【連載コラム】a flood of circle『THE WILD BUNNY DIARIES』9本目=佐々木亮介、「僕はここでコーヒー飲んで良いのでしょうか」

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▶<Tour WILD BUNNY BLUES> 9本目
▶2025年2月15日(土) 高知X-pt.
▶書き手:佐々木亮介 (Vo, G)

   ◆   ◆   ◆

高松市街にある、なんとかいう大きな公園の裏手のコーヒー屋に入った。
すぐ微妙な緊張を感じた。
それはどんな緊張か。

静謐な空気(先客一名)、メニューに添えられた詳細な説明文(英文)、什器の無駄のなさ(余計な飾りなし)、音楽なし(素晴らしい)、これはもう眼前のマスターが、しかも細身の黒のタートルネックをシンプルに着こなしたそのマスターが、コーヒーに対して尋常ならざる情熱を抱いていることは明らかな確定事項、この喫茶店、否、このコーヒーデベロップメント即ちCoffee Developmentは、彼が決定的に強い拘りを持って経営している店であり、それはもう拘るどころか人生をかけて拘り抜いているという趣であり、ということはきっと豆を選んだり挽いたり焙じたり煎じたりすることに青春を注ぎ込み、あらゆる側面からクオリティアップに繋がる方法を検討し、己の味を追求した果てに、はて己の味とは何であるか?と問い詰める余り己そのものを見失うこともあり、ともすれば焙煎の手を止め哲学的な思考に耽り眠れぬ夜も数知れず、気づけば外は秋になり、地面には銀杏が匂い立ち、お空には小熊座が輝き、映画ルックバックが観てないうちに劇場公開を終え、リンチが死に、人生は着実に暮れてゆく、さりとてここまで来れば持てるResourceを丸ごと苦汁に捧げ続けるしかなく、時に奥歯欠けながらも試行錯誤を繰り返し、その過程で一旦掴みかけた答えにさえ執拗にこれで良いのかと疑いをかけ、"疑うことはむしろ本当に信じ切るための最重要プロセスなのであーる"とリバーブ強めで深淵より呼びかけるリトルマスターの声を頼りにし、しかしリトルの声のみを真面目に聴き過ぎた挙句、妻子パートナーその他家族血縁者から寄せられた"そのへんでやめときなはれ"という意見を放ったらかしてしまい各人を泣かせる事態となり、しかしそれでもなお血の涙(比喩)を流しながらコーヒー人生を選び取ろうとした、という地点まで来てなお未だ欲する答えは遠く、ついに店を飛び出して四国中を彷徨い歩き、街並みや山や海や木々や男や女や僧やボートレースなどにインスピレーションを求め幾年、その中で金や矜持を失ったり得たりして、やっとの思いで絞り出した一滴の答えが彼の中に抽出され、つまり自らの人生そのものをコーヒーとして表現し得る段に至ったが為に今日ここに堂々たる彼自身のCoffee Developmentが存在する、かどうか知らないけれども、ここってもしかして、そういう感じの店なのではないだろうか。怖い。

という緊張である。

僕はここでコーヒー飲んで良いんでしょうか。

上に書き連ねたのはもちろん、自らの悩み事を一部反映させ残りは過剰に表した被害妄想であり、その実そこはコーヒーに真面目な落ち着いた感じのイイ店、と言って差し支えない。

さて、そのような真面目な店の熱に応え得る知識と興味がこちらに備わっているだろうか。
いやない。
僕はここでコーヒー飲んで良いのでしょうか。

という自分の傍白を聞いてか聞かずか、マスターは優しい声のトーンで、何になさいますかと言って英文のメニューを見せてくれる。

これらはあれでしょう、シングルオリジンというやつだ。
更に言えばスペシャルティコーヒーというやつだ。
知ってるんですよ、何故なら自分は齢38で、都会暮らしも長い。
耳年増、いや年増という言葉を女性にだけ用いるというのは不公平な感じですよね、まあとにかくおっさんであり、そのようなコーヒーがこの世に存在することは知っているんですよマスター、はっはっは。

とは言わなかった。
言葉だけ知っていて実態を知らないからである。
自分にとっては例えばオルタードスケールとか、いりこ出汁とか、地獄突き毒針エルボーとかと同じで、シングルオリジンもスペシャルティコーヒーもなんとなく意味や内容を推測できるが本当は何なのか知らないものだった。

いやあ、シングル(単一)、オリジン(根源)、スペシャル(特別)、どれも喉から手を出して万引きしたくなるような素敵な言葉たちですよね。
泥棒、ダメ絶対!
アートなら盗むより奪えと古来より伝えられております。
あ、ギターウルフのセイジさんは、ロックはアートじゃなくてロックだ、というようなことを言っていたと記憶している。
定かじゃないけど。
やっぱアートよりロックですよね。
ギターウルフ サイコー!

