【インタビュー】KANAMI(BAND-MAID)のシグネチャーPRSが、まるでプライベートストックなワケ

振り向けば2017年。Paul Reed Smith(ポール・リード・スミス)のギターと出会い、まるで一目惚れのようにそのギターと恋に落ち、PRSを愛でながら早7年。そして両者は相思相愛となった。日本人初のシグネチャー・モデル「The Kanami Limited Edition」を誕生させたのは、BAND-MAIDのリード・ギタリストKANAMIだ。
このスペックを見れば、PRSの魅力を深く理解し、その素晴らしさを最大限に引き出すための実践スペックがセレクトされていることがよく分かる。Custom 24、エボニー指板、85/15ピックアップ、Custom 24-08サーキット、指板にはブラッシュストローク・インレイ、そしてギラリと蠢くキルトにスモーク・ブラックという男前なハードウエア。全く隙がない。

Paul Reed Smith The Kanami Limited Edition
「The Kanami Limited Edition」という名前はついているが、ギターそのものはどんな音楽性にもどんなライブパフォーマンスにも対応できる素養と品質の高さが際立つ。ひとりの女性ギタリストにプロデュースされたモデルだが、出来上がったギターの汎用性は100点満点だ。
PRSとの出会い、PRSの魅力、そしてプライベートストックの購入から「The Kanami Limited Edition」の誕生にいたるまで、そのストーリーをじっくりと紐解いてみよう。
◆ ◆ ◆

──「The Kanami Limited Edition」、ついに発売となりましたね。まだ出荷が追いついていないみたいですが。
KANAMI:最初の第一ロットが発売されましたけど、今は製造が追いついていなくて、出来上がったらまたリリースされていくそうです。
──今、PRSのギターは何本持っているんですか?
KANAMI:紫でしょ、トランパスグリーンでしょ、それからプライベートストックと茶色のやつとKanamiモデル…あとメインで使ってる35周年モデルですね。だから6本になります。
──「The Kanami Limited Edition」のサブは?
KANAMI:これは1本をいただきまして、で、もう1本欲しいなと思って自分で買おうと思っているので、それで2本になる予定です。
──え、自分で買うの?
KANAMI:ほんとにめちゃくちゃ良くて、いいギターすぎて「これはもう1本持ってた方が絶対にいい」と思って。それでちょっと「1本、購入させていただいてもいいですか?」ってPRSさんにお願いしました。まだ届いてないんですけど。
──全く同じスペックで?
KANAMI:「The Kanami Limited Edition」そのままです。普通に販売しているものをそのまま購入するんです。だって、めちゃくちゃいいんですよ。

