「M-SPOT」Vol.005「驚きのクオリティ」

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TuneCore Japanに投稿された楽曲の中から、キラリと光る作品、これはと思う佳曲・名曲・逸曲をひとりでも多くの人に紹介しようとするTuneCore JapanとBARKSとのコラボレーション企画「M-SPOT」、今回はハイクオリティな作品と歴戦の余裕を感じるアーティストが続々と登場してきた。今回も楽曲をリコメンドするキュレーターは、堀巧馬(TuneCore Japan)、野邊拓実(TuneCore Japan)、DJ DRAGON(BARKS)、烏丸哲也(BARKS)の面々だ。

   ◆   ◆   ◆

──応募作品を聴くたびに、そのクオリティの高さに感嘆しますね。

野邊拓実(TuneCore Japan):以前お話にあったように、インディとメジャーの垣根もほとんどなくなった状況というのは、逆にインディペンデントアーティストに求められてるレベルが上がってしまうという話でもあると思うんです。

──そうかもしれませんね。

野邊拓実(TuneCore Japan):レベルが上がっていくのは基本的には良いことなんですけど、弊害としてこの世界への入りにくさを作ってしまう懸念もある。「音楽やってますって言っていいレベル」みたいな。そんなものは本当はないんですけど、「こんにちは」と言えるだけで「俺、日本語喋れるよ」というアメリカ人に対して、「I can't speak english, I'm sorry.」って言っちゃう日本人の気質みたいなところで。

──ありますね。そういう敷居の高さをさらに助長させてしまうような、とんでもないクオリティにも出くわしますからね。例えば、gurasanpark「Muggy (feat. Oz Noy)」とか。



堀巧馬(TuneCore Japan):これ、超かっこいいっすよね。僕、マジでやられました。

──…シロウトじゃないですよね。

堀巧馬(TuneCore Japan):ギタリストも有名なアーティストのサポートとかやっているでしょ、みたいな。

──無駄のない雑味がスパイス的に加わったこのトーンと歪み感…まるでジェフ・ベックの香りで、ただもんじゃない。

野邊拓実(TuneCore Japan):そもそもgurasanpark(グラサンパーク)っていう名前にもう余裕を感じる(笑)。その名前でインスルメンタルですって時点で「上手そうだな」「なんか余裕ある」みたいな。

堀巧馬(TuneCore Japan):ベテランの匂いがしますよね、実際おいくつとかわかんないですけど。僕はこのジャケ写も結構好き。超絶シンプルですけど、このタイポグラフィは狙っているでしょ?「わざとこうしてます」っていうのが超伝わってくる。何の話ですか?ってとこですけど(笑)。

──いや、バンド名もアートワークも、全ては考え方やポリシーとつながっていますから、音楽性やミュージシャンシップは、これらの要素に共通して表れてくるでしょう。


gurasanpark

野邊拓実(TuneCore Japan):調べてみると、gurasanparkはバンド名ではなくベーシストの方みたいですね。

堀巧馬(TuneCore Japan):だからフィーチャリングが入っているのか。

──世の中にはこんなすごい人もいっぱいいるわけですよね。

堀巧馬(TuneCore Japan):そういう意味では、僕はTHINGSの「Lady ~僕と君の世界線~」も好きです。

野邊拓実(TuneCore Japan):もう完全にうまい人たちで。



──このテンポで演っちゃう凄さね(笑)。

野邊拓実(TuneCore Japan):めっちゃわかります。このテンポで4つ打ちの四分音符だけでベース鳴らすっていうのはね、これは普通できないですよ(笑)。明らかにデキる人のやり口で。

堀巧馬(TuneCore Japan):プロとかアマチュアとか立場とか関係なく、まさしくセンスと経験の成せる技ですね。

──四分打ちのベースなんて、音をどこでどう切るかでグルーブが大きく変わりますから、その表現でこの曲を言い表しちゃおうというヤベえ連中ということで。

野邊拓実(TuneCore Japan):最初の1小節だけで「歴戦の方々ですね、通ってきた方々ですね」みたいな。

──ライブでめっちゃ気持ちよさそう。


THINGS

堀巧馬(TuneCore Japan):こんな人たちがメジャー・レーベルじゃなくて個人でやっているとなると、いろんな考えが出てきますよね。インディペンデントのほうがいいという考えもあるし、逆に、こんな人でもメジャーになれないのか、とハードルの高さに感じてしまうとか。

