“激情の正義”制御不可能

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“激情の正義”制御不可能

'99年になって突然、Rage Against The Machine(RATM)は、ハードロックとラップの合体という全米を席巻したジャンルの父となった。彼らは自らの政治信条に深く傾倒するということで常に特異な存在だったが、そのことによって現在でも、同じジャンルにいる他のミュージシャンと一線を画している。'92年に発表したセルフタイトルのデビュー・アルバムの時とまったく同じように、Zack De La Rocha(ヴォーカル)、Brad Wilk(ドラム)、Tom Morello(ギター)、Y.tim.K(ベース)が丹念に作り続けている曲には確かなテーマがあって、自分たちを見に来るファンを、ほとんど制御不可能な激情状態に叩き込むことができる。'96年発表の『Evil Empire』に続く作品として皆が久しく待ち望んでいた『The Battle Of Los Angeles』も、あのお馴染みのRage流から大きくそれることはない。Zackは猛々しい叫び声を上げているが、その先に見据えているのは、メキシコのサパティスタ民族解放軍を弾圧している人間や、警察官Mumia Abu-Jamalの殺人容疑に関してZackが“正義”と見なすものを邪魔している人間だ。

11月に始まる大々的なツアーの準備として、RATMはニューヨーク、ロサンゼルス、ワシントンでこじんまりしたショーを行うことによって、新曲の問題点の解消に取り組んでいる。LAUNCHは、RATMがニューヨークのRoselandで熱演したギグの直後、溌剌としたベーシストY.tim.K(Tim.com、Tim C.、Tim Bobという通称がある)に取材、Woodstock '99について、Mumiaの上告が最高裁に棄却されたことについて、そしてもちろん『The Battle Of Los Angeles』について、その想いを語ってもらった。

LAUNCH:
ニューアルバムの完成にはずいぶんと時間がかかりましたね。完成させるにあたって、最大の障害となったのは何ですか。

Y.tim.K:
障害があったとはあまり思ってないんだけどね。最大の障害は、メンバーが同じ時間にリハーサル・ルームに集合させられたってことかな。リハーサルをするのが嫌だったとか大変だったとかいうんじゃなくて、同じ呼出しに全員が応じなければならなかったということだ。ただ、結果、バンドとして団結してメンバー間の関係を強固にできたのが、まさに今回の作品だ。そのことはこの音楽から聴こえてくるよ。クールだね。

LAUNCH:
『Evil Empire』の後、少しぎくしゃくした時期がありましたか。

Y.tim.K:
いや。曲作りに問題が発生したり、自分たちがいいと思うものがなかなか一致しなくなったのは、『Evil Empire』の前からだよ。あれは辛かった。あの頃はバンド内で音楽性が大きく違っていたけど、今は元どおりに収まっているよ。前はヒップホップとメタルの争いみたいなものがあったんだ。そしてそういうときには、僕はパンクも持ち出さなきゃならなかった。パンクについては全員の意見が一致していたんだ。僕らはパンクバンドになりたかったんだけど、ヘヴィ・ミュージックやヒップホップもやってみたかった。あまり誰も口には出さなかったけど、この争いが存在することは感じていた。今ではヒップホップはこれまで以上に大きなものになっていて、僕らのヒップホップへの入れ込みようもかつてないほどになっている。このアルバムで、ヒップホップの色合いが強まっているのは確かだよ。たくさんの人たちに聞いてもらったら、「この前のアルバムよりファンキーじゃないか」という声が返ってきたよ。ヒップホップ色はいくらか濃くなっているけど、それほどファンキーというわけじゃないんだけどね。“Mic Check”みたいに、ヒップホップそのものという曲もある。

LAUNCH:
Roselandでのショーはロックしてましたね! このような小規模なショーでは、演奏曲目をどうやって決めているんですか。

Y.tim.K:
選曲には時間をかけるよ。今じゃクールだよ。なにしろアルバムも3枚発表していて、全員が好きな曲もいっぱいあるからね。こいつらをまとめて、最初から最後までロックするようなセットを作り上げてやるんだ。でも、ステージに立つと全然別物になるんだ。まあそのときの気分次第だけど。突然「“Know Your Enemy”はやめて“People Of The Sun”をやろうぜ」「オーケー、いいね」なんてことになるんだ。Roselandのときだってそういうことがいっぱいあった。