──PRSを使い始める前は、アディクトーンなども使っていましたよね。
KANAMI:そうですね、ギブソンも使ってましたし、色々使ってきました。フライングVを使っている時期もありましたし、アイバニーズを使っている時もありましたし、最初の頃はフェルナンデスも使っていたりして、色々使ってました。
──そんな中で、PRSに注目し始めたときのことは覚えていますか?
KANAMI:私、もともとギターを始めた時にサンタナがすごく好きになりまして。
──若い女子がサンタナ?
KANAMI:そう、よく言われます(笑)。色々音楽を知りたくて学生時代はいろんな音楽を聴くようにしていたんですけど、その時に「何これ1番かっこいい…これ誰?」みたいになったのがサンタナだったので。だから高校生くらいからサンタナがPRSを使っているということで、「いつかは…」みたいな気持ちがずっとありました。
──PRSとの出会いは意外と古いんですね。
KANAMI:そうですね。憧れのギターみたいな感じ。ただ、学生の自分にとってあまりに高級だったので。
──で、実際にPRSを手にしたのは、どういうきっかけで?
KANAMI:BAND-MAIDの方向性を考えた時に「どのギターを使っていくのが将来のBAND-MAIDとしていいのか」と考える時期があったんですけど、2017年くらいですね、で、その時にギターの師匠にいろいろなギターお借りして、色々触らせてもらったんです。レスポール・カスタムとかストラトもいろいろ弾かせてもらったんですけど、でその時にPRSを触らせてもらったら「このギターはなんだ」って。
──良かった?
KANAMI:手にフィットするこの感覚にも感動してしまって、バンドのリハーサルに持っていって使わせてもらったら、やっぱりすごくよくて。で、お給仕でも使わせてもらったりして、今後のBAND-MAIDの方向性としてPRSがやっぱりしっくりくるんです。メンバーも「このギターいいね」ってなったので、それをきっかけに今後はPRSを使っていこうという方向になりました。
──サウンドもルックスも弾き心地も、あらゆる点でPRSがずば抜けていたのかな。
KANAMI:ピンと来ました。もちろん他のギターも好きではあったんですけど、バンドのことを考えるとPRSが1番いいなって思ったので。
──その頃、小鳩ミクは……。
KANAMI:もうゼマイティスを使っていた頃です。
──「バンドのことを考えるとPRSがいい」という発想が気になるんですが、それはどういう意味ですか?
KANAMI:そうですよね(笑)。私、BAND-MAID以外でギターを弾くつもりがなくて、BAND-MAIDが人生の最後のバンドだと思っているんです。私が曲を作っていて、で、その延長での話になるんですけど、BAND-MAIDの作る楽曲を作るにおいて、どういう楽曲にしていくかみたいなものがあって、その中で楽曲のイメージが私の中にあって、その音のイメージがPRSだったんです。具体的に言うと、そのMID感とかサステインの伸びとか…。なおかつ自分がリードのギタリストなので、バッキングももちろん弾く場面もあるんですけど、リードフレーズを弾くんだったらどのギターがいいかみたいなのを考えた中で「PRSがいいな」っていう。
──なるほど、そういうことか。
KANAMI:お給仕ではバッキングは小鳩が弾いてくれるので、バッキング・サウンドがゼマイティスであれば相性はどうかとか、そういうところを具体的に考えて、PRSがピンと来たんだと思っています。
──話を聞いていると、PRS以外ない気がしてきた。
KANAMI:そうですよね。師匠から本当にいろんなギターを貸していただいて、その中で1番ピンと来たからこれしかないのかもしれないですね。
──安定したチューニングとキメの細やかなトーン、ブレないネック、整ったコード感、圧倒的な弾きやすさ、そしてこのルックス…PRSはあらゆる点で高グレードで落ち度がない奇跡的なギターですからね。
KANAMI:ホント、その通りなんです。納得。本当にそう思います。

──1本目のPRSは、どのように選んだんですか?。
KANAMI:もう直感で選びました。ギターの師匠たちとPRSの倉庫にお邪魔させていただいたんですけど、もうたくさんありすぎて(笑)。どれにしようかっていっぱい悩んだんですけど、「一旦全て抜きにして、自分の直感で選ぶといいよ」という話で、で、直感で選びました。
──そのギターがTrampas Green(トランパスグリーン)のCUSTOM24だったんですね。
KANAMI:緑色が好きっていうのもあるんですけど、そのギターが弾きやすくて「これがいい」ってなったんです。当時はあんまり知識もなかったので、ボディーがコリーナとも知らず。
──え、バックがコリーナ材なんですか?
KANAMI:そうなんです。珍しいですよね。ボディがマホガニーじゃないだけで結構サウンドが変わるので、今でもサウンド違いでレコーディングに使ったり、お給仕でも曲違いで使ったりしています。「いいギターを選んだなぁ、あの時の自分♡」って思いました(笑)。
──マホバックとコリーナバックではどういうサウンドの違いがありますか?
KANAMI:コリーナの方が結構明るいサウンドが出ます。ロー寄りではなくミッドハイ寄りみたいな感じです。きらびやかなフレーズとかクリーンとか、重めの曲よりも明るめの曲とか、なんて言うんだろうな…ちょっと耳障りでエッジを効かせたいときとかで使う時もあります。
──いいバリエーションですね。
KANAMI:そうなんです。PRSって同じボディとか素材でも音に個性があるので、すごく使い勝手が良いんですよね。ほとんどのギターがPRS 85/15ピックアップに揃えてるんですけど、そのトランパスグリーンだけ違うピックアップに換えたので、それもあって結構サウンドの違いは出やすいのかもしれないです。
──今回の「The Kanami Limited Edition」が誕生するにあたって、以前購入したというプライベートストックの存在が大きく影響している気がしたんですが…。
KANAMI:その通りなんです。
──そもそもプライベートストックを購入したきっかけというのは?
KANAMI:PRSのプライベートストックって超高級ギターで、楽器屋さんでもショーケースの中に飾られていて、で、とんでもない金額で(笑)。
──ですよね。もはや「桁が違う」というレベルじゃないし。
KANAMI:なので、それはもう人生の目標みたいに思っていたんです。PRSを使い始めてから「いつか作りたい」って。で、2023年11月に横浜アリーナでお給仕をしたんですけど、その横浜アリーナという会場が、当時の自分の最大の目標でもあったので、頑張った記念じゃないですけど、目標達成ということもあって。
──ご褒美だ。
KANAMI:ご褒美ですかね。それでPRSに良くしていただいて手に入れました。
──出会ったものを購入したんですか?
KANAMI:作りました。
──え、オーダーで作ったんですか? そ、それは凄い。
KANAMI:もちろん楽器屋さんで販売されているのもたくさんあるんですけど、やっぱり自分でカスタムできるところに魅力があると思ったので、PRSに行って、ひとつひとつデザインや仕様や材など、カスタムのご担当の方とどれにしよう、あれにしようって選びまして。
──そこで作られたプライベートストックが、エボニー指板にブラッシュストローク・インレイ、85/15ピックアップ、Custom 24-08サーキット、キルトトップ、そしてスモークドブラック・ハードウエアという仕様だったんですよね。まさに今回の「The Kanami Limited Edition」と同じスペックで。
KANAMI:プライベートストックはギタリストとして最大の目標でもあったので、今回のシグネチャー・モデルにも、それをぜひとも反映させたいって思ったんです。できるだけ同じ仕様にしたほうが、このギターをプライベートストックだと思って使っていただけるんじゃないかな、みたいな思いもあったんですよね。

