【ライヴレポート】sukekiyo×KIRITO、ツーマンライブで魅せた目もくらむような色鮮やかな“混沌”

4月21日、川崎CLUB CITTA’は“まばゆい混沌感”とでもいうべきものに包まれていた。この夜に開催されていたのはsukekiyoの主催による<真琴、両眼血走る>と題された公演。しかもそこには『開放の儀』との言葉が添えられている。免疫のない人たちには若干の説明が必要かもしれないが、彼らのライヴにはある種の“縛り”が伴う場合が多々あり、たとえば着衣が喪服(もしくはそれに類するもの)に限定されることもあれば、観覧中に声を発することが禁じられているケースもある。しかし『開放の儀』と銘打たれた公演においては、文字通りその場が広く開放され、オーディエンスは解き放たれることになる。
◆ライヴ写真
彼らのライヴにおけるそうしたコンセプトの意味や意図について解明することが本稿の目的ではないので、そこについてはこれ以上の言及を控えておくが、広々とした開放感よりもむしろ閉塞感の中での果てしなさが似つかわしいと思われるsukekiyoが、『開放の儀』において自由度を増すことは間違いない。それは前述のような約束事の有無ばかりではなく、いわゆる対バン相手の選択のあり方にも反映されることになる。なにしろこの夜、彼らとステージを分かち合うことになったのはKIRITO。言うまでもなくPIERROTの首謀者であるキリトのソロ・プロジェクトである。その彼が、DIR EN GREYの京が率いるsukekiyoの主催による公演に出演するというだけで、まさしく一大事なのである。
この両者が同じ場に立つことの意味合いについても、説明すると長くなるので避けておくが、DIR EN GREYとPIERROTが昨年10月、<ANDROGYNOS - THE FINAL WAR ->と銘打ちながら国立代々木競技場第一体育館で二夜公演を行なったことは記憶に新しい。両者は2017年、横浜アリーナでも同様に<ANDROGYNOS>というタイトルを掲げた公演を二夜にわたり実施しているが、その際には双方のファンの間で「丘戦争」「月戦争」(双方の象徴的楽曲のタイトルの共通ワードである“丘”と“月”に起因する)、さらには求心力の強い者同士の激突ということで「宗教戦争」といった言葉も飛び交い、それこそ狂信的なファン以外に対しても「まさかあの2組が相まみえる日が来るとは!」といった驚きをもたらしたものだ。
時間の流れはさまざまな常識さえも変えてしまうことがあるものだが、こうして京とキリトがお互いのバンドを率いてステージを共にする機会が訪れることになるなど、誰にも予見できていなかったはずだ。しかもそれが大袈裟な物語性などを伴うことなく、まるでごく当たり前の出来事であるかのごとく起きてしまうのが2025年なのである。
さて、必然的に前置きが長くなってしまったが、この<真琴、両眼血走る>には、そうした“あり得ない顔合わせ”が何食わぬ顔で実現してしまう今現在ならではの世界線のあり方の面白さを示すばかりではなく、純粋に音楽的な興味深さに富み、なおかつ両者がこれまで身を置いてきた活動領域自体が持つユニークさを実感させるものだった。

開演定刻の18時30分を5分ほど過ぎた頃に、場内は暗転。それまで流れていたのは昭和の日本映画とおぼしき音源。いわゆるサウンドトラックではなく台詞のやりとりがそのままBGMに用いられているため、不意に耳に飛び込んでくる言葉に時おりぎょっとさせられたりもする。そうした流れを断ち切るように儀式の始まりを思わせるようなオープニングSEが流れ、黒い衣装に身を包んだJOHN(G)、Yu-taro(G)、Chiyu(B)、Hiroki(Dr)の4人がステージ上の配置に就くと、そこに総帥、KIRITOが強烈なオーラをまといながら登場。立錐の余地もないほどに人で埋め尽くされたフロアから歓声が沸く中、速度を抑えたヘヴィなリフが空気の流れを断ち切り、オーディエンスを揺らす。
宴の幕開けを飾ったのは、昨年11月にリリースされた最新アルバム『CROSS』でも1曲目に収められていた「CROSS OVER THE WORLD LINE」だ。アルバム自体の表題は無条件に十字架を連想させるものだが、このオープニング・チューンに冠せられたタイトルにはこの夜に似つかわしい意味深長さを感じさせる。なにしろ直訳すれば「世界線を越えて」ということになるのだから。
同楽曲が着地点に至り、KIRITOが「行こうか!」と呼びかけると、最新作の冒頭の流れと同様に「Golgotha」が始まり、加速していくスピードにオーディエンスも完全同調していく。ゴルゴタの丘とはキリストが十字架に架されたとされる場所で、その名称自体はしゃれこうべ(白骨化した頭蓋骨)を意味するのだという。それはともかく、ここでも“丘”を連想させずにおかないワードが出てくることには興味深いものがある。
KIRITOのステージは、序盤こそ『CROSS』の流れに沿ったものだったが、その後は新旧の楽曲を織り交ぜ、彼自身の世界線を飛び越えるかのようにして進んでいった。演奏中はもちろんのこと、曲間のMCなどにおいてもKIRITOの群衆コントロール術は相変わらず見事と言うしかない。「はじめまして、KIRITOといいます」という当たり前の自己紹介に続いて「いろいろと誤解されやすいキャラですけど素直な好青年です」などという言葉が聞こえてくれば、彼がどんな人物であるかを知っていようがいまいが思わず笑いが漏れてしまうというものだ。しかも彼はsukekiyoのファンに向けては「鳥居ちゃん、可愛いねえ」などと甘い言葉を囁きながら、自らのファンには「舐められんな。ちゃんとしろよ!」と檄を飛ばす。こうした飴と鞭の使い分けの巧みさは彼ならではの持ち味といえるが、今現在の彼は、飴からも鞭からも寛容さや包容力を感じさせる。いわゆる“客いじり”が上手いというだけの話ではないのだ。