LAUNCH:
リラックスした感じは健在のようですね。

Y.tim.K:
そうだね。頭の2曲“Testify”と“Guerrilla Radio”から制御不可能な感じだった。バンドのこれまでのことを考えれば、あれは一番輝かしい場面だったね。レコード発売前に新曲を演奏して、観客からああいう反応をもらったことなんてないんじゃないかな。信じ難いことだよ。ゼロからの再出発といった感じかな。初めてライヴで“Killing In The Name”と“Bullet In The Head”を演奏したときから、観客は熱狂していたけど、それが再現されているんだ。昔の曲を古臭く感じたのは初めてだけど、それもいいものだね。「いい感じだぜ、毎回昔の曲ばかりやらなくても済みそうじゃないか」なんて素晴らしいじゃないか。

LAUNCH:
“Guerrilla Radio”は1stシングルになりましたが、この選択は当然ですか。

Y.tim.K:
あれは、今回のレコードに関して、SonyやEpicが関与することを許した領域の1つだよ。僕らは、創造面に関して、あらゆる仕事の全権を握っているけど、レコード制作にあたっては、発売やプロモーションを担当する人たちに「どの曲が好き?」と聞くこともあるんだ。この曲になったことに異議を唱える者はいなかった。そのときには、これ以外にもっとよさそうな曲を取り上げようとした人間も何人かいたけど、その日のうちにあの曲に戻った。そうなってからZackは歌詞を変えなければならなかった。オリジナル・ヴァージョンの歌詞は、もう少し即興っぽかったんだ。僕はオリジナルのままでいいと思ったけど、Zackは満足していなかったので、新しい歌詞で録音し直したんだ。

LAUNCH:
歌を作る場合、曲の後に詞ができるんですか。それともZackが最初から詞を付けて歌うんですか。

Y.tim.K:
曲が先だね。僕らがやっているのは疑いなくリフ中心のロックだからね。一緒に演奏しているうちにリフができて、そいつをもうできているリフと絡ませ、それからアレンジするんだ。たいがいはヴォーカルが聴こえてくる。それとコーラスだね。Zackが時間をかけて詞が書けるように、彼に曲を渡すのはその後だ。誰かがリフを思いついたり僕らが曲をアレンジしたりすると、僕とBradとTomは家に持ち帰り、それに取り組んで、その時その場でもっといいものにできる。これに対してZackは、言葉を十分に吟味する必要がある。作詞が終わるまで彼の作業は先に進まないんだ。だから時間がかかるんだよ。

LAUNCH:
Mumia Abu-Jamalが今日、最高裁で敗訴しました。裁判が不公平だという彼の主張が却下されたので、検察側が今後死刑を求刑することもあると思います。

Y.tim.K:
うーん。そいつは初耳だね。まあそういう決定が下されることはわかっていたけど、こんなに早く敗北するとは思わなかった。もう一度彼を殺そうというんだったら、もう一度ショーをやらなきゃね。そのときは他のエンターテイナーとか役者とかが支援してくれると思うよ。ああいう業界には支援の気運が盛り上がってるからね。彼の受けた裁判が不公平であることは確かだ。死刑になんかしちゃいけないよな、彼の行った行為が最終的に認定されたわけじゃないんだから。新しい裁判が必要なのに、ひどいな、本当にひどいよ。

LAUNCH:
Mumiaには再審理請求の手段がまだ残っていますが、この1回目の審理で裁判所は「いや、本件は棄却した。彼に公平な裁判が行われなかったという主張は受け入れられない」と言っています。

Y.tim.K:
それじゃあ爆弾の製造でも始める奴が出てくるんじゃないかね。受け入れさせるにはそれくらいしなくちゃ。政治的だとか、動機があるとか、高潔だからといってその人を殺そうというのなら、爆弾製造を始めなきゃと思う人だって出てくるさ。僕もそうだよ。まったくめちゃくちゃな状況になるだろうね。まあそうなるのもいいと思うけど。でもそうなる前に、首を突っ込んで騒ぎ立てることくらいできると思ってるけど。

LAUNCH:
Rock For Lifeはプレスリリースを発表して、「このアルバムを買ってはいけない」と一生懸命世間に訴えています。これについて大騒ぎになっていますね。

Y.tim.K:
僕らと意見の違う人はいつだっているものさ。時間とエネルギーを費やす気になってくれれば、最終的には僕らの助けになるんだ。だからこういう人たちには、僕らのレコードの売り上げに貢献してくれてありがとうと言いたいな。連中のやっていることは結局こういう結果になるのさ。

