【ライブレポート】BAND-MAID、“引き算”から生まれる高まり

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本当に「お茶を濁す」ということをしない人たちなのだな、と思った。もちろんBAND-MAIDの話である。4月13日、Billboard Live Tokyoで行なわれたアコースティックお給仕を観て、改めてそう感じさせられた。

◆BAND-MAID 画像

彼女たちは<お盟主様限定TOUR“BAND-MAID Billboard Live Acoustic Tour”>と銘打ちながら、3月20日には大阪、そしてこの日には東京でのお給仕を開催。Billboard Liveという会場では夕刻からと夜の2回公演実施が常になっていることもあり、計4回のステージが行なわれることになった。

このバンドにまだあまり馴染みのない読者のために補足しておくと、お給仕とはライヴ、お盟主様というのはいわゆるFC会員のことだ。彼女たちにとってアコースティックを主体とするお給仕の実施は初の試みというわけではなく、昨年の3月20日にもやはりお盟主様限定という形で、東京・LINE CUBE SHIBUYAにて<BAND-MAID ACOUSTIC OKYUJI>が行なわれ、その模様はのちに配信されていたりもする。ただ、あいにく事情により同公演に足を運ぶことができずにいた筆者にとっては、今回がアコースティックお給仕を鑑賞する初めての機会となった。

文章の流れの中で無意識のうちに“鑑賞”という言葉を使ったが、改めて辞書など引いてみると、この言葉が意味するのは芸術作品などについて「理解して味わう」こととされていて、それに対して“観賞”はよりストレートに「見て楽しむ」ことを意味するのだという。実のところ筆者がこの機会に何をどれほど理解できたのかはわからないが、そこに良い意味での純粋な娯楽を超えた何かがあったことは確かだし、通常とは違った形で披露されていく各楽曲の本質ともいうべきものに触れられたかのような満ち足りた気分を味わうことができたことも間違いない。



筆者が目撃したのは、同日の2回目のステージ、すなわち全4回に及ぶ特別な機会の締め括りとなるものだった。全席指定のこの会場にはテーブル席やカウンター席があり、来場者は飲食を楽しみながら音楽を味わうことになる。セカンドショウの時間帯は夕食どきにあたることもあり、狭き門をくぐり抜けてチケットを手に入れたお盟主様たちはお給仕開始を前に腹ごしらえをしていたり、お酒を楽しんでいたりする。開演は午後7時半。その定刻を5分ほど過ぎた頃、場内が暗転し、温かな拍手に見送られるようにしてSAIKI(Vo)がステージに向かい、その下手側に配置されたピアノの前に着席。彼女の両手がイントロを奏で始めた瞬間には、寒い朝のように空気が張り詰めるのを感じた。

そして彼女が歌い始めたのは「Choose me」。通常はいきなり歌から始まり、前のめりのスピード感を伴いながら進んでいくロックチューンが、ピアノの弾き語りによるバラードとして披露されるという意外性に思わず息を呑む。しかもSAIKIは力強く声を張り上げるのではなく、メロディを丁寧に包み込むように歌いあげていく。すると、本来はやや強気な感じで「迷わず私を選べ」と相手に通達するこの歌の主人公のキャラクターまで、いつもとは違っているように感じられる。



この曲を歌い終えたSAIKIは客席に「ありがとう」と小さく告げ、拍手を浴びる。そして「皆さんこんばんは。私から始まりました」と最初の挨拶をすると。「ひとり増やしたいと思います」と言い、KANAMI(G)を呼び込む。2曲目は「Shambles」だ。KANAMIがアコースティックギターを奏で、SAIKIはステージ前方に配置されたエレクトリックピアノの椅子に腰掛けて歌う。まるでSAIKIのソロから始まり、それがデュオに発展していくかのような流れに、少しばかり物語性を感じさせられる。そしてやはり、高音部ではファルセットも用いながら歌われることで、楽曲自体のキャラクターがいつもとは違ってくる。

聴き慣れた楽曲が普段とは違った速度やアレンジで披露された時、「良い曲はどんな形で演奏されても良い曲だ」という当たり前のシンプルな結論に達することがあるが、「普段とは違う形で表現されることにより、改めてその曲の良さについて実感させられる」というケースもあるし、そこで初めてその曲の本質のようなものが見えてくることもある。それは音楽ファンだけが味わうことのできる興奮と感動だろう。実際、この冒頭の2曲が終わった時点で筆者はすでにそうした熱の高まりを自分の中に感じていた。それは開演前に飲んでいたビールのせいではないだろう。




ここでようやく小鳩ミク(G, Vo)、MISA(B)、AKANE(Dr)が呼び込まれ、ステージ上に5人が揃う。ソロからデュオになり、ようやくバンドという本来の完全体へと至ったかのような流れだが、各メンバーの配置がいつもとは異なっている。それは奥行きがあまりないながらも左右に広がりのあるステージ自体の形状とも無関係ではないはずだが、上手側から順にAKANE、小鳩、MISA、SAIKI、KANAMIと並ぶその光景は、とても新鮮なものとして目に映った。AKANEとSAIKIが向き合う形になるのも面白いし、MISAがセンター後方に陣取っている図にもどっしりとした重みが感じられる。ちなみにそのMISAは、缶ビールとウィスキーの小瓶を持参しての登場だった。

