【ライブレポート】キズ × DEZERT、己の信じる“VISUAL”を掲げて

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令和のヴィジュアルシーンを牽引する代表的バンドとして、誰もが真っ先に名前を挙げるだろうキズとDEZERTの2バンドが、3月1日に日比谷野外大音楽堂にて<This Is The “VISUAL”>を開催した。

◆ライブ写真

2011年に始動したDEZERTに2017年に結成されたキズと、両バンドの活動歴には差があるが、各メンバーのキャリアは近しいものがあり、キズは一般からの電話相談受付や、来夢(Vo)が敬愛するボーカリストとセッションする動画『一撃』シリーズなど斬新な活動を展開。DEZERTは「Visual Rockに敬意を込めた大型イベント」として<V系って知ってる?>を日本武道館で行うなど、それぞれにヴィジュアルシーンを盛り上げるための施策を、これまでさまざまに敢行してきた。

そうして互いに切磋琢磨していくなかDEZERTは昨年12月に、キズは今年1月に初の日本武道館ワンマンを見事成功に導いた。それぞれにひとつの目標を達成した2バンドがガチで相まみえる初めてのステージということで、この日のチケットは早々にソールドアウト。そこで特筆すべきは、後攻となったキズの来夢がDEZERTのボーカル・千秋について語ったMCだ。

「千秋は……好きか嫌いかと聞かれれば……嫌いなほうに入ります。そう思ってたんですけど……嫌いというより、苦手かもしれないです。たぶん苦手なんだと思います。でも、ライバルというものは家族と一緒で、選べないことに気づいたんですよ。自分が“これだ!”って道をなりふり構わず突き進んで、隣にいる奴がライバルなんですよ。あいつ、いっつもいるんですよ!」

これほど“ライバル”というものについて、的確に表した言葉はないだろう。こうして自他ともに認める“ライバル”として走ってきた2バンドは、この日、自らの信じる『This Is The“VISUAL”』を真正面から鳴らし合った。

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開演は17時。まだ明るい陽射しのなかで登場した先攻のDEZERTは、全身を白に包んだSORA(Dr)がドラムスティックを振り上げて渾身の一撃を鳴らすなり「今日、俺たちと音楽やろうって人、全員手をあげて!」と千秋(Vo)が煽動。そして「俺たちは今日、確かに戦いに来てます。その相手はキズでも自分自身でもない、あなた1人です。あなた1人にライブしに来ました。よろしくお願いします。<This Is The “VISUAL”>始めます!」と高らかに宣言して、1発目から代表曲「「殺意」」をぶっ放した。千秋が《これは強い殺意殺意殺意殺意殺意殺意殺意殺意だ》と切り裂くようにリフレインすれば、オーディエンスは一斉にヘッドバンギングを繰り出し、拳を振る彼らに千秋は「まだ明るいな!」と声をかける。文字通り、ステージから容赦なくぶつけられていく強い殺意──しかし、それは“あなた1人と戦う”という強い愛情でもある。


「200パーでやりに来てるんですけど、200パーで返してくれませんか? そんなんでいいんですか? ある種、歴史的な日ですよ!」(千秋)と呼びかけての「「絶蘭」」では、ドゥームな重低音と反比例する甘く艶のあるボーカルで絶望の物語を描写。いわゆる“VISUAL”な世界観を繰り広げれば、続く「君の脊髄が踊る頃に」ではフィジカル面から“VISUAL”を体現していく。Miyako(G)とSacchan(B)の弦楽器隊がバキバキと鳴らす硬質な音に乗って、オーディエンスが激しく身体を折りたたみながら、メロディックに広がるサビで見渡すかぎり拳があがる様は実に爽快。曲終わりを“この世界で……生きようぜ!”と歌い替えた千秋は、さらに「いっぱい、なんか見つけて帰ろな。人生で見たことないやつ、いっぱい見つけて帰ろな、よろしく!」と伝えて、今日この日の特別なステージに対する気合いを表していく。


