【ライブレポート】R指定、解凍「今日まで生きていてくれてありがとうございます」

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2019年12月29日、R指定は東京・両国国技館で開催された<十周年記念47都道府県単独公演ツアーファイナル『CLIMAX47』>をもって凍結した。

◆ライブ写真

生きる上での孤独や闇を表現した楽曲が共感を呼び、ヴィジュアル系界隈において絶大な人気を誇っていた彼らが、何故このタイミングで凍結という名の活動休止を選んだのか、指定女子/指定男子(R指定ファンの呼称)は納得がいかなかった。

バンドと一緒に夢を追いかけ全力で走り続けた10年間。そんなかけがえのない日々を一言で表すのならば、まさに“青春”だった。にもかかわらず、ツアーファイナルの1週間前に「凍結」の発表をするとは非情ともいえる。しかし、自分たちで作ったバンドを自らの手で終わらせようと決意したメンバーの気持ちを考えると、心が痛む。


「──本日、東京・両国国技館をもちまして、R指定は凍結します。みんなの青春を俺たちに預けてくれたからこその俺らの青春でした。その青春を1度お返しします。なので、大事に取っておいて下さい。素敵な思い出として、それは取っておいて下さい」これは、十周年記念47都道府県単独公演ツアーファイナル『CLIMAX47』」アンコールラスト「-透明-」演奏後にマモ(Vo)が言ったことなのだが、あのときの光景はあまりにも鮮明に脳裏に焼き付いている。

いっそ存在自体を忘れさせてくれたら楽なのに、青春を返すから大事に取っておいて下さいと残すなんてあまりにも残酷ではないか…。というのも、指定女子/指定男子は繊細な感情を持つ子が多かった。自分が生きている世界に居場所なんてなくてその中で一筋の希望の光のように見えたのがR指定であり、彼らの楽曲が自分に代わって「病み」や「メンヘラ」を表現してくれたから、「死にたがり」な気持ちを抑えてここまで生きてくることができたと思っている。

当時、あのライブに足を運んだ人なら覚えているだろうか。曲が全て終わってメンバーがステージから去りスクリーンに5人の直筆メッセージが映し出された、あの瞬間を。

マモは“おやすみ。”と一言だけメッセージを残した。「また会えるとか、また復活しますとか、今はまだ言えませんが、もしかしたらその奇跡もあるかもしれないし、生きていればね、また必ずどこかで会えるかもしれません。綺麗事かもしれませんが、僕はそう思います。なので、R指定が凍結した後もそう悲観的にならず、このね、培った青春をお返ししますが、ずっと大事に取っておいていただけたら嬉しいなと思っております」とライブ中に言っていたが、“おやすみ。”と言ったからには、“おはよう。”と言える日が来ると思っていたかったし、どんなときも「生きろ。お前らの居場所は俺たちが守る」と言われてきたからには、また絶対に復活してくれると。

そう信じて、どんなに毎日が辛くても、何度も何度もその言葉を反芻して生きようとした。メンバーから居場所を守るというバトンを渡された指定女子/指定男子は、その日がくるまで必死にR指定を心の中で大事に守り、戦い、死ぬほどつらい思いをしても歯を食いしばって頑張ってきた。繊細な感情を持つみんながそこまでして強く生きようと決意できたのは、R指定の復活を見届けたいという気持ちが少なからずあったのではないだろうか。そして、その日は突然、何の前触れもなくやってきた──。


「本年、十二月二十九日 午後六時 R指定より皆様にご報告があります」昨年、Xに載った告知に動揺を隠せなかったのは私だけではないはずだ。そのお知らせは日を追うごとに赤みを帯びていき、最終的には赤紙を連想させる“臨時招集令状”という相変わらず不謹慎ともとれる形でもって春の特別公演<桜花>を東京・Zepp Haneda (TOKYO)で行うことが発表された。