──なるほど、だからプライベートストックと「The Kanami Limited Edition」の仕様が同じなのか。
KANAMI:プライベートストックがものすごく良かったので、みんなにこの良さをもっと知っていただきたいみたいな思いもあって。なので、トップも「キルトトップにしたいです」ってお願いしたんです。でも、今ではすごく希性な木材になってしまったみたいで。
──そうですね。最近は本当に希少になってしまったとききます。
KANAMI:そうなんです。ポール(・リード・スミス氏)にこの前お会いしたんですけど、「キルトトップも本当に全然入ってこなくて、今PRSにあるキルトトップを全部The Kanami Limited Editionに使うよ」って言ってて、「ほんとですか?」「そ、そんな、いいんですか。ありがとうございます♪」みたいな感じなくらい、本当に希少なものみたい。なので、「The Kanami Limited Edition」を購入した方は、その希少なボディを使えるから、めっちゃいいって思ってます。

──プライベートストックも「The Kanami Limited Edition」も、ピックアップは85/15、サーキットはCustom 24-08と電装類も全く同一ですね。
KANAMI:そうです。35周年モデルのPRSがこれと同じで気に入っているので。お給仕ではなるべく1本のギターで完結できたらいいなと思っているので、シングルにタップすることもできてすごくいいんです。なのでプライベートストックもこの仕様にしましたしシグネチャーも同じです。「もうこれ、すっごい何でもできるよ」みたいなギターです。どんなジャンルでもほんと使えるよなって思っていて、それをみんなに共感してもらいたいみたいな気持ちもありまして。

85/15ピックアップ

8種類のサウンドバリエーションが出るサーキット
──そして極めつけはこのポジションマーク。
KANAMI:ブラッシュストローク・インレイって言うんですけど、これ、珍しいそうです。ポール自らがプロデュースしたPaul's Guitarで使われていたデザインなので、出回っているPRSでこのインレイはほとんどなくて。
──超かっこいいですよね。
KANAMI:そうなんです。PRSを知っている人からすると「これ何?」ってなりますよね。通常のバードインレイも好きなんですけど、このデザインを使わせていただけるってなったので、プライベートストックと同じ仕様で行かせていただきました。

──ここのポイントも高いよなあ。
KANAMI:シグネチャーにはKANAMIさんが作りたいやつを全部入れましょう」って言ってくださって。「いいんですか?じゃあ入れますね」って言って、トップはキルトだし、このインレイだし、パーツもスモーク・ブラック・ハードウェアにさせてもらって、ニッケルよりもよりシックになりました。
──男前ですよね。
KANAMI:そうなんです。気付いたら男前のギターになってました(笑)。
──究極のオーダーギターとしてプライベートストックを作ったわけですから、シグネチャー・ギターがそれと同スペックになるのは、至極当然の結果なんですね。
KANAMI:トランパスグリーンのCustom24が1番最初に買ったPRSだったので、「その初心を忘れたくない」っていうのと、「このシグネチャー・モデルをもって今後もBAND-MAIDで突き進むぞ」っていう決意表明も込めてこの色にしたので、そういう思いも皆さんに届くといいなって思って。
──変な話、BAND-MAIDのコピーとか関係なしに、誰が持ってもOKな万能ギターですからね。
KANAMI:お、分かっていただけますか。そうなんです。そう言っていただけてすごい嬉しいんですけど、私のモデルじゃなくても、私のことを知らない人でも使った方がいいと思うんです。本当に素晴らしいギターなので、私のことを気にせず使っていただきたいなぁ。
──トラスロッドカバーにはBAND-MAIDのロゴがありますが、これもワル目立ちしていないし。

