そこからがちゃんとした付き合いのスタートになるのかなっていう思いもあって、そういうきっかけを作れたらなっていうのが常にあるので。
──それで、今になってこの両バンドの初対バンが実現するなんて、胸熱だなあ。
稲葉茂(mito LIGHT HOUSE):嬉しいですね。快諾してくれた彼らからは、もうひしひしと愛を感じてます。
──5年後は40周年ですね。
稲葉茂(mito LIGHT HOUSE):どうなってるんでしょうね。僕の中では全然見えないというか、別に希望がないわけではないんですけど、何が起こるかわからないですし、もう本当に1日1日を大切に生きるしかないですし、それを積み重ねていった末に、ひょっとしたら40周年ができるかもしれないっていうような考えです。単純に5年後はこんなことをしようみたいなのは全く考えていない。仮に病気になってしまったり事故に遭ってしまったりとか、何が起こるかわからないですから、ひたすら日々を一生懸命生きるしかないなっていうのが正直な気持ち。
──バンドマンと同じですね。
稲葉茂(mito LIGHT HOUSE):はい。僕も全国のライブハウスの皆さんをたくさん知っていますけど、皆さん共通してピュアだし、バンドマンと似てるなって思いますね。
──これからも、若い人たちにはライブハウス文化に触れてほしいなと思います。怖いところじゃないし、不健全な場所でもないし。
稲葉茂(mito LIGHT HOUSE):かしこまらずに、1歩足を踏み入れてほしいなってシンプルに思います。今の時代は曲作りもひとりでできますし、バンドじゃなくても音楽活動ができますよね。SNSもあって自分でできちゃうことが増えたので、ライブハウスに行く文化がコロナ以降は弱くなっている気もするんです。ですから、若い子たち、これからの子たちが気軽に1歩足を踏み入れて、体感してもらうことが1番ですよね。
──行ってみれば、色んな発見や知らない自分に出会えたりもしますから。
稲葉茂(mito LIGHT HOUSE):体感してもらってね。合う合わないっていうのはあると思いますから。でも僕達には「1回でも来てくれれば楽しいって思ってもらえるはずなんだけどな」っていう自負はありますし、ほんとに気軽に来てもらいたいなっていう思いはいつも思ってます。
取材・文・撮影◎烏丸哲也(BARKS)
協力◎mito LIGHT HOUSE
mito LIGHT HOUSE
TEL 029-224-7622 / FAX 029-224-3663
E-mail mitolighthouse@silk.plala.or.jp
◆178ROOM(店長178の気まぐれ日記)
◆mito LIGHT HOUSEオフィシャルサイト
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