凍結から5年目にして突然の復活劇は皆の目にどう映っただろうか。当然のことながらチケットは争奪戦、圧倒的に行けなかった人の方が多い本公演、心配なことが1つだけある。それは、メンバーはこの5年でR指定とは別にそれぞれが始めた活動が忙しくなってきただけに、この日を最後にR指定が“凍結(活動休止)”から“解散”を選ぶ可能性がゼロではないということ。


そんなハラハラとした思いを抱えながら当日を迎えたわけだが、場内に流れるカーペンターズの「青春の輝き」を聞きながら辺りを見渡すと、あちらこちらにピンク色のセーラー服を着用した子が目立つ。マモ曰く“地雷系の始祖”である彼女たちを見ながら、そういえばR指定のライブってこんな感じの光景だったなという懐かしい感情が蘇ってきた。そんなことを思う中で場内が暗転した。

「2019年、活動休止」のメッセージがステージ後ろのスクリーンに映されると、2019、2020、2021、2022、2023、2024、2025と数字が進んでいく。世界中がパンデミックの恐怖におびえ、支えとなるものを各々が探していた中でR指定が存在していたらどれだけ心強かったことか。空白の期間を噛みしめていると、場面は切り替わり、ステージ上を赤いサーチライトが照らす中、真っ赤な桜吹雪が舞い落ちる。手拍子でメンバーを出迎える。そのときのフロアの一体感は言うまでもなく、強靭なものだった。

力強い手拍子に合わせ、まずは宏崇(Dr)が登場。ドラムセットへ直行するのではなく、一度お立ち台に寄り、鋭い眼差しでフロアを見渡す。そのまま下がって体の後ろで手を組みながら待機していると、次に七星(B)が現れた。あのときと同じ金髪のロングヘアーをなびかせながら、先に待機していた宏崇と同じポーズで他のメンバーを待つ。そのあとには、細身のスタイルと襟足につけたエクステが目を惹く楓(G)と、以前の風貌と一切変わりがないZ(G)が登場。ここまでで興奮しない指定女子/指定男子はいなかっただろう。そして、バンドの顔ともいえるマモが拡声器を持って登場した頃には、ライブの冒頭ではあるがフロアのテンションが否応なしに上がっていくのを感じ取れた。 


マモは言った。「2025年4月18日金曜日、本日をもって、R指定を解……凍する!」。悲鳴にも似た大歓声と共にサイレンの音が辺り一面に轟く。スクリーンに映される「解凍」の文字に合わせ、万歳コールが沸き起こる。1曲目「玉砕メランコリィ」からスタートし、今ここにR指定復活の狼煙が上がった。

「解……」と言いかけたところであわや解散かと思ったが、解凍とは嬉しい知らせだ。ダイナミックなAメロに合わせて両足を後ろに蹴り上げながらギターを弾くZの姿が実に小気味良い。ステージ上では火の玉が飛び、メンバーの演奏を追いかけるようにドローンが空中を舞い撮影を始める。そんな賑やかな幕開けにマモはフロアに向かって「戦場へようこそ!」と挑発とも取れる言葉を投げかけながら、「日の丸に万歳! R指定解凍に万歳!」と煽っていく。ライブ開始10分にしてハイライトのような場面を作り上げてしまうあたり、長い間この5人でステージに立っていなかったとは到底思えない。まるで、あのときのツアーの続きが始まったかのような錯覚に陥る。


数曲挟み、本日最初のMCは「俺たちがR指定だ!」という心強い言葉から始まった。「えー、本日は2019年12月29日に両国国技館にて一度返却した青春を持参の上、ここZepp Hanedaにお集まりいただくよう、約5年ぶりに臨時招集令状を出しました。ようこそ、R指定です!」続けて、「ちょっと大きい声出します。生きてるかー! 生きてたのかー! お前らの青春は今返り咲いているのかー!青 春には賞味期限はなく、それが美しいものだろうと汚いものだろうと、途中で止まったものだろうと記憶に残り続けるものであって、そして今日から始まる人もいることでしょう。その意味がわかるか? 今日生きて帰れると思うなよ、お前ら。死んで帰れよ! それでは準備はよろしいでしょうか。タイトルコールいきます、青春はー?」とマモ。

