【インタビュー】水瀬いのり、「この幸せを1日でも長く続けていきたい」

2025.03.11 18:00

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◼︎「ソロだけどチーム」ということに
◼︎気づけたので、全然寂しくないんです

──このライブを楽しいものにするためにこだわったことについて話していきたいのですが、まずは舞台セットが豪華でしたね。

水瀬:ジャケットの撮影で訪れたパリの町並みをイメージしたステージセットになっていたんですけど、誕生日の「1202」という数字や、INORIの文字があって、美術さんが愛を持って作ってくださったセットなんですよね。私がパリで見てきた景色を、チームいのり色にしてくれて、唯一無二のパリをこの空間で作ることができました。あと前回の<Inori Minase LIVE TOUR SCRAP ART>が全面LEDで、ちょっとサイバーな空間だったので、今回はもう少し人の温かみとか生活が見えるセットにしたいという思いがあったんです。

──町の広場に、音楽家たちが集まってきて、演奏を始めるような感じでしたね。

水瀬:だから、ライブへようこそ!というよりは、この町に、みんながなんとなく集まり、私たちの明日は、これからもここで続いていく……みたいな感じになっていたのかなと思います。

──実際に、このセットの中で歌ってみてどうでしたか?

水瀬:楽しかったです! 移動した先にベンチやテーブル、バルコニーがあったりして、映えるところが多かったので絵になる感じでした。いつもはお客さんを意識して、歌を届けるということを考えるんですけど、今回はどこか自分に歌っている感覚があって……。自分の心の思いが歌に乗っている感じだったので、没入して歌うことができました。それは、ちょっとお芝居している感覚に近いかもしれないですね。

──考えてみると、ミュージカルっぽさがありましたね。「フラーグム」で、2階から出てきたときも、楽しかったです。

水瀬:それもライブだからこそですよね。視覚的にも曲を楽しんでもらえるから、ヘッドホンで聴いているだけでは見えなかった景色をライブで演出できたのかなって思います。「フラーグム」も回を増すごとに良くなっていって、気づくとみんなが赤と緑のイチゴカラーで応援してくれるようになっていました。

──あとはライブの照明も、すごく良かったです。

水瀬:神戸公演のとき、客席からステージを見てみたくて、バンドリハを客席から見ていたんです。そのときにPA卓に入れていただけて、音響だけでなく、映像やライティングも当たり前だけどスタッフさんが手掛けているんだよなと改めて感じました。あらかじめプログラムされているものだと思うんですけど、それでもアドリブのときは人力でやっているし、こうやってたくさんの方に支えられてライブができているのを実感することができたので、より一層感謝しましたし、すごく原動力になりました。

──ステージを作るために動いているスタッフは本当にたくさんいて、それも含めていのりチームですからね。

水瀬:ソロと言われると寂しい気持ちもあるんですけど、今となっては「ソロだけどチーム」ということに気づけているので、全然寂しくないんです。それも、続けてきて良かったなと思う部分です。

──そんないのりチームでの思い出は、ありましたか?

水瀬:ファイナル公演では、スタッフさんをみんな集めて舞台上で集合写真を撮ったんです。もう、5列くらいになっていたんですけど(笑)。しかもファイナルはドローンチームもいて、初めて自分のライブに関わってくれる方が、いまだにいるのはすごいことだし、水瀬いのりに対する矢印の数が本当にすごく多いんだなって思いました。デビューのときは、その矢印がプレッシャーにもなっていたんですけど、今はこんなにも温かいんだなって感じているんです。皆さんとコミュニケーションを取ることで、自分のモチベーションも上がるということに気づけたので、本当にこのチームで良かったし、もっと思い出を作りたいなぁと思っています。

──いいですね。

水瀬:あと、地方公演では、バンドメンバーとご飯を食べるというのも約束事にしていたんです。今回、ファンクラブイベントからツアーメンバーに加入してくれた、にゃんちー(若森さちこ/Per/オレンジ)とすまり(須磨和声/Vio/黄緑)がいたんですけど、バンドメンバーからは「ニックネームやイメージカラーがある現場はそんなにないから嬉しいけど、本当にいいのかな?」みたいなことを言われました(笑)。でも、私のマインド的にはボーカルが一歩前に出る絵があまり好きではなくて、気持ち的には、同じ線の上にみんながいると思っているんです。「皆さんはバックバンドではないんです」っていうのはずっと言っているし、その思いがこのご飯会で届いたのかなって思っています。

──打ち上げのときに、次はこうしてみようという話もするのですか?

水瀬:バンマスのみっちーさん(島本道太郎/B/赤)がファイナル前の不安なときに、会場が広くなろうとやることは何ひとつ変えなくていいからと言ってくれてて、お父さんすぎる!って思いました(笑)。ハコが変わっても、今やっていることができることが一番大事なんだと言ってくれたのは、とても印象に残っています。

──ヴァイオリンとパーカッションは、ライブでもかなり利いていましたね!