なんとも物悲しいMiyakoのギターをリズム隊が支えるブルージーな「異常な階段」に、切なさの中にも一筋の光が差し込んで客席に拍手を湧かせた「私の詩」とバラードを聞かせたあとは、キズが主催した本イベントについて千秋がMC。建て替えで閉館が延びた日比谷野外大音楽堂に「連れて来てくれたキズに感謝」と述べつつも「僕が来夢くんと仲良くない空気感があるんですけど……仲良くはない。でも、悪くもない。今日も話したから!」と、千秋が使っていた写真アプリを「それ、おっさんらしいで」と指摘されたというエピソードまで披露してくれた。さらに「あまりにもプロモーションをしなさすぎじゃない? このイベント。インタビューくらいあるかと思ってました。ないんです! それも“らしい”けど」と率直な想いを暴露して「今からやる曲、1曲だけ撮影OKにするから。その動画を電波に乗せて“盛り上がってるよ”って言ってやれよ!」と「大塚ヘッドロック」をタイトルコール。

千秋いわく、好きなロックバンドが上げていた横モッシュの動画に「楽しそう」というコメントがついていたそうで、「何十年この界隈、横モッシュやってると思ってるんだ! これが本物の横モッシュってやつを世界に発信してくれよ! 見せてやれよ、俺たちの一体感を!」と煽られたオーディエンスは、懸命に撮影しながら横モッシュするという離れ業を見せてくれた。また「カメラチャンスでございますよ!」と始まった間奏では、Miyakoのギターソロに続いてSacchanがキズの「ストロベリー・ブルー」のサビを縦笛で演奏する場面も。そのカオスな様相は、ぜひSNSで検索してもらいたい。


「まだまだいきますよ! そんなもんですか、日比谷の皆さん! ガッカリさせないで! 不完全燃焼許さないよ!」と始まった「再教育」では“再教育です”のリフレインにクラップが湧き、拳が突き上がって、肌寒くなり始めた夜気を吹き飛ばすべくオーディエンスは熱狂。千秋もステージをぐるぐるとスキップし、SORAはドラムを滅多打ちしてエモーションを残らず吐き出していく。そして「時代なんて、なかなか変わらないと思うけど、一歩ずつ俺たちは行きますよ!」と明言しての「「君の子宮を触る」」で激しさと切なさの交錯という“VISUAL”らしさを堪能させ、クライマックスを前に千秋は神妙に語り始めた。

「武道館って場所、俺は“連れて行ってくれた”って言われるんだけど、確かに、そう思うの。俺は、連れて行った。俺たちの目的地に、お前たちが来てくれた。でも、お前たちにも目的地あるわけじゃん。そこで俺は“もっといい場所連れてってやる!”とか言えない。あんたらの目的地、知らないから。でも、いつだって本音だし、ココを出たら嫌な現実ばっかじゃん! その現実のなかを一歩一歩歩いていって、苦しいときに俺たちの音楽があればいいと思うわけ。あんたたちが一歩ずつ進む現実のお助け、お手伝いをさせてもらえればいいと思います。それが<This Is The “VISUAL”>です。俺らならできると思う。14年やってるんだよ? 大丈夫だよ! お前たちならできるって信じてます。そして武道館終わって、元気だったの2日くらいかな。実家帰って、すごく鬱になったよ。みんな生きてる理由、探してる。みんな忘れるから何度でも探していこう。一生、音楽をやりましょう。生きてて良かったって瞬間をより多く見つけたもん勝ちだと思うわけ。悪いことより、いいこと探していこうよ! それがお互い、まずは今日であることを願ってます」


そう伝え終えてから、暗くなった空の下で贈られたのは「TODAY」。理想と現実の狭間で苦しみながらも《“生きててよかった”と思える夜を探している》と歌う千秋のボーカルには、物語を読み聞かせるような優しさがあり、それを低音で支える楽器隊のタイトなプレイも光る。曲終わりを“僕”ではなく“僕らが踏み出す一歩”と歌い替え、「一歩ずつ行こうぜ! すぐには良くならんよ!」と心からのメッセージを伝えると、ギターを抱えた千秋が弦楽器隊を従えてリフをぶっ放したラストソングは「神経と重力」。完全に陽が落ちた野外のステージで白いライトに照らし出され、緊張感の張り詰めたパフォーマンスで《強くなりたい》《愛してほしい》と切実な願いを吐き出す4人を前に、オーディエンスは微動だにせず息をひそめて立ち尽くす。そして《ああ、生きてこそ》と、しゃがみこむ千秋をブルージーなギターフレーズが搦め捕り、最後にSORAが「ありがとう! キズ、これからもよろしくな!」と舞台を去って、DEZERTのライブは終幕。彼らが残した“生きてこそ”のメッセージは、奇しくもそのまま後攻のキズにも引き継がれることとなった。

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