【ライブレポート】INABA/SALAS、ツアー<Never Goodbye Only Hello>に極上の空間「我々のグルーヴは届いてますか」

INABA/SALASが3月10日の愛知・Zepp Nagoya公演を皮切りに3月30日の神奈川・横浜BUNTAIまで、全国6ヵ所9公演の<TOUR 2025 -Never Goodbye Only Hello->を開催した。同ツアーは、2020年に開催予定だったツアーが予期せぬコロナの影響で中止となり、それから5年の年月を経て、3rdアルバム『ATOMIC CHIHUAHUA』リリース後に実施されたもの。また、ツアータイトルの<Never Goodbye Only Hello>には、「長年に渡り音楽活動を続ける中で出会えた全ての人に感謝し、たとえ会うことが叶わなくなってしまった人でも自分の心の中ではいつでも会える。実体としてはGoodbyeでも、自身の心を通じて会えるからHelloしかない」というコンセプトが込められているという。そして届けられたライブには極上のグルーヴが渦巻き、かけがえのない瞬間としてオーディエンスに記憶されたはずだ。<TOUR 2025 -Never Goodbye Only Hello->ファイナル公演のレポートをお届けしたい。
◆INABA/SALAS 画像
日本を代表する実力派シンガーの一人として世界的に名を馳せるB'zの稲葉浩志と、アメリカを拠点にワールドワイドな活動を続けるギタリストのスティーヴィー・サラス。そんな両名が2017年に組んだタッグがINABA/SALASだ。アメリカンロック直系のアッパーなテイストや邦楽リスナーにもアピールするキャッチーなメロディー、そして類い稀なグルーヴセンスは彼らならではのもの。力強さとエモさを兼ね備えた稲葉のボーカル、サラスの上質なギターや緻密なプロデュースワークなどが折り重なって生まれるINABA/SALASの音楽は、独自の魅力を備えてまるで隙がない。
2017年1月に発売された1stアルバム『CHUBBY GROOVE』に続けて、INABA/SALASは2020年4月に2ndアルバム『Maximum Huavo』をリリースした。しかし同作を携えた全国ツアー<INABA/SALAS “the First of the Last Big Tours 2020”>は、前述したようにコロナ禍の影響で中止を余儀なくされてしまった。幻となってしまったツアーをいつか行いたいという思いを抱いていた二人だが、多忙を極める両氏だけになかなか実現には至らなかったという。
しかし2025年春、二人のスケジュールが合うことが判明し、リベンジツアーの実施を決意。当初は「ツアーをするなら新曲も1曲くらい披露したいね」という話だったそうだが、サラスは楽曲アイデアの数々を稲葉に提案し、結果的に3rdアルバム『ATOMIC CHIHUAHUA』(2025年2月発表)が完成したことは、先ごろ公開したBARKSインタビューで語られたとおりだ。

当初1曲の予定だったにもかかわらず、アルバム制作を成し遂げた二人の意欲的な姿勢は尊敬に値するうえ、二人がINABA/SALASを心底楽しんでいることが伝わるエピソードでもある。かくして、2025年3月10日から3月30日にかけて開催された<TOUR 2025 -Never Goodbye Only Hello->はリベンジツアーに終わることなく、最新アルバムを携えたツアーとなり、多くのリスナーが歓喜の声を上げたであろうことは想像に難くない。
そして、同ツアーは当然ながらソールドアウト。INABA/SALASの人気の高さを改めて実感させる中、3月30日にファイナル公演が華やかに開催された。会場となった神奈川・横浜BUNTAIには午前中から物販に長蛇の列ができるなど、半端ない賑わい。開場時間の15時30分には場内の熱気が上昇気流を描いていた。SEとして流れていた音楽は'80年代サウンドを中心としたもので、INABA/SALAS独特の空気が漂う。
開演時間の17時、暗転した場内に明るい雰囲気のオープニングSEが流れ、ステージ前に降ろされた紗幕にコミカルなダンスを踊るメンバーのシルエットが浮かび上がった。客席から湧き起こる歓声と拍手を切り裂くように、サラスが奏でるギターリフが鳴り響き、ライブは3rdアルバム『ATOMIC CHIHUAHUA』収録曲「Burning Love」から始まった。紗幕が落ちたステージ中央にスラリと立ち、弾力的で張りのある上質な歌声を聴かせる稲葉。軽やかなステージングを披露しつつクランチーでテイスティーなギターソロをキメるサラス。存在感の強さを発する二人の姿とアッパーなサウンドに場内の熱気は一気に高まり、ライブは最高の滑り出しを迎えた。