ここで小鳩が、やはり普段とは異なった抑え気味の声で「お帰りなさいませ、ご主人様お嬢様」と挨拶をする。そして5人揃った体制で「Wonderland」を披露すると、そのまま「Bestie」へと移行していく。ところどころでSAIKIの歌唱に小鳩が被せていくボーカルハーモニーが楽曲にクリアな立体感をもたらし、繊細かつ明瞭に奏でられる2本のアコースティックギターに対し、MISAのエレクトリックベースがうねりを伴いながらボトムを支える。AKANEの繰り出すビートにも、普段のような突進力ではなく、痒い所に手が届くような気持ち良さがある。そうした音同士が噛み合いながら楽曲の世界観を体現していくアンサンブルの絶妙さも素敵だ。




続く「Daydreaming」をSAIKIがエレクトリックピアノを弾きながら歌い、全員が演奏に携わる形で披露すると、「Corallium」はSAIKI、KANAMI、MISAの3人でプレイ。その間、AKANEは定位置にとどまったままで、小鳩はステージ後方の椅子に収まって待機する。そしてふたたび全員で「Forbidden tale」を演奏すると、今度はSAIKIとKANAMIがひとたびステージを去り、小鳩のリードボーカル曲である「Brightest star」が彼女とMISA、AKANEのトリオで披露される。こうして文章にすると、なんだかめまぐるしく場面転換が繰り広げられていたかのように受け止められるかもしれないが、まったくそんなことはない。演奏中のメンバーたちが着席状態でその場から動くこともないため、こちらも視線をあちこちに移動させることなくステージ上の様子を見守ることができる。

そして興味深かったのは、3曲目の「Wonderland」で初めて5人全員が揃った以降、前述のようにさまざまな“引き算”の体制での演奏が続く中、休み時間が皆無だったのがMISAだったということ。すべてがベースを中心に構築されているとまでは言わないが、実はそこに軸があるようにも感じられたし、彼女のポジションがステージ中央後方に設けられたこのフォーメーションは、ある意味、この特別なお給仕における音の構造をそのまま示すものでもあったように思う。




小鳩みずからのアレンジによる「Brightest star」が着地点に至り、SAIKIとKANAMIがステージに戻ると、小鳩の口から「おかえりっぽー」という言葉が聞こえ、いつもと様相はだいぶ違うものの、目の前で行なわれているのがBAND-MAIDのお給仕なのだということを思い出す。同時に、序盤には張り詰めていた空気がいつのまにか和らいでいたことに気付かされる。もちろん演奏中の良い意味での緊張感は損なわれていないが、その合間に繰り広げられる彼女たちの台本と着地点のないトークは、それをやんわりと緩めてくれる。

ステージ上の配置の都合上、エレクトリックピアノを弾きながら歌う場面ではAKANEの姿を正面に見ることになるSAIKIは、そのたびにAKANEの姿に「ツボって」いたようで、笑いをこらえながら歌うことも多々あったと楽しそうに語る。通常のお給仕ではステージ最前線からの風景しか見ることができない彼女の場合は特にそうだったはずだが、どのメンバーも演奏中の視界に収まる風景の違いに新鮮さを感じていたことだろう。もちろんそれは、観る側にとっても同じことだ。




時間経過とともに、客席の空気も和やかさを増していく。SAIKIがエレクトリックピアノを弾きながら歌った「Bubble」ではちょっとした合唱が起こり、ボサノバ的な感触をまとった「Letters to you」にも聴く者の気分をゆったりとさせる効力があった。そうして穏やかに時間が流れていくなか、続く「Memorable」を歌い終えたSAIKIが「早いもので、次が…」と、限られた時間が残りわずかになっていることを告げても、客席から「え~っ!?」というお決まりの声が湧くことはなく、「またやりたいね」「やりたいっぽね」というSAIKIと小鳩のやりとりが温かな拍手を呼ぶ。

そして最後、「alone」が始まると、ステージの背景を覆っていたカーテンがゆっくりと左右に開いていき、ガラス越しに六本木/赤坂方面の夜景が広がっていく。これは、この会場においては定番ともいえる趣向ではあるのだが、どんなに凝った演出よりもこの夜のお給仕に似つかわしいものだと思えた。



こうしてBAND-MAIDの特別なお給仕は、約90分間で幕を閉じた。ステージから去る間際の小鳩はいつものように「それでは行ってらっしゃいませ、ご主人様お嬢様。また会いましょうっぽ。BAND-MAIDでしたっぽ!」と呼びかけていた。いつもとは違うアコースティックなお給仕だっただけに、そうした言葉に違和感をおぼえてもおかしくなかったはずなのだが、手を振りながら去っていく彼女たちにこちらも手を振り返したくなるような空気がそこにはあった。

