【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話039「音楽生成AI」

先日、音楽生成AIのSUNOで曲を作った。
自分自身、SUNOへの理解が全くおぼつかない状況なので「曲を作ってみた」という表現が正しいのか「曲が作られた」と言うべきなのか、そのあたりの認識も定まっていないので「さて、どんなものなのかを体感するのが先決だよな」というレベルでの接触だった。
プロンプトは、何の工夫もないちょっとお馬鹿な日本語を入れた。「ベースがブリブリ暴れるテンションが上がるJ-POP」…これだけだ。もちろん歌詞もないし、タイトルもないし、具体的なジャンル指定もしていない。
ええと、これでいいや。これで曲を作ってくださいお願いします、とポチ。待つこと15秒。ポンと画面に現れた曲がこれ。「血まみれシティ」というタイトルが付いていた。「あ、そなの?」という素朴な感想だけど、引きは悪くない。そして歌詞も作ってくれている。なんかイケてるようなイケていないような、意味がわかるようなわからないような。でもノリはいい。ちょっとニヤッとしてしまうから、この時点で心動かされたとするならば、AIの勝ちか?
「ベースがブリブリ暴れるテンションが上がるJ-POP」というプロンプトで何故「血まみれシティ」なのはわからない。でもちょっとウケる。そもそもプロンプトを日本語で入力しているし、J-POPと指定しているので、日本語の歌が出来上がるのは想定内だったけど、ボーカルが男性なのか女性なのかは予測できない。出来上がった歌詞を見れば、まあ男なのかなとは思うけど、それも結果論。何故こういう歌詞なのか。「ブリブリ」部分をどう解釈したのか、ベースはほとんどブリブリしていない。楽器のベースではなく、「曲のベーシックなコンセプトがブリブリです」と解釈したのか? なにそれ。ブリブリというオノマトペは難しかったのか。
とにかくいろいろ分からないけど、それは私のSUNOの使いこなしができていないからであって、クリエイティビティがゼロのプロンプトでも、この程度の楽曲は15秒でできますよという現実が浮かび上がった。しかも頼んでもいないのに2曲も同時に作ってくれちゃったりして、同じ歌詞でもこういうバリエーションは朝飯前ですと、SUNOがドヤってきたわけだ。ギター・ソロはかつてのヤン・ハマーみたいだけど(笑)。
この一連の体験で思うところは色々あるけれど、2025年2月の時点で15秒で生成しちゃうのであれば、リアルタイムで音楽が生成されようになるのも目前ということが確信できた。つまりこれは、その場その場でパーソナライズされた最適な音楽を、各人に提供できることがいよいよ実現可能になったことを意味する。
どのような場でどのような条件でどんな音楽を生成すべきかはサービス設計次第だけれど、その場の天気も気温も季節も時間も場所も、全てプロンプトになる。ウェアラブルデバイスからは体温や心拍数、血圧や血中酸素濃度なども簡単に得られるだろうし、時間軸に沿った状態変化を読み取ったうえで、最適な音/音楽による最大のパフォーマンスを促すことができる。もちろん日常で入力したデータ…SNSへのポストも友達同士のLINEも、仕事で入力したテキストも、昨晩の睡眠データも全てユーザーの動向とコンディションを測るプロンプトになり得る。
スポーツや学びの環境においても、音楽が集中力やリラックス効果、ストレス軽減に大きな効力を発揮することは、誰しも経験済みなこと。音楽がリアルタイムに生成されることは、これまでの経済構造を大きく揺れ動かす革新的なサービスを生むことになる。ミュージシャンたるアーティストが生み出す音楽コンテンツも、動的なアートになることも想像に固くない。
音楽はレコーディングされれば形が定まるものだったれけど、そういう時代はまもなく終わる。そもそもレコーディング現場でも、アーティストはアレンジやテイクのセレクトに迷い、悩み、ある種の妥協を強いられながら、ひとつのテイクを選ぶという苦渋の決定を余儀なくされてきた。
そんな時代は終わりだ。音楽は生き物のように変化し、成長し、オーディエンスのもとで蠢き続ける。音楽というアートが、やっとライブになる。
そういえば、ボブ・ディランはライブで楽曲を常に変化させてきた。ライブのたびにアレンジが変わり、メロディまで変わり挙げ句歌詞まで変わるので、熱烈なファンですら、その曲であることに気が付かないほどの変容を見せる。そんなクリエイティビティが楽曲でも表現できる時代が目前だ。いよいよ音楽というアートの次元が大きく変わる。著作権という概念の根底すら揺り動かすとんでもないことが起こるぞと、心拍数が上がっているのは私の思い違いなのでしょうか。
最後に「血まみれシティ」の歌詞を記してみます。私のプロンプトに著作権が発生するなら、この歌詞は私の持ち物なのでしょうか(笑)。
◆ ◆ ◆
「血まみれシティ」
[Verse]
ヤバ過ぎるこのバイブス
街を抜けこのバイブス
帰りは誰か送るから
もっと遊びなbaby
Say
[Verse 2]
We got a blood city gang
Murder city gang
Chicken のしゃぶぶ
ムシャブブしてる
We got a blood city gang
Murder city gang
飯行こーぜ
できればHipHop nightで
[Chorus]
血まみれ blood city
血まみれ blood city
血まみれ blood city
血まみれ blood city
[Bridge]
Mansion records
She's got you slippin'
Smoking ganjas
Brutal jobba
[Verse 3]
We got a blood city gang
Murder city gang
Chicken のしゃぶぶ
ムシャブブしてる
We got a blood city gang
Murder city gang
飯行こーぜ
できればHipHop nightで
◆ ◆ ◆

文◎BARKS 烏丸哲也
◆【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話まとめ
この記事の関連情報
【BARKS 正社員スタッフ募集】音楽と感動を創り出す仲間を募集します
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話038「蛍の光」
今一番キテる楽曲を紹介する「M-SPOT」、TuneCore Japanでサービス開始
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話037「生成AIが生み出す音楽は、人間が作る音楽を超えるのか?」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話036「推し活してますか?」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話035「LuckyFes'25」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話034「動体聴力」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話033「ライブの真空パック」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話032「フェイクもファクトもありゃしない」