もちろんフロアからは「リストカット!」の声。しかしレスポンスに納得いかなかったのか「おい、お前ら。5年経ってボケたか? まだそんな歳じゃねぇだろ」と煽ったのち、楓にタイトルコールを振ったかと思いきや、「平成のギャル男みたいなファッションして」と早速いじるマモ。楓もそれに負けじと「だからかっこいいんでしょ。だいたいマモだって令和のトー横キッズみたいな恰好して」と言い返してフロアの笑いを誘う。


気を取り直し「今日はお前らから預かった青春、そして返ってきた青春を真っ赤に切り刻むときがきました。タイトルコールお願いします、青春はー!」「リストカット!!」タイトルコールを盛り込んだことで一層盛り上がった「青春はリストカット」で「俺たちの青春で流れるのは汗なんかじゃなく真っ赤な血みどろや!」と叫ぶマモ。曲中では赤いレーザーライトが何本もステージにいるマモを覆った。その様子は傷跡を連想させ、世の中に“メンヘラ”という言葉を広めたR指定ならではの表現方法だと感心させられた。

そこから怒涛の激しい曲が続いたあとは、バラードゾーンへ。ここでは、マモの歌唱力の高さはもちろんのこと、楽器隊のスキルの高さが伺えた。まず、宏崇はドラマーとして他のミュージシャンのサポートを務めたことで一気にレベルがアップした。七星は口ずさみながら演奏する様子が多く見られた。彼は本当にR指定の楽曲を心から愛している。だからこそ、ベーシストとして他の音をしっかりと支えるという心構えが明確だ。


楓は「ラストレイン」でアコギに持ち替えて演奏する場面があるのだが、以前と比べても情感がこもっていた。R指定が復活するまでは下手側を絶対に守るという気持ちでソロ活動やバンド活動を繰り広げてきた彼にとってこの日は感慨深いステージになったことだろう。そしてなんといっても、この約5年という間に目立った活動をしてこなかったZの演奏力には目を見張るものがあった。昔と同じように高い位置で構えるギターの演奏スタイルは健在で、だからこそ軸がブレることなく高音から低音まで操ることができる。これはもうセンスの塊でしかないのだが、全員で生きている演奏を見せてくれた。

また、本編最後で印象的だったのは、マーチリズムが軽快な「帝都に死す」だろうか。ダンサーを呼び込んだステージで扇動するように旗を振るマモ。パーンッと乾いた銃声に倒れる場面も含めて、楽曲だけでなくパフォーマンスも見応えがあった。


ここから先はアンコールが用意されていたのだが、まずはこのMCから。「冒頭で発表したようにR指定、本日をもちまして解凍いたしました。我々の音楽は孤独な人だったり、ちょっと心が病んでいる人に好まれる音楽だと我ながら自負しているわけですが、まぁ、俺もその1人で、どこかしら孤独を感じながら生きてきましたが、ライブのときだけは不思議とそうではないんですよ」饒舌に語るマモの姿は力強さを見せるが、どこか儚げでもある。

「個人的にはライブというのは、ロックというのは、孤独の寄せ集めだと思っているんです。こんなときに自分語りを長々とするつもりはないんですけど、以前ですね、“そんなに「死にたい、死にたい」ばっかり歌っているんだったら、死ねばいいじゃん”って、わりと親しい仲の人間に言われたことがあって。えー違うんですよ、俺は1回自分を殺したから、一回死んだからこんな歌を歌ってるんだよ、だからお前が死ねボケカス!って思ったんですけど、でも時に天邪鬼なもので、「生きろ」って叫んだりするんです。俺の言う「生きろ」は押しつけがましいものじゃなくて、生きていればこんな夢みたいなこともあるんだよっていうことです」