ともかく、そんな自分に、マスターは懇切丁寧に豆や焙煎について説明してくれた。
一通り伺ってから、ラテン語で新しい大地という意味を持つ大層な名前のコーヒーを注文した。
流石家族を泣かせてまで捻り出した(か確認していないがそうであってもおかしくない)拘りのコーヒーは大変美味かった。

マスターは、うちの店は音楽でいうとハードコアということかも知れません、と実に謙虚な感じで仰っていた。
良い人だ。

ただ自分はハードコアもよく分からない。
ティーンだった時分にイーブンスというバンドを観に行って"仲が良い人たちだな"という感想が真っ先に浮かんでしまったくらいで、今も"イーブンスを観たんじゃ俺は"と書くことで何らかのマウントポジションを取ろうとしているというゴリラ的態度、と言ったらゴリラに失礼だよね、という感じで生きている為、やはりハードコアが何かは分からない。
イーブンスのイアン・マッケイという人はハードコアの人だと聞いている。
ただし今でもその日のライブの空気が思い出せるということは、いやほとんどのライブは思い出せない訳で、すごい演奏だったということは間違いない。イーブンスすごい。

何の話だったか。
コーヒーのハードコアとは何か。
それが、わしゃめっちゃ核にあるものだけ求めとんのじゃ他は眼中にないんじゃボケ、という意味だとすれば、このコーヒー店は紛れもなくHard Core的な態度なのだろうと思える。
なんとカッコいい店じゃんか。

自分は、"めっちゃ核にあるものだけ求めて他は眼中にない"という状態に憧れがあり、まあ正直に書けば年に計15分くらいはそういう状態でいられる気はするものの、後のほとんどは持て余した欲望と嫌われたくなさでやり過ごし、じゃあもうしんどいし飲んで騒いでイェイイェイイェイという自覚がある。


俺はこの日、酒だけでなく、カッコいいコーヒーを飲んだ。

"めっちゃ核にあるものだけ求めて他は眼中にない"
あと何度それに触れられるだろうか。
高知の演奏でもそれに臨んだつもりではある。
それは人によってエンタテインメントとしてレギュラーな自分を演じ切ることなのかも知れないが、俺は今その時の心の声を精一杯聴き出来得る限り本気でまんまでぶちかましそれを聴き手への礼儀とする、みたいな感じでライブに挑んでおります。
今は。

ツアーをやっていますので、どうぞ遊びに来てください。
まあ最終的には飲んでも飲まずとも騒いでイェイイェイイェイですので、よろしくどうぞ。

──佐々木亮介


   ◆   ◆   ◆

■<a flood of circle Tour 2024-2025>

▼2024年
11月28日(木) 千葉LOOK
11月29日(金) 千葉LOOK
12月06日(金) 堺FANDANGO
12月07日(土) 堺FANDANGO
 w/ THE CHINA WIFE MOTORS
▼2025年
01月23日(木) 名古屋CLUB UPSET
02月09日(日) 京都磔磔
02月11日(火祝) 広島SECOND CRUTCH
02月13日(木) 松山Double-u Studio
02月15日(土) 高知X-pt.
02月16日(日) 高松DIME
02月18日(火) 静岡UMBER
03月06日(木) 神戸太陽と虎
03月08日(土) 鹿児島SR HALL
03月09日(日) 大分club SPOT
03月11日(火) 岐阜ants
03月16日(日) 横浜F.A.D
03月20日(木祝) 新潟CLUB RIVERST
03月22日(土) 郡山HIPSHOT JAPAN
03月23日(日) 盛岡CLUB CHANGE WAVE
04月05日(土) 長野J
04月06日(日) 金沢vanvanV4
04月10日(木) 奈良NEVER LAND
04月12日(土) 出雲APOLLO
04月13日(日) 福山Cable
05月09日(金) 仙台MACANA
05月10日(土) 水戸LIGHT HOUSE
05月15日(木) 八戸ROXX
05月16日(金) 八戸ROXX
05月18日(日) 山形ミュージック昭和SESSION
05月23日(金) 岡山PEPPERLAND
05月25日(日) 福岡CB
05月30日(金) 札幌cube garden
05月31日(土) 旭川CASINO DRIVE
06月05日(木) 名古屋CLUB QUATTRO
06月06日(金) 梅田CLUB QUATTRO
06月13日(金) Zepp DiverCity TOKYO
06月21日(土) 沖縄output


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