──バンドではメジャーでゴリゴリ活動しているミュージシャンが、ソロでは敢えてインディペンデントな活動を選ぶ人もいますから、考え方次第ですね。もはや上下関係ではない選択肢のひとつですね。

堀巧馬(TuneCore Japan):事情は様々、いろんなことが多岐にわたってありますから、音楽業界も出入りが激しくて、このコーナーで紹介した翌月にはメジャーデビューしていたりとか、ありますからね。アーティストにとって1番いいことは、どんな選択肢を取るにせよ本人が決めることができるということです。

──時にいますよね、とんでもない作品が埋もれていて、なにこれって。

堀巧馬(TuneCore Japan):「この人たち、うますぎない?」みたいな「なんで個人なの?」って思ったら、結構有名な人での個人アカウントだったりとかもあったりして、裏側が気になったりして(笑)。

野邊拓実(TuneCore Japan):有名な人のバックの人とかね。

──例えば「Boyfriend」という曲をアップしているKAHOH(カホ)なども、多くの方とフューチャリングしていて、この交流の広さとクオリティは単に趣味が高じましたというレベルじゃないですよね。



堀巧馬(TuneCore Japan):すごいですよね。逆にKAHOHがフィーチャリングされている曲も結構あって、僕も好きなR&Bの中に、featuring KAHOHの曲が結構ありますよ。KAHOH & Yo-Sea「Rendezvous」とか有名な曲ですよね。


KAHOH


──これだけ歌える人が、自分の作品では敢えてフィーチャリングを立てて自分は歌わないところに余裕を感じるなあ(笑)。

堀巧馬(TuneCore Japan):自分の良さが1番活きるタイミングだったり作品だったりを、ちゃんと考えているんだと思います。ヒップホップでもやっぱり流行りがあって、ケンドリック・ラマーが出てくるとみんなケンドリック・ラマーになっちゃうとか、とりあえずトラップっぽい音楽を作っとけば人気出るみたいな傾向も出がちなんです。オートチューンのようなそれっぽく形にしやすい術もある。そんななかで、こういう作品には耳を惹かれますよね。maco maretsの「Good-bye, Angel (feat. TSUBAME)」という曲です。




堀巧馬(TuneCore Japan):なんて言うんですかね、ごまかせないところまで行っている感じがするんです。

野邊拓実(TuneCore Japan):技術がどうの、という話じゃないですね。

堀巧馬(TuneCore Japan):そう。ヒップホップって、なんとなくこれ聞いたことあるなみたいなテンプレート的なものがあったりするんですけど、maco maretsの「Good-bye, Angel (feat. TSUBAME)」には、何かしら影響が受けたものも自分の中で落とし込まれているというか、消化されて掛け合わされていることを感じます。

──他の曲もいっぱい聞いてみたくなりますね。

堀巧馬(TuneCore Japan):そうですね。結構気になります。


maco marets

野邊拓実(TuneCore Japan):めちゃくちゃ振れ幅は広そうな気がする。適当なことを言っちゃうと、影響も音楽だけじゃなくて映画のようなものとかもあるんじゃないか…そういう空気感を感じますよね。情景感みたいな雰囲気を出すのがとても上手なので、単純にルーツを音楽だけに持つよりも「映画のこのワンシーンみたいなのを音楽で表現したかった」みたいな話の方が納得しちゃう感じですね。

──本人の中には、何らかの映像とか絵が浮かんでいるのかもしれないですね。

野邊拓実(TuneCore Japan):それを思わせるような感じ。実際はわからないですけど、そういうところを意識するアーティストやバンドは結構増えてきているような肌感があります。ジャンルというものが崩壊している今、カテゴライズするとすれば、それって共通な感覚とか思想であったり、感性みたいな部分が同じというところかなと思うんですよね。アウトプットは違うんだけども、インプットしたものの解釈の仕方みたいなもので、共感するところがある感じ。

──感性とか価値観とか。

野邊拓実(TuneCore Japan):そうですね。それこそめちゃくちゃ大昔の芸術って、結構そうだった気がするなと思って。絵画の印象派というのも、主流に対するカウンターカルチャーとして生まれたと思うんですけど、徒党を組んだわけでもなく、思想でつながっていたアーティストたちということでしょうから、今の音楽界隈でもそういう構造が当てはまるんじゃないかなって気がします。