そうしたKIRITOの誘導により進んでいく時間は、とても体感スピードの速いものだった。彼の楽曲に、過度な速度やヘヴィネスを伴うものはない。ただ、エクストリームな方向に走りすぎることのないスピードや重さは、人間本来の快感原則に適合している。それはいわば本能的に頭を振り、手をかざして揺らしたくなるものなのだ。しかもそのサウンドは2000年前後のいわゆるニューメタル的な感触を伴ったものでありながら、そこに載るメロディには思わず口ずさみたくなるような人懐こい魅力を持ち合わせていたりもする。「NEOSPIRAL」の一体感の中、約50分間で幕を閉じた彼らのステージを通じて筆者が強く感じさせられたのは、そうした実験性と普遍性のコントラストの絶妙さだった。
KIRITOが姿を消すと、ステージは幕で閉ざされ、ふたたび花魁が登場する物語と思しき映画の音声が流れ始める。これは、その場の空気を一変させるうえでは、気の利いた音楽を流す以上に有効な手段といえるかもしれない。そんな中、フロアには人の流れが起き、それまで前方で熱狂していたKIRITOファン、後方に控えていたsukekiyoファン(鳥居ちゃんと表記すべきだろうか?)が入れ替わっていく。当然ながら、そこに異国間のいがみ合いのような刺々しさや不穏さはない。しかしながらそれは、和気藹々とした空気というのとも違っていて、どこかに適度な緊張感が残っている。

午後7時50分、流れている映画の音声が明らかに“濡れ場”に差し掛かったところで、まさしく上映開始を思わせるブザーの音が響き、sukekiyoの舞台が始まることを告げる。幕が開いた向こうに広がっていたのは、近未来と場末の歓楽街が融合したかのような極彩色の世界。そして、そこに居並ぶのは、なんとも形容しがたいいでたちをした異形の者たち。ことに京の姿は、魔界へと迷い込んだ80年代の女性アイドル歌手のようでもある。そうした印象は当然ながら楽曲のせいでもある。オープニングに据えられていたのは「Candis」。筆者がこの曲の摩訶不思議さに初めて触れた時、頭の中に浮かんだ最初の比較対象は往年の中森明菜だった。
その「Candis」ではフロアのあちこちでピンクの光を放っていたペンライトの色調が、次なる「MOAN」のキラキラとしたイントロが始まった瞬間、グリーンに変わる。異形なのは京ばかりではなく、アクリルの壁の向こうでドラムを演奏する未架(Dr)に限っては比較的ノーマルであるものの、ギターと鍵盤を操る匠(G, Piano)も、彼と同様に特定の担当楽器に縛られることのないutA(G)とYUCHI(B)も、言葉で説明しようとすると時間のかかる姿をしている。こちrは是非写真をご参照いただきたい。しかし、5人それぞれが明らかにバラバラであるはずなのに何故かスタイリッシュなまとまりが感じられるのは、各々が抱えているsukekiyo像とでもいうべきものが音楽面のみならず視覚的な部分においても合致しているからなのだろう。
面白いのは、この夜の公演が『開放の儀』であることを間違いなく把握しているはずのオーディエンスが、序盤のうちは静かだったことだ。しかも、そのさまが不自然なものに感じられたわけではない。sukekiyoのライヴでは、曲が終わるたびに、色鮮やかに点滅する光が突然闇へと転じたかのような感覚を味わうことになる。衝撃的な場面を目撃した直後に自分をリセットする時間が必要になるかのような、と言い換えてもいいだろう。だから、ぽかんと口を開けたまま、声を発するまでもなく立ち尽くしてしまうことになるのだ。しかし4曲目に据えられた「breeder」が終わり、京の口から「今日は『開放の儀』……」という言葉が発された瞬間、オーディエンスはまるで洗脳から解けたかのような歓声をあげていた。

