奥田的消化の排泄物こそ、“決めた男”のプロ仕上げなり

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TAMIO OKUDA
雑誌によく載っている“YES-NOテスト”を、必ずやって、やったあげく必ず腹を立てる知人がいる。“YES-NOテスト”というのは、類別するのを主たる目的にしたものであるから、例えば“あなたのタイプは?”であるとか、“あなたの好みは?”などというように大ざっぱな傾向を簡単なYES or NOによって決めていくものなのである。類別されることをどこかで望んでいながら、類別された結果に対して「俺はそんなタイプじゃない!」と腹を立てる…そういう無い物ねだりな決定力不足(←日本サッカーによく使われる)な人間には、あたかも傷口に唐辛子を擦り込むがごとく奥田民生の音楽を聴かせている。

奥田の前作『股旅』リリース時に、僕はある雑誌に“奥田民生は決めている”と書いた。そして、奥田は“決めた音楽”を表現し続けている。この朝令暮改な世の中にあって、なぜ彼は表現し続けられるのか? なぜなら、彼は“決めた男”だからである。奥田の決め具合は何も音楽に限ったことではない。趣味であるところの釣りでさえも、彼は(器用なのに)八方美人ではないのだ。例えば、彼が好んで湖沼に投げ入れる組み合わせは、ロッドがデストロイヤーF5。リールがスコーピオン・メタニウムXT。そして、ルアーがキャリラバ3/4オンス、ザ・スペシャリスト・キャプテン・クロウである。奥田のコメントはこうだ。
これはですね、おおかたの釣りファンの基本ではなくて、あくまで僕のなかでの基本。僕が一番使う、一番投げたがる組み合わせ(笑)。だいたい釣りから帰ってきて何か釣れて、どれで釣れた?って聞かれると、これを言ってしまうというか、これでやたら釣れる。一応得意。ラバージグっていう……、キャリラバっていうラバージグでなんかボワンボワンってゴムに毛が生えたようなやつなんですけど。それ大好きなんですよ。自分の自信のあるやつですね。年間釣る魚の70%はこのコンビネーションですね。今までの生涯で一番多く使ってる。同じ竿2本持ってるんで、同じ仕掛けをして。切れると面倒臭いからまた同じのを投げて…

趣味においても自分の基本を持ち、“今までの生涯”と照らしあわせながら語る。日々、こうしたいものだ。しかしながら、奥田の本当にすごいところはここではない。自分の基本を守りながらも、それがその日通用せず、全く釣れなかった時の対処の仕方だ。

自分勝手に自分流を推し進めてるんで、。釣れないときは本当に釣れないですね。で、そういう日は、夕方くらいにさすがにヤベーと思い、せこい方法で2個くらい釣る(笑)。そこでは、帳尻合わせるんですよ。ゼロってのはないだろうって。その点ではヤマケン(マネージャー)の方が男らしいかもしれませんね(笑)。自分の基本を押し通して”今日は釣れない”って。押し通してるのかどうかは知らないけど(笑)。

“帳尻を合わせる”…奥田はテレ混じりにこう言うが、僕はそうは思わない。意地の発散とも言うべき、意地が自分の内側に滞るのではなく、自分の外に向かって表されるのだ。その時、意地は技になる。他人がウームと唸る技になる。肝心なのはこの部分だろうと思う。

奥田民生、2年ぶりのオリジナルアルバム『GOLDBLEND』は、後半になるにしたがって、唸らざるを得ない曲が連なっている。例えば、全13曲中8曲目に位置する「KING of KIN」。最初僕は、以前あったコンピュータゲームソフト“KING OF KINGS”のもじりかと思ったが、この“KIN”とは“菌”のことを指し、ビフィズス菌のこと を歌いながら、いつの間にか“プロの誇り”について歌われている。曲間の、まさに腸内を音楽化したとしか思えないパートは、LED ZEPPELINのアコースティックテイストもビートルズのミュージック・コンクレート的サイケデリックな音の使い方も飲み込んで、消化吸収的構築がなされている。そして、<おかげで毎日 ヨーデル>と排泄物生産を怠らないビフィズス菌を讚えている。歌詞に<JIMIHENDRIXを超えようとして>と出てきて、一瞬なんのことかわからなくなるものの、実は、毎日消化吸収を助け、意地をもって何ものかを“外に出す”奥田民生その人がビフィズス菌であったことが、曲を聴き終わった後に判明する。

この場合、人体は奥田の知る・知らないを含めた音楽の総体のごときものであり、腸内は奥田の聴いてきた愛すべき音楽、そして、排泄物は奥田の楽曲ということになる。それが、“プロの仕事”だと歌われているのである。唸るしかあるまい。

続く「イオン」は、ヤマケン氏のライナーによれば、「民生さんはギターで作曲する人ですが、この曲はピアノがメインになることを念頭において作曲されました」ということで、ソロ/ジョン・レノン的音像の中に、「
ソロになってからあまりやらなくなった」と奥田が語る転調が、技としての意地となって盛り込まれている。

『GOLDBLEND』は、奥田の人間性のみならず、その人間性を形成している音楽が現在の決定打となって、聴き手の耳にじんわりと放り込まれるアルバムだ。今、冒頭の知人に電話をしようと思っている。

取材・文●佐伯 明

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