堀巧馬(TuneCore Japan):逆にラップはしているけど、ヒップホップの文化じゃないなっていう楽曲もあるなとは思います。韻を踏んで早くバーっと喋っているんだけど、コアにあるものはサウンドに表れますから、逆に僕はヒップホップとはあんま思わない。BPMのすごい早い曲に対して歌ってるポップスみたいな。

野邊拓実(TuneCore Japan):ヒップホップの魂はハードコアですからね。

堀巧馬(TuneCore Japan):ヒップホップって根底には怒りがあると思っているんですよ。反骨精神から始まっているから、なんか社会に対してかもしれないし自分に対してかもしれないけど、めちゃくちゃハッピーなヒップホップって、僕はヒップホップという感覚ではなくて、それはサウンドにも表れるんだろうなって感じます。

──リスナーが楽曲を聞いてどの部分に響くのか。メンタルなのか、スピリットなのか、思想なのか、サウンド自体なのか、そのジャンル的な楽曲構造に惚れてるのか、いろいろですね。

堀巧馬(TuneCore Japan):スラムで生まれ育って苦しい思いをしないとヒップホップができないということではないですからね。いい音楽はいい音楽だから、ニューヒップホップとかモダンヒップホップみたいな言い方をしたほうがいいのかもしれないですね。

──素晴らしい音楽は、様々な興味・好奇心を刺激しますね。また来週の出会いに期待しましょう。ありがとうございました。

協力◎TuneCore Japan
取材・文◎烏丸哲也(BARKS)
Special thanks to all independent artists using TuneCore Japan.

gurasanpark

gurasanpark ベーシスト/作編曲家/サウンド・プロデューサー。大学在学中よりプロ活動を始め、クレイジーケンバンドなどのプロデュース、ゆず、大塚愛、いきものがかり、森口博子、TOOBOEなどのレコーディングへの参加、AKBグループや26時間テレビへの楽曲提供、ポカリスウェットなどのTVCM、『報道ステーション』メイン・テーマ・ソングの編曲などを行う。 ソロ作品がiTunesインストゥルメンタルチャートで3作連続1位を獲得。海外でのチャートイン、マレーシアのフェスへ出演するなど海外にも活動の幅を広げる。 共作曲でオリコンウィークリーチャート2位(渡り廊下走り隊/ギュッ)共同プロデュースでビルボードチャート4位獲得(クレイジーケンバンド/好きなんだよ)ベース演奏参加アルバムで「第61回 輝く!日本レコード大賞・企画賞」受賞(森口博子/GUNDAM SONG COVERS)
◆gurasanparkページ(TuneCore Japan)

THINGS

Japanese Retro Pop Band Vo. 藤正 裕太 Gt. 浅見 卓矢 Key. 田島 岳 Dr. 長良 祐一 2019年 10月にリリースした1st Single「光」は テレビ埼玉『Ole!アルディージャ』のEDテーマに採用される。 2023年より、ドラマー長良祐一を正式メンバーに迎え、新体制での活動を開始。 2024年5月、CHIMERA GAMES Vol.9 出演 2024年8月、第18回相模大野もんじぇ祭り 出演 2025年1月、Music Lane Okinawa 2025 出演予定
◆THINGSページ(TuneCore Japan)

KAHOH

2001年生まれのR&Bシンガーソングライター。ポップス、R&B、HIPHOPなどのジャンルを融合させた独自の音楽性で注目を集めるアーティスト。力強さと透明感を兼ね備えた唯一無二の歌声とリアルな歌詞で聴く人を魅了する。
◆KAHOHページ(TuneCore Japan)

maco marets

1995年福岡生まれ、現在は東京を拠点に活動するラッパー/詩作家。2016年に1stアルバム『Orang.Pendek』でCDデビュー。2018年にはセルフレーベル「WoodlandsCircle」を立ち上げ、自身8作目となる最新アルバム『Wild』に至るまでコンスタントに作品リリースを続けている。近年はEテレ「Zの選択」番組テーマソング『Howl』や、藤原さくら、浮、Maika Loubteなどさまざまなアーティストとのコラボレーションワーク、詩集『Lepido and Dendron』の刊行、雑誌/Webメディアでの連載執筆など、多岐にわたる活動で注目を集めている。
◆maco maretsページ(TuneCore Japan)

◆「M-SPOT」~Music Spotlight with BARKS~
◆BARKS「M-SPOT」まとめページ
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