ソールドアウトしたZEPP羽田を見渡しながら話すマモの声はどこまでも優しく、今、R指定がライブをやっているという現実に幸せを感じていることが分かる。


「ここに集まった皆さんが聞きたいのは、「國立少年」でもなく「毒盛る」でもなく「病ンデル彼女」でもなく、きっと解凍の理由でしょう。それが1番聞きたいと思います。えっとですね、解凍の理由はとてもシンプルなもので、解散という選択肢のカードを破り捨てたからです。それだけです」場内を埋め尽くす歓声と拍手。

「とりあえず何が言いたいかっていうと、今日まで生きていてくれてありがとうございます。あと、おはようございます」“解散という選択肢のカードを破り捨てた”その答えを出すまでに何度悩んだことだろうか。葛藤もあったと思う。だがしかし、今ここに、マモ、Z、楓、七星、宏崇、そして指定女子/指定男子が揃ったことで時計の針が動き出した。それだけで全員に生きる意味ができたのではないだろうか。それゆえ今日の単独公演は、ライブという、ある意味、非現実的なもののために現実社会を頑張って生きてきたみんなの努力が報われた瞬間でもあった。

「CLIMAX」で完全に終わったかと思ったライブはなんと、この後にダブルアンコールという形でメンバーを再度ステージに呼ぶことになる。止まないアンコールの声は「友達を殺しました。」で昇華されることに。血糊を吐きながら歌うマモの姿は本当にかっこよかった。R指定として活動しているときの彼はファンから“お兄ちゃん”と呼ばれることが多い。決して若さだけでそう言われてきたわけではない。ボーカリストとして、表現者として、誰にも真似できないほどのカリスマ性を持っていたからこそ、どこまでもついていきたいと思わせる信頼感があったのだと思う。

余談だが、「規制虫」という曲にこんな歌詞がある。《解散したら誰も彼も 数年後には覚えちゃいねぇ それなら言いたい事くらい 今言っといたほうがいいやん?》結局、R指定は解散という選択肢は選ばなかったわけだが、当時この曲を書いたマモはいつバンドが解散しても後悔は残さないという気持ちだったに違いない。歌に対して真摯に向き合う。この日もまた、全編を通して歌い切ったというよりも、歌を通して己の生き様を見せつけてくれたように感じた。


それにしても、復活ライブで最後の最後に「友達を殺しました。」をもってくるあたり、さすが武道館出禁と呼ばれたバンド、昔と同じように丸くなる気配がまったくと言っていいほどない。むしろ、数年の時を経て尖ったように見える。だからこそ、R指定はヴィジュアル系シーンに存在していてほしい。そう心から思えるほど、今日の解凍は他のバンドにも良い影響をもたらす予感がした。

最後に。本日のライブの様子はドローン撮影していたこともあって、数か月後には映像作品として世に放たれるだろう。なので、ここでは1曲ずつの詳細や各メンバーのMC等はあえて記載しない。是非、その目と耳で作品を通してR指定のライブを体感してもらいたい。


なお、今後の予定としては、年内までに3本の単独公演が控えている。個人的には、数あるフェスの参加も期待したいところだし、「四拍子」の復活公演もずっと待っている。何より、バンドの方向性と曲の攻撃性から出禁となっている日本武道館での単独公演を絶対にやってもらいたい。昔はできなかったことも、戦友と呼べる指定女子/指定男子となら全力で戦える気がしてならないのだ。「おはよう」と目覚めたからには、またここから一緒に、青春の続きを始めよう。

文◎水谷エリ
写真◎ゆうと

ライブスケジュール

<R指定 単独公演「凱旋」>
2025年9月27日 (土) 福岡DRUM LOGOS
OPEN 17:30 START 18:00
前売 ¥7,000 当日¥7,500
※先行チケット受付中 https://r-shitei.online

<R指定 単独公演「暴徒」>
2025年10月17日 (金) 大阪BIGCAT
OPEN 18:00 START 18:30
前売 ¥7,000 当日¥7,500

<R指定 単独公演「神風」>
2025年 12月26日 (金) クラブチッタ川崎
OPEN 18:00 START 18:30
前売 ¥7,000 当日¥7,500

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