水瀬:私の楽曲って弦を使っている楽曲が多いから、それを生で演奏していただけると、よりドラマが演出されますよね! でもにゃんちーとすまりに関しては、初めてやる曲ばかりだったと思うので、本当に頑張ってくれたし、素敵な演奏を届けてくれてありがたかったです。そんなバンドメンバーの紹介パートでは、みんなかわいく映っていると思うので、映像でじっくり観ていただきたいです。

──自分ではライブ映像はあまり観ないと以前話していましたが、他に観てほしいところはありますか? 

水瀬:今回、ライブ後に配信があったんですよ。そのときに家族と一緒に観ました。母がわざわざパソコンから有線でテレビに繋いで観ていたんですけど、私はパソコンの小さい画面から観ていました(笑)。そのとき「この人、すごく楽しそうだな」って思ったんですよね。過去のライブとかだと、「頑張れ! 良いよ! できてるよ!」っていう目線で見がちだったんですけど、今回は客観的に見られたし、すごく素敵なライブだと思ったんです。このボーカルの表情、素敵!みたいな(笑)。バンドメンバーとの温かい空気やチームワークが感じられて、まるで仲良しじゃん!って思いました。実際、仲良しなんですけど。

──ということは、見どころは水瀬さんの表情ということですね。

水瀬:はい。これはバンドメンバーやファンの皆さん、そして楽曲が引き出してくれたと思うんですけど、本当に作っていない表情だったので、そういうところを観ていただけたら嬉しいです。

──曲単位で、この曲の演出を観てほしい、などはありますか?

水瀬:開幕で歌った「We Are The Music」で、いきなりシンクロライトを使った演出にしたところですかね。ファンクラブイベントで「やりたい」と言ってこのライブですぐにやることになったので、嬉しい気持ちと「やっぱり、お金掛かったのかな?」っていう気持ちと半々でした(笑)。

──やはり、ステージから見たらきれいな景色になっているのですか?

水瀬:お客さんが入って、皆さんの腕が光ると、制御されているからこその脈打っている感じが演出されていて、人の数を感じました。これはみんなが工夫してくださったのかもしれないんですけど、ペンライトと喧嘩することもなく、私が見たかった景色が見られたので、嬉しかったです。願わくば、今回シンクロライトを使用しなかった曲でも、この色にしたいというイメージは結構持っているので、いつか実現できたらなと思っています。

──色のイメージを持っているんですね。

水瀬:私が勝手にイメージしているだけなので、皆さんは自由に楽しんでいただきたいんですけどね。曲によって、このカラーにしないといけないのではないかって迷ったり、ステージから見ていて、カラーを変えているときに、頭が下がったりして、それもちょっと寂しかったりするんです。別に隣の人と色が違っていても、何てことはないし、それよりもずっと視線がステージに向いていてほしいというか。せっかくライブに来てくれたのだから、気にせずに楽しんでほしいなぁっていう思いもあったので、それならば光を制御して、そこはフリーになってもらおうという思いも、実はありました。

──特に今回は、没頭できるライブでしたからね。

水瀬:そうですね。各々が自分の感情とか思い出を重ねてエモくなってほしかったので。それにみんな、一緒じゃないといけないなんてルールはまったくないということを伝えたかったし、それぞれの楽しみ方をしてほしかったので、1曲目に「We Are The Music」を歌いました。

──この曲から始まるのは、かなり良かったです。

水瀬:私もセットリストを考えたときに、この曲しかないな!って思いました。

──セットリストは、自分で考えているのですか?

水瀬:リストを上げてもらった上で、変更したりしていたんですけど、最初から全部考えたのは、このツアーが初めてかもしれないです。

──最高のセットリストでした。ハーフアルバムの中では、「スクラップアート」「アイオライト」は、ダークファンタジーのタイアップ曲でもあったので、入れどころが難しいかな?と思ったのですが、良い流れで歌っていたし、ファンも喜ぶ、キュートな猫ダンスがある「Kitty Cat Adventure」も入っていて。この曲は、かなり盛り上がっていましたね。

水瀬:すごかったですよね(笑)。この曲は、私がかわいいに対して頑張らなければな!と、いつからか使命感を感じてしまっていた曲です(笑)。歌うととっても楽しいですし、振り付けもキュートでお気に入りなんですが…みなさんの声援と可愛い振り付けへのハードルに何度披露しても恥じらいが消えません(笑)。ただ、この『heart bookmark』ツアーで歌うことで、それもひとつの自分の思い出、ピースであるということを改めて証明したいという気持ちがあり、今回セットリストに組み込ませていただきました。

──ツアータイトル的にも、思い出の曲を入れやすいですよね。

水瀬:表題やリード曲ではないところも私にとっては思い入れがあるし、意外とカップリングって自分の気持ちが100%乗っていたりするんですよね。私自身もアーティストのカップリング曲が大好きだったりするので、そこにブックマークを当てたかったんです。

──カップリングは、アーティストの本質が出ているところがありますからね。だから、好きな人は本当に好きなセットリストだったんじゃないかなと思いました。

水瀬:the・私みたいな感じですよね。そしてじんわりと広がっていく、唯一無二のセットリストができたと思います。

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