終盤のトーク場面では、MISAによるしっとり系の「乾杯!」の発声に合わせてオーディエンスがグラスを掲げたり、普段とは違った客席の様子についてAKANEが「会社の懇親会」と形容して笑いを誘ったりする場面もあった。そんななか、少し前までピアノ初心者だったはずのSAIKIが飛躍的に腕前を上げつつあることに話が及び、キーボードのパートを増やすことでBAND-MAIDの音楽的可能性の幅をより広げられるのではないか、といった発言も聞こえてきたが、それは単なる雑談の一部ではなく、本当にこの先の進化に向けてのヒントなのではないかと思えた。




先頃の番外編お給仕を観た際には「これは番外編などではなく、むしろ王道なのではないか?」と思えたものだが、基本的に情報量の多いBAND-MAIDの楽曲が“引き算”の発想で体現されていたこの夜の演奏は、ピンポイントを突くような快感ではなく、むしろ自然な広がりを感じさせるものだったし、BAND-MAIDがきわめて“音楽的な”バンドであることを伝えてくれるものでもあった。しかも冒頭にも書いたように、彼女たちは本当に、生半可なことをしない。「ちょこっとアコースティックでやってみました」というような軽さはそこになく、「間違っても大目に見てね」という甘えもない。そんな穏やかなストイックさもまた、このバンドの強みだといえるだろう。

ひとつひとつの機会を確実に消化しながら、いつもネクストステージでの飛躍につなげてきたBAND-MAID。今回の経験が、いよいよ間近に迫ってきた<BAND-MAID TOUR 2025>にどのように活かされることになるのかが楽しみでならない。






取材・文◎増田勇一
写真◎伊東実咲

リリース情報

BAND-MAID「Ready to Rock」
配信中:https://BAND-MAID.lnk.to/Ready_to_Rock
▲「Ready to Rock」ジャケット

TVアニメ『ロックは淑女の嗜みでして』

■オープニングテーマ「Ready to Rock」BAND-MAID
■エンディングテーマ「夢じゃないならなんなのさ」Little Glee Monster

■放送情報
4月3日(木)よる11時56分からTBS系28局にて全国同時放送開始!
4月5日(土)よりAT-Xにて放送開始!
 毎週(土)23:30~/毎週(火)29:30~ ※リピート/毎週(土)8:30~ ※リピート

■あらすじ
一流の淑女(レディ)だけが在籍を許される「桜心女学園高等部」に通う鈴ノ宮りりさ。
学園で最も栄誉と誇りある称号「高潔な乙女(ノーブルメイデン)」を手に入れるべく精進し、周囲からも一目置かれるほどのお嬢様だが、実は一年前に母親の再婚で鈴ノ宮家に入った「元・庶民」だった。
母親の期待に応えるため、本心を押し殺し、大好きだったロックやギターを捨て、お嬢様として振る舞うりりさ。ある日、学園の憧れの的である黒鉄音羽と出会い、ひょんなことからドラムを叩く音羽を目撃し…… 。
お嬢様×ロック!?
”本音”がぶつかる青春ロックアニメ、開幕!

■STAFF
原作:『ロックは淑女の嗜みでして』福田宏(白泉社「ヤングアニマル」連載)
監督:綿田慎也
シリーズ構成:ヤスカワショウゴ
キャラクターデザイン:宮谷里沙
ビジュアルディレクター:ソエジマヤスフミ
助監督:安川央里
色彩設計:大塚眞純
美術監督:坂上裕文
美術設定:浅見由一
CGディレクター:坂口遥佳
撮影監督:渡辺実花
編集:齋藤朱里
音響監督:菊田浩巳
アニメーション制作:BN Pictures

■CAST
鈴ノ宮りりさ:関根明良
黒鉄音羽:島袋美由利
院瀬見ティナ:福原綾香
白矢環:藤原夏海

■公式サイト:https://rocklady.rocks
■公式X:@rocklady_info
■公式TikTok:@rockrady.info

(c)福田宏・白泉社/「ロックは淑女の嗜みでして」製作委員会

<BAND-MAID TOUR 2025>

2025年5月10日(土)東京・LINE CUBE SHIBUYA SOLD OUT
5月17日(土)広島・CLUB QUATTRO
5月18日(日)岡山・CRAZYMAMA KINGDOM. SOLD OUT
5月25日(日)静岡・浜松窓枠 SOLD OUT
5月31日(土)新潟・LOTS
6月20日(金)大阪・ゴリラホール
6月21日(土)大阪・ゴリラホール. SOLD OUT
6月28日(土)宮城・仙台GIGS
7月12日(土)東京・豊洲PIT
7月26日(土)北海道・札幌ファクトリーホール
8月2日(土)熊本・B.9 V1
8月3日(日)福岡・DRUM LOGOS
8月8日(金)愛知・DIAMOND HALL
8月9日(土)愛知・DIAMOND HALL
To be Continued

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