KANAMI:そうなんです。最初は「KANAMI」って入れる案もあったんですけど、私、BAND-MAID以外でギターを弾くつもりもないし、BAND-MAIDでいるという決意表明もあってリボンマークにしました。「KANAMI」って書いてあったら手に取りづらいだろうなっていうのもあって。
──購入者が、奥さんから「このKANAMIってなんなの、誰なの? ウキーッ」とか言われたら嫌だし。
KANAMI:そんな事があるかわかんないけど、あったら困ります(笑)。
──BAND-MAIDのメンバーは、この「The Kanami Limited Edition」にどんな反応を?
KANAMI:初めてケースからオープンするときも、みんなに居てもらったので、「きゃー、おめでとう」って。それでもう、いろんな人に「これすごいでしょ」「いいでしょ」って見せて(笑)。出来上がった「The Kanami Limited Edition」を2本持ってきていただいて、サウンドを出しながらどっちがいいか選んだんですけど、メンバーにも選んでもらったら全員一致で「こっちがいい」って、それがこのギターなんです。
──みんなの意見が一致だなんて、それは素敵な話。
KANAMI:全員同じ意見になるので、だからやっぱり目指している音ってみんな一緒なんだなって思いますね。
──いいエピソードですね。
KANAMI:ほんとですか?もうほんとに私、このメンバーがいないとバンド続けられないから。だから「今持っているこのシグネチャー・モデルがすごく大事だな、大切にしていこう」って思います。まだ使い始めなので、もっともっといい音になっていくと思いますし。でも現状ですでにすごくいい音で、この前ZEPP HANEDAでも使ったんですけど、むしろ若くて新しい音がするから、音がスコーンと届きやすいんです。ロー感とかはもっと弾き込んでいかないと出ないと思うんですけど、でもその新しい鳴りがまた良くて、ファーストタッチでいい音がするのでPRSって本当にすごいなって改めて思いました。
──お給仕に、レコーディングに、ますますの活躍を楽しみにしています。ありがとうございました。

取材・文◎烏丸哲也(BARKS)
Paul Reed Smith The Kanami Limited Edition
BODY・Body Construction : Solidbody
・Top Wood : Quilted Maple
・Back Wood : Mahogany
・Top Carve : Violin
NECK
・Number of Frets : 24
・Scale Length : 25"
・Neck Wood : Mahogany
・Neck Construction : One-Piece
・Truss Rod : PRS Double-Acting
・Neck Shape : Pattern Thin
・Neck Depth at the 1/2 Fret : 53/64"
・Neck Depth at the 12 1/2 Fret : 57/64"
・Neck Width at the Nut : 1 11/16"
・Neck Width at the Body : 2 1/4"
・Fretboard Wood : Ebony
・Fretboard Radius : 10"
・Fretboard Inlay : Brushstroke Birds
・Headstock Venner : Ebony
・Headstock Logo : Signature, Inlaid
NECK/BODY ASSEMBLY
・Neck/Body Assembly Type : Set
FINISH
・Finish Type : High-Gloss Nitro
HARDWARE
・Bridge : PRS Patented Tremolo, Gen III
・Tuners : PRS Phase III, Locking
・Hardware Type : Smoked Black
・Nut : PRS
・Truss Rod Cover : “Band-Maid Logo”
ELECTRONICS
・Treble Pickup : 85/15
・Bass Pickup : 85/15
・Controls : Volume with Tone Control and 3-Way Toggle Pickup Switch and Two Mini-Toggle Coil-Tap・ Switches
ADDITIONAL INFO
・Strings : PRS Signature 10-46
・Tuning : Standard(6 String): E, A, D, G, B, E
・Case : PRS ATA Multi-Fit Molded Case, D1 / Backplate hand-signed by Kanami Tono





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