LAUNCH:
何らかの法的な賠償請求を行いますか。というのは、彼らの言い分には事実でないものがあるように思うからです。皆さんのことを誤解していますよ。

Y.tim.K:
まあ物の見方がまったく違うからね。僕らは子どもたちを教育して、歴史の授業で手を挙げて、「どうしてメキシコのことを勉強しないの?」「どうしてアフリカのことを勉強しないの?」「どうして東ティモールのことを勉強しないの?'70年から東ティモールで虐殺が起こっていることを知らなかったのはなぜ? どうして今まで知られないできたの?」と発言するような子どもにしたいと思っているんだ。僕らはそのためにここにいるんだ。僕らだけじゃない、こういうことを実際に語っているのは、Noam Chomskyのような人たちだ。Noam Chomskyという高潔な男がいる。M.I.T.出身だけど、検閲も受けていた。アメリカの体制ってのはそんなものだよ。こんな風に言い換えるといいかもしれない。オーストラリアに、15人による善意の宗教、善意の政治集団がある。まあ呼び方はどうでもいいけど、メンバーは15人だけ。ただそれだけだ。これがアメリカだと、15人が集まったら、戦車が家に突っ込んできて、火炎放火を浴びせて家を焼き払っちまうだろう。僕が言いたいのはそれだけだ。まったくクレイジーだよ。

LAUNCH:
話題は変わりますが、名前をY.tim.Kに変えたのは見事でしたね。アルバムごとに自分自身を変革しているようですが、その動機となっているのは何なのですか。

Y.tim.K:
楽しんでるだけだよ。最初の頃は、「世間に自分のことをあまり知られたくない」なんて思う部分があった。それに僕は目立たないライフ・スタイルで生活しているからね。ツアーやレコード制作が終わって家に帰ったら、ひっそりと生活している。Rage Against The Machineに関する質問に年がら年中答える必要もないし、それが気に入っている。ほんの少しの間だけステージ上を歩きロックスターになり、その後は家に帰って家主として振る舞っていられるなんて素晴らしいよ(笑)。Y.tim.Kはここしばらく自分が思いついたなかでも最高の名前だった。この前の名前Simmering Tは、『Godzilla』のサウンドトラック収録の“No Shelter”で呼ばれていた名前なんだ。その名前はすごく気に入っていたんだけど、あまり世間の支持が得られなかった。Simmering Tはほんとにいい名前だったんだけどな。

LAUNCH:
Woodstock '99についてはどう思いましたか。あの大暴動の前夜に会場にいたわけですが、何かの気配を感じていましたか。

Y.tim.K:
暴力沙汰になることはわかっていたよ、僕らが腐ったリンゴだからというだけでね。この地球は人口過剰で、もう平和と愛に満ち溢れた場所じゃないんだ。ああいう病気と馬鹿げたことの横行する世界なんだ。だから暴力沙汰になることはわかっていた。その理由は、今言ったことと出演していたバンドだ。とにかく荒々しいバンドがたくさん出演していたし、それと客から水を取り上げていたことも重なって、ああいう事態になったんだ。気温が40℃近いところでショーをやって、やってくる人たちから水を取り上げたら、まあ実際にそういうことをしたんだけど、それに8ドルする水のボトルを売りつけたら問題も起こるさ。僕らがステージに登場する頃には、客は水を求めて叫んでいた。それが問題だった。音楽とかテストステロンとか国とか、誰が何のことを言っても、僕らにはどうでもいいことだ。水だったんだ。つまるところそういうことさ。40℃近いところで水を取り上げたら暴動も起こるってもんさ。それしかないだろう。

LAUNCH:
Rage Against The Machineのやっていることを使って、歌詞に関してちょっと手を加えて違うものにしているバンドがありますが、そういうバンドについてどう思いますか。Limp Bizkitのようなバンドは、あなたがたが発明したともいえる音楽のスタイルを身に付けて、“パーティーロック”といえそうな雰囲気を醸し出すのに利用していますが。

Y.tim.K:
そういうバンドのおかげで僕らは今レコードを発表できるわけだし、レコードを発表する最高のタイミングを提供してもらっている。だからプラスの面もあるんだよ。当然マイナス面は、こういうバンドは僕らからアイディアを盗んでいるのか、ということになるけど、僕にはわからない。わかっているのは、“Guerrilla Radio”と“Nookie”には、大きな違いがあるということだね。それも大きな違いがね。まあ僕らは政治色が濃いということかな。僕らはPublic Enemy、KRS-One、Clash、MC5、Midnight Oilの線でやっていく。僕らが意識しているのはこういうバンドなんだ。

Darren_Davis (1999.11.15)
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