【インタビュー】じん、12年ぶりボーカロイド起用フルアルバム『BLUE BACK』に全11色の青「青春時代にとどめを」

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『カゲロウデイズ』の作者でアーティストのじんが2月19日、3rdフルアルバム『BLUE BACK』をリリースした。ボーカロイドを起用したフルアルバムとしては、『メカクシティレコーズ』(2013年)以来、約12年ぶりとなる。“不完全な青さ”や“失った青さ”、“無邪気な青さ”など、収録11曲すべてが“青さ”をテーマにした作品集の完成だ。

◆じん 動画 / 画像

3rdフルアルバム『BLUE BACK』には「NEO」(スマートフォン向けゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』三周年アニバーサリーソング)やアニメ映画『劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク』に提供された「Worlders」に加え、様々なアーティストへ提供した「未だ、青い」「Newton」「ステラ」などをセルフカバーした全11曲を収録した。インタビューでは、じん自身が「普段の自分が反映されている曲が多い」と語る本作の制作や、収録曲のテーマなどについてじっくりと話を聞いた。なお、以下は3rdフルアルバム『BLUE BACK』に関するじんのコメントだ。

「今回のアルバムは、タイトル通り“青さを振り返る”ような作品になりました。苦い過去や若さ、自分にとってのモラトリアムが常に後ろにあるという感覚が、生きるということなのかもしれないと感じています。僕の青春時代に対しても、とどめを刺せるような作品になりました」


   ◆   ◆   ◆

■途中経過なんだと思います
■区切りではあるけどゴールではない


──3rdフルアルバム『BLUE BACK』がリリースされました。ボーカロイドを起用したフルアルバムとしては、『メカクシティレコーズ』(2013年発表)以来、約12年ぶり。今振り返ってみて『メカクシティレコーズ』はどんな作品ですか?

じん:20歳から22歳くらいの時期に作ってたんですよね。まだまだ初期衝動的だったし、当時は物語と音楽を融合させるという挑戦もあって。その二つの軸をどうブレンドさせるか?にこだわっていましたね。

──その後も『メカクシティリロード』(2018年)、じんさん自身が歌唱した1stミニアルバム『アレゴリーズ』(2022年)などを発表。楽曲提供を含め、活動の幅を広げてきました。前作以降の10数年は、じんさんにとってどんな時期でしたか?

じん:音楽や文章をはじめとする創作活動はずっと続けていましたけど、それ以外のことが大変だった印象があって。『カゲロウプロジェクト』が大きい作品になって、たくさんの人に知っていただいて。それはすごくありがたいことなんですが、一方で“自分一人でやれる範疇を大きく超えてしまった”という感じもあったんです。多くの方々が関わるようになり、それぞれの人に正義があって。それが負担になった時期もあったんですよね。あとは友達との関係でもいろいろあったし、すごくきつかったです。それでも辞めずに続けてきたのは、自分の音楽をやっぱり聴いてくれる人たちの存在が大きいですね。


──そんなシリアスな時期を経て、今作『BLUE BACK』にたどり着いたと。

じん:そうですね。先ほども言ったように、最初は物語と音楽を融合させたいと思っていて。The Whoやプログレにもそういう文脈(ストーリー性のあるコンセプトアルバム)がありましたけど、自分にとっての物語音楽を作りたいという気持ちが強かったんですよね。でも今作の『BLUE BACK』は、そこまでストーリーに軸足を置いているわけではなくて。何ていうのかな…黙々と作品を作っていくことが僕にとっては一番自然なんですよ。職人気質というとカッコつけすぎなので他の言い方を探しているんですけど(笑)、音楽を作ることは、ごはんを食べるのに近い感覚なんです。このアルバムの制作のなかで“これが一番自然なんだな”と改めて実感したし、アルバムが完成したときも“途中経過発表”という感じがあって。“すごい作品を作った”とか“芸術的行いを達成できた”ではなく……。

──日々、作ってきたものを集めたらこうなった、と。

じん:そうそう。登山の最中、ふと振り返って“けっこう高いところまできたな”って思うことがあるじゃないですか。それに似たようなことはちょっと思ったかもしれないです。辛くて泣いた日もあったけど、“あれからこんなに時間が経ったんだな”っていう。自分の歩みを感じる手がかりでもあるのかなと思います。

──これまでの軌跡を肯定できるアルバムでもある?

じん:それはなかなか難しい観点というか、“まだわからない”という感じですね。自分がやってきたことが正しかったのかはまだわからないし、答えは出ていない。そういう意味でも途中経過なんだと思います。区切りではあるけど、ゴールではないですね。自分自身を反映した曲ばかりだし、思い出はたくさん詰まってるんですけどね。

──『BLUE BACK』というアルバムタイトルについては?

じん:曲がほとんど揃ってから決めました。抜けるような青さだったり、青ざめるようなことだったり、未熟さだったり。青にはいろんな意味合いがあるし、それを多方面から表現してみたくて。このアルバムを作っていた時期は、そういう気持ちが強かったんだと思います。

──思春期と呼ばれる時期から少し離れた今だからこそ描ける“青さ”もありますからね。

じん:それはすごく感じています。逆に強烈な色になっていくというのかな。若い頃はどうしてもカッコつけたり、無鉄砲だったりするけど、大人になっていくにつれてそれがなくなってきて。“後戻りできない”という感覚もあるけど、だからこそ挑戦しなくちゃいけないと思うんですよね。特にアルバムの最後に入っている「BLUE BACK」という曲も、今だから書けたんだろうなという感じが強烈にあって。この先、生きていくうえで“あれが中間地点だったな”と思える曲になったんじゃないかなと。


──では、収録曲について聞かせてください。1曲目の「NEO」はゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』の三周年アニバーサリーソング。

じん:他の曲もそうなんですけど、特に「NEO」は、“これは僕の感覚でしかないよな”という気持ちがもとになっていて。音楽ってそういうものだよなって思うんですけど、名状しがたい気持ち、言葉では表せない感情を曲にしているんですよね。テーマとしては“不完全な青さ”なんですけど、それだけでは収まらないものもたくさん入っています。

──じんさんの音楽観そのものが曲になっているんですね。

じん:そうですね。音楽の楽しみ方は人それぞれだし、一つに括ることはできないですけど、こちらから何かを押し付けるのではなくて、(楽曲のなかで表現された)自分の考えに対して、聴いてくれた人が思いを重ねてくれたらなと。

──なるほど。「NEO」には“歌うこと”への思いも刻まれていますよね。

じん:特にサビはそうですね。歌うことだけではなくて、生きていくうえで何回も失敗したり、上手くいかないことはたくさんあって。“これは自分がやるべきことではないのでは” “才能がないんじゃないか”と思うこともあるだろうけど、その先にようやく一歩目がある気がするんですよ。苦しみながら進んできて、ボロボロになって。“ゴールかな”と思ったら、“まだ指がかかった程度です”みたいなことを言われるっていう(笑)。悩み、葛藤することを経て、初めて音楽をやる資格を得る。そんな感覚もありますね。


──2曲目の「未だ、青い(BLUE BACK Ver.)」は、光を放つようなサウンドが印象的でした。

じん:ありがとうございます。「未だ、青い」はもともと、湊あくあさんに提供させていただいた楽曲で。アルバムに入っているのは初音ミクさんが歌っているバージョンなんですが、どこを切っても“じん”という人間が入っているなって思います。自分のなかにあった“こういう青さを描きたい”というイメージと、湊あくあさんの歌声の魅力などが混ざり合って生まれた曲なのかなと。

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