「皆さん、こんばんは。あっという間に最終日になっちゃいました。今日は身体も、そして心も、揺らしまくって最後まで楽しんでいってください。よろしくお願いします」──稲葉浩志
2曲目は「U」、さらにロックテイストとポップネスを巧みに融合させた「Violent Jungle」の後に上述の挨拶を挟み、エンディングで稲葉が披露したシャウトが超絶な「OVERDRIVE」を相次いでプレイ。キレの良さとロール感を併せ持ったサウンドは心地よさに溢れ、サポート陣も含めたメンバー全員が楽しみながら演奏している様子は、ハイクオリティーな大人のロックだ。
5曲目に披露されたグルーヴィチューン「Boku No Yume Wa」は翳りをまとい、切なくもラウドなスローチューン「DRIFT」へ。そして、ファンキーなスラップベースと16ビートカッティングが楽曲を牽引する「ERROR MESSAGE」が会場の熱気を再び高め、稲葉のブルースハープとサラスのギターの掛け合いが見どころとなったイントロから、パワフルにヒートアップしていく「正面衝突」が届けられるなど、セットリストの展開も見事。エモーショナルなナンバーで深く引き込んだ後、力強い楽曲と熱いセッションでオーディエンスの心を鮮やかに駆り立てた。
INABA/SALASの演奏力と表現力の高さは圧倒的な瞬間の連続であり、細やかなアレンジやマニアックなギターアプローチを随所に発揮しながらも、難解さを感じさせることがない。いわば親しみやすいロックに昇華しているのもさすがの一言に尽きる。さらには、稲葉浩志ソロ楽曲「正面衝突」の間にスティーヴィー・サラス楽曲「Do Your Own Thang」を挟んでフロアを踊らせ、「我々のグルーヴは届いてますか? 身体は揺れてますか? 遠慮せずに今日はやっちゃってください」と語った後、稲葉はMCをこう続けた。

「今回の<TOUR 2025 -Never Goodbye Only Hello->はですね、元々は我々が2枚目のアルバムを作った時に、その後にツアーをやる予定でスケジュールを組んだんですけど、それがコロナで全部なくなってしまいまして。“なにかやりたいよね”ということで、かなりの年数が経ってしまいましたけれども、連絡を取り合いながらいろんなことがやっとかみ合って、こうして2025年の今、実現しているわけでございます。時間はかかりましたけど、出来てよかった。
ツアーがなくなってしまった時、我々はアルバムが完成したばかりで勢いがついてましたから、本当に出鼻をくじかれた感じで。コロナ禍でステイホームと言われてたパンデミックの時は皆さんも大変でつらい時期だったと思います。それでもなにかできればと、スティーヴィーとお互いにアイデアを出し合って、2枚目のアルバムからピックアップして、リモートで演奏して皆さんに届けたりしたんです。
それでも新しいものを作ってやってみるということができたのは我々にとって本当にいい経験になったし、その曲たちは我々にとって大切なものになっています。ぜひ今、その曲を、皆さんに生で聴いていただきたいと思います」──稲葉浩志
リラックスした表情で話す稲葉の言葉に、客席からは歓声や温かい拍手が何度も起きていた。このMCに続けて演奏されたナンバーは、2ndアルバム『Maximum Huavo』に収録されたウォームなミディアムチューン「IRODORI」だ。同楽曲は稲葉のMCで語られたように、コロナ禍にリモートによるセッション動画が披露され、多くの人々が元気づけられたもの。そしてサラスがアコースティックギターを抱えると稲葉は次の曲をこう紹介した。
「今回のツアーを行うにあたって、なにか曲を作ろうと話をして。一番最初に作り始めた曲を聴いてください」──そして演奏されたナンバーは、抑揚を効かせた稲葉のボーカルとサラスのアコースティックギターだけで深みのある世界を構築した「ONLY HELLO part1」だった。同曲が終わると思わずサラスが、「稲葉さん!マイフェイバリット!」と告げたシーンを含め、この夜のひとつのハイライトだったと言っていい。そして稲葉がブルースハープを手に取り、同じくアコースティックスタイルでブルージーにアレンジされた稲葉浩志のソロ曲「マイミライ」を披露した後、バンドメンバーの紹介へ。