洗脳などという言葉を気安く使うべきではないことは、もちろん重々承知しているつもりだ。ただ、実際、そんな形容をせざるを得ないほどの宗教的な匂いがsukekiyoのステージには感じられた。そうした印象はsukekiyo史上もっともハードコアな「畏畏」を歌い終えた京が異様な口ぶりで「幸せになりたいんですよね?」「幸せになりたいんですか?」と繰り返す場面でいっそう強いものになった。まるで冷水と熱湯を交互に浴びせかけるようにしながら観る者を異次元ゾーンへと導いていくそのさまは、まさしく教祖を思わせるものだ。
sukekiyoのステージは、キラキラとした色彩と地獄の一歩手前のような危うさ、「これ以上深入りしたらヤバい」と思わせるような空気を伴いながら観る者を揺さぶり、最後に心の平静を取り戻させるかのような「anima」を披露して終着点に至ったが、止まないアンコールの声(スケキヨサマの連呼、と言うべきだろうか?)に応えての「畏畏」の再爆裂をもって終了に至った。
いわゆる対バン形式であるため両者ともコンパクトなステージではあったが、それでも物足りなさを感じることがなかったのは、どちらのライヴパフォーマンスも手加減とは無縁のものだったからだろう。実際、こうした機会にはつきもののセッション的な共演場面や劇的な演出は皆無だった。勿論それを期待していたわけではないが、この両者だけに「裏の裏をかく」ような展開があってもおかしくない。ただ、そうした瞬間を目撃してみたい気もするのと同時に、それがないからこそ2025年にこれが成立するのだろうとも思えた。
混沌とは通常、ドロドロとした暗澹たるものであるはずだが、この夜に筆者が味わったのは、目もくらむような色鮮やかなきらめきを伴ったカオスだった。この公演を経た翌日、sukekiyoは同じ場所で単独による『開放の儀』を大盛況のうちに終え、それから5日後の4月26日、KIRITOは<ZERO POINT FIELD>と題された新たなツアーをスタートさせている。ひとつの場での活動に縛られていない2人のカリスマには、この先にもさまざまな活動展開が控えているが(詳しくは下記を参照)、彼らがふたたび相まみえる機会が巡ってくることがあるとすれば、それはどんな局面でのことなのだろうか? そうした好奇心を含めたさまざまな想像と妄想が際限なく湧き出てくるのを止められない、きわめて刺激的な一夜だった。
文◎増田勇一
写真◎尾形隆夫
<sukekiyo TOUR2025 満面の腐敗 -開放の儀->
10月11日(土)香港・PORTAL
10月12日(日)香港・PORTAL
10月17日(金)京都FANJ
10月18日(土)京都FANJ
10月19日(日)京都FANJ
10月24日(金)東京・神田スクエアホール
10月25日(土)東京・神田スクエアホール
10月26日(日)東京・神田スクエアホール
チケット販売及び公演詳細は後日発表いたします。
<KIRITO Tour 2025「ZERO POINT FIELD」>
4月26日(土)神奈川・YOKOHAMA Bay Hall ※終了
4月27日(日)神奈川・YOKOHAMA Bay Hall ※終了
4月30日(水)東京・Spotify O-EAST ※終了
5月1日(木)東京・Spotify O-EAST 18:30開場/19:00開演
5月4日(日・祝)東京・恵比寿LIQUIDROOM 17:30開場/18:00開演
5月5日(月・祝)東京・恵比寿LIQUIDROOM 16:30開場/17:00開演
5月10日(土)大阪・梅田CLUB QUATTRO 17:00開場/17:30開演
5月11日(日)愛知・名古屋ボトムライン 16:30開場/17:00開演
5月24日(土)北海道・札幌PENNY LANE 24 17:00開場/17:30開演
6月1日(日)宮城・仙台Rensa 17:00開場/17:30開演
6月18日(水)福岡DRUM Be-1 18:30開場/19:00開演
6月21日(土)東京・EX THEATER ROPPONGI 17:15開場/18:00開演
◆チケット一般発売中詳細はこちらhttps://kiritoweb.com/info/live/4080/
<KIRITO Acoustic live 25’「Phantom X - Switch screen -」>
7月27日(日)KANDA SQUARE HALL 16:30開場/17:00開演
◆プレオーダー受付中
5月1日(木)18:00~5月11日(日)23:59まで
詳細はこちらhttps://kiritoweb.com/info/live/4356/
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