「今回のツアーのために集まってくれた素敵な個性あふれるバンドメンバーを皆さんに紹介したいと思います。キーボードはサム・ポマンティ。初めてサムの家で会ったときはすごく小さかったんですけど、今はこんなに大きくなってます(笑)。こうやって同じステージで一緒に音楽を奏でられるのも縁だと思います。そしてドラムスはマット・シェロッド。マットには1枚目のアルバムから全面的に参加してもらって、ツアーも一緒にまわりました。1枚目のアルバムのジャケット写真は、もともと彼が家で飼ってるブタちゃんからインスピレーションを得たものなんです。そしてベースはアルマンド・サバルレッコ。彼も1枚目からレコーディングにはずっと参加してくれてまして、ツアーは今回が初めてなんですが、本当に一緒にできて良かった。そして、INABA/SALASのエネルギーの源、Mr.スティーヴィー・サラス!」──この稲葉の紹介を導入にサラスがホットなギターソロを展開し、その勢いのままアッパーな「Demolition Girl」が披露された。
それにしても、これら多彩な曲調に合わせて表情を変え、常に細部のニュアンスをコントロールして歌う稲葉の歌唱力の高さには圧倒された。また、パワフルなサウンドの中にあっても決して埋もれることなく、力強く抜けてくる稲葉の歌声を生で聴く快感は、何物にも代えがたいものがある。ピッチの正確さやリズム感の良さ、そして端正なルックスなども含めて、ボーカリストとして唯一無二の存在であることを改めて感じずにいられなかった。
そんな稲葉と同じく、楽曲のシーンに合わせて細やかにギターサウンドを使い分け、ソリッドなリフワーク、職人的なコードプレイ、しなやかなカッティング、楽曲のエモーションを増幅するギターソロなどなど、フレキシブルなアプローチを見せるサラスのギターも実に魅力的だ。また、王道的なプレイで貫録を漂わせつつギターに搭載されているキルスイッチとワウを使ってトークワウのようなニュアンスを表現したほか、ディレイの発振音をリアルタイムでコントロールしてピッチを上下させるといったトリッキーな側面を持っていることも彼ならではのポイント。カラフルという表現が似つかわしいフレキシブルなギタープレイで、すべてのロックファンを大いに楽しませてくれた。

ライブ後半は、3rdアルバム『ATOMIC CHIHUAHUA』オープニングナンバーにしてロックンロールが香る「YOUNG STAR」、シンセソロ的なイントロを据えたファンキーチューン「Mujo Parade ~無情のパレード~」、バスドラムのリズムに合わせて客席から手拍子が湧き起った「KYONETSU ~狂熱の子~」などを相次いでプレイ。爽快感を放つサウンドと、ステージ全体を使って織り成すメンバーの華やかなパフォーマンスにオーディエンスも熱いリアクションを見せ、場内のボルテージはどんどん高まっていく。
「僕ら二人がテキストのやり取りをしながら、“なにかやりたいね”って言うのは簡単なんですけど、我々二人だけでツアーはできないわけで。素晴らしいバンドとスタッフ、そしてなによりも皆さんが来てくれないとツアーはできないわけで。本当に今日来てくれてありがとうございます。この会場はみんなの顔もよく見えてます」──稲葉浩志
という稲葉のMCに超満員の客席の笑顔が咲き、3rdアルバム『ATOMIC CHIHUAHUA』のリードソングであり、80年代サウンドが香るエモーショナルな「EVERYWHERE」へ。そして本編ラストは躍動感を放つ「SAYONARA RIVER」がプレイされた。静と動のコントラストを活かした流れも見事に決まり、横浜BUNNTAIの場内は熱気と一体感に溢れた盛大な盛り上がりをみせて本編の幕を閉じた。

鳴り止まないアンコールに応えてメンバーが再びステージに登場すると、1stアルバム『CHUBBY GROOVE』収録曲「AISHI-AISARE」へ。続いて「TROPHY」のシンガロングが会場にこだまし、アンコールの最後はゴスペル感を湛えた「ONLY HELLO part2」が演奏された。同曲では涙を浮かべるオーディエンスの表情がそこかしこに揺れ、そのラストで「HELLO!」と絶叫した稲葉が感動的な情景を描いて<TOUR 2025 -Never Goodbye Only Hello->のすべての演奏が終了した。
「始まってしまえばあっという間のツアーでしたけど、バンド一丸となって、いろいろなことが起きながらも楽しくやれました。本当に素敵なメンバーが集まってくれました。それを最後に見届けてくれた皆さん、本当に最高でした。ありがとうございました! INABA/SALASのこと忘れないでください(笑)」──稲葉浩志
「I LOVE KOSHI INABA!」──スティーヴィー・サラス
<TOUR 2025 -Never Goodbye Only Hello->のラストに「みんなで写真を撮りましょう」と稲葉が語るや、マットが「TROPHY」のシンガロングを煽り、会場に再び歌声だけが響き渡った一体感は極上の空間。「また会いましょう!皆さん気をつけて帰ってください!HELLO!」と稲葉が笑顔をみせて、最高のムードのままツアーが終了した。

5年ぶりの活動だったもののブランクなど一切感じさせることなく、良質なアルバムとライブを披露したINABA/SALAS。大がかりなステージセットや凝った演出などを用いることなく、音楽を聴かせることに特化したライブだったにもかかわらずエンターテメント性が高く、ライブを通してオーディエンスを楽しませたのはさすがといえる。この魅力的なバンドの次なるアクションを期待して待ちたい。
取材・文◎村上孝之
(C)VERMILLION
■<INABA/SALAS TOUR 2025 -Never Goodbye Only Hello->セットリスト
02. U
03. Violent Jungle
04. OVERDRIVE
05. Boku No Yume Wa
06. DRIFT
07. ERROR MESSAGE
08. 正面衝突
09. IRODORI
10. ONLY HELLO part 1
11. マイミライ
12. Demolition Girl
13. YOUNG STAR
14. Mujo Parade ~無情のパレード~
15. KYONETSU ~狂熱の子~
16. EVERYWHERE
17. SAYONARA RIVER
encore
18. AISHI-AISARE
19. TROPHY
20. ONLY HELLO part 2
▼TOUR SCHEDULE
3月10日(月) Zepp Nagoya
3月12日(水) Zepp Namba (OSAKA)
3月15日(土) ワールド記念ホール (神戸ポートアイランドホール)
3月16日(日) ワールド記念ホール (神戸ポートアイランドホール)
3月22日(土) LaLa arena TOKYO-BAY
3月23日(日) LaLa arena TOKYO-BAY
3月26日(水) SENDAI GIGS ※延期
→3月27日(木) SENDAI GIGS ※振替公演
3月29日(土) 横浜BUNTAI
3月30日(日) 横浜BUNTAI
▼サポートメンバー
Drums:Matt Sherrod
Bass:Armand Sabal-Lecco
Keyboards